第40話 力の解放
スパーダが気が付き、振り返った時には目の前に剣が迫っていた。既に何とかできる
なぜ、だとかどうしてだとかを考える暇ももちろんなかった。
今スパーダにできる事はただ目の前に迫る死を受け入れる事だった。
(馬鹿だな、私は。油断するとは・・・)
目の前に迫る死を前にスパーダは後悔した。
未知の力を操る敵を一度殺したからといって油断してしまった事を嘆いた。
それと同時に悟の事を思っていた。
任せろと豪語したもののこの結果だ。スパーダはその人生で初めて情けなく思った。
(悟・・・すまん)
村での暮らしはとても気に入っていた。親切な魔物や気の合う魔物達によって退屈はしなかった。
心残りは死んでしまった彼らの仇を取れない事と、これからこの男と戦うであろう悟の事だ。
そんな、自身のいない未来を考える時点で既にスパーダは生きる事を諦めたのだろう。
そうしてスパーダは意識を手放した。
スパーダがイツキの首を刎ねた時、まだ彼はかろうじて生きていた。
『悪い、回復とリジェネ貰えるか?あと保険で
スパーダに分断される前にメグミに掛けてもらった保険が効いたのだ。
―――《もう一度だけの人生/ワン・モア・ライフ》
万が一の時の為に掛けてもらっていた
それは致命的な傷を負った時に発動する。その効果は一度だけいかなる傷を負っても正常な状態に回復するというものだ。
回復魔法として最上位に位置する魔法であるため習得難易度や必要魔力量などは非常に高いが、その代償に見合う破格の効果だ。
(保険を掛けて正解だった・・・ッ!)
自分を殺したと思い込み、立ち去ろうとしているスパーダを見ながら安堵した。
刎ねられた首は後もなく繋がり、傷一つない状態になっている。
(殺したと思って油断しきってやがる)
イツキは真聖剣を再び握りしめるとスパーダに飛び掛かる。
「言っただろ。この勝負はお前の負けだ!」
声に反応してスパーダが振り返り、驚きの反応を見せた。
「獲った」とイツキは思った。この状況を何とか出来る要素は相手にはない。
勝つのはやはり自分だ。と勝利を確信した。
事実スパーダに防ぐ手段はなく、死を受け入れる他なく。スパーダは意識を手放した。
「・・・は?」
だがスパーダが意識を手放したのは剣が当たって絶命したからではなかった。
剣が当たる直前に意識を手放していたのだ。
「ふう」
「なんだ、それ・・・っ!」
そしてスパーダの代わりに"何者か"がその体を動かしていた。
「全く。ふと目覚めれば、攻撃しおって・・・敵じゃな?」
「っ!?」
スパーダから発せられた言葉は、喋り方もそうだが声が全く違っていた。
年老いた老人の様な声だ。多少は前の声の面影があるが、とても声を作っただけとは思えない。
「どうした?これで終いか?」
それに先ほどの闘いでは使われなかった力を使っていた。
今イツキの剣を受け止めているのはスパーダの左手。先ほど放っていた殺気による斬撃と同じ色をしたものがスパーダの存在しない
斬撃の時とは違い、その腕は聖剣の力で相殺されていない。さも当たり前だと言わんばかりに受け止めていた。
「っ!?くっ、このっっ!!」
受け止められている聖剣をイツキが動かそうとするがビクともしなかった。
まるでそこに固定されているかのようにピクリとも動かない。
「ん?ああ、すまんすまん。ほれ」
その事に気が付いていなかったのか、"それ"は軽い謝罪すると剣を手放して見せた。
剣が手放された事でイツキはまず距離を取った。明らかに様子の変わった相手を警戒しての行動だ。
「む?この気配は・・・そうか。なら遊んでいる時間はないのォ」
"それ"は独り言を言うと自身の刀を左腕で握り、イツキに向かって歩を進めた。
「くっ!・・・なに!?」
向かってくる敵をわざわざ待つバカはいない。イツキがゆっくりとこちらに向かってくる"それ"に斬撃を放ち攻撃しようとした時だった。
イツキの体が硬直したのだ。
全身がこわばった様に硬くなり、自由に体を動かす事が叶わなくなっていた。
(なんだ・・・これっ!?)
