第43話 戻っていく日常



「とりあえずはこれで完成だな」


 先日の戦いで亡くなった魔物達のはかが出来上がった。所々破壊されている村の一角にかこい付きの墓地ぼちが作られた。

 村の修復作業そっちのけにして生き残った魔物が総動員したことで完成にそんなに時間は掛からなかった。

 だがこれはあくまで簡易的な物だ。村の修復が落ち着いたら手直しをしもう少し立派なものにするつもりだ。


 カケルを含める魔物達は墓に向かって立つ。

 今、彼らは死んでしまった仲間達に向けて心の内で語ったり、自分の気持ちを整理したりしている。

 いわゆる黙祷もくとうをしているのだ。

 急な出来事で戦死していった仲間達に生き残った者達がそれぞれの気持ち、思いを心の中で告げた。


「・・・」


 黙祷を終え、魔物達は墓から立ち去る。黙祷を終えた彼らの表情は数分前よりは良くなっていた。

 これから破壊された村の修復作業を行う予定である。

 魔物の数は大分減ってしまったためカケルはそんなに焦って修復作業をしなくてもいいと言っていたが、彼らなりの考えがあるのか直ぐにでも取り掛かりたい様子だった。


 そんな中カケルは2つの墓の前に残っていた。その墓はザイルとダニーのものだ。

 カケルが名付けた2人は先の戦いで運悪く亡くなってしまった。名付け親と言うこともあり特別視するわけではないが、カケルは心の底から悲しんだ。

 涙こそ流してはない。だがその心はしっかりと泣いていた。


「悪かった・・・いままでありがとう」


 カケルは静かにその墓に一輪ずつ花を添えると、墓を後にした。





「これからどうするつもりだ?」


 村の者が総出で修復作業をしている中、スパーダがカケルに話しかけた。


「今日の事があったんだ。しばらくの間、ここにとどまる予定だ」


「そうか」


「その間に、戦力を増強しようと思っている 」


「ほう。中々面白そうな話だ」


「そうか?前から魔物達に俺達の力を学んでもらう事ができないか、と思っていたんだが優先度が低いと思い後回しにしていた。だが今回の事でそんな考えは吹き飛んだよ。まぁみんなの意見を聞いて話し合ってからになるけどな」


「ふむ、なるほど。確かに、この力を他の者が使えるようになれば私達の戦力は格段に上がるだろうな」


 そう言いながらスパーダは手に具現化した殺気を少しだけ出して、すぐにそれをにぎるようにして引っ込めた。


「それに今回の事で俺もやりたい事が出来た。俺はまだまだ未熟だった。師匠じじいからは免許皆伝なんて一銭いっせんにもならないものをもらったがこの通り、利き腕を無くす始末・・・。もし、今日の事を師匠じじいが知ったら5時間ぐらい説教されそうだ」


「・・・そうか」


「あと知識も必要だ。俺はこの世界特有の力を知らなさすぎる」


「それは私の課題でもあるな」


 二人は魔法の知識が全くない。魔法は魔物から人間まで、この世界にいる全ての種族が使う事の出来る力だ。

 今後もそんな魔法と対峙する場面が必ず来る。その時に魔法の知識が有ると無いでは天と地ほどの差があるだろう。

 それに魔物ごとの力もそうだ。魔物と暮らしている身でありながら、カケルは魔物の事も知らなさすぎる。

 生活する上でも、共に戦う上でも彼らの力を把握するのはほぼ必須といっても良いだろう。


「まぁ少なくとも俺達が"この力"を完全に使いこなせるよつになるだけでも、大分違うだろう」


「そうだな・・・」


 そう言いながら今度はカケルの方がスパーダに具現化した殺気で生成した右腕を見せるように動かした。

 そんなカケルの様子をスパーダはじっと見つめていた。


「さて、作業に戻るぞ」


「わかった」


 2人は話を一旦終えると、運搬作業の続きを行おうとする。

 スパーダがカケルを呼び止めた。


「悟」


「ん?なんだ?」


 スパーダはカケルを呼び止めたが、一向にその要件を話そうとはしない。何か話したい事があるのは明白なのだが、スパーダからそれはなかなか出て来なかった。異様な間に気まずさを覚えたカケルがなんどか質問を繰り返すが、スパーダは声を出さなかった。

