最強王女、幸せを手にする
魔族との戦いが終わり城に帰還したシルビア達は、各地の被害状況を確認し復興の手助けをしたり怪我をした人々の治療に走り回っていた。
そうしてそれらが落ち着いてきた頃、勝利を祝う祝賀パーティーが城でおこなわれることとなったのだ。
そこでランティウスは、シルビアのお披露目も同時にすることに決めた。
白い正装姿に身を包んだランティウスに手を引かれ、美しいドレス姿のシルビアが大広間に現れる。
するとそれまで騒がしかった人々は一斉にシルビアに注目した。
その視線にシルビアは一瞬たじろぐ。
なぜなら王女としては初めての社交の場。ここまで注目されることも今までなかったため、不安な気持ちで一杯だった。
(……私、どういう風に見られているのでしょうか? 多分、今まで表に出てこなかった王女ですから、きっといい印象は持たれていないのでしょうね)
そんなことを思い視線をうつむかせると、ランティウスがシルビアに小声で話しかけてきた。
「シルビア、大丈夫だよ。皆、シルビアのことを認めて好意的に見ているから。まあそもそも、私の可愛いシルビアを嫌いになる者などこの世にいるはずがないけどね」
「お兄様、それは言い過ぎです」
苦笑いを浮かべシルビアは、恐る恐る周りを見ると、確かに悪意のある眼差しで見てくる者はいなかった。
むしろ尊敬や憧れ、中には恍惚の表情を浮かべている者さえいたのだ。
シルビアはその皆の様子に、嬉しさよりも逆に戸惑ってしまう。
「……お兄様、どうして皆さんあのような表情で私を見てくるのでしょうか?」
「それはあの魔族との戦いを見ていたからだよ」
「?」
ランティウスの言葉に、シルビアは意味が分からないと言った表情を向ける。
「私、あのような眼差しを向けられるようなことはしていませんよ? 普通に皆さんと一緒に戦っただけですから」
「……シルビアにとっての普通が、他の人には普通ではないんだよ」
「そうなのですか?」
そう言われても、やはりシルビアにはいまいちピンとこなかったのだった。
そのまま大勢の人々に迎え入れられ、祝賀パーティーは始まる。
するとシルビアのもとにドレス姿のメリダが、いつもの三人衆を引き連れてやってきた。
そして不機嫌そうな顔でシルビアに話しかけたのだ。
「……貴女がシルビア王女だったのね」
「ええ。黙っていてごめんなさい」
「……別に構いませんわ。でもどうして身分を偽って学園に入学なさったの? 堂々とされていればよかったでしょ? そうすればわたくしだってあのような態度……いえしていたわね」
メリダは自分に対して呆れた笑みを浮かべる。
そんなメリダを不思議に思いながらも、ちらりと別の場所で他の貴族の相手をしているランティウスを見た。
「身分を偽っていたのは色々な事情があったからですが……まあ主な原因はお兄様だと思ってください」
シルビアはにっこりと笑ってみせたのだ。
「ランティウス様が?」
メリダは困惑しながらランティウスを見る。
「ふふ、まあこのお話はここまでにしましょう。それよりも、これからは従姉同士仲良くしませんか?」
「……そう言えば、わたくしと貴女は従姉同士になるのでしたわね」
「ええ。でも……メリダさんは私のことがお嫌いなご様子でしたし、やはり難しいでしょうか?」
「……別にもう嫌ってはいませんわ」
「え?」
「あんな力を見せつけられれば、もうリシュエル様に相応しくないなどと思いませんもの。そう思ったら、貴女のことを嫌いな気持ちがどこかに行ってしまいましたわ。それに、わたくしには他に……」
するとその時、別の方からシルビアに声がかかった。
「シルビア!」
「っ!」
その声を聞いた途端メリダは息を詰まらせ、硬直してしまった。
さらにその顔がみるみると赤くなっていったのだ。
「メリダさん?」
「っ……も、もう話は済んだことですし、わたくしあちらに行きますわ!」
メリダは早口に捲し立てると、急いで去っていく。
その後ろを三人衆が慌てて追いかけていったのだ。
そんなメリダ達を不思議にそうに見ながら、入れ替わるようにセシルが近づいて来た。
「あいつどうしたんだ?」
