事件発生!?

 シルビアとエリスは声のした方に向かうと、そこにはあのメリダの取り巻き三人衆が不安そうな顔で何かを探していた。


「貴女達どうしたの?」

「っ! エリス先生!!」


 その中の一人、緑の髪をポニーテールにして結んでいる名前をソニアと言う女生徒が、慌ててエリスに駆け寄っていった。

 その後ろから肩で切り揃えた桃色の髪のマーリンと、背中まで伸びた赤髪のサーシャが追いかけてきたのだ。


「エリス先生、どこかでメリダ様をお見かけしておりませんか!?」

「え、メリダちゃん? いえあたしは見ていないわよ?」

「そう、ですか……」


 ソニアは悲痛な表情で肩を落とした。


「メリダちゃんがどうかしたの?」

「それが……夕方頃、魔法の演習場に忘れ物をしたからとおっしゃられ一人で取りに向かわれてしまったのです。ですがどれだけお待ちしてもメリダ様がお帰りにならず、心配になった私達で演習場まで向かったのですが……」

「そこにメリダちゃんの姿はなかったと」

「……はい」


 唇をきゅっと引き結び、ソニアは辛そうな表情になる。

 そのソニアに同調するように、今度はマーリンが目に涙を浮かべながら口を開いた。


「あの時わたくしが、メリダ様の代わりに取りにいけばよかったのですわ!」

「マーリン……」


 今にも泣きそうになっているマーリンに、サーシャがそっと寄り添う。


「そもそも私達がご一緒していればこんなことには……」


 マーリンを支えながらサーシャも目に涙をを浮かべだしてしまった。

 そんな三人衆を見てエリスは困った顔で、一歩後ろに立っていたシルビアに顔を向ける。


「ねえシルビアちゃん、貴女は来る途中でメリダちゃんを見かけなかった?」

「ごめんなさい……見かけていないです」


 その声にようやく三人衆はシルビアがこの場にいることに気がついたのだ。

 ソニアはシルビアを見て顔をしかめる。


「……貴女、いつからいましたの?」

「さきほどからずっといましたよ? それよりも、メリダさんがいなくなった状況をもう少し詳しく教えていただけませんか?」

「どうして貴女なんかに……」

「メリダさんを探すのでしたら一人でも多い方がいいと思いましたので。微力ながら私もお手伝いいたします」

「……」


 シルビアの言葉にソニアはなんとも言えない顔で他の二人を見た。するとその二人も複雑そうな顔でソニアを見てきたのだ。

 ソニア達は無言でお互いを見つめ小さくうなづきあうと、再びシルビアの方に顔を向けた。


「わかりました。今はメリダ様をお探しするのを優先いたします」

「ありがとうございます。では……」

「こんな時間にこんな所で集まって何をしているのです?」


 突然別の方向から声をかけられ、シルビア達は驚いた表情で揃って声の聞こえた方を見た。


「リシュエルさん!?」


 手に光の玉を浮かばせながら怪訝な表情でリシュエルが立っていたのだ。


「シルビア、マキアから貴女が外に出たっきりなかなか帰ってこないと聞いたので探しにきたんだが……ここで何をしているんだい? それも珍しい子達と一緒にいるようだし……」


 そう言ってチラリとソニア達を見た。


「わざわざ探しにきてくださったのですね……ありがとうございます。実は……」


 そうしてシルビアは現在メリダが行方不明になっていることを説明したのだ。


「……なるほど。だからこの子達がいるのにメリダ嬢の姿がないのか。それで何かわかったのかい?」

「いえ、これから詳しく聞こうかと思っていたところなのです」

「そうか。では私が代わりに聞こう。……確か貴女はソニア嬢でしたね。何かメリダ嬢の手がかりになりそうなものなど見掛けませんでしたか?」


 ソニアに向き直ったリシュエルが優しく問いかけると、ソニアは顔をほんのり赤らめながら首を横に振った。


「いいえ何も」

「そうですか……」


 何も得られる情報がなく、リシュエルは困った表情をシルビアとエリスに向けた。


「ん~とりあえず、一度そのメリダちゃんが向かったっていう演習場に行ってみるわ」

「それでしたら私も一緒にいきましょう」

「あら、リシュエルが来てくれるのなら助かるわ」

「では私達も!」

「うんん、貴女達は宿泊施設の方に戻ってちょうだい」

「ですが!」

「もしかしたら入れ違いでメリダちゃんが戻ってくるかもしれないでしょ? だから貴女達は宿泊施設で待機していてちょうだいね」


 エリスは安心させるようににっこりと微笑み、それを見たソニア達は渋々ながらうなずいた。


「じゃあシルビアちゃんも、この子達と一緒に戻って……」

「え? 私もエリス先生方とご一緒しますよ?」

「なっ!? 駄目よ! 何があるかわからないのだから、貴女も戻りなさい!」

「ですがメリダさんが戻られましても絶対私に会いにくることはないので、宿泊施設で待っていても無意味ですし……それにここまでお聞きして大人しく待っていることはできません!」


 キッパリと言い切ったシルビアを見て、エリスは額を押さえてため息をついた。


「シルビアちゃんたら……」

「エリス先生、これは諦めた方がいいでしょうね。むしろ一緒に連れていかないと一人で勝手に追いかけてくるでしょうから。それでしたら一緒に連れていく方が、何かあった時すぐ対処できるかと。大丈夫、シルビアのことは私が必ず守ります」

