2-1
夕暮れ時が直に終わる。
私は太陽が一際眩しいこの時間帯が苦手だ。
人によっては、このノスタルジックな雰囲気が好きだと口にするものもいる。
昼でもなく夜でもない。落陽の鮮烈な輝きがもたらす儚い情景は物理的にも概念的にも非現実的な空気を創りだす。停滞の色を帯びた現代の現実において、それは数少ない非現実――――――即ち、幻想をもたらしてくれるから愛されるのだろうと灰里はそう言っていた。
私は、その考え方に腹が立つ。
非現実的な物事に、幻想に、甘さを求めるというその能天気さ。
幻想がいつだって自分たちに優しいものなんだと信じ過ぎるのはとても危険なことなのだ。
夢にだって種類はある。良い夢と悪い夢。
人に快い物事を運ぶ、吉兆の夢。
人に不快な物事を運ぶ、不吉の夢。
多くの人は自分にとって都合の良いもの、自分が見たいと思ったものを見たい様にしか見ない。
しかしそれも行き過ぎれば、やがて現実逃避に繋がるのは自明の理で、突き詰めた先に待ち受けるのは明確な破滅なのだ。
夕暮れの別名は黄昏、そして逢魔が時。
魔に逢うとされる時間帯に善いモノが在るはずもなく、その時間帯が終わればやってくるのはいよいよ魑魅魍魎が跋扈する夜の時間だ。
それを分かっているのか、いないのか――――真也はいつも危なっかしい。
毎度毎度、うっかり足を滑らせてこちら側の世界にやってこようとするその在り様に、私はいつもハラハラさせられる。
今回もまた同じ。
今までに何度かあった、あいつがやらかした不始末に対する尻拭いだ。
その辟易したくなるような事実を飲み下しながら人ごみの流れを割るようにして歩き続け、やがて目的の場所へと辿り着いた。
寂しさと
名をキャメロットガーデン。
中世の西洋を思わせる意匠をふんだんに凝らしたこのテーマパークは当時、洒脱な意匠デザインで女性をはじめとし、子供達からも無骨でありながら洗練された騎士の鎧姿がカッコイイと評判で賑わったが2、3年ほどで経営赤字に至り、遂に閉園へと至ったものだ。
このテーマパークのシンボルとして中心部にはアーサー王伝説に端を発した純白の聖城キャメロットを模した城が造られ、客人がいなくなった今でも威風堂々たるその姿は健在である。
新しいものを生みだしては消費する、それを繰り返して日々の営みを紡いでいく現代において、この手の遊興施設は衆人大衆の興味を引き続けなければ、あっという間に廃れてしまい存続することが難しいというのが昨今の世知辛い要素の一つだ。
数分ほど、歩くと指定にあったキャメロットのレプリカに辿り着く。
入り口には大きなかんぬきがついている木製の大扉備え付けられていて、今は扉が開いている状態だ。
ここに、真也を連れ去った犯人がいる。
夜も半ば、人がいなくなり
かつての純白の聖なる城は、まるで巨大な
以前はこの広場にも喧騒めいて賑わいでごった返していたのだろうが、そんな空気とは打って変わって、今は墓地のような不吉さと
こういう場所で凶事を始めるのはうってつけだろう。
人がおらぬが故に日常の営みとは無縁であり、
今なら、ここでどのような荒事を起こせども些事にすらならないと場所そのものが物語っているようだった。
廃棄されて久しいのだろう。当然電源など通っているはずもなく、城内は暗がりに満ちており私は更に警戒心を強く持って歩みを進める。
かつんかつんと、ブーツの靴底が大理石の床を蹴る音が場内に木霊する。
音は小さなものでしかない……だが元々この城は音が反響しやすい造りになっているのか、わずかな音量でも即座に大きな音へと変化していく。
歩を進めるたびに、靴底から大きな扉をノックするかのような甲高い音が響き続ける。
これでは相手に自分がやってきたのをむざむざ知らせるだけだと、心中で舌打ちをする。
視界が悪く周りの景色を視認するのが難しい。
いつ、敵から奇襲を受けるか知れたものではない。
一端、外に出て事態の建て直しを計ろうかと思案した時、入り口の扉が軋音を上げながら閉まり始めた。
それに気づいて足早に外へと向かうが、もう遅かった。怪物の
電球が古いのか明かりが明滅しており、揺れるようなその光はまるで篝火のようだった。