「さあ? セシルの声が聞こえた途端行ってしまわれましたよ? セシル、メリダさんに何かされたのですか?」
「別に何もしていないぞ。シルビアの方こそあいつに何かされていないか?」
「いえ、特には」
「そうか。それならいいが」
もう一度去っていったメリダに視線を向けているセシルを見ながら、シルビアはふっと小さな笑いがこぼれた。
その声を聞き、セシルは怪訝な表情でシルビアを見る。
「何がおかしい?」
「だって、セシルは私が王女だと分かっても、前と変わらない態度でいてくれるのですもの」
「……どうせ俺がシルビア王女と言ってよそよそしい態度を取ると、お前嫌がるだろう?」
「……はい」
「だったら変えないことにした」
「ありがとうございます」
セシルの言葉を聞き、シルビアは嬉しそうに笑ったのだ。
「しかし……元々規格外だとは思っていたが、想像をはるかに越えた規格外だったな」
「なんのことですか?」
「シルビアの戦闘力だよ」
「私の戦闘力?」
シルビアは小首を傾げてセシルに問いかける。
「水晶玉でお前が戦う様子を見ていたんだ。さすがにお前が戦場に現れた時は皆驚いていたぞ。さらに王女だと知った時は、しばらく思考が停止した」
「ごめんなさい」
「別に謝ることじゃない。お前にも事情があったんだろう。まあそれに、あれだけの力を持っていたんだ、ランティウス王がシルビアを表に出さなかったのもうなずける」
「どういうことです?」
「……本人は無自覚だから余計だろうな」
きょとんとしているシルビアを見て、セシルは大きなため息をついた。
「じゃあ俺、そろそろ行くな」
「あ、はい」
そうしてセシルはシルビアのもとから去っていったのだが、そのセシルにメリダが三人衆に背中を押された状態で近づいていったのだ。
その様子を見てセシルは怪訝な表情を浮かべていると、ソニアが小さな声でメリダを応援する。
「メリダ様、頑張ってください!」
ソニアの言葉に他の二人も同時にうなずく。
そんな三人を見てメリダはキュッと口を引き結ぶと、意を決した顔でセシルに話しかけた。
「わ、わたくし、今日はまだ誰ともダンスを踊っていないのよ。で、ですから貴方にその栄えある権利を与えて差し上げますわ」
そう言い顔をツンと反らしながらも右手をセシルに差し出す。
「はぁ?」
セシルは奇妙なものを見るような目でメリダを見る。
「お前、何言ってるんだ? 俺はリシュエル先輩じゃないぞ?」
「そんなこと分かっていますわ!」
「ならなんで俺を誘うんだ?」
「そ、それは……っ別にいいでしょ! それよりもわたくしの誘いを受けるのか受けないのか、ハッキリなさりなさいな!」
メリダは顔を赤くしながら声を荒げ、後ろの三人はセシルをじっと睨みつけていた。
その表情は断るなんて許さないと言わんばかりのものだった。
セシルは四人の顔を見回し大きなため息をつくと、メリダの手を掴んだ。
「下手だとか文句は言うなよ」
「っ、それは踊ってみないと分かりませんわ」
そう言って口を曲げ不機嫌そうな表情をしているメリダだったが、その頬はピクピクと動き嬉しさを押さえている。
セシルはそんなメリダに気がつかず、手を引き踊りの輪に向かって歩きだしたのだ。
その後ろ姿をソニア達は、身を寄せ合い嬉しそうに喜んでいたのだった。
シルビアはふと中央でおこなわれている踊りの輪に目を向けた。
「あらあれは……セシルとメリダさん? とても珍しい組み合わせですね」
学園では犬猿の仲のような二人が一緒に踊っていることに、シルビアは驚く。
すると視界に別のカップルが映り込んだのだ。
「まあ! マキア先輩とカイザ先輩もご一緒に踊られていますね! それもあんなに幸せそうな顔で……」
マキアとカイザは、お互いを見つめながら微笑み楽しそうに踊っている。
その二人の様子に、どうやらマキアの想いがカイザに届き両想いになったのだと悟った。
「よかったです……」
幸せそうに踊る二人を見て、シルビアは嬉しくなる。しかし同時に羨ましい気持ちも沸いてきたのだ。
(……私もリシュエルと一緒に踊りたいです。でも……まだ来ていないのでしょうか? 一度もリシュエルの姿を見かけていませんし……何かあったのでしょうか?)