「リシュエルさん……」


 必ず守ると言う言葉に、シルビアはなんだか嬉しい気持ちと気恥ずかしさが入り交じり落ち着かなくなっていたのだった。


「はぁ~わかったわ。じゃあシルビアちゃんも一緒に行きましょう。た・だ・し、絶対単独行動はしないように!」

「わかりました」


 人差し指を立てて忠告してきたエリスに、シルビアはしかりとうなずいた。


「じゃあ貴女達、気をつけて帰るのよ。……本当は夜道は危ないから送っていきたいところなんだけどね」

「いえ、お気遣いありがとうございます。ですが私達のことは大丈夫です。どうぞメリダ様のことをよろしくお願いいたします」


 そう言って三人衆は深々と頭をさげ、そして宿泊施設の方に帰っていった。

 その後ろ姿を見送りながらシルビアは、視線を真っ暗な森に向けた。


「……私は大丈夫ですから、三人のことよろしくお願いします」

「え? シルビアちゃん、突然何を言い出したの?」

「いえ、こちらのことなのでお気になさらず」


 誰もいない方を見ながら話し出したシルビアにエリスは驚くが、シルビアはにっこりと微笑んで説明をしなかった。

 そしてもう一度森の方に顔を向け、今度は黙ってじっと見つめ続けたのだ。

 すると風が吹き葉擦れの音が鳴り響くと、すぐに静かになった。

 

(クロード、ありがとうございます)


 心の中でお礼を言っているシルビアをエリスは困惑しながら見つめ、リシュエルは意味深な笑みを浮かべてシルビアを見ていたのだった。


  ◆◆◆◆◆


 シルビア達はリシュエルの出してくれた光の玉を頼りに、夜道を照らして歩き目的の演習場までやってきた。


「ここですね。……確かにメリダさんはおろか人っ子一人いないですね」

「まあ、こんな時間にくる人なんていないからね」


 シルビアの呟きにエリスが苦笑いを浮かべながら答えた。


「ではとりあえず、辺りを確認してみますか」

「ええそうね。何か痕跡が残っているかもしれないし」


 リシュエルの提案にエリスがうなずき、シルビア達は何か手がかりになるものがないか探すことにした。

 しかしどれだけ探してみても特にこれといって見つからなかったのである。


「ん~もしかしてここに来ていないのかしら?」

「では他の場所を探してみますか?」

「それでもいいけど……この暗さだから、いくら光源の魔法を使っても限度はあるのよね。それに無闇に探して時間のロスも痛いわ」

「困りましたね」


 リシュエルとエリスはむずかしい顔で考え込んでしまった。

 その時、今までずっと黙っていたシルビアがおもむろに右手をあげた。


「シルビアちゃん、何をしているの?」

「手っ取り早く、探索魔法を使ってみようかと思います」

「え?」


 戸惑うエリスを他所にシルビアは目を瞑り意識を集中させ、魔方陣を展開させたのだ。

 するとそこから光の輪が現れ瞬時に大きく広がっていったのだ。


「エリス先生、これは?」

「……確かにこれは探索魔法よ。だけど……これほど大きなものは初めて見たわ。普通は自分の周辺を探れるぐらいのものなんだけど……これ、確実にこの山一帯を覆っているわね」


 エリスは呆れた表情を浮かべながら、目を閉じているシルビアを見ていた。

 リシュエルもエリスの説明を聞き、驚きながらじっとシルビアを見つめていたのである。

 シルビアはパッと目を見開いた。


「見つけました!」

「え! どこにいたの!?」

「ん~ここより少し離れた場所にある小さな小屋ですね」

「ああ、あの物置小屋のことね。でも……今は使っていないらしいのに、なんでそんなところにメリダちゃんがいるのかしら?」

「すみません。さすがにここからでは詳しい詳細はわからないのです。そこからメリダさんの気配を感じただけですから」

「いいえ十分よ。ありがとうね」


 シルビアはうなずき魔法を解いた。

 しかしリシュエルはむずかしい顔で黙り込んでいた。


「リシュエルさん、どうかされたのですか?」

「いや、ただ少し嫌な予感が……」

「嫌な予感?」

「あのメリダ嬢が、何時間も大人しくそんな場所にいるのに違和感を感じてね」

「確かに……」

「もしかして……本人ではどうにもできない状況に陥っているとか?」


 そのリシュエルの言葉にシルビアとエリスはハッとした顔でお互いを見て、三人は同時に走り出した。


「しまったわ! ここは学園所有の敷地だからと、勝手に安全だと思い込んでしまっていたわ!」

「いくら敷地との境界付近に警備を配置してあっても、どうしても全てを見張ることはできませんからね」

「メリダさん、ご無事ですといいのですけど……」

「……」

「……」


 シルビアの呟きに、リシュエルとエリスは答えることができなかったのである。




 そうして暫く走った先に目的の小屋を発見した。


「止まれ」


 リシュエルは右手でシルビアとエリスの進行を塞ぎ、険しい声で二人を制止させた。

 すぐにシルビア達は立ち止まると、それぞれ木の影に隠れそっと小屋を伺い見た。


「……どうやらビンゴのようね」


 エリスが小屋の外に立っている一人男を見ながら呟いた。

 その男は明らかにガラの悪い人相と服装をしていたのだ。


「あの様子から見て……多分盗賊か何かだろうな。まあどう考えても善良な人ではないだろう」

「ではメリダさんは、あの盗賊に捕まってしまっているのでしょうか?」

「おそらくは……だが、相手が何人いるかはここからではわからないな」

「ではまた探索魔法を……」

「いや、ここまで近いと発動に気づかれてしまう可能性がある。とりあえず今は、裏手に回ってみよう」


 リシュエルの提案にシルビアとエリスはうなずき、そして男に警戒しながら静かに移動したのだった。

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