第41話 戦いの終わり


「ハッ!?」


 スパーダは突然目を覚ました。

 キョロキョロと辺りを見回すとここが何処で、何をしていたか等の記憶がゆっくり蘇ってくる。


「確か・・・私は・・・」


 村を襲って来た人間の一人と戦っていて、その末にそいつの首を刎ねて殺した。

 そしてその次に・・・


「!?」


 スパーダはイツキがどういう訳か蘇り、不意を突かれて攻撃された事を思い出した。

 慌ててもう一度辺りを見渡し、自分の体の破損具合も確認する。しかしおかしな事にスパーダの体には傷一つ付いていなかった。

 あの時の攻撃は自分ではどうしようもなかったハズだ。それなのに無傷である。

 そしてもう一つおかしな物があった。


「死んでいる」


 近くにイツキの死体があったのだ。

 その事からアレは幻覚だったのではないか?という考えが一瞬浮ぶ。しかしどうやら違うようだ。

 なぜならイツキの死体は縦に切り裂かれていたのだ。

 もし仮にイツキが蘇った事が幻覚だったとしたら、イツキの死因は首を刎ねられた事によるものであるハズだ。だが現にここに転がっている死体は―――縦に切れてはいるが―――横への切り傷がないのだ。

 もちろん自分が切った覚えはない。そしてなぜかあそこからどうしたのかが自分でもわからなかった。

 それらの事から導き出される答えはスパーダ以外の。というものだった。

 

「だが、一体誰が・・・」


 この周辺にはこの森には他の魔物はいないハズだ。いや、もし居たとしてもあの状況からスパーダを助け、加えてイツキを殺す事が出来る魔物がいるハズがない。

 イツキの強さは魔物のレベルを明らかに超えていたからだ。


「こいつと同じ様な力を持った人間か、もしくは・・・」

 