キョロキョロと会場内を見回すが、やはり見える範囲ではリシュエルの姿はなかった。
今一番会いたい人がこの場にいないことに、シルビアは段々と落ち込む。
するとそんなシルビアに声をかけてくる者がいた。
「シルビア王女、よろしければ私と踊っていただけないでしょうか?」
貴族の格好をした男性がニコニコと笑みを浮かべて手を差し出してきた。
さらにその隣には別のガタイのいい男性が立ち、シルビアに向かって手を差し出してくる。
「このような優男など相手になさらず、俺と踊っていただきたい」
「なっ!? 私が先にお誘いしたのだぞ! 横入りするな!」
「ふん、シルビア王女ほどの方に相応しいのは俺のような力のある者だ。あんたは引っ込んでいてもらおう」
「なんだと! 私の方が財力や身分的にお前などより相応しいぞ!」
そう二人はいがみ合いだす。
突然目の前で始まってしまった喧嘩に、シルビアはどうすればいいのかオロオロする。
さらにその隙をついて別の男性達も、シルビアと踊ろうと集まりだしてしまったのだ。
「あ、あの……すみません。私は今、踊りたい気分では……」
我先にと騒ぎだす男性達に、シルビアは戸惑いながらも断りの言葉をのべようとするが誰も聞いてくれない。
そのまま完全に囲まれてしまい、どうしたものかと困り果てていたその時──。
「そこをどいてもらおうか」
凛とした声が響き、騒いでいた男性達は一斉にその声がした方を向く。
そして慌てて道を開けた。
なぜならそこには、身分的にも能力的にも誰も敵わないリシュエルがいたからだ。
「ありがとう」
正装姿のリシュエルはにっこりと微笑むと、迷うことなくシルビアのもとまで歩いていく。
そのシルビアはと言うと、ここにはいないと思っていた相手がいたことに驚き固まってしまっている。
そんなシルビアを見てリシュエルはクスッと笑うと、右手をシルビアに向かって差し出した。
「シルビア王女、私と踊っていだだけませんか?」
「っ、はい。喜んで!」
シルビアは満面の笑顔を浮かべリシュエルの手を取る。
その様子を見て他の男性達は敗北を確信し、去っていく二人を黙って見送ったのだ。
踊りの輪に入ったシルビアとリシュエルは、流れるように踊り始めた。
「リシュエル、いつこられていたのです? 全然お姿が見えませんでしたから」
「すまない。一応急いではいたのだが、到着出来たのは先ほどだったから」
「何かあったのですか?」
「ちょっと本国からの連絡待ちをしていてね。それを待っていたら遅れてしまった」
「サザール王国で何か?」
心配そうな顔を浮かべるシルビアに、リシュエルは苦笑いを浮かべながら首を横に振った。
「何も心配することは起こっていないよ。ただ許可を得ていただけだから」
「許可、ですか?」
「まあ後で、ランティウス王の前で説明するよ。今はダンスを楽しもう」
「……分かりました」
シルビアはうなずき、二人はしばらく踊り続けたのだった。
そうして満足のいくまで踊り、リシュエルはシルビアを伴ってランティウスのもとに移動した。
「ランティウス王」
「ああリシュエル王子、遅れるとは事前に連絡を受けていたが、もう大丈夫なのか?」
「はい」
「そうか。では今からでも楽しんでいってくれ。リシュエル王子も今夜の主役だからな」
「ありがとうございます。それでランティウス王、少しお話が……」
「ん? なんだ? とそう言えばシルビアも一緒にいるんだな。確かさっきまでずっと踊ってたようだが……少し踊り過ぎでは?」
シルビアを見てからリシュエルに胡乱な眼差しを向ける。
リシュエルは苦笑いを浮かべてから、胸に手を当て軽く頭をさげた。
「愛しい人といつまでも踊っていたかったので」
「……」
「リシュエル!?」
ハッキリと言ったリシュエルをシルビアは驚いて見る。
しかしリシュエルは真っ直ぐランティウスを見ており、ランティウスもまた無言でリシュエルを見ていた。
「……隠すことはしないか」
「ええ。魔族との戦い時に約束いたしました通り、シルビアとの関係を説明させていただきます。まあ、もう察していらっしゃるようですが」
「……まあな」
「では改めまして。私とシルビアはお互いを想い合い、付き合っております」
