3-3
ビッグサンダー・ヴォルケイノから帰ってきた僕は少し
予想以上に速度が速かった上に乱高下も激しく、コースターの回転回数が二桁に迫ろうというのはもうギャグの類だと思いたかった…。
この遊園地に訪れてから約十年の時間が流れていたわけだが、まさかここまで様変わりしているとは思わなかった。
「回転数もそうだけど…あのコースター、Gがかかっていなかったかい? 加速中、体に妙な圧迫感があったような気がするんだけど…」
「んん~~~たーのしー! ね、真也。もう一回乗りにいかない?」
「……すぐに行くのはちょっと勘弁してほしいかな」
彼女の男子顔負けのバイタリティの高さには素直に感心する。
中学生の頃、先生から高校はスポーツ推薦でも入学できると言われていたなのは。
体力もそうだが精神面でも彼女は本当に快活だ。
たとえ体力が限界を迎えても快活な精神が肉体の活動停止を促す脳内信号を無視してしまえる。それを所以に昔から彼女は無茶ばかりしてきた。
「あんまり無茶苦茶はしないでくれよ? 同じ
「そ、それは早く忘れなさいよ! 恥ずかしいでしょ…!」
菜ノ花は以前、ウチの家族と菩提家と一緒にこの遊園地に来た時、遊びに興じ過ぎるて疲労困憊となり、最後には嘔吐したのだ。
急に吐き出したかと思えば次の瞬間には無邪気に楽しそうな笑顔を浮かべて別のアトラクションに行こうとせっつくものだから彼女の家族と半ば呆れながら大笑いしたものだ。
「後にも先にも君だけだと思うよ? 嘔吐するまで遊び倒した女の子なんて…」
「だって、あの時が初めてだったんだもの。うちの家族と真也の家族で大きな計画立ててお出かけするの。そりゃあ吐くまで遊ぶ位はするでしょ、楽し過ぎるあまり?」
「少なくとも妹の麗華は吐かなかったよ」
「うぐ…それは…まぁ…確かに…」
やっぱり彼女、どこか盛大にネジが飛んでいるな。
きっとお母さんのお腹の中に、その手の感情を制御するパーツを落としてきたんだろう。
これはこの先、苦労する羽目になりそうだ…。
まぁ…それはそれで楽しいだろうから、別に良いか?
「僕としてはジェットコースターも良いけど別のアトラクションも行ってみたいな。あのアストロシューティングなんてどうだい? たしかあれも有名なヤツだった筈だけど……」
「行くぅ!!」
「即決にしても早すぎないかい!?」
「あれってたしか、乗ったら特典で遊園地内のショップで売ってるバズ・ライトハワーの光線銃を割引してくれるチケットをもらえるのよ!」
光線銃がよほど彼女のお気に入りなのか、猛牛みたいに鼻息を荒げるなのは。
「決め台詞は『無限の彼方へ! ほな行くでぇ!』スペースレスキューの一員として、これを逃す手はないわ…絶対に
(いま物騒な文字が出たような気がするのは僕の錯覚だったということにしておこう…)
なのはの女子力は深く深く姿を隠し、代わりに男子力が前面に
そこらの男の子よりもよっぽど男の子してるんだよなぁ…。
そんな彼女の速攻即決で僕達は次のアトラクションへと向かうこととなった。
◇
快活な賑わいを見せる、夢の国。
誰しもが充足感に満ちた笑顔を浮かべて次はどのアトラクションを楽しもうかと浮足立つ中で、ただ一人だけ
天元真理―――。
すれ違った十人の内、十人が振り返る程の美しい容姿を持つ彼女は当然と言うべきか、衆目の視線を奪っていく。
しかし人々は彼女の姿を視界に収めた瞬間、何故か理由もなく別の物へと興味を引かれてしまい、彼女の美貌を流し見るだけで足早に去って行く…。
結果として人々はすぐに在りえない美貌を持つ金髪の麗人の事をすっかり忘れてしまうのであった。
少女が纏う
古くは忍者などが使ったとされる気配遮断の
