第10話 村作り

 

 全て木でできた建物の扉を開ける。

 その家は一部屋しかないが、10じょうほどあるその部屋中を気分を落ち着かせる効果がありそうな木の独特の香りが漂っている。

 俺はギターケースと刀を部屋のすみに置くと、部屋の中心に立って改めて内側からこの建物を見てみる。ほぼ正方形の間取りをしているこの建物は俺がこれから住むことになる家だ。この森の木々を使い、魔物達と協力して作り上げたものだ。寝る場所として使えればいいと思っていたのでもう少し小さい家にしようかと思ったが、今後の事を考えて少し大きめに作ってみた。窓も―――木で作った開閉式の簡易的な物だが―――あり三方向の壁に一つずつ作ってある。試しに窓の一つから頭を出してみると外ではトロル、ゴブリン、トレント達が作業をしている光景が見える。


「いい感じだ・・・」


 村を作る事に決めた後まず最初に取り掛かったのは住居の製作だ。村を作ると言ったからにはそれぞれの住居が必要だ。そしてその住居の製作に使った建材はこの森の木だ。

 あまり人間の私利私欲で自然を破壊するのは良く思わないが、今回はこの森を支配しており、尚且なおかつ木そのものであるトレント達に了承を貰った。それにトレント達が言うにはトレント達は"木属性魔法"を使えるらしく、魔法でいくらでも木を増やせるからいくらでも使って構わないそうだ。転移の魔法の時も思ったがやはり魔法というものは便利すぎる。

 自然破壊に対する罪悪感が消え去った俺は遠慮えんりょなく木を伐採ばっさいしていき、少しだけ開けた場所を作った。何気に木を切る目的で"技"を使ったのは初めての経験だった。そして伐採した木を切って形を整え、加工する。それをトロル達に協力してもらい組立る。そうして出来たのがこの建物俺の家だ。

 その後すぐにトロルやゴブリン達の家を作ろうとしたのだが、それは自分達でやると言われてしまった。ゴブリンとトロルの言葉はわからないのでトレントに通訳してもらって話を聞いたが、なんでも俺がやった事を見ていた一体のゴブリンが建物の作り方を理解したらしく、これぐらいの事なら自分達でもできるから任せて欲しいとのことだった。

 細かい部分の加工ならゴブリン達が持っている石の短剣で出来るかもしれないが木を切るのはどうするのだろう。と思いながら様子を見ていると、先ほどのゴブリンがトロルに指示を出した。するとトロルが魔法をとなえたのだろう。「ヴヴォヴォ」と俺が理解できない言語で何か言うとトロルの正面に魔法陣が現れた。そしてその魔法陣から半透明のやいば、真空波が飛び出し木を切った。

 俺はその光景を見て師匠じじいから教えられた技の一つを思い出した。それは《空刃くうば》という技だ。それは飛ぶ斬撃を生み出す技で、簡単に言うと居合切りで真空波を起こす技だ。刀で真空波を起こすなんて普通なら考えられないような事をあの人外は思い付き、己の技として落とし込んだ。だが、その人外の所業もこの世界の魔法で簡単に再現できる。そのことに俺は驚き、心の中で舌打ちをした。

  

 その後も一体のゴブリンが的確に指示を出して行き俺の家より縦に大きい建物が建った。それを見届けた俺はこうして今にいたる。

 外の様子をながめていると、トロルとゴブリン用の住居が続々と作られていく。ゴブリンの身体は人間の子供に近い体形をしているので少し小さめの家だ。逆にトロルは大人の人間より一回り大きいので少し大きめの家だ。そんなことを指示した覚えはないので工事現場の監督さながらに指示を飛ばしているあのゴブリンが考えたことなのだろう。俺は素直に関心した。

 因みにトレント達に関しては家はいらないとのことだ。何故なら外で日の光を一定以上浴びてないと生命に支障をきたす事があるらしい。そのため例えトレント用の家を作ろうとしたら天井がない囲いのような作りにしなければいけない。そのような事情からトレント達は家は作らない事に決まった。


(あ、そういえば・・・)


