第4話 前触れ



(何か、見えてきたな)


 人がいると教えて貰った方向に歩き続けていると、うっすらと建造物が見えてきた。

 まだ距離があるためぼんやりとしか見えないが、かこいの様な物がありその中に中世にありそうな城がひょこっと頭を出している。


「・・・あれか?」


 確認のためこのことを教えてくれた"オーク(仮)"に話かける。


「ヴォオ!」


「そうか」


 俺は道中に少しでもこいつらの事を知ろうと、コミュニケーションを取ることにした。その際に名前がないと呼ぶとき等に困ったので名称を仮として決めてみた。見た感じこいつらは2種の生物に別けられる。

 まずは"ゴブリン(仮)"。

 背は低く、皮膚ひふは薄緑色をしている。

 ファンタジーというものに疎いうとい俺でもわかるぐらいまさにTHEゴブリンって感じだったのでそのままゴブリン(仮)と呼ぶことにした。

(仮)が付いているのはもしかしたら名称が違うという、少し恥ずかしい事になるかも知れないから。

 次に"オーク(仮)"。

 大柄で背は高く、肌は全体的に濃い目の茶色をしており、皮膚は少しぶよぶよとたるんでいる。

 こちらは知識がとぼしい俺では外見から判断する事ができなかった。

 オークという名前も聞いた事があるだけで、名前の勝手なイメージだけで付けてみた。そして、俺の質問に答えているのはオーク(仮)の方だ。


 そして会話についてだ。こいつらが言ってることを俺は理解出来ないが、そんな中でも『はい』や『いいえ』などの簡単なものは何となーくだが分かるようになった。そして何故かは分からないが俺の言葉はこいつらに通じており、理解しているようなので最低限の会話はできた。


「はぁ・・・」


 確かに街・・・国?はあった。だがそれはとても現実・・・いや元の世界に存在するものとは思えない。もしかしたらとんでもなく辺境の外国にいるという可能性もあるがその可能性はかなり低いだろう。それよりもここは別の世界だという可能性の方が高い。見知らぬ生き物や目の前にある城を見ると、何だか異世界の方がしっくりくる。

 俺が何らかの理由で別の世界に迷い込んでしまったとして、元の世界に帰るにもこの世界に居続けるにしてもまずは情報が必要だ。そしてもしこの世界にも人間がいるならその情報のほとんどが会話や言葉のはずだ。

 俺が今危惧きぐしている事はその言葉。つまり言語だ。こいつらとのコミュニケーションに悩んでいる時から思っていたのだが、この世界の言語が俺の世界の言語と違うのではないか?

 というか、同じということはないだろう。俺が喋れるのは日本語だけだし、そもそも日本語の存在自体がかなり特殊な進化を遂げたものなのだ。そのため同じものが言語としてある可能性はかなり低い。


(せめて英語とかであってくれ・・・)


 俺はひそかに言語が俺の世界に既存きぞんしていて、俺の知識にあるものであってくれと心の底から祈った。聞いたこともない言語を一から覚えるのは流石にきつい。てか無理だ。







 悟たち一行が目指している国。その国の名前は"アドルフォン王国"。


 魔王が勇者に封印されてから百数年。

 世間ではこの国が勇者の出身の国、と知らない人間はいないほどこの街は近年で一番発展した街だった。

 そして今この国で、いや、すべての国で話題になっている職業がある。

 それは"ハンター"といわれる職業だ。


 勇者は魔王を封印はしたが、魔王を封印しても魔物の存在が消える事はなかった。むしろ、魔王というトップの存在がいなくなったことで凶暴化きょうぼうかしたり、異常な行動とる魔物や、好き勝手に暴れまわる魔物が増える事になった。

 そこで一般人でも高い実力を持ってはいるが、それをもて余している者が多数いることを知った当時の国王は魔物を討伐とうばつするのが主な仕事である職業を作り、民間及び国から依頼を貰うことでそういった魔物の被害から周辺の村々など民を守る仕組みをつくった。

 それが"ハンター"という職業だ。


 全てのハンターはランク付けをされており、下から[F][E][D][C][B][A][S]といった計7段階で別れている。これにより依頼対象の魔物や場所、数、魔物の討伐ランクなどといったの様々な情報を元に依頼自体のランクを定めて、同ランクかそれ以上のランクの者だけがその依頼を受注することができるシステムになっている。

