第42話 終わりは始まりに

 

 カケルはアユミから情報を聞き出していた。

 得られた情報を大まかに分けると、元の世界の事、こちらの世界の事、スキル、魔法になる。

 特にスキルと魔法については出来るだけ詳しく情報を聞き出した。


「こ、これで全部で、す」


 一通り話終わったアユミは恐る恐るカケルの様子を伺う。注文通りの事はしっかり話したのだから自分は助かるのだろう?という事を思っているのが顔に出ている。

 だが、カケルは特に何も言わなかった。


 カケルはこの女をどうするかを考えていた。

 彼女からはとても重要な情報が得られた。だが、この女の情報をバカ正直に信じるなんて事はしない。

 仮にこの女が吐いた情報に嘘があってもカケルには確認のしようがないからだ。リックが戻ってくれば魔法に関する事は確認できるが、スキルについては恐らく知らない力だろう。

 それならこの彼女を生かしておきスキルに関する情報が確かな物か確認するために色々なに協力してもらうのもいいかも知れない。


 そこまで考えた所で思考に変化が訪れた。それはとても甘味なものであった。

 そういえばそもそも自分は何故、彼女を殺そうとしているのだろうか。

 あいつらを殺されたから?いや、そんなで俺がここまで怒るか?そもそも俺は彼女の事を―――


「ッッッ!!?」


 カケルは思考を急いで止め、自分の足に刀を突き刺した。

 痛みが脳内を駆けめぐり、先ほどまで頭の中をおおっていた甘ったるい"何か"を振りほどく。

 自分でも制御できなかった感情と、ぐちゃぐちゃになっている頭の中が徐々に元の形に戻っていく。


「ハァッ・・・・ハァッ・・・ハァッ・・・!」


 突然、自分の足に刀を刺すという行動をしたカケルにアユミは疑問を浮かべるのみ。

 カケルの呼吸が荒くなる。額には大粒おおつぶの汗がにじみ出ており、体が少し震えている。

 その状態の彼の目に映っていたのは恐怖だった。


(こいつ・・・ッ!何をした!俺に何をした!!)


 カケルは思わず、アユミをにらみ付ける。

 カケルの鋭い視線に彼女は「ひぃっ」と短い悲鳴を上げた。


(くそッ!何をされたかわからない。突然・・・いや、気がついたら何かされていた。そしてあれは、あの感情は・・・エリカと同じ・・・)


 段々と正常に戻っていく思考で、カケルは先程の"何か"について考える。

 魔法、ではない。魔法は言葉に出さないと使えないハズだ。それはもう1人の女でも実験済みだ。現に喉を斬られ、声を封じたあの女は魔法を使えなかった。

 だとすると、残りは一つ。スキルだ。

 こいつが自分で言っていたスキルは確か"状態異常を付けるスキル"と"防御魔法の強化するスキル"の二つだ。だが俺はこいつに触れてないし、魔法も発動していない。ならばスキルの話で俺に嘘をついたのだろう。

 だがスキルという力はこいつら自信でもわかってない事が多い代物だって話だ。もしかするとこいつ自身も知らないスキルがあるという可能性もあるか。

 それに魔法、スキルとは別の"何か"の力という可能性も十分にある。


(だが、どっちにしろこの女は・・・俺に何かした、という事にはかわりない)


 カケルは自分の足から刀を抜くと、静にさやに納めた。

 そして、一閃。

 目に見えない速度で刀を引き抜き、居合を放った。


「え?」


 アユミがとぼけたような声をあげた。彼女はいつの間にか宙を飛んでおりその目には、首から上が無くなっている自分の体が映っていた。

 ドサッ、と音がする。それは何が起きたか理解できなかったのたろう。落ちてきたそれは疑問を持った表情のまま固まっていた。


「ふむ。終わったか」


 背後からスパーダの声が聞こえる。


「・・・生きていた奴はいたか?」


「いや・・・いない。倒れていた者たちは全て死体だった」


「・・・そうか」


 カケルは死亡した彼女から話を聞く前に、スパーダに生存者がいないか確認に向かわせていた。

 結果はゼロ。3人と1匹による襲撃で多くの魔物が死亡してしまったようだ。


「俺はジャック達に終わった事を伝える。一応あいつの話では、この村を見つけたのはたまたまだって話だ。あいつの話が本当なら、もう敵は居ないだろう。だが、嘘の可能性もある。スパーダは周囲を警戒してくれ」