屋内の豪奢な意匠が照らしだされたその先に、今宵の事件の犯人が立っていた。
人種は西洋人で齢は17、8歳といったところか。
高貴さが伴う優美な造りをしていながら頑強さが伴う美貌。
淡い栗色のセミロングの茶髪に、右目は傷でも負っているのか眼帯で覆っている。
細く華奢でありながら
腰には簡素な細身の両手剣。
おとぎ話の中から飛び出してきた女騎士。そんな比喩がピッタリな清廉な風貌はしかし、所々に粘つくような血と泥の臭いが伴っていた。
まるで澄んだ湖畔に血と泥を垂らした風情にも似ていて……率直に言えばひどく歪であり、憑き物のにでも出会ったかのような気持ち悪さだった。
「ようこそおいでくださいました。会いたかったですわ……私の恋敵。」
「……」
女が口を開く。
白鳥のような清楚さと泥のような汚らしさが混じったその声に覚えを抱いた。
―――――記憶のどこかが疼く。
……私は以前、どこかでこの女と会ったことが?
疑問に答えは出ない。
「あなたと再会するのは何年ぶりでしたか……久々に
だがどうでもいい。
そんなことは後でいくらでもこの女を倒してから、考えればいい。
相手との距離六メートルを一息で詰め、懐に忍ばせていた短剣を神経が密集している首目がけて振りかぶる。首を落とすつもりはない、峰打ちで相手の意識を落としにかかる。
段上にいる女はこちらの動き捉えきれておらず、この一撃で勝利できると私は踏んでいた。
だが、敵の女は反応しきれていなかった筈の私の一刀をフワリと躱す。
今の動きは――――――
「あら、せっかちだこと。舞踏であれ決闘であれ、まずはお互いに挨拶を交わしてから事に至るのが作法というものではありませんか?」
奴の動きは人間らしさが希薄だった。強いて
中華の武の合理には動物の動きを真似ることで生じた武術があると聞くが、それを駆使してもあのような動きをするのは難しいだろう。
首を傾げそうになるが、以前に灰里が口ずさんでいた言葉を思い出す。
曰く、古い時代において人類種の多くは数々の特殊能力、異能を宿していたという。
あるものは炎を自在に操り。
あるものは手で触れずとも物を自由に動かせたり。
あるものは未来を見通す瞳を有していたり、と。
様々な特殊能力を駆使して日常の営みを紡いでいたという。
灰里の話によると古代の人々はそれらの能力を欲しくて手に入れたのではなく、ただ単に持っていなければ生き残れなかっただけ、だそうだ。
そういった特別な能力に追いつくために普通の人間の中から異能を人工的に再現しようと研究を始めた者たちがいた。
世界は、こういった普通の人間にとって非常識な手段を以って魔可不思議な事象を引き起こす技術を魔術と呼称し、そしてそれを開発するモノ達を魔術師と呼んだのだそうだ。
私もその分野の専門家ではないので詳細は分かりかねるが、この女の奇特な動きもそれに類する技術を使ったものだとしたら辻褄が合う。
「アナタ、うちの
「……なんですって?」
私の質問に女は冷えきった声で応える。
「ローエングリーンの末裔たるこの私が、薄汚い魔術師風情と同じだと……そうおっしゃいましたの、貴女?」
「……」
「確かに騎士の嗜みの一環として、基礎的な魔術をいくつか習得してはいますが、私を我執の塊である魔術師と同義同列に扱うなどと実に不愉快です、撤回なさい。」
女は静かに、だが確かな怒気を声に孕ませていた。
魔術師として扱われることがよほど業腹だったのか、女は険のある表情を作る。
西洋圏では魔術師として扱われるのは不名誉なことなのか、それともコイツの高貴な人柄がそうさせるのか、詳しい事はわからない。
「その口ぶりからして貴女……やはり覚えていませんのね。これはいよいよ以って、あの者の言葉も真実味を帯びてきましたわ。魔術師の言葉など信用ならないと、初めは一蹴しましたが……。」
「?」
女は訳のわからない言葉をつらつらと口にする。
だがやはり、なにか引っかかるものがある。
あの女とは初対面のはずなのに、何処かで見たことがあるという既視感、あるいは既知感が湧き出てくる。
――――――奇妙だ。あの女と知己であるというのなら何故自分は思い出せない?