 自分の知らない間に起きた事に関して考えを深めている時「そういえば」と悟の事を思い出した。

 もしかしたら悟の方も苦戦しているかもしれない。

 スパーダは直ぐに考える事を止めて悟の所に向かおうとした。


「・・・」


 その時に一瞬、足元に転がるイツキの死体を見て「また蘇ってくるのではないか?」という考えが頭をよぎる。

 また蘇ると厄介だ。そのためスパーダはその死体を跡形もなく消し飛ばしてしまおうと考えた。


 スパーダは刀に殺気を目一杯に込めると、イツキの死体を目掛けて振り下ろした。

 具現化した殺気により爆発に似た衝撃が放たれる。

 するとそこにあったイツキの体は跡形もなく消滅し、その地面は半円状に抉れてクレーターの様な穴が空いた。

 死体が消滅したことを確認するとスパーダは急いで悟の方に向かって跳躍した。





「ぐっ、うぅぅ・・・」


 少しだけ意識の飛んでいたメグミは顔からくる痛みと悲鳴ひめいによって目を覚ました。

 カケルに殴られ鼻のごと頭蓋骨ずがいこつの中心を骨折しているメグミだが、アユミが事前にリジェネを付与していたので既に骨折は完治かんちしつつある。

 メグミが顔面と背中を痛めながらも覚醒すると、段々と五感が正常な働きを取り戻していく。

 そんな中で聴こえてきたのは自分がよく知ってる声が奏でる悲鳴だった。


「アユミ・・・ッ!」


 メグミがよく知っている彼女は友人にあたる関係だ。

 切っ掛けは前の世界からこの世界に飛ばされたという同じ境遇きょうぐう。女性同士ということもあり、出会ってからすぐに仲良くなった。

 そこから一緒に戦ったり、一緒に生活して苦楽くらくを共にして3人の仲は深まっていき、親友と言っても過言ではないだろう。

 ついには1人の男性を奪い合うライバルと言ってもいい存在にまでなっている。

 そんな親友が痛みで泣き叫び、喉が枯れる事をお構い無しに甲高い声をあげ続ける。

 全て自分の目の前にいる男がやったのだ。


「《ジェノサイド・ドラ―――》・・・!!!」


 メグミは目の前にいるカケルに魔法を撃とうとしたが、カケルはすかさずメグミの喉を斬り、声を封じてみた。


「がっ!かはっ!」


 斬られた喉から声になる前の空気と血液が漏れだす。

 痛みで喉を抑えるが、悲鳴を出すことは出来ない。声の代わりにヒューっと狭い場所を空気が通る音が聞こえる。

 メグミの魔法は中断され、唱えきれなかった為に魔法は発動しなかった。カケルはその現象を興味深そうに観察していた。


 メグミにはアユミのスキルでリジェネが付与されている。

 そのため、喉の傷も次第に治っていく。そのスピードは目を見張るものがある。

 試しにカケルは具現化した殺気で生成した右手をレイピアの様な刺突しとつ武器の見た目に変えると、抑えている手ごとメグミの喉に突き刺した。


「がぁぁぁあああ!!!」


 ほぼ治り掛けているところに、異物が突き刺さる。

 今度は穴を空けた訳ではなく突き刺したままなので空気は外に出ることはなく、悲鳴は何とか声になる。

 痛みに苦しみ、既に完治した顔を涙や鼻水でぐちゃぐちゃにしながら悲鳴をあげる。


「・・・なるほど」


 カケルはメグミやアユミの傷が治る事について実験をしていた。

 メグミにやっているのは、傷が治る際にそれをさえぎるように何か物がある状態だとその傷はどうなるのか。こういう人体実験を行っていた。

 結果、治らず。傷口に異物があるとその部分はその異物を取り除かない限り治らない。


「お、おまぇ・・・なんが・・・」


 メグミが喉に刺さった状態のまま、何とか言葉を言う。

 それはメグミの今できる精一杯の抵抗なのだろう。

 アユミとは違い彼女は魔法に特化している。しかし魔法はどんな言語だろうが、声に出さなければ発動しない。

 つまり声をカケルに支配されてる状態では魔法は一切使えず、メグミはみの状態だ。

 この状態のメグミに出来る事は万が一にも発動できる可能性はない魔法を唱える事ではなく、希望を口にする事だけだった。


「お前、なんが、イヅキが必ず殺じてぐれる!!」


 痛みに耐えながら希望を言葉にする。

 イツキはメグミ達からしたら希望なのだ。イツキの持つスキル《聖剣召喚》で出せる聖剣はどれも強い力を持っている。中でも3つ目の聖剣は桁違いの力だ。イツキがその聖剣を使えば、またたに目の前の男を殺し、自分とアユミを助けてくれるハズだ。こんなにヒドイ目にあっている自分達を目の当たりにすればきっとイツキは目の前の男に同じような苦しみを与えて殺してくれるハズだ。

 メグミはイツキが何とかしてくれると信じていた。


 だが―――


「ふむ、そちらも終わった所か。ん?おい、悟!!右腕はどうした!?」


 だが、彼女の前に現れたのは絶望の方だった。


 スパーダ。つまりあのアンデッドが戻って来たという事は・・・・

 メグミは数秒、唖然としていたが頭の回転が早い彼女は嫌でも理解してしまった。


 ―――イツキは負けたのだ、と


 それを理解した瞬間、メグミは事切れた様に意識を失った。



 戻ってきたスパーダがカケルの右腕を見て、思わず声を出して驚いた。スパーダは心配そうな声を上げてカケルを見た。


「・・・右腕の事は気にするな。俺も気にしてないからな。むしろ便利な技を覚えたおかげで元の腕より便利だ」

 