 外の様子を眺めていると、とても大切な事を思い出した。この世界で初めて会った魔物の事だ。すぐに俺は出来たての家を出るとトレント達が作業している場所に向かう。

 トレント達は主に木を生やす作業を行っている。俺は作業をしている一体のトレントに近づき話かけた。


「作業中のところ悪い、スライムさんはまだ戻って来てないか?」


「イエ見カケテナイノデ、マダダト思ワレマス」


「そうか」


 実は現在、スライムさんには食料となる魚を捕りに川に行ってもらっている。これは俺が指示した事ではなく、スライムさんが自分からやりたいと言い出した。なんとスライムという魔物も話すことが可能だったのだ。スライムという魔物には口に該当する器官が存在しないため声を出す事はできない。その代わりに彼らは体を震わして会話をするそうだ。人間で言うところの手話しゅわのようなものだろう。もっともスライムさんが話せるという事がわかっても何を言っているかを理解できる訳ではないので、トレントに通訳してもらってスライムさんが何を言っているかを知った。

 それスライムさんが言ったのが『自分も何かやりたいので得意な魚捕りをしにいきたい。それとそのついでにを集めてきたい』との事だ。

 正直スライムさんを手放したくなかったが、本人がここまでやる気を出していたので仕方なく了承した。


 それから大体2時間ほどっている。が、スライムさんはまだ戻って来てない。

 俺は少し心配だ。変なやからに襲われたりしてないか、何かに巻き込まれてないかと不安で仕方ない。そして時間が経てば経つほど、不安が大きくなる。トレント達が作業をしている後ろで同じ場所を行ったり来たりしてた。

 しばらくウロウロしていると、やっとスライムさんが戻ってきた。


「おぉ、おかえり!怪我とか無いか?」


 俺は帰ってきたスライムさんをすぐ抱き上げ、最高の気持ち良さをほこるスライムボディを手で感じつつ怪我がないか見る。一通り見たところ怪我とかはなさそうだ。俺はスライムさんが無事だと解かるとそのまま、その豊満ほうまんな体を堪能たんのうする。短い時間だが価値のある時間を過ごしているとスライムさんがプルプルと震え始めた。これはスライムさんが何か言っているのだと思い、後ろにいるトレントをチラリと見ると俺が言わなくても通訳をしてくれた。


「ナルホド。魔人サマ、アチラヲゴ覧クダサイ」


 スライムさんが言った事を理解したトレントがある方向に向かってゆび―――ではなくえだえだす。

それを見て俺がその方向に顔を向けると、そこには大量のスライムがいた。


「え、こんなに居るのか!?」

 

 恐らく全てスライムさんが連れてきたスライム達だ。その数は100体以上いるかもしれない。自分が勝手に想像していた数より圧倒的に多い数で驚いた。それに種類や大きさも様々だ。

 スライムさんと同じ水の様な透き通った色のスライムもいれば赤や青、白や黒といった様々な色をしてるスライムもいる。それらが雪崩の様に俺の下に近いてきた。

 その多種多様なスライムを見ているとスライムの中、体内に動く何かが入っているスライムがいることに気付いた。


 ―――プルップルプル、プルンッ!


「ソレハ魚ダソウデス」


 スライムさんのプルプル言語をトレントが翻訳してくれた。どうやら俺が気になっていた物の正体は魚らしい。どうやって捕獲したのかは分からないが宣言通りに魚を捕って来てくれたようだ。

 魚の入ったスライム達が集まって来て、魚を『ペッ』と次々に吐き出していく。

 吐き出された魚はビチビチと地面を数回跳ねたが、やがて跳ねなくなり地面でぐったりとした。


「こんなに・・・凄いな。今後も魚の捕獲はスライム達に担当してもらうのが適任だな」


 そこそこな量の魚を捕って来てくれた。食料の方はこの魚とトレントが木の栽培さいばいと並行して栽培している果物でなんとかなりそうだ。

 それとこのスライム達の住居を作らなければならないな。こんなに数がいるならスライム達の家はマンション型の方がいいかもしれない。スライムマンションを作るとしてまずはこのスライム達が何体いるのかを調べなければならない。けどまぁ、今後も増える事があるかもしれないので少しぐらい多く作っても大丈夫か。なら早めに伝えて作ってもらっておいた方がいいだろう。

