特待生クラス
シルビア達はリシュエルに連れられ特待生クラスに到着した。
「ここが特待生クラスです。さあ中に入ってください」
にっこりと笑顔を向けながらリシュエルは教室の扉を開けると、二人を中に促したのである。
二人は緊張した面持ちで教室の中に入り周りを見回した。
そこはとても日当たりのよい教室となっており、その教室の一番前にある教壇と黒板を見下ろすような構造で、上から階段状に机がそれぞれ置かれていたのだ。
シルビアはそんな教室の様子を見て、これから始まる学園生活に胸を踊らせていたのだった。
しかしその時、二人の後から教室に入ってきたリシュエルに大きな声を出して駆け寄ってきた人物がいたのである。
「殿下!!」
「ん? どうしたカイザ、そんな大きな声を出して」
「どうした? じゃないですよ!! いつも言っていますよね? お一人で行動しないでくださいと!」
目くじらを立てながらリシュエルに捲し立てているのは、ツンツン頭の赤髪と青い瞳の男子で、リシュエルと同じ白い制服を着ていたのだが何故かその腰には剣を差していた。
「べつに学園の外に出るわけでもないから、私一人でも問題ないと思っていたのだが?」
「そう言う問題ではありません! 殿下はサザール王国の王太子なのですよ!! そしてその殿下をお守りするのが俺の役目なのです!」
「勿論分かっている。私の近衛騎士であるカイザが、わざわざ私と一緒にこの学園に入学してくれた事自体ありがたいと思っているのだよ」
「……僕の事は?」
憤慨しているカイザにリシュエルが困った表情で落ち着かせようとしていた所に、カイザの後ろからひょっこりと眠たげな目をした小柄な男子が顔を覗かせてきたのである。
その男子は青い髪に赤い瞳をしておりこちらも同じく白い制服姿であった。
「勿論ロイの事も感謝しているよ。私の国では一、二を争うほどの魔導師なのに、私と一緒にこの学園にきて一から勉強してくれているのだから」
「……魔法の知識はいくらあっても困らないから。それに……殿下を守りたい」
「ふふ、ありがとう」
ロイは視線を反らしてボソリと呟くと、リシュエルは嬉しそうに微笑んだのだ。
そんな三人のやり取りをシルビアとセシルは困惑しながら見ていたのである。
しかしシルビアは勇気を振り絞ってリシュエルに話し掛けた。
「あ、あの……」
「ん? ああ放っておいてすみません。ではついでですし、このままこの二人を貴女達に紹介しますね」
そう言ってリシュエルはカイザとロイを横に並ばせ順番に紹介しだしたのだ。
「この特別に帯剣を許可されているのが、カイザ・シンフォロン。元々私の近衛騎士をしてくれていた者なのだけど、私がこの学園に入学する事が決まった時に一緒についてきてくれたのです。年は私と同じ十八歳で秀でた剣の腕前が認められて特待生に選ばれました」
「カイザ・シンフォロンだ。二人の事は事前に殿下からお聞きしている。しかしさっきは見苦しい所を見せて申し訳ない。もし何か分からない事があればなんでも俺に聞いてくれ」
カイザは爽やかな笑顔を浮かべながら二人に挨拶をした。
「そしてこっちがロイ・マーロン。カイザと同じく私の近衛魔導師をしてくれていたのですが、私についてこの学園に入学してくれたのです。こう見えて年は私と同じ十八歳で、秀でた魔力を認められて特待生になったのですよ」
「……ロイ・マーロンだ。分からない事は僕に聞くよりカイザに聞いてくれ。……説明は苦手だ」
ロイはペコリと軽く頭を下げるとぶっきらぼうに言って横を向いてしまったのだ。
しかしそんなロイにセシルが反応したのである。
「……確か少し前サザール王国で、成人(十五歳)前でありながら歴代最年少の魔導師が誕生したと噂で聞いた事があったが、もしかしてあんたがそうなのか!?」
「……まあ、そう呼ばれた事もある」
「マジか!! 俺の家系でも成人前に魔導師になった者はいないんだ。俺、その噂を聞いてちょっと憧れていたんだよ!」
「そ、そうか……お前、名前は?」
「俺はセシル、セシル・ヴィランデだ」
「ふ~ん、ヴィランデ家ね……魔導師を多く輩出している名家じゃないか。……面白い。魔法の事ぐらいなら僕でも教えられるから、聞いてくれてもいいよ。逆にお前だけが知っている魔法の知識があったら僕に教えてくれ」
「ああ、よろしく!」
そうして二人は意気投合し一気に仲良くなった。
しかしそんな二人の様子をシルビアは羨ましそうに眺めていたのである。
「……私も、魔法の事を色々教えて欲しいのですけど……」
「ふっ、ロイほどではありませんが私も魔法の知識はありますので、貴女に教えてさしあげる事は出来ますよ」
「本当ですか!?」
リシュエルの提案にシルビアは、とても嬉しそうに両手を組んでキラキラした目を向けた。
そのシルビアの様子にリシュエルは一瞬目を見張るが、すぐにふわりと微笑んだのである。
「……ふふ、聞いていた通りですね」
「え?」
「いえ、なんでもありません。さて、あともう一人このクラスに生徒がいますのでその方を紹介しますね。……マキア! すみませんが、こちらにきて頂けませんか?」