不可解な現象に四苦八苦していると既に目の前にまで"それ"は来ていた。
"それ"はイツキを目掛けて刀を上から振り下ろす。
しかしその攻撃は先ほどの戦いの時のものと比べると非常に遅く、防ぐのは難しくはない。
だが今のイツキは原因不明の現象により身動きが自由に取れない。従ってこのまま何もできなければこの異様に遅い攻撃でも致命的だ。
「うおおおぉぉぉぉぉ!」
ゆっくり迫る攻撃を防ぐため、イツキは雄たけびを上げて己の力を振り絞る。
すると何とかイツキの体が動き、攻撃を剣で受け止める事に成功した。
「ほう。よく動けたのォ。だが―――」
キィィィィィィイイイインという甲高い音が響いた。
金属と金属が高速で擦れている時の様な音だ。元の世界では工事現場などで聞いた事もある様な音だ。
そしてその音の発生元は剣だった。
「どういう・・・ことだよッ!?」
イツキが目を向けるとそこには"それ"の刀が火花を散らし、聖剣アルタルインを切断しつつ進んでいる光景があった。
―――"振動剣"
高周波ブレードとも言われるそれは本来、高周波振動装置を取り付けられた武器の事を示す。刀身を超高速で振動させ、その振動によって物体を切削する物だ。その技術は医療用のメスなどに使われている事もある。
簡単に言うと今起こっている現象と同じだ。
"それ"は特別な器具を使用せず、己の力のみで振動剣の原理を再現したのだ。
(くそっ!なんだこれ!!聖剣が切られている!そんな事が・・・っ!)
聖剣の差材は"対魔石"と呼ばれる特別な石だ。
聖なる力を常に放出し続ける特徴を持つその石は破壊不能な素材としても有名だ。
どんな力でも、どんな魔法でも破壊する事は不可能で特別な方法のみでしか加工が出来ない物だ。
以前、初めてスキルを試した時にイツキは鍛冶屋に聖剣を見てもらった事があった。聖剣が対魔石で出来ている事を知ったのはその時だ。
だがそんな聖剣が今、切られている。まるで鉄パイプを切断する様に。
(このままじゃ・・・っ)
このまま自分もろとも聖剣はぶった切られる。そんな未来を悟った。
(畜生、なんだこの"パワー"は!!体が軋む!身動き一つできねぇ!!)
そしてその未来を変える事はできなさそうだ。
"それ"の力は凄まじく呼吸するのもままならない。
ほんの少しでも気を抜けば叩き切られ、このままでも聖剣ごと切られる。そんな絶望的な状況だった。
・・・イツキがその攻撃を受け止めた時からもう詰んでいた。
いや、もう少し前から・・・スパーダの中に眠っていた者が目覚めた時から詰んでいたのだ。
「さらばだ、
「くっそぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!!!」
結局、イツキはどうすることも出来ず。
聖剣ごと切られて絶命したのであった。
「メグミ、大丈夫だった?」
「ええ、あいつの攻撃は《遅くする時間の障壁/スロウ・タイム・パッセージ》を使って避けたから特に
雷属性の最上位魔法を動きの止まったカケルに撃ったあとアユミは心配そうにメグミに駆け寄った。
「あいつ、死んだのかな?」
「直撃したのなら確実に死んでいるでしょうね。心配しなくていいわよ。あの魔法は実際の雷と同じ速度だから避けれる事はないと思うわよ」
「・・・う~ん?」
今2人はカケルがいた位置から少し離れている所でその場所を見ながら話していた。
《交差する2つの落雷/ダブル・ライトニング・ストライク》は簡単に言うと2つの
その魔法により作られた雷は実際の雷と同等かこれ以上の力を持つ。またその速度もメグミが言った通り実際の速度とほぼ同じで、約秒速200kmの速さで
この魔法を発動してから回避するのは、人間には不可能。
だから、こそカケルがこの魔法を回避できてるハズはない。しかしアユミは何か気になる事があるのか、頭を悩ませている。
「何か気になる事でもあるの?」
「う~ん。私もよく見えてなかったからさ、わからないケド。あいつさ、メグミが魔法を撃つ前に何かしてなかった?」
「何かって?」
「それは、わからないケド。なんかこう・・・手が増えたように見えたような、見えてないような・・・」
アユミはよく見えなかった光景を何とか説明しようとして身振り手振りでメグミに伝えようとする。
しかし彼女が思い出す光景は本人にも不可解なため、上手く説明できることはなかった。
「手が増えるって・・・」
「いや、見間違いだと思うケドさ」
「・・・多分、アユミの見間違いよ」
「そう、だよね」
「さて、イツキと合流しましょう。あっちももう終わらせてると思うから、さっきの落雷の音を聞いて直ぐにこっちにくると思うわ」
そういったメグミは、ドライグが休んでいる所に向かって歩き出した。
アユミは先程の事が気になり少し足を止めていたが、自分の気のせいだと思うようにして距離が離れてしまったメグミの元に小走で向かう。
2人はいつも通りに仕事が終わり、自宅に帰る時の様な軽い足取りで歩いていった。
「ッ!?」
だが、突然メグミの足が急に止まり驚いた様にバッと後ろを振り向いた。
「ど、どうしたの!?」
しかし、メグミの後ろにいるのはアユミただ一人。
それ以外には誰も、何も、存在しない。
「い、いえ。気のせいだったわ」