 しばらくして、やっとスパーダが話し始めた。


「私と戦ってほしい」


 溜めに溜めて出て来た言葉がそんな事なのか、と思うカケル。


「お前・・・」


 だがすぐにスパーダの気持ちを悟った。

 恐らくスパーダは多くの魔物が死んでしまった事に負い目を感じている。

 自分にもっと力があれば被害はもっと少なかったハズだ。と自分の力が足りなかった事を悔やんでいる。

 スパーダの言葉はそんな思いの込もった言葉だった。


「ああ、良いぞ。戦ろう」


「おお、ありがたい」


「だが修復作業が終わってからだぞ?」


「ああ、もちろんわかっている。さっさと終わらせよう」


 そう言ったスパーダは大量の木材を持ってカケルより先に走って行った。

 先ほどより明らかに張り切っている様子のスパーダを見てカケルは思わず「分かりやすい奴だな」とつぶやき、一人笑ってしまった。





「む、思っていたより難しいものだな」


「そうか?」


 村の主要部分の修復作業を終え、村の風景はある程度整った。

 細かい部分での修復作業は残っているがそれらは急いでいる訳ではないのでゆっくり進めていくつもりだ。

 とりあえずこれでいつも通りの日常に戻れる。しかし魔物が減った分、人手が足りない箇所が出てきてしまっている。人員の配置などを調整をしているマサムネがあちこちを回り少し大変そうであった。

 そんな中、カケルはスパーダの訓練に付き合っていた。

 スパーダがカケルの使っていた具現化した殺気で作った腕を「便利そうだな」と言った事でその方法を教わる事になったのだが、意外と苦戦していた。

 

「悟はどうやっているのだ?」


「そう聞かれると難しいなぁ。感覚で、としか言えないんだが・・・。んー、そうだな。一度に腕を丸ごと生成するのはやめて、部分的に少しずつ生成していくのはどうだ?」


「部分的だと?」


 同じ具現化した殺気の使い手なのだが、スパーダは細かい動作が苦手なようだ。

 色々と試行錯誤して何度か試しているがなかなか上手くいかない。

 カケルにアドバイスを求めたスパーダだったが、カケルは上手く説明できないでいた。しかししばらくすると自分の感覚を説明できるまでの言語化に成功した。

 彼が言うには、まず自分の正常な腕をマネするように、失っている方の腕の上腕骨の途中から肘の間接かんせつまでを作る。

 次にそこから前腕骨と言われる、2種類の骨を手首の間接まで作る。そして最後に手の部分を作るようにしていくと、たぶん上手く行くらしい。


「だけど俺の場合は骨だけの体ではないからなぁ。上手くいくかはわからん」


「ふむ。とりあえずやってみよう」


 スパーダはカケルの説明通りに自身の左腕を作ってみる。

 部分部分を順番にゆっくり且つ丁寧に形成してく。

 すると、やっと具現化した殺気で腕を生成することに成功した。


「おお、出来たぞ」


「おめでとさん」


 だがいざ動かしてみるとぎこちないどころか、ロボットのような大雑把おおざっぱにしか動かせない。

 元々具現化する殺気で武器などの形成は出来ていたが、どうにもスパーダは柔軟性がある物を形成するのが苦手のらしい。

 普通の腕のように動かせるようになる少し練習が必要そうだ。


「だが、これで私もやりたい事ができた。礼を言う」


「気にすんな」


 そういったカケルはスパーダから距離を取り、刀を構えた。

 スパーダの方も具現化した殺気で作った腕を維持したまま刀を抜き、構える


「まずはこの腕を維持した状態でどこまで戦えるかを確認したい」


「ああ、いつでもいいぞ」


 まずは戦いの中で殺気の腕を維持できるかのテストだ。細かい事に注意を向けながら戦うのはスパーダが苦手とする事である為、それの克服を目的とした訓練をする。

 そのためにもまずは現段階で何処まで出来るかを見なければいけないのだ。

 さらにカケルには言ってないが、スパーダは自身の中に眠る"何か"がカケルと戦う事で開花するのではないかと考えていた。


(あの戦いからずっと私の中に奇妙な感覚がある・・・何かは分からないが、なんとなく悟と戦えばそれが何なのかが分かる気がするのだ)


 何かは分からないが自分の中に何かがあり、それが自身を強くしてくれるというのが感じられる。

 気のせいかもしれないがスパーダはひとまず自分の感覚に任せてみる事にした。


「いくぞ!」


「来い!」


 こうして二人の特訓が始まった。

 激しい力のぶつかり合い。お互いに一瞬たりとも手を抜かず、常に全力をぶつける。

 


 そんな激しい特訓の最中。

 スパーダの中に潜む"何か"は笑っていた。


『なんとなく今の状況は分かった。なかなか面白い事になっとるのぉ』


 "それ"は再び眠った訳ではなく、あの時に一度目覚めてからずっと覚醒していた。


『だがワシの目的は変わらん。・・・待っておれ、必ず復讐してやるぞ!』


 "それ"の最終目的は復讐。その為に彼はアンデッドになったのだ。

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