自分は特段、物忘れの激しい性分じゃないんだが、何故?
……先程から私の奥底で何かが囁いている。
まるで
――――――――――――その時、世界が転輪し、流転した。
■■■■■■■■■■■がこちらを見ていた。
……私に向かって近づいてくる。
それは知らない筈の/いいや、知っている。
見たことも無い/いいや、コレは何時でも見ていた。
■■■■■■■■■■■が囁いてくる。
――――――――――――ワタシハ、アノヒトヲ、シッテイル
「!!!」
刹那、忘我の淵に陥ったことに気づいて、慌てて飛び退く。
なんて不覚。敵を前にして自我を手放しかけただなんて……。
どうぞ隙を突いて殺してくださいと言っているようなものだ。厳しい鍛錬を施した師父に叱られた思い出を
私はこの女とどこかで会っていて、知己の間柄である事に確信を抱く。
どうしてそれを確信することが出来たのか、その由縁を己自身に問うこともなく、すぐさま私は忘却したけれど。
どうでもいいのだ、そんなことは。
今はただ、目の前の敵に焦点を向けていればいい。
私は視線を奴に向けて、逸らすことなく注視する。
「……昔と比べて目の色が変わりましたわね、貴女。そんな剣呑な目つきをして、あからさまに敵意を向けてくる人間ではなかったでしょうに。なるほど、あの時分の貴女はもういないという事ですか……。」
私の視線に何か感慨があったのか、言葉を紡ぐ。
同時に、女の中で凶念が渦を巻き始めていくのを感じた。
「残念でなりません、この右目の傷の借りをお返ししたかったというのに……忘れられていたのでは返す宛がなくなったも同然です。ねぇ、貴女…どうしてくれますの……?この苛立ちを自分の中で処理するだなんて、
女の周囲に漂っていた怒気が徐々に積上していくのがわかる。
あれは噴火前の火山と同じだ。爆発するのは確定していて、もう止められない。
次にくる猛威に対するため、私は身構える。
古今東西の習わしの一つに、女の癇癪は手に負えないものとある。
私も女だから、それはよく
だから、油断なんてしない。
「気が変わりました。セイジョー君に縁のある
女は腰に差した剣を引き抜き、突きつける。
古い時代の騎士を想わせる構えと共に宣告を口にした。
「我が名はオルガフィヨス=ローエングリン! 聖杯の守護者にして白鳥の騎士ローエングリンの末裔である騎士! 貴女にあの清浄な魂は相応しくありません。故に、ここで剥奪させていただきます!」
短く、静かに告げられた敵意の篭もった言葉。
氷を
体幹、歩法、呼吸、気勢、他にも様々な要素を精密に繋ぎ合わせることで創り出される武の合理。
この女はどうやら武の分野においても高度な訓練、鍛錬を積んでいるようだ。
様々な所作の流れ、その繋ぎ目に無駄が少なく、一般人ならば相手がいきなり瞬間移動して自分の懐まで接近したと錯覚させることだろう。
正面の空間を切り裂くような鋭い踏み込みと共に繰り出される剣技、体術。
それらを捌き、躱し、時に短剣で打ち払いながら互いに攻撃の応酬を繰り広げる。
「流石ですわね。あれから数年経ってお互い更に上の領域に達した…ならば、心置きなくお互いの器を競い合えるというもの。」
打ち合いが楽しいのか、彼女は楽し気だった。
実直でありながら堅いだけの剣筋ではなく、どこか優雅で
もしかしたら、それは彼女の生き様が写しだされているのかもしれない。
「興味ない。お前の都合なんて知りたくも無ければ、そもそも関心も無い。いいから真也を返せ。今なら骨の二、三本で許してやる。」