 俺はスライムマンションの事を現場監督ゴブリンに伝えると、大量のスライム達を引き連れて新居に向かった。





「78・・・79・・・80・・・81」


 あのあと俺は自分の新居でスライムを淡々と数える作業を行っていた。家の出入口から1列に並んでもらい、一体一体手に取りプニプニ触り心地を確かめながら数を数えていく。

 数え終えたスライムはもう一度、魚を捕獲しに行ってもらっている。


「96・・・97・・・」


 次で最後のスライムだ。スライムさんが連れてきたスライム達は全部で98体だった。


「98・・・っと」


 俺の手を離れた最後のスライムが出ていく。

 これでスライム達を確認し終わった。スライムにも色々な種類がいるようで、触ると暖かいスライムや逆にヒンヤリと冷たいスライム、触ると痺れるスライムなどもいた。触り心地も種類によって様々だった。因みに今日触ったスライムの中で個人的にオススメのスライムは、外見が白く濁った水の様な色をしてるスライムだ。他のスライムより軽くて触り心地がふわっふわだったのが印象的だ。だがまぁやっぱりスライムさんの触り心地が一番だな。


「数え終わったし、あのゴブリンに報告しに行くか」


 スライムは全98体だ。スライムさんは別として、スライムマンションを作るとしたら25部屋のマンションを4号棟まで作くれば全員分の家が作れる。


(だけど完成までにはしばらく時間が掛かりそうだな。スライム達が夜に外に居るのは心配だ。マンションが出来るまでスライム達には俺の家にいてもらうか。別に他意はないぞ)


 部屋がスライムで満たされる事を考えながら俺は外にはでて、作業現場に向かった。



「おぉ!なるほど」


 スライムの数を伝えに現場にいくと思わず声に出すほど感心する場面に出くわした。魚の捕獲から帰ってきたであろうスライムが作業の手伝いをしていたのだ。そして俺が一番驚いたのはそのスライム達の手伝い方だ。

 たくさんのスライムがキレイに並び、トロルがそのスライム達の上に木材を載せていく。木材を乗せたスライム達が転がると、乗って木材も転がっていった。

 スライムが"コロ"の役割をしているのだ。コロとは重量物を運搬する際に荷物の下に敷き、転がして移動させるために使う円形の道具の事だ。これで物の運搬うんぱんがかなり楽に簡単になるだろう。

 これを自分達で思いついたのか、そもそも知っていたのかは分からないが、自分たちで作業の効率化が出来てるのは凄く感心する。


(これだけ彼らがを頑張ってるんだ。彼らに何か・・・そうだ。料理でも振る舞うか)


 彼らは好きで色々やってくれるが、何か返したいという気持ちが出てくる。

 俺は現場監督ゴブリンにスライムの総数とスライムマンションの事を伝えると、俺はスライム達が捕ってきた魚やトレントが栽培した果実を使って料理することに決めた。と言っても今は調理器具もないので簡素なものになってしまうが。

 俺はスライム達に捕って来て貰った魚が入れてあるかごのある方に向かう。この籠は先ほどスライム達に魚を捕って来てもらっている間にトレントに頼んで作ってもらったものだ。


「これは・・・」


 捕ってきた魚を入れてある木製の籠の中身を見ると普通の魚だけではなく、凍りついて居る魚やげて真っ黒な魚、明らかに毒の様な紫色に変色した魚などが入っていた。


「そうか・・・。だからスライムさんが連れてきた時に魚を捕ってないスライムがいたのか。これは俺の確認不足だったな。後でトレントにスライムの種類について教えてもらうか。それでスライム達の中で魚の捕獲に向いて無さそうなのはさっきの運搬作業の方に回ってもらった方が良さそうだ」


 今後魔物の事を勉強するのは俺の課題だ。一緒に生活する上で彼らの事を知らないのは色々と悪いしな。

 これは今後の課題として今はこの魚のことだ。凍ってるのは良いとして、焦げてるのと毒っぽいのはもちろん使わない。全員分の量を調理するのも大変だが、まずは魚の仕分けに少し時間が掛かりそうだ。


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