第5話 噛み合う



ペェスタは先ほどの受付嬢とのやりとりの内容通りにこの国の周辺を見回る為に南門から外に出た。彼は依頼の無い時はいつも外に出ては、魔物が寄って来てないか、何か異常が無いかを見回っている。それは彼がハンターになってからずっと続く彼の日課見たいなものだった。


南門から少し離れた所でペェスタは1つの魔法を使用した。



「《光の屈折/ライト・オブ・リファレクション》」



《光の屈折/ライト・オブ・リファレクション》という魔法は【光】属性最上位魔法の1つ。効果は名称の通りに光の屈折を自在に操る事ができる。例えば光を一点に集中させて攻撃を行ったり、相手の視界を遮ったり、逆に自分の視界を広げる事もできる。さらに一部の【光】属性魔法を操る事もできる。というかなり自由度が高い魔法である。


もちろん欠点が存在する。同時に2つ以上の光は操れなかったり、【光】という高度な物を扱うのでかなりの技術、集中力を要する。

しかしペェスタは得意属性が【光】という人間では極めて稀な存在であり、尚且つ才能にも恵まれていた為、彼はそんな高度な魔法を使用する事ができる。


そして彼は光を屈折させて、望遠鏡のように遠くを見るためにこの魔法を使用したのだ。



「ふむ・・・特に気になる物はないかな?」



彼は暇な時にこうやってこの街のを周りを得意な魔法で見渡してパトロールする。これが彼の日課の一つだ。



「む?・・・あれはいったい・・・?」



ペェスタは辺りを見渡していると、奇妙な集団を発見した。トロルとゴブリンの群れだ。だがトロルとゴブリンが群れを成すのは別に珍しくはない。彼が疑問に思ったのはその群れを率いている様に先頭を歩いている者。見た目からして人間に見えるが、見慣れない全身黒い衣服を着ており、背には黒い棺の様な物を背負っている。



「何だあいつは・・・」



(魔物を従える人間など聞いた事もない。そもそも魔物が人間に従うなどありえない・・・)



現在どんな魔法を行使しても魔物を従える事など出来ない。混乱させたり等して一時的に誤認させる事は可能だが、魔の物と敵対している人間にしっかりと隷属させる方法は存在しない。



(ならば奴も魔の者の類いか・・・)



彼の形相は一変した。ペェスタが大の魔物嫌いという話は有名だ。彼は幼い時に両親を魔物に殺されている。それも目の前で。そんな事から彼は魔物に強い憎しみや、恨みを持ちいつかは魔物を根絶する野望を内に秘めている。


そんな彼が街の周辺で魔物を見つけて放っておくなんて到底無理な話だ。

ペェスタは群れを率いる正体不明の存在を敵と判断しその者を殺すと決め行動にうつす。



「《光の如く/アーズ・オブ・ライト》」



魔法を唱えたペェスタの体がうっすらと発光する。この魔法は光の如く素早く動ける様になる魔法だ。かなり強力な魔法であるためこの魔法には大きな難点が2つある。1つは使用する魔力が膨大である事、もう1つはこの魔法の効果時間が2秒という極僅かな時間しか効果が続かない事である。


だが、その2秒という時間は十分すぎる。2秒という時間はこの世界で一流の剣士であるペェスタにとって遠く離れた相手に奇襲して撤退するだけの十分な時間なのだ。

そして今回も自分が得意とする戦法――――この魔法で奇襲をしかけそのまま首を跳ね、直ぐに離脱をするという戦法を取るつもりだ。


魔法を唱えたペェスタは直ぐに剣を構え、自身の剣に少し魔力を流し込む。もちろん彼の持っている剣は普通の剣ではない。彼の剣はいわゆる魔法武器と言われる物だ。魔剣ジェノサス。

彼の剣は魔力を少し流すだけで鋼鉄を簡単にスライスできるだけの切れ味になる効果がある。

魔物には防御力が高く、体が硬いものも存在する。その為ペェスタは希少な素材を集め、ある職人に依頼した。


その職人は現在、既に死亡してしまっているが腕は本物だった。その人物は世界でも認められていた職人であったが、ある時を境に武器作りを辞めてしまい、何処かに隠居してしまった。しかし、ぺェスタは見つけ出し最高の素材を提供した。


その職人は目標があった。それは1つの剣を越える事だ。

ある時その職人の元に一本の剣が流れ込んだ。その剣は異様に細く鋭かった。最初はガラクタだと思い込んでいたが、試しに降ってみるとその剣は万物を切り裂いた。その出来事以来、彼は武器制作から手を引いた。勝てない。彼はそう思ってしまったのだ。最高の武器をガラクタと思ってしまった。そのショックは高齢であった為、深く傷を作った。


しかし、しばらくしてぺェスタが依頼をしてきた。もちろん最初は断ったが、ぺェスタはある条件をつけた。言ってくれれば素材はありとあらゆるもの用意すると。

これにより職人は剣を作る事を了承し、自身の限界に挑戦し、最後の傑作を作ることにしたのだ。


そんな経緯がありこの魔法武器は作られた。そして今までこの武器を使用してペェスタが切れなかった魔物は存在しない。



「――――――ッ!」



力を込め、大地を蹴り抜く。

相手の正体が不明な為、中途半端な力では万が一があるかもしれないのでペェスタは最初から全力で行動する。先手必勝だ。

これより行われる攻撃はこの世界では最強クラスものだろう。

人では認識する事ですら困難な速度で後ろに周り込み奇襲をしかける。そしてその剣は鋼鉄をも簡単には切り裂く魔法の剣。狙う場所は基本的な生き物の急所である首。

どんな相手にも回避はほぼ不可能な攻撃。



ペェスタは高速で真後ろに回り込み、未だこちらの存在に気付いてないであろう対象の首を目掛けて思いっきり剣を振り抜いた―――――






だが、剣は空気中を切り裂いただけであった。一瞬ペェスタも何が起こったか分からなかった。


対象が避けたのだ。

お辞儀するように腰を前に曲げる事で後ろから首を狙う攻撃をかわした。


これらの一連の出来事について実は対象はかなり驚いていたが、それよりもペェスタの方がショックが大きかった。



彼はこの攻撃がかわされたことなど一度もなかった。それゆえにこの攻撃に絶対の自信があった。それが初見でかわされた。いや、仮に見たことがあり知っていたとしても簡単に避けられる物ではない。ペェスタは大きなショックを受け、色々と考えが浮かぶ。

その為行動が少し遅れてしまった。ハッと魔法の効果があと僅かなのを思い出し、自分の攻撃を避けた異質さを考えると一旦距離を取った方が良いと考えた。本当ならばあと一撃加えたい所であるが、無駄な時間を過ごしてしまったため時間の猶予がない。


ペェスタはしぶしぶ、魔法の効果が続いている内にバックステップをして対象から離れ距離を取った。


魔法の効果が切れたようで薄く発光していたペェスタの体が元に戻る。そしてペェスタ改めて対象を確認する。そして対象もまたペェスタを確認していた。



両者の目が合い、しばしの沈黙が続く。



「何者だ・・・お前・・・」



先にペェスタが疑問を問いかけた。それは純粋な言葉通りの疑念半分、もしかしたらという疑念半分のものだ。知性が高い魔物は喋る事が出来る。魔物を統率している者なら尚更喋れる可能性がある。ならば何か情報を得られるかもしれない。



しかしその者をから帰って来た返事は――――――





「◯Χ%□#△●☆□♯▽◇」





人のものでは無かった。





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