魔法授業
「は~い! じゃあさっそく魔法の授業を始めるわよ。皆~集まって~」
エリスは手を叩き注目を集めると、シルビア達を集合させた。
「さてと……本来この特待生クラスの生徒なら、魔法の基礎なんて教えるまでもないのだけど……一人基礎さえ知らない子がいるみたいだし、まずそこから教える事にするわ。まあ他の子は、復習になると思って聞いていて頂戴ね」
シルビアをチラリと見て苦笑を浮かべたエリスが、他の生徒を見回して言ったのだ。
そんなエリスにリシュエルは嫌な顔をせずうなずいたのである。
「私は構わないですよ」
「俺もそれでいいと思う。基礎も教えず最初っから高度な魔法授業をしたら絶対ついてこれないだろうし、場合によっては魔法の暴走に繋がる可能性もあるからな」
セシルもシルビアをチラリと見てから同意を示したのだ。
「勿論、俺は異議ないよ」
「……僕も基礎は大事だと思うから」
「私はどちらでもいいです」
そして他の者も特に異を唱える事がなかったので、初めての魔法授業は魔法の基礎からスタートする事になったのであった。
シルビアはそんな皆にすまなそうな顔を向けてから、ワクワクとした気持ちでエリスの話を聞く事にしたのである。
「じゃあ始めるわね。え~っと、まず魔法には大きく分けて攻撃魔法、補助魔法、回復魔法の三つがあるわ。まあそれ以外にも、派生で生まれた様々な魔法があるけれど……とりあえずそれは追々教えるわね。そしてその魔法を発動させるには、必ず魔方陣を展開させる必要があるの」
「エリス先生! ちなみにその魔方陣はそれぞれの魔法で違うのですか?」
手をあげシルビアがエリスに質問した。
「ええそうよ。でもあまり深くは考えなくていいわ。そもそも魔方陣は魔法を発動させると、その魔法に合った物が自然に形成されるものだから」
「そうなのですか! 私、まず魔方陣を覚える所から始めると思っていました」
「ふふ、まあ今まで魔法を使用した事がなければそう思うのも無理はないわね。基本的に魔法は自分の中の魔力を消費して形成されるものだから。そして魔方陣とは、その魔法を発動させるための補助として視覚的に現れているだけなのよ」
エリスの話を聞きながらシルビアは、目を輝かせて何度もうなずいていたのである。
「まあ簡単に説明すると、魔法とは頭の中でイメージした物を自分の魔力で形にして、魔方陣を通して表に出すって言う感じかしらね」
「……なるほどです」
「じゃあ、一度見本を見せてあげるわ」
エリスはそう言うと、右手を胸の前まで上げ手のひらを上に向けたのだ。
するとその手のひらの上に突然小さな魔方陣が展開され、そしてそこから揺らめく赤い炎が現れた。
「うわぁぁぁ! すごいです!!」
エリスの手の上でゆらゆらと燃えている炎を見て、シルビアは両手を祈るように握りしめ興奮した面持ちで声をあげたのである。
「ふふ、これは基本中の基本の魔法だけどね。少しでも魔力がある人はコツさえ掴めばすぐに使えるわよ」
シルビアの様子を見て楽しそうに笑いながら、エリスは魔法を消したのだ。
「じゃあシルビアちゃん以外の方は、この魔法を使ってみせてくれるかしら?」
「分かりました」
リシュエルはうなずくとチラリと他の皆に視線を送った。
そしてリシュエル達はそれぞれ距離を離れるとエリスと同じように手をあげ、難なく炎の魔法を発動させてみせたのである。
「すごい! すごいです!!」
「ああ、シルビア。あまり近付くと危ないよ。この炎に触れたらあっという間に大火傷をしてしまうからね」
「わ、分かりました。ですが……本当に何もない所から炎が出るなんて凄いですね!」
リシュエルの出した炎を見つめシルビアが感動していると、そこに炎を浮かべたままセシルがムッとした顔で近付いてきた。
「べつこれぐらい……リシュエル先輩じゃなくても簡単に誰でも出来る」
「セシル?」
「そもそも一番始めに習う簡単な魔法だからな。すぐにお前でも出来るようになるさ」
「そうなのですか!? 今から楽しみです!!」
そうして問題なく魔法を使えている皆の様子にエリスは満足そうにうなずき、シルビアはさらに興奮した顔で皆の発動した炎を見て回っていたのだ。
「皆、ありがとうね。もう消していいわ」
そのエリスの言葉を聞き、皆は発動していた炎を消したのである。
「エリス先生! 私、私も使ってみたいです!!」
「う~ん、使う事はべつに構わないけれど……」
「ありがとうございます!」
嬉しそうにお礼を言ったシルビアを見て、エリスは複雑そうな顔で頬に手を添え小さくため息を吐きながら目を瞑った。
「でも……初めてだし普通はすぐに発動出来ない……」
「うわぁぁぁ! 出来ました!!」
「え!?」
シルビアの声に驚いてエリスが目を開けるとその目の前には、手のひらに完璧な魔方陣を展開させそこから炎を浮かび上がらせながら興奮しているシルビアがいたのだ。
「なっ!?」
さらにエリスを驚愕させているのは、その炎の大きさであった。
他の皆がそれぞれ多少大きさにばらつきはあったものの、だいたい顔ぐらいの大きさの炎を出していたのに比べ、シルビアの炎は見上げるぐらいに大きな炎であったのである。
