魔力量検査

 リシュエル王子が去ってすぐに、検査を担当する先生が現れた。


「は~い、皆さんこちらに集まってください!」


 その先生は魔導師のような格好をした中年の女性で、手をあげてバラバラにいた生徒達を集合させたのである。


「ではこれから、皆さんに受けて頂く能力検査の説明をさせて頂きます。まずここでは魔力量を測定する検査を行います。この後ろの扉に一人ずつ順番に入って頂き、その中で魔力量を測る特別な水晶玉に手を触れて頂きます。そうするとその水晶玉が皆さんの魔力に反応し、皆さんの魔力量が一目で分かるようになっていますのでそれでここでの検査は終了となります。では身分証に書かれている番号で順番にお呼び致しますので、自分の番がくるまでしばらくここで待機していてください。まずは一番の方、私に続いて中に入ってください」

「はい!」


 先生に番号を呼ばれた一人の男子生徒が手をあげ、そして先生と一緒に部屋の中に入っていったのだ。

 その数分後、満足そうな顔で男子生徒は部屋から出てくると続いて二番の生徒が呼ばれたのだった。


(私の番号は……最後の方ですね)


 シルビアは周りにいる生徒の数と自分の身分証に書かれていた番号を見比べたのである。

 そうしてそれから喜怒哀楽に富んだ生徒達が部屋から出てくるのをシルビアはぼーっと眺めていた。しかしメリダが部屋から出てきた時、チラリとシルビアに視線を送りそして勝ち誇ったような顔で笑いながらあの取り巻き令嬢達と共に去っていったのだ。

 その様子を見てシルビアは苦笑いを浮かべ、どうやら満足のいく結果が出たのだと察したのである。

 それからさらに順番が進み、とうとうシルビアの番が回ってきたのだ。


「では六十三番の方」

「はい!」


 シルビアは元気に返事をすると、ワクワクと期待に胸を膨らませながら部屋に入った。

 するとそこには、先ほど説明していた先生とは別に魔導師の格好をした初老の男女二人の先生が待機していたのである。

 そして部屋の真ん中には台座に乗った水晶玉が一つ置かれていたのだ。


「では先ほど説明した通りにこの水晶玉に手を触れてください。そうすればこの水晶玉の中で貴女の魔力量に見合った光が輝きだします。その光の強さを見て私達が判断しますので、貴女は何も気にせず落ち着いて触れて頂ければ大丈夫ですよ」

「分かりました」


 説明を聞いたシルビアはうなずきそしてゆっくりとその水晶玉に近付いていった。

 しかしシルビアが近付くにつれ段々と水晶玉に変化が現れだしたのだ。

 何故か水晶玉が独りでにカタカタと揺れ動きだしたのである。

 その様子に先生方は戸惑いの表情を浮かべじっと水晶玉を見つめていたのだった。

 そんな中シルビアはそれが普通の現象だと思い、その現象に何も疑問を持たずそのまま近付いていったのだ。

 そしてゆっくりと右手をあげて水晶玉に手を置いたのである。

 次の瞬間、その水晶玉から強烈な光が溢れだし部屋中が眩い光に包まれてしまったのだ。


「こ、これは!?」

「こんな光り方は初めて見るぞ!」

「何が起こったのかしら!?」


 先生方がそれぞれ驚きの声をあげ腕で光を遮りながら動揺している中、シルビアも空いた方の腕で目を庇いながら水晶玉から手を離してよいものか困っていたのである。

 すると突然、ガラスにヒビが入る音が聞こえだしてきた。

 その音に気が付いた中年女性の先生がシルビアに向かい慌てて叫びだしたのだ。


「今すぐ離しなさい!」

「え? あ、はい!」


 シルビアはその指示を受け慌てて水晶玉から手を離したがその瞬間、一気に水晶玉全体にヒビが広がりそして内部から爆発したかのように破裂したのである。


「きゃぁ!」

「いけない!!」


 中年女性の先生は咄嗟に魔方陣を展開しシルビアを護るようにシールドを張った。

 さらに他の二人の先生も同時に魔方陣を展開し、水晶玉の破片が周りに飛び散らないように防いだり、水晶玉に閉じ込めてあった魔力が放出しないようにしていたのだ。

 そうしてようやく眩いばかりの光が落ち着くと、そこには無惨にも砕け散った水晶玉の残骸だけが残っていたのである。


「……」

「……」

「……」

「……」


 しばし四人は無言でその床に散らばった破片を見つめていた。

 しかしすぐに先生方は一ヶ所に集まり難しい顔で小声で話し出したのである。


「……どう思われます?」

「どうと言われてもな……あんなの初めて見たぞ」

「私もですよ。長年この検査官を務めていますが、あのような光り方をする者などいままで見た事がありません。ましてや水晶玉が壊れてしまうなど……」

「そうですか……やはり先生方でも分かりませんか」

「うむ……ハッキリと言って測定不能だな」

「……私も同じ意見よ」

「ん~一応予備の水晶玉はありますので、もう一度試してみますか?」

「いや……それまで壊れてしまっては、次の生徒が測定出来なくなる」

「……そうですよね。あの水晶玉を新しく作るには結構な時間と魔力が必要ですから……」


 そして三人はう~んと唸りながら困った表情で黙ってしまったのだ。

 そんな先生方の様子に、シルビアはこれからどうしたらいいのだろうと困惑しおずおずとその先生方に声を掛けた。


「あ、あの……やはり私が原因で水晶玉を壊してしまったのでしょうか? そんなに強く触れたつもりはなかったですが……無意識に強く握っていたのかもしれません。本当に申し訳ございませんでした。 すぐにとは言えませんが出来るだけ早く弁償を致し……」