 これはハンター達が自分の実力に見会わない依頼を受けて死亡してしまう事を未然に防ぐ意味も含んでいるのと、ランク制度があることでハンター達が互いに競争するようになるからだ。


 ハンターを新しく始める際は基本的にランクはFから始まる。単身で登録することも出来るが、もちろん複数人で"パーティー"を組み、パーティー登録することも出来る。むしろ普通はパーティーを組むのが当たり前で単身でハンターになるということの方が珍しい。

 そうしてハンターになった者はそこからいくつかの依頼をこなしていき、依頼の"内容"や依頼の"達成スピード"などからその人物の実力を測定して、実力が今のランクより高いと判断された場合に昇格試験しょうかくしけんを受けられるようになる。そしてそれに合格するとランクを上げる事ができる。

 現在、最も高いランクはSランクであるがそこに至るまでの難易度は高く、ハンターがこの国に500人以上いる中でSランクのハンターはわずか3組だけである。この事からSランクというものがどれだけ高い難易度が高いか分かるだろう。

 そしてそのSランクのハンターでの中でも一部からはトップの存在と言われている者がいる。






 ハンター達が依頼の受注や手続き、その他様々サポートを行う施設"ハンター組合"。一つの国に最低一つはあり、ハンター達は依頼の受注や手続き等を行う場合は全てこの施設しせつで行わなければならない。

 ハンター組合には昼夜問わず多数のハンターがおり、常に少なからずにぎわっている所である。そんな騒がしい場所の扉が軽くバンっと音が鳴る程度に勢いよく開かれた。

 その音に反応して周りのハンター達が音の発生源に注目した。扉から目立つ白銀の鎧を着た男が歩いくる。その男の足は一直線に受付に向かっていた。

 受付は多数のハンターを同時に対応できるように複数ある。忙しい時は最大3人で稼働させるのだが、今は忙しい訳ではないので受付嬢は一人だけだ。


「今朝受けた依頼を完了した。確認してくれ」


「お、お疲れ様です。ただ今確認致しますので少々お待ちください」


 男は今朝に依頼を受けたハンターだったらしく、その依頼が今しがた完了したのでその報告に来たようだ。

 男の依頼完了報告を受けて、少し驚きながらも受付嬢は受け答えを行う。


「マジかよ・・・いくらなんでも早すぎだろ・・・」


「Sランクの依頼をこんなにもあっさりこなすとは・・・」


「やっぱSランク最強の男はちげぇな!!」


 Sランクの依頼とは最高ランクの依頼であり基本的にはSランクのハンターのみ受注が可能な最高難易度の依頼である。

 その男の依頼完了報告を見て周りのハンター達は騒がしくなる。

 驚き恐れる者、強く関心する者、嫉妬で悔しがる者、など様々な反応で組合内全体が先ほどより騒がしくなった。


「お待たせ致しました。確認が取れましたので、これで依頼は完了となります。お疲れ様でした」


 しばらくして依頼の完了確認を終えた受付嬢が戻ってきて、無事に確認が取れた事を伝えた。


「ああ、それで次の依頼についてなんだが・・・」


「も、申し訳ございません。現在あなた様が受ける事ができる、Sランクの依頼はございません」


「そうか・・・ならいつも通りに国周辺を適当に見回っているから何か依頼が来たら知らせてくれ」


「はい。かしこまりました」


 男は次の依頼を希望したが、現在受けられるSランクの依頼や緊急性きんきゅうせいを要する依頼はない。彼はSランク以下の依頼を受けることができるがとある理由から彼は受ける依頼を制限している。男は自分が受けられる依頼がないと知ると、次の依頼が来るまで国の周辺を見回ると言い出した。

 そのやり取りを聞いていた回りのハンター達は再び様々な反応を見せていき段々と騒がしくなった。

 男は周りの反応を一切気に止めず彼は組合から出ていった。


 実はこの男こそこの国でわずか3組しかいないSランクハンターの一組であり、他はパーティーを組んでのSランクという結果に対して彼は単身ソロでSランクである。そして彼がSランクの中でもトップと言われているハンターだ。

 パーティを組んでいる場合、個人の実力ではなくパーティとしての実力でランクが設定されている。なのでSランクパーティのメンバー個人個人がSランクの実力を持っているわけではない。だが彼は違う。パーティは組んでおらず単身でSランクなのだ。それは正真正銘、個人の実力がSランクなのだ。それ故に彼はSランクの中でも最強だと言われている。

 その男の名を"ペェスタ・プラクター"という。



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