 カケルは突然意識が無くなったメグミを見ると喉に突き刺していたものを引き抜き、見せびらかすようにスパーダに具現化した殺気で生成した右腕を見せた。

 それを見たスパーダは何やら言いたそうにするがそれを飲み込み、襲撃者達についての話をする。


「それで、こいつはどうするつもりなのだ?」


 スパーダは意識を失い、木にもたれ掛かるメグミを見てカケルに問いかける。


「・・・こいつから知りたい事はない。それに尋問じんもんをするための奴はとってある。こいつにもう用はない」


「ふむ。ならば消し飛ばそう」


「消し飛ばす?」


「そうだ。その様子だと知らなそうだな。こいつらは死んでも蘇るのだ」


「そうだったのか。蘇生能力まであるとは・・・それに関しても聞くとしよう」


 カケルはメグミの処分をスパーダに任せると、四肢ししを切断され放置されていたアユミの方に向かって歩いていく。

 カケルとメグミの距離が離れるとスパーダはイツキの体を消滅させたように刀に殺気を込めて、それをメグミ達に向かって振り下ろした。

 爆音がなり、クレーターができる。そこにはその攻撃をしたスパーダだけが存在し、メグミはカケル同様に跡形もなく消えた。


 カケルの後方で爆音が聞こえたが、カケルは振り返ることをせず、今までの光景を泣きじゃくりながら見ていたアユミに寄っていく。


「ひっ!い、いや!!」


 リジェネの効果があるからか切断した手足はトカゲのしっぽのように再生されつつあった。

 まだ再生途中のため、切断された半分まで再生している状態だ。

 アユミはメグミの様子を倒れた状態でも見ていた。

 喉を切り裂かれる所も、喉に刺したままにする所も。

 アユミはそれを見てやっと理解した。自分らはとんでもないトラのを踏んでしまったのだと。


 アユミは身体能力強化のせいでそう簡単に気を失なえないため四肢を切断される痛みでは楽になれない。

 だが彼女は自分のスキルである《状態異常付与/バリエーション・ギフト》を使用し、自分自身に弱い麻痺まひを付与することで痛みを和らげていた。そして痛みに耐えつつ、再生途中の四肢で何とか逃げようとしていた。

 だが、こちらに向かってくる人の皮を被った化け物に再生途中の四肢を切断された。


「がっぁぁぁああ!!」


 痛みが麻痺しているからか最初の時よりも痛みは感じていない。だが少し前まで普通の少女だったアユミにはとても耐えれるものではない。


「ごめんなさい!ごめんなさい!!ごめんなさい!!!」


 何もかも手遅れな状況だが、アユミは必死に謝るしかない。手足が使えない以上、残っている口をバカみたいに動かし、みっともなく謝罪し、どうにかして生きたい、死にたくないというワガママを聞いてもらうしかないのだ。


「な、何でもします!!あ、か、か、体!私の体も好きにしていいです!!まだ処女ですけど、言われればどんな事でも頑張りますから!」


 彼女は何とかして生きようと、必死に自分をアピールする。自分という存在を好きに使っていいから、言われればどんな事でも成し遂げるから、だから生きさせてくれと。死にたくないないと。

 彼女はカケルに、何とかして自分に価値を見いだしてもらい、生きようとしている。


「2度とこんなことしません!どんな事でも言うとおりにします!だから、殺さないで下さい!!死にたくないですぅ!!」


 例えどんなにみっともなくても、これからどんなに辛い事があるとしても、生きるという事にすがるその姿は人間という生き物の根本的な部分を体現したようだった。

 それほどまでに"死"と言うものが恐ろしいのだ。


「少し黙れ」


 カケルが一言そういうと、アユミはピタリと何も言わなくなった。

 アユミは生きるために必死だ。カケルの一言一言を聞き逃さないように一生懸命、四肢が欠損している体で耳をかたむける。


「お前ら、俺の事を転移者だとか言っていたな」


 アユミはカケルの言葉を聞いて、それは事実だということを伝えるためにしずかに激しくうなづいた。


「それはお前らも俺と同じで元いた世界からこの世界に来た、という事だな?」


 アユミは肯定を示すべく激しく頷く。


「・・・そうか。なら、お前の全てを話せ。元の世界の事とこの世界に来てから、些細ささいな事も細かく話せ。そしたら・・・生かす事も考えてやる」


 アユミはその質問に答えるべく激しく頷いた。ほんの少しでも生きる可能性があるなら彼女は自分で言っていた通りに何でもするだろう。


 アユミは地獄に落ちてきた細い糸に必死に捕まる。


 そして言われた通り、自分の知っている事の全てを話し始めた。

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