「あら、お怖いこと…。」
悩ましげに眉を
とても絵になっていて、だからこそ腹立だしくもある。
何度目かの攻防の末に私は短剣を弾かれ、体勢を崩した。
その隙をオルガフィヨスは
同時にオルガフィヨスの浮かべた表情からは様々な感情が読み取れた。
まだこの殺し合いを終えたくない…未練。
一刻も早く殺してやりたい…憎悪。
本当にここで殺めてもいいのか…
泥のように混ざり合ったその感情を見ていると気持ち悪くなってくる。
これほどまでに真也を想っているという事なのだ。
憧憬……あるいは恋慕という、甘さが伴う想いもこうまで拗らせればとてつもなく醜く変貌すると理解する。
まぁ…自分も同じ穴の
この女は自分と同じくあの馬鹿を心の拠る辺にしたいと思っているのだろう。
だが―――――――――
「な……!?」
驚愕の声はオルガフィヨスから。
彼女は確かに私の心臓を捉えた感覚を抱いたのだろう。
確信と共に放たれた絶命の一撃を肌に触れるか触れないかの寸分差で
何合か
しかし、それも思惑の内。相手に自分が優位だと誤認させるための動き、武道における基本動作の一つ『虚』を駆使して相手を更なる罠に陥れた。
「間抜けに罠にかかってくれてありがとう。ああ、おかげでこっちは助かるよ。」
オルガフィヨスの眉間に向けて振り下ろされる絶命の一刺。
隙をついた必中の一撃。反撃も出来ず、回避も不可能の筈の一撃をしかし、オルガフィヨスは執念だけで無理やりに肉体を駆動させ、凌ぎきった。
代償として、脚部が重度の筋断裂を起こして上手く動作しなくなったが、オルガフィヨスは気にも留めない。
そう、今の彼女にとって、そんなことは些事なのだ。
オルガフィヨスとて中世より続く騎士家系の出身だ。
聖なる君、聖なる杯を守護する役割を担うその家に生まれた彼女は始まりからして人間としての性質を削ぎ落とされ、ただただ君主を守護する騎士としての
人並み外れた苛烈な訓練が続く毎日。
剣を握った掌は血豆が破れて血に濡れなかった日は無かったし、それに耐え続けることで肉体だけではなく、精神も頑強さを得て高次の領域に到達する実感を持っていた。
オルガフィヨス=ローエングリーンは確かに人並みの領域から外れていると、そう自認していた。
なのに――――――
「凡俗――――――ありふれてるね。」
その簡潔な言葉にオルガフィヨスは絶句する。
彼女が文字通り血を撒き散らしながら耐えた修練。その果てに辿り着いた境地を、真理はありふれたものだと指摘した。
「確かに動作は速いし、練りも巧い。けど、それでも私がこれまで相手取ってきた者達の中で最優だったかといわれれば……。」
別にそんなことはないのだと、彼女の瞳が物語っていた。
オルガフィヨス以上の
自分に厳しい鍛錬を課した師父然り。
これまでに対峙してきた怪異然り。
多くの異常に囲まれて生きてきた真理からすれば、中世より連なるローエングリーンの業も所詮はありふれた凡俗の一つに過ぎないという事だろう。
オルガフィヨスは凪いだ湖面を思わせる静けさすら伴わせて、呆としている。
自分の力をありきたりだと値踏みすることが出来るくらいには真理も鍛錬を積んだということなのだろう……その真実を、身を以って識ったオルガフィヨスの意識が揺らいだが、すぐさま精神を立て直す。
そうして、
今のオルガフィヨスの心を占めるのはただひたすらなまでの怒り。
目の前にいる女は自分が半生を捧げて磨き上げた|業(わざ)を、よりにもよって凡俗と評したのだ。
「……許せない。」
ありふれている?