リシュエルはそう言うとシルビアの肩を抱いて引き寄せ、シルビアは顔を赤らめて恥じらう。
その様子を見てランティウスの片眉がピクリと動いたが、静かに口を開く。
「……そうか」
「ランティウス王……実は本日ランティウス王には、許可をいただきたいことがございます」
「私の許可?」
「はい。私とシルビアとの婚約を認めていただきたいのです」
「え!?」
シルビアはリシュエルの発言を聞き驚きながら顔を見上げた。
「さすがに婚約はまだ早いと思うのだが? それにリシュエル王子の父君、ラゴス王もなんと言うか……」
「それでしたら、すでに許可は得ています」
リシュエルは懐から一枚の封書を取り出し、ランティウスに手渡した。
ランティウスはそれを受け取り中身を確認する。
「確かにこれはラゴス王の直筆だ。それにしっかりサインと判が捺されているな」
手紙から目を放し呆れた表情をリシュエルに向ける。
「なるほど。これを待っていたから今日の出席が遅くなったのか」
「すみません。出来るだけ早くお話したいと思いましたので。しかし、あとはランティウス王の許可さえいただければ……」
真剣な表情のリシュエルをじっと見てから、ランティウスはシルビアに視線を向ける。
「シルビア、お前はどう思っているんだ? リシュエル王子と婚約したいと思っているのか?」
「私は……」
「もしその気がないのであればこの話しは……」
「いえ、したいです。私、リシュエルの婚約者になりたいです! お兄様、私からもお願いします!」
強い意思を込めた瞳でランティウスを見つめる。
「ランティウス王、改めて私からもお願いします。シルビアとの婚約を認めてください」
二人は揃ってランティウスに頭をさげた。
ランティウスはそんな二人をじっと見つめ、小さくため息をつく。
「……まあいずれはこうなるとは思っていたが、予想より早くなってしまったな。……分かった認めよう」
「っ! お兄様ありがとうございます!」
「ランティウス王、ありがとうございます!」
ランティウスの言葉を聞き、二人は嬉しそうな顔で頭をあげお礼をいった。
「ただし、これだけは守ってもらうからな!」
「なんです?」
「それは……」
戸惑うシルビアにランティウスは言ったのだった。
◆◆◆◆◆
ライデック王国に平和が戻り、ミリドリア学園も授業が再開された。
そこにランティウスの許可を得て、シルビアは改めて王女として学園に通いだしている。
さらにエリスも先生として学園に戻った。
そうして月日が過ぎ、とうとうリシュエル達三年生は卒業を迎えることとなったのだ。
特に問題もなく卒業式も終わり、学園の玄関前広場で在校生が卒業生を忍んで取り囲んでいた。
その中でひときわ大きな輪の中心にいたのは、やはりリシュエルである。
リシュエルは涙ぐむ後輩達に笑顔で応えていて、なかなかその輪から抜け出すことが出来ないでいた。
そんなリシュエルを、少し離れた木の影でシルビアが見つめていたのだ。
(……やはりリシュエルはとても人気者ですね。本当は私も卒業のお祝いを言いに行きたいのですが、なんだか皆さんの邪魔をしてしまいそうで……)
そんな複雑な気持ちを抱き、なかなかあの輪の中に行けないでいた。
するとリシュエルの輪に向かって、エリスが躊躇いもなく入っていったのだ。
「は~い。いつまでもリシュエルばかり引き止めないの。ほら、他の先輩方にも挨拶に行かないと、もう会えないかもしれないわよ?」
エリスの言葉にハッとした在校生達は、散り散りに目的の卒業生のもとに駆けていった。
その姿を見送ってから、エリスはシルビアを手招きする。
「ほらシルビアちゃん、こっちにいらっしゃい」
シルビアは少し戸惑うが、今を逃してはまた行けなくなると思いリシュエル達のもとに駆けていく。
そして到着すると、リシュエルに笑顔を向けた。
「リシュエル、卒業おめでとうございます!」
「ありがとう。シルビアからの言葉が一番嬉しいよ」
リシュエルも嬉しそうに微笑んだ。
「はいはい。じゃあ早く二人で行きなさいな。このままここにいたら、二人の時間邪魔されるわよ。……むしろあたしが邪魔したいほどだもの」
「エリス先生?」