「えぇ!?何が?」
何かを感じ取ったメグミは、自分の勘違い、気のせいだと思うようにして再び歩きだす。
アユミはメグミの謎の言動を不思議に思いながらも辺りを見渡すが、アユミが思った通りに誰も、何もない。
アユミはまたも小走で先に行ったメグミを追いかける。
「なに!?」
すると、 メグミが驚きの声を上げて辺りを
突然の行動にアユミは疑問を浮かべるが、そのメグミの真剣な表情を見て自分も武器を取り出しメグミと背中合わせで辺りを見渡した。
「どうしたの?メグミ!」
「わからないわ!だけど、鋭い気配を感じたのよ。なにか居るわ!」
アユミにはその気配を全く感じなかったため、いまいちその気配がどういうものだったのかは分かっていないが互いに死角をカバーした上で警戒する。しかしどちらもメグミが言う気配の原因を発見できない。
「ッ!?また!!」
再び、メグミだけはその気配を感じる。だがその気配を感じた方向を向いても、そこには何もない。
彼女たちは自分たちが知らない、未知の攻撃に2人は警戒心を高める。
「また!・・・ッ!アユミ!あそこ!!」
三回目に襲った気配の方向をメグミが向くと。
そこには現れていた。
「何、あれ・・・!?」
そこには有ったのは、紫掛かった黒色をした影の様な人の形をした何かだった。
その影は
その影は普通の影とは違い平面でもなく、立体的で人間の様に立っていた。
「わからないわ。ただあいつから、さっきから感じていた鋭い気配ようなものを感じるわ」
その影はメグミにだけ鋭い気配を放っていた。
2人は得体の知れない影に向き合い様子を伺う。
だが反応はない。その影が魔物なのか・・・そもそも生き物なのかどうかも分からない。
しびれをきらしたメグミは魔法を一つ放つ事にした。
「《刃付きの鉄/アイアンブレード・ショット》」
鉄で出来た輪に、歯車の様な無数の刃がついている物が13個発射された。
その発射された鉄の輪は高速回転しながら、標的の不気味な人型に向かっていく。
しかし、メグミが魔法を放った瞬間。
2人の後ろの地面から、数にして3つのものが飛び出した。
「え?」
突然、背後の地面から飛び出したもの。
2人は目の前の不気味な影に集中していたため、反応がだいぶ遅れてしまう。
まず一つ目。最初に飛び出してきたもの。
それは不気味な影と同じ色をした斬撃だった。槍の様にも見える形状をしたものがメグミに襲い掛かる。突然の事で反応できていないメグミはそれに直撃してしまった。
しかしメグミにはダメージはない。先程カケルと戦った時、念のためアユミに掛けて貰っていた
次に飛び出してきた2つ目のもの。
それは刀。カケルが持っていた刀だった。その刀がメグミの顔を貫こうと、迫ってくる。
だが一度目の攻撃を魔法で防いだ事で余裕が生まれ、その刀には何とか反応するできた。メグミは自身の持っている杖で飛んで来ている刀をギリギリの状態で
そして、3つ目に飛び出してきたもの。
それは先ほど殺したハズのカケル自身だった。
「なっ・・・!?」
刀を杖で弾く事に成功していたメグミは驚きの声をあげる。
飛び出してきたカケルは左手を握り締め、拳でメグミに殴り掛かったのだ。メグミはとっさに防御魔法を唱えようとするが、間に合わない。
防御魔法は発動し、杖で刀を弾いた。二度の攻撃の際に三つ目の攻撃を防ぐ手段はすべて使わされていた。
メグミの顔面にカケルの
「メグミ!!」
ぶん殴られたメグミは
女性のため体重が軽いのか、かなりの速度で吹っ飛んでいく。だが、吹っ飛んだ距離は短い。吹っ飛んだ先にあった木に衝突して、メグミは停止したからだ。
「やあぁぁぁぁ!!!」
アユミはとっさに持っていたレイピアでカケルを攻撃した。
しかし、その攻撃は"黒い剣"に止められる。
「うそっ!?」
それはカケルの失った右腕から
その剣はカケルを突き殺そうとしていたレイピアに対して同じく突き刺すように出された。
剣とレイピアの
カケルは剣先を合わせた状態からレイピアを上に弾く。そして足を軽く振りかぶると、その足の先から具現化した殺気で剣を生成。足から剣が生えているようになった状態で、アユミに向かって少し位置の高い足払をするように振った。
するとアユミの両足は膝上の中間の部分で切断された。
「あぁぁああああああああ!!!!!」
足を無くし、倒れる彼女は
カケルは右手から生えるように生成されていた殺気の剣を、腕の様な形状に変えていく。
その殺気で出来た腕は人間の腕の長さを軽く越えて伸びていき、先ほどメグミの杖に弾かれて地面に転がっている自分の愛刀を掴む。そして刀を掴んだままの殺気の腕は段々と短くなっていき、普通の腕の長さぐらいになった。
「・・・」
あまりの痛みで顔から涙や鼻水が吹き出るように、体外に放出している状態のアユミ。
カケルは特に喋る事なく、無言でその状態を確認すると生成された右腕で握った刀でアユミの両腕を切断した。
「~~~~~~~~~ッッッ!!!!」
アユミは先ほどと比べ物にならない絶叫をあげる。
カケルはその状態でアユミを放置し、殴り飛ばしたメグミの方に向かって歩いて行った。
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