否応なしに注目を集めざる負えない絢爛な容姿を持つ真理にとって、仕事をする際にはこの技術は非常にありがたかった。
天元家が担う
(――――――殺し、なのよね)
怪物、化物をはじめとした人外との戦闘を主とするものだった。
古い時代においては退魔と呼ばれ、人間社会に著しく悪影響を及ぼすモノを秘密裏に処断していく———彼女の家はいわば化物を専門とした戦闘集団だった。
もっとも、天元家と相対したモノは極々一部の例外を除いて全て殺害されているのだから彼女の物騒な所感もあながち間違ってはいないのだが……。
人々に喜びと楽しみを提供する娯楽施設。そんな賑やかな場所にそぐわない陰険な由縁で足を運んだ真理。
神を鎮め、魔を祓い、魍魎を討つ
今宵、この場所で化物退治が行われる——————。
◇
天元家の起源は古く、千年以上は遡るものだそうで真理を引き取った先代当主の話によれば天元家を興す際には時の天皇家も関わっていたのだそうな。
日本国内においては退魔三家。国際社会においては十二名家と呼ばれる名のある御家の一つとして、その名を世界に轟かせている。
そんな天元家に所属する真理は次期当主の座を託されると周囲から言われていた。
外の国から来たとはいえど、若年ながらも多くの怪異を屠り続けてきた彼女を名実共に当主として認める事に否を唱える者はここ数年で随分と減ったものだった。
とはいえ彼女自身はその当主としての座にはさしたる興味もなく、ありきたりな人生設計を組み立てて、それを謳歌したいと願っていたりするのだが…。
(迷惑な話…そんな世間の事情、私にとっては騒々しくて敵わないわ…)
そんな真理の思惑とは無関係に、彼女を取り巻く環境は次々と厄介事を持ち掛けてくる。
時折、真理は自分のもとに邪悪で下卑た笑みを浮かべた悪魔が災い事を喜び勇んで売りつけにやってくきてるのではないかと…そんな愚痴を吐きたくなっていた。
古今東西、人間社会の均衡を保つための
警察、軍隊、司法、その他様々な法的機関が人類の歴史には乱立している。
天元の家は日本国内だけでなく、時には国際社会においても裏表を問わず、大々的に活動する大家だ。
政界の重鎮や警察のトップから依頼を受けて仕事をする事など日常茶飯事。
昔は日本を支える大黒柱の一つとして。
そして今は世界に影響を及ぼすに家系としても世間から注目を集めている。
いわく、天元の家とは乱りに関わってはならない———。
その先には世界からの沙汰が待ち受けるのみと
(『天元に祝福されれば生涯安泰は必然なれど、呪詛を抱かせば生涯窮追もまた必然なり』か。誰が言ったか知らないけれど大仰な話ね)
世界を動かす主な権利が民草の一人一人に与えられる民主主義。
その主義主張が世界に蔓延している昨今において、大きな力を持つ御家が世の在り方に劇的な変化を
時代の流れに寄り添うようにして、そういう風習も消えていってくれるなら、私も家の相続やら跡取りの話なんかで思い煩う事もないというのに…。
しかしそれでも、そういった大きな家が完全に世界から消え去る事は無く。ある程度、必要とされているという現実がある以上、愚痴を吐いてもしょうがない。
私はただ、家から依頼された仕事を粛々とこなすだけだ。
それこそが面倒事から手早く解放されるために出来る、たった一つの冴えたやり方なのだから。
そうして、私はこの有名な娯楽施設へとやって来たわけだが…。
(でも、本当にここで起きるのかしら?)
時期も合わなければ場所の趣も合っていない。
ここは間違いなく西洋の文化が敷き詰められた領域。
そんな所で日の本に
百の
出遭う者、皆全て死に絶える
即ち——————―――
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