複雑そうな表情のエリスを見て、シルビアは不思議そうに顔を傾ける。
「……もう! これ以上あたしの心をかき乱さないで! ……リシュエル、もしシルビアを泣かすようなことをしたら、遠慮なく奪うから」
スッと表情をなくしエリスはリシュエルに顔を寄せると、小さく低い声で言った。
「……絶対そのようなことはしませんし、奪わせません」
リシュエルも小さな声で言い返す。
その言葉を聞きエリスは、表情を緩めリシュエルから離れた。
「約束よ」
「ええ」
全くやり取りが聞こえていなかったシルビアは、きょとんとした顔で二人を見ていたのだ。
そうしてエリスに追いたてられるように人気のない学園の裏庭に移動する。
すると突然、リシュエルがシルビアを抱きしめてきた。
「リ、リシュエル!?」
「やっと貴女を抱きしめられる」
リシュエルはそう言ってさらにシルビアを強く抱きしめる。
「ランティウス王の出された条件で、私が卒業するまで貴女に触れることを禁止させられていたからね。この数カ月、さすがに辛かった」
「リシュエル……私もリシュエルにずっと触れたかった。だから今すごく嬉しいです」
「シルビア……」
「ですが、せっかく触れ合えるようになったのに、リシュエルが卒業することでしばらく会えなくなってしまうことが寂しいです。私は卒業するまでここで寮暮らしですし……」
リシュエルの胸の中でシルビアは落ち込む。
そんなシルビアの頭の天辺にリシュエルはキスを落とした。
「っ! リシュエル!?」
その行動に驚いたシルビアは、顔を赤く染めながらリシュエルを見上げる。
リシュエルはシルビアを見つめたまま愛しそうに微笑んだ。
「大丈夫だよ。実は新学期から、この学園に講師として赴任することが決まっているから」
「え!?」
「元々前から打診されていた話だったんだけど、シルビアが学園を卒業するまで結婚は認めないとランティウス王に言われているからね。シルビアに悪い虫が付かないよう引き受けることにした」
「また一緒にいられることはとても嬉しいのですが、そのような心配などされなくても大丈夫ですよ?」
「……その無自覚が色々と心配なのでね。きっとシルビアが思っている以上に悪い虫が、貴女を狙っているんだよ」
「そうでしょうか?」
「まあ、いいよ。私が守ればいいだけだから」
苦笑を浮かべているリシュエルを、シルビアは不思議そうな顔で見ていた。
「それよりも、今はこの時間を大事にしたい」
「リシュエル?」
「……シルビア」
再び愛しそうに見つめシルビアの頬を手で触れてきたことで、シルビアの心臓は大きく跳ねた。
そしてじっと見つめくるリシュエルの瞳から、目を反らすことが出来なくなったのだ。
リシュエルはそのまま顔をシルビアに近づけていく。
「シルビア……愛している」
「っ!」
「シルビアは?」
「……私も、愛しています」
その言葉を聞き、リシュエルは嬉しそうに破顔する。
シルビアもそんなリシュエルを見て、愛しさが込み上げ笑みを浮かべた。
そのままリシュエルは顔を傾け、シルビアも受け入れるように目をつむる。
すぐに二人の唇は触れ合い、初めてのキスを交わす。
その時、風が吹き近くで咲いていた薔薇が舞い散ったのだ。
それはまるで二人を祝福しているかのようであった。
キスを終えその光景を見たシルビアは、はにかむと林の方に顔を向ける。
「クロード、ありがとうございます」
小さな声でお礼を言うと、その声に反応するかのようにまた風が吹き薔薇の花びらが辺りに舞い散った。
リシュエルはシルビアと同じ所を見て真剣な表情でうなずくと、もう一度シルビアを自分の方に向かせる。
「シルビア、何度でも言うよ。愛している。必ず貴女を幸せにするよ」
「私も愛しています。それに私だって、リシュエルを絶対幸せにしてみせます」
お互い笑い合うと再びキスをした。
それと同時に、林の中にいたクロードはどこかに消えていく。
そうして二人は、時間の許す限り幸せなひとときを過ごしていたのであった。
Fin
最強王女は自分の力に無自覚だ 蒼月 @Fiara
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