「承知した」


 カケルは言い終わると、ジャックの枝を地面に突き刺した。いつも通りに枝が急成長する。

 ジャック本体は弱っていたが、この枝から生まれた小さいジャックは元気そうにみえた。


「魔人サマ・・・」


「ジャック・・・終わったぞ」


「オ疲レ様デシタ。デハ、我々ハソチラニ戻ッテモ?」


「ああ、戻ってきて大丈夫だ」


「デハ、タダチニ戻リマス」


「怪我してるんだろ?そんなに急がなくてもゆっくりでいいぞ」


「イエ、コチラニ避難シテキタ魔物達ノ傷ハ、ホトンド治リマシタ」


「ん?そうなのか?」


「ハイ。コノコトニツイテハ後程、オ話シシマス」


「わかった」


 ジャックとの通信が終わると、仲間たち多くの遺体が残っている場所に静に歩いていった。

 そこに着くと同時にジャック達が戻ってきた。

 トロルの転移魔法からぞろぞろと避難した魔物達が出て来る。魔物達はジャックの言っていた通り確かに元気になっていた。


「魔人サマ」


 戻ってきた魔物達はカケルの前に並ぶと、一斉に足を地に付けた。

 その魔物達全体から申し訳なそうな雰囲気が伝わってくる。


「我々ガ不甲斐ナイ、バカリニ・・・」


「いや、お前達が謝ることはない。悪いのはお前達じゃないからな」


「デスガ・・・ッ!」


「いいって言っているだろ?」


「・・・」


 カケルがそう言うが魔物達は納得していない様子だ。そんな状況でカケルが話を変えようとする。

 それはドラゴンについてだ。近くに倒れているドラゴンはなんなのかジャック達に聞いた。


「ソノドラゴンハ、奴ラガ乗ッテキタモノデス」


「ドラゴンか・・・」


 カケルは静かにドライグに近づく。

 するとそのドラゴンはカケルの気配に気づいたのか、突然目を覚ました。彼の目にカケルと魔物達が映る。その光景に驚くも、すぐに何かを探すようにキョロキョロし始めた。

 ドラゴンのその行動を無視してカケルは近づいていく。近くづくカケルに対してドラゴンは喉を鳴らし「グルルルル」と犬のように威嚇した。


「まぁ落ち着け、お前を殺そうと思っている訳ではない。少し話を聞きたいだけだ」


 カケルがドライグに話しかけるがドラゴンは威嚇を止めない。

 このドラゴンは火を吐けるのか、口から小さな火がでたり入ったりしている。


「ジャック、悪いがなんて言っているのか通訳を頼む」


「申シ訳ゴザイマセン、魔人サマ。ドラゴンハ魔物トハ違ウ生キ物ノナノデ、私達デハ言葉ガワカラナイノデス」


「なに?そうなのか」


 てっきりドラゴンも魔物の一種だと思っていたカケルは意外に思う。だが、実際に違うらしい。ならばカケルの言葉もこのドラゴンには届いてないかもしれない。

 相変わらずドラゴンは威嚇を続けている。

 しかしカケルがこのドラゴンをどうするか悩んでいると、そのドラゴンが急に怯え始めた。


「ガァ!?」


 ドラゴンはカケルに怯えたようでカケルから遠ざかると翼を広げて飛び差ってしまった。

 その速度はかなり早く、ドラゴンという生物が強力な存在だということを物語っている。


「なんだ?」


「ドウシマスカ?追撃シマスカ?」


 追撃するかどうか聞いてきたジャックはすでに魔法を唱える準備をしていた。

 だが、カケルはそれを止めた。


「いや、やめておけ」


「ソウデスカ・・・。ワカリマシタ」


 ジャックはすんなりと魔法の発動を中断した。


「それより、死んでいった奴らの墓を作ろうと思う。手伝ってくれるか?」


 カケルは飛び去ったドラゴンの事はあまり気にせず、今回の戦いで死んでしまった者たちの墓を作ろうと考えていた。

 彼らはこの村の為に、魔人様カケルの為に戦って死んで行ったのだ。

 まず最初はそんな者達を供養くようする。それから壊れてしまった建物や地形を戻していこう。


「モチロンデス。是非、手伝ワセテクダサイ!」


 こうして村の一ヶ所に魔物達による魔物達の墓が作られた。

 そしてある時期になると墓参はかまいりという行事ぎょうじを行う事が村のルールに追加された。





「あら、力が戻ってきた・・・?という事・・・まさか」


 そこは青龍国ムードブリム。そこの最高神殿にある祭壇さいだんで一人、祈り捧げていたシスターが突然、普段とは違う声で呟いた。


「やっぱり蘇生が出来ない・・・。という事は魔王が復活したのかしら?だけどそんな報告は聞いてないわ」


 シスターが元々発していたのハスキーな声とは違い、今の声は大人の女性のような、どこか色気が感じられるような声だ。

 少女は他に誰も居ないのに話を続ける。

 それは少し神秘的しんぴてきで、少し不気味な光景だった。


「魔王が復活したわけじゃないとしたら・・・。魔人?」


 可愛いらしい顔を傾げて、思考を続ける。


「それにこのスキル・・・"変異"しているわ。これは・・・ウフフ。今回は久しぶりにかもしれないわね」


 少女は上品に笑った。


「そういえばあの子・・・確かアルシアの方の子達と合流させたハズよね。と言う事はあいつの方の子達も殺された可能性もあるわね・・・。まぁいいわ。もし魔人が現れたとしても、また私達が殺っちゃえばいいものね」


 その少女は一瞬、難しい表情をしたかと思うとすぐにニヤリと表情をゆがめた。

 そして何かを思い出したようにそのまま言葉を続けた。


「あの老いた魔人の時のように・・・ウフフ」


 その上品で少し不気味な笑い声は誰もいない神殿に少しだけこだました。





「魔王様」


 ここは魔王の城、玉座の間。そこで玉座に座っている魔王の前でオラクガ1人が跪く。

 魔王は「どうした」と聞くとオラクガは話を続けた。


「はっ!私の部下が魔人の配下らしき魔物と接触しました」


「ほう」


 オラクガの報告に魔王の目が怪しく光った。存在するのでは?と言う憶測おくそくだけだった存在が、本当にいるとなれば興味も沸くというものだ。

 そして魔物を配下にしている。やはり魔人は魔物の味方の可能性が高い。これは嬉しい話しだ。

 魔王達は魔人を探していた。この世界の秘密を知る為にも何とか魔人とは友好関係をきずきたいと思っている。


「オラクガよ、詳しく聞かせてくれ」

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