「嘘……そりゃあたしや魔法に慣れた他の子達は、調節して炎の大きさを小さくしてはいたけど……だいたい初めて使う人はそんな事が出来ないから、そのまま本人の魔力に応じた大きさで最初出るのよ。でも……今まであんなに大きな炎を出した人、見た事ないわ。あたしでも今出した自分の炎より少し大きかったくらいだもの。それに……初めて魔法を発動させるのに数日は掛かるものなのよ? あたしだって三日は掛かったんだもの。それをあの子はたった一回で、それもあの規模の炎を出すなんて……なんて規格外な子なのかしら」
嬉しそうにはしゃいでいるシルビアを見ながら、エリスは戸惑いの表情を浮かべていた。
それは他の皆も同じだったようで、驚愕の表情で呆然とシルビアを見ていたのだ。
しかしその時、シルビアの髪の一部が炎の熱でチリチリになってきている事にエリスは気が付いたのである。
「まあいけない! さすがにそろそろ止め……は、あの喜びようを見て言えないわね。仕方がないわ、あの子に気が付かれないように防御魔法でもあの子に掛けておきましょうか」
苦笑いをこぼしながらエリスは後ろ手でこっそりと魔方陣を展開し、シルビアの体に防御魔法を掛けてあげた。
「……あら、あたしと同じ事を考えていた子がいたわね」
エリスが掛けた防御魔法の下に、さらに別の防御魔法が掛けられていた事に気が付いたのだ。
チラリと視線をリシュエルの方に向けると、エリスと同じく苦笑いを浮かべながら後ろ手で魔方陣を展開していたのである。
「へぇ~あの子もなかなかやるわね。さすがだわ」
状況を察しこの場に見合った魔法を瞬時に発動させたリシュエルに感心していると、そのエリスの視線に気が付いたリシュエルがチラリとエリスに視線を向け小さくうなずいていたのだった。
その後、ようやく落ち着きを取り戻したシルビアは皆の呆れた視線を受け慌てて魔法を消したのだ。
そうしてそれからは、なるべく興奮しないように気を付けながらエリスの授業を聞いていたのである。
◆◆◆◆◆
エリスの魔法授業が終わると次に剣術授業を受けるため、シルビアは運動着に着替えて演習場に移動した。
するとそこには、すでに待機していたリシュエル達とは別に中年の男性教師が待っていたのである。
「ん? おお、嬢ちゃんで最後だな。ほら急げ!」
「あ、はい!」
その男性教師に急かされてシルビアは小走りで皆のもとに向かった。
そしてシルビアは体操着に着替えたセシルの隣に立ち、眉根を寄せて男性教師を見ていたのである。
(……この先生、どこかで見た事があったような気がします)
するとそんなシルビアを見て、男性教師はニカッと口角を上げて笑ったのだ。
「よう嬢ちゃん、久しぶりだな」
「……久しぶり、ですか?」
「ん? 俺の事忘れたのか? あの身体能力検査の時に会っただろう」
「身体能力検査の時……あ! あの時、お部屋にいらっしゃった先生ですね!!」
シルビアは目を見開いて、目前の男性教師……ゴーランドを見つめた。
「そうそう。あの時は面白いものを見さしてくれてありがとうな」
「え? お見せしていませんが? それよりも……あのお部屋の壊れた壁はどうなったのでしょう?」
「ん? ああ、あの壁な。安心しな、検査が終わったあとすぐに修理業者を呼んで直してもらったから」
「そうなのですね」
「それに、あの魔力量検査で壊れた測定器の水晶も、新しい物が明日入荷する予定になっているからそれも安心していいぞ」
「……よかったです」
ゴーランドの話を聞き、シルビアはホッと胸を撫で下ろしたのである。
そんなシルビアとゴーランドの話を、全く訳が分からないといった顔でリシュエル達は聞いていたのだった。
するとセシルがシルビアに顔を寄せ小声で話し掛けたのだ。
「おいシルビア……お前、あのゴーランド先生と知り合いだったのか?」
「え? ええ、身体能力検査の時にお部屋にいらっしゃったので、そこでお会いしました」
「身体能力検査の時って……あの先生、男子生徒を担当してたはずなんだが……」
「ん? なんだセシル? 俺の顔を微妙な表情で見てきて……ああ、あの身体能力検査の時にちょっと強く相手にしたのをいまだに根に持ってるのか?」
「……べつにそう言うわけでは」
「いや~あの時はすまんかったな。そこの嬢ちゃんを見た後だったから、ちょっと力が入っちまってな」
「シルビアを見た後だったから? ……お前、身体能力検査の時一体何をしたんだ?」
「え? 普通に検査を受けただけですよ?」
胡乱げな目で見てきたセシルに、シルビアはキョトンとした顔で答えたのである。
「くく、まあまあその話はいいだろう。じゃあとりあえず俺の自己紹介をするな。俺の名はゴーランド……ゴーランド・マリンドだ。この特待生クラスの剣術授業を担当する事になった。これからよろしくな!」
そう言ってゴーランドは両腰に手を置き、ニカッと笑ったのであった。
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