平凡?
どこにでもいる凡庸なモノだと…?
ああ、よく言った。ならばその傲岸な物言いを覆してやろう、とオルガフィヨスが禍々しい気配を
彼女は懐に手を伸ばすと拳大のガラス瓶を取り出す。
中には液体が入っており、それが放つ魔的な気配に真理の全身が総毛立つ。
真理には瓶の中に入っているもの詳細は判らないが、彼女の直感が警報を鳴らし続ける。
あれを使われては形勢が向こうに傾きかねない。使用される前に阻止するのだと。
本能に従って全速力でオルガフィヨスへと肉薄するが、
「騎士の私に
オルガフィヨスは小瓶の蓋を開けると呷るようにして瓶の中身を一気に飲み干した。
内心で舌打ちしながら投薬を阻止することが出来なかった事実を飲み下す。
ならばせめて手痛い一撃をいれて相手の戦力を削ごうと試み、一刀を振るうが……その一撃は甲高い金属音と共に跳ね除けられる。
オルガフィヨスの気配が変わる。
彼女の奥底にあった性質が浮上し、彼女の性質を
それに伴って、彼女だけでなく彼女を取り巻く周囲の空気がひしひしと軋みながら変化していく。
彼女がこれまで蓄積させてきた凶念、怨念、負情、が音を立てながら彼女の
それはゆっくりと蝕むように、侵すように、オルガフィヨスの精神を融かしていく。
黒く、暗く、深く、深く――――――。
再誕の産声を上げて、いざや今の自分を
目の前の障害を押し除ける為に――――――――――――!!!
永遠にも似た一瞬の果てに、彼女は変貌を遂げた。
「アァァァァァァッ!!!」
大砲にも似た巨大な咆哮。
彼女の咆哮には人間性というものが希薄で、津波の如き威勢だった。
雄雄しく、獣の性を多分に含んだ声の砲弾。
相対した者に畏怖を抱かせ、怯ませることで士気を削いで、動きを鈍らせる。
そんな威容を、今のオルガフィヨスは確かに備えていた。
最も…その気配は英雄に相対する化け物のそれによく似ているのが皮肉な話だ。
然り。今の彼女を、騎士と呼ぶにはあまりにも無理があるだろう。
凶悪な気配を垂れ流し、それを隠そうともせず殺意に満ちた眼差しを向ける今のオルガフィヨスを形容するのに最も適した言葉があるとすれば、それはきっと――――――幽鬼、もしくは悪鬼だ。
地の底で輝けるモノを、光を享受するものを
冥府魔道の徒輩。魔の薫陶を受けたものだけが辿り着く無明の境地。
騎士と名乗ったオルガフィヨスという女はこの瞬間にきっと自分の核と呼べる領域に泥を塗ったのだろう。
「……堕ちたな。」
簡潔に、率直な感想を漏らす。
本来、騎士を名乗った彼女からすれば獣に身を堕とすことは歓迎すべき事態ではないのだろう。
ニタリ、とオルガフィヨスが口元を三日月に歪め、粘つくような微笑を浮かべる。
同時、彼女の姿が自身の眼前に飛躍してきた。
「ッ!」
突然の接近。
捉え難い速度で近づいてきたオルガフィヨスの突撃に怯みそうになる。
どのような成分を配合していたものか、詳細は分からないが……あの薬物にはどうやら医療薬としての効能だけでなくドーピング薬としての側面もあったようだ。
「フゥ…ッ…フゥッ……!!」
オルガフィヨスの体は時折ビクン!と激しく痙攣していて、まともに息を吸うのも難しいのか呼吸が乱雑だった。
異常に血走った眼は
「アアアアアアアアッ!!!!」
戦意の咆哮とも、悲鳴ともとれない絶叫を上げて、オルガフィヨスは真理に襲いかかる。
強大さを増した撃剣。
何度も何度も相手の存在、その中核を壊そうとする殺意に塗れた攻撃。
その一つ一つを、私は正面から噛み締めるように受け止めていった。
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