「……絶対行かないといけませんか?」
リシュエルが振り返り席について本を読んでいた一人の女子生徒に声を掛けた。
しかしその女子生徒はリシュエルの呼び掛けに読んでいた本を机に置き、とても面倒くさそうな顔でリシュエルに返事を返したのだ。
「せっかくの読書の時間を邪魔して申し訳ないのですが、これから同じ教室で勉強する仲間になるので挨拶だけして頂きたいのです」
「……はぁ~分かりました。少しだけお付き合い致します」
ため息を吐きながら女子生徒は本を閉じ、椅子から立ち上がってシルビア達の下に歩いてきたのである。
その女子生徒は黒い髪を二つ分けの三つ編みにして前に垂らし、銀縁眼鏡の奥に黄色い瞳が覗く知的な雰囲気の少女だった。
「きてくれてありがとう。え~と、彼女はマキア……」
「リシュエル先輩、自分で言いますので結構です。私はマキア・ウインダス。年は十七歳。一応貴女達の一個上の先輩になるわね。まあ分からない事があれば私に聞いてくれても答えられる範囲なら答えるわ。ただ、魔法と剣術はこの人達ほど凄くないから、それ以外の勉学限定になるけどね」
「彼女は凄いのですよ。去年筆記試験で高得点を出し、唯一特待生クラスに選ばれた方なのですから」
「べつにたいした事はしていません。ただ昔から勉強をするのが好きだっただけです」
マキアは真面目な顔でそう言い切ったのだ。
「私はシルビア・ドレッディアと申します。色々お聞きするかもしれませんが、これからよろしくお願いしますね。マキア先輩」
「俺はセシル・ヴィランデ。これからよろしくお願いします。マキア先輩」
「……先輩、先輩……ゴホン! い、いいわ! 先輩として色々教えてあげるから!」
何故かマキアはブツブツと『先輩』と言うフレーズを繰り返すと、若干嬉しそうな顔で胸を張ったのだった。
そのマキアの姿を見て、リシュエルは口元に手を当ててクスッと笑ったのだ。
「マキア先輩、可愛い後輩が出来てよかったですね」
「……リシュエル先輩、馬鹿にしないで頂けますか」
リシュエルの言葉にマキアはムッとし目を据わらせてリシュエルを睨んだのである。
しかしリシュエルはそんなマキアから視線を反らし、シルビア達の方に顔を向けた。
「さて、これでこの特待生クラスの生徒は全員紹介しました」
「……え? このクラスは私達を合わせても六人だけなのですか!?」
「ええ。元々特待生クラスは秀でた能力の生徒だけを集めた特別なクラスですので、その年によっては一人も選ばれない事もあるのですよ。だから他のクラスと違って全学年が一つの教室で授業を受ける事になっているのです」
「そう、なのですか……」
シルビアはそう呟きもう一度教室内を見回したのだ。
(……これだけ広い教室ですのに少人数だけで使うのですね。ん~学園生活というのはもっと大人数でワイワイと楽しく過ごせると聞いていたのですが……まあ、仕方がないです。きっとこの人数だけでも楽しい学園生活が送れるのでしょう!)
今まで同年代と一緒に過ごした事のなかったシルビアは、この初めての環境にとてもワクワクしていたのである。
「では授業が本格的に始まるのは明日からなので、今日はこれから学園内と学園寮に案内しますね」
「あ、はい! よろしくお願い致します。リシュエル……先輩!」
「ん~出来れば私に先輩は付けてくれなくていいですよ?」
「え? ですがマキア先輩はそう呼ばれていますので……」
「彼女は……もう諦めました。ですが貴女達には普通に名前で呼んで欲しいのです。その方が変に壁が出来ず仲良くなれると思うので。そして私も貴女達を呼び捨てで呼ばせて頂きますが構いませんか?」
「なるほど……分かりました。勿論、私を呼び捨てで呼んで頂いて構いません。ではこれからリシュエルさんとお呼びしますね」
「ん~出来れば『さん』もいらないのですが……まあいいでしょう」
「……呼び捨てで呼ばれる事自体は構わない。だけど俺はリシュエル先輩と呼ぶ事にするから」
「セシル……」
「そんな顔をしないで欲しい。だったらリシュエル王子と呼ぶけどいいか?」
「……先輩でいいです」
リシュエルはがっくりと肩を落とし、苦笑いを浮かべながら了承したのだった。
「え? でしたらやはり私も……」
「さん付けでお願いします! シルビア」
「あ、はい。……分かりました」
強い口調で言われシルビアは戸惑いながらもうなずいたのだ。
「では、そろそろいきましょう」
「殿下、今度は俺もついていきますからね!」
「……僕もいく」
「私は読書の続きがしたいからここに残るわ。いってらっしゃい」
「よろしくお願いします」
「……よろしく」
そうしてシルビアを含め五人で学園内を見て回ったのだが、ほぼ特待生クラスの全員がゾロゾロと固まって学園内を歩いている光景はさすがに凄く目立っていたのである。
そしてそんな姿を物陰からメリダと取り巻き三人衆が、悔しそうな顔で見ていたのだった。
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