「いえ、弁償はして頂かなくて大丈夫ですよ。また作ればいい事ですから。それよりも……貴女、お名前は?」

「え? シルビア……シルビア・ドレッディアと申します」

「ドレッディア家……優秀な魔導師を輩出している名家にそのような家名はなかったはず……まあまれに平凡な家系の中で飛び抜けた能力を持って生まれてくる子がいるから、今回もそのパターンなのかもしれないわね……」


 そう中年女性の先生は一人ブツブツと呟きだしたのだ。


「先生?」

「え? ああごめんなさいね」

「いえ、それよりも私はこの後どうすればいいのでしょうか?」

「そうね……」

「まあ……これは後で協議するとして、とりあえず次にいってもらえばいいのではないか?」

「私もそう思うわ」

「分かりました。ではシルビア嬢、今度は身体能力検査を行いますのでこの紙に書かれた場所に移動してください」

「……このままで宜しいのですか?」

「ええ、あとは私達が片付けますので心配しなくていいですよ」

「……分かりました。では宜しくお願い致します」


 シルビアはそう言って三人にぺこりと頭を下げてから扉に向かった。

 そしてシルビアが扉から外に出ると、まだ待機していた数人の生徒がとても奇妙な物を見る目でシルビアを見てきたのである。

 何故ならシルビアが部屋に入ってから突然、扉の隙間を抜けて激しい光が溢れ出てさらに何か激しく割れる音が中から聞こえてきたからだ。

 一体中で何が起こっているのか分からず戸惑っていた生徒達の前に、複雑そうな表情でシルビアが出てきたため自然とそんな視線をシルビアに向けてしまった。

 しかしシルビアが出てきた事で次は自分の番だと気が付いた男子生徒が、慌ててシルビアと入れ替わるように部屋に入ろうとしたのである。

 だがその生徒の前に中年女性の先生が立ちふさがり、部屋の中に入らせないようにしながら困った表情を向けたのだ。


「ごめんなさいね。少し準備に時間が掛かりそうだからもう少しここで待機していてください」

「あ、はい……」


 そう男子生徒は戸惑った声で返事を返したが、それまで順調に順番が進んでいた事もあり不思議そうな顔で扉から離れていったのである。

 そしてその男子生徒を含めたその場にいた他の生徒達は、先生の言葉を聞いてさらに疑問の目でシルビアを見たのだった。


  ◆◆◆◆◆


 シルビアが紙に書かれた場所に到着すると、そこには騎士のような服装をした女性の先生が待っていたのだ。

 そしてその先生の指示でシルビアは、別室に用意されていた女性用にデザインされたズボンタイプの運動着に着替えたのである。

 そうして着替え終えたシルビアは身体能力検査が行われる部屋の前までやってきた。

 するとその時、扉が大きな音を立てて開きそこからボロボロな姿になったメリダが現れたのである。


「なんなのですのこの検査は! あんなの最後まで出来るはずがありませんわ!!」


 そう憤慨しながら歩いてくるメリダと、メリダほどボロボロではないが明らかに疲れきった様子の取り巻き三人衆とシルビアがバッタリ出くわしてしまったのだ。

 さっきまであんなに自信たっぷりの表情でシルビアの前を去っていったのに、その姿からは想像出来ないほどの変わりようにシルビアは目を瞬かせて驚いていた。

 メリダはそんなシルビアを見て目をつり上げ、とても不機嫌そうな表情でシルビアを見下したのである。


「ふん! なんですのその顔は! どうせ貴女などわたくしほどの成績が残せるはずがありませんわ! 最初の段階で痛い目を見る事になるのが目に見えていますわ!」

「そうですわ! そうですわ! メリダ様は凄かったのですわよ!」

「わたくし達には到底無理でした距離を進まれましたもの!」

「まあ……貴女など私達の距離にも到達出来ないのでしょうけどね」


 三人衆はシルビアを無能な者と決め付け、馬鹿にするかのような眼差しを向けてきたのだ。

 しかしシルビアはそんな視線に堪える事もなく、むしろ今までそんな態度を他人から受けた事がなかったため逆に新鮮な気持ちになっていた。


「な、なんですのその表情は……もういいわ! 貴女達こんな人放っておいていきますわよ!」

「あ、はい!」

「待ってくださいメリダ様!」

「ふん、今回はこのぐらいにしてあげるわ」


 メリダはツンと顔を反らせてスタスタと歩きだしてしまったので、三人衆が慌ててメリダの後ろを追い掛けていったのである。

 そんな四人を見送ったあと、シルビアは視線を身体能力検査が行われる部屋の扉に移した。


「……距離ってなんの事なのでしょう?」


 メリダ達があれほどまでにボロボロになる身体能力検査とは一体どんなものなのかと、若干不安に思いながらもその閉ざされている扉を叩いたのだ。

 すると中から騎士風の格好をした、見た目三十代ぐらいの女性の先生が扉を開けてくれたのである。


「次の方ですね。番号と名前を言ってください」

「あ、はい。六十三番、シルビア・ドレッディアです」

「……はい。では中に入ってください」


 女性の先生は持っていた名簿でシルビアの名前を確認し、部屋の中に入るように促したのだ。

 そうしてシルビアは緊張した面持ちで先生に促されるまま、身体能力検査が行われる部屋に入っていったのであった。

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