第9話 解消

 


「森・・・?」


 俺が白い円の中に入るとそこは森の中だった。しかし、そこは最初に訪れた森とは違う場所のようだ。と、いう事はこの魔法は場所と場所を繋ぐ魔法、転移てんいの魔法のようだ。

 俺の後ろには後に続いてゴブリン(仮)とオーク(仮)が転移してきた。

 そして最後の一体が転移してくると転移の魔法である白い円は空気に溶け込むように消えていった。


「えーと、ここは?」


「ヴォヴォオ!」


 質問をした直後にまた質問の仕方を間違えた事に気が付く。この質問には当然YesかNo以外の答えが返ってきた。なんて言っているのか分からない言葉を聞きながら、自分の聞きたい事が聞ける二択の質問を考えていると―――


「オマエ、ナニモノダ」


 突然、声と共に"敵意"を感じた。

 それも俺が理解できる言語。日本語だ。急に理解できる言葉で話しかけられた事に驚き、声の方をみた。

 そこにいたのは背丈の低い普通の木にジャック・オー・ランタンの様に顔の形が掘られた、木の怪物だった。


「ヴォヴォ!」


「ナニ?」


 木の怪物に聞かれた事について返事をしようとしたが、オーク(仮)が俺より早く質問をしてきた木の怪物に対して返事をした。その木の怪物の言葉は、俺の様にこいつらに通じるみたいだ。だが俺とは違い、木の化け物はこいつらの言葉を理解できているようだ。つまりこの木の化け物はこいつらと会話が出来て、尚且なおかつ俺との会話ができる存在という事になる。


「ヴォヴォォヴォ!」


「ソウナノカ?」


「ヴォヴォッヴオォ!」


「ナント!アノ男ガ、アノ伝説ノ・・・」


「ヴオォッヴォヴヴォ!」


「ナルホド」


「ヴオォ!」


「ワカッタ」


 しばらくすると話が終わったようだ。俺にはオーク(仮)が何を言ってるのかさっぱりだったが、木の怪物が日本語で相づちを打ってるのは聞こえた。何故、あいつが特殊な言語である日本語を話せるのか後で聞いておこうと思う。

 話が終わった木の怪物は木の根っこを器用に動かし、歩くのではなくスライドする様にしてこちらに近付いてきた。その木の怪物が向けていた敵意は、オーク(仮)と話している間になくなっているので俺も僅かにしていた警戒けいかいを解く事にした。


「話ハ先程"トロル"カラ聞キマシタ。私ハ"トレント"ト言ウ魔物デス。ナンデモ魔人サマハ住ミカヲ探シテイルトカ」


「え?あー、まぁそんな感じだ」


「デシタラ、ココハ問題ナイト思ワレマス。ココラノ森は我々"トレント族"ガ支配シテオリマス。デスガ、我々トレント族モ魔人サマノ配下ニ加エテ頂ケルノデシタラ全テヲ差シ上ゲマス。食料ハトレント族のちからデ木ノ実ナドノ物ヲ自由ニ栽培デキマスシ、ソレニ近クニハ川ガ存在スルノデ水ニモ困リマセン」


「・・・とりあえず、少し待ってくれないか?」


「ワカリマシタ」


 幾つか疑問に思った点や考えたい事があったため会話を一旦切らせてもらう。

 このトレントという魔物と会話して疑問に思った"トロル"と"魔物"と"魔人"と"配下"という単語。

 まず魔人様とは恐らく俺の事だ。俺に話しかけているのだから間違いないだろう。だが、一体どいうことだ?俺は魔人なんて名前ではないし、そもそもこいつらを含めてこの世界では未だ名乗ってすらいない。

 まずは魔人というやつから聞いて見るか。幸いこのトレントという存在は何故か日本語を話せる。やっと複雑な質問に答えて貰えるのだ


「まず"魔人"とは俺の事でいいのか?」


「ハイ魔人サマは魔人サマデス」


「・・・お前の言う魔人ってどういうものだ?」


「昔ノ伝説ナノデスガ、魔人サマハ過去ニ一度ダケ現レタ存在デス。強力ナ邪気を操リ、我々魔ノ物ト共ニ勇者ヤ人間ト戦イ、ソノ戦イノ末ニ勇者ヲ倒シタダト聞キ及ンデイマス」


「昔の伝説ね・・・。どうして俺を魔人だと思うんだ?」


「ソレハ、トロルモ言ッテオリマシタガ、貴方サマガ人間デアリナガラ膨大ぼうだいナ魔ノちからを持ッテイルカラデス」


「魔の力?」


「ハイ、魔ノ者ナラ誰デモ持ッテイルちからデアリ、人間ハ持ッテイナイちからデス。デスガ魔人サマハ人間デアルニモ関カワラズ魔ノちからヲ持ッテイル存在。ソノ為、魔人サマダト判断シマシタ」


「魔の力・・・」


 魔の力を持っていると言われて、心当たりがないか考えていると1つ思い当たるものがあった。それはこの世界で得たというよりは変化した力。殺気だ。


「もしかしてこれか?」


 確認するために手に殺気を込める。

 殺気の基本的な扱いは元の世界と同じで変わってはいない。手の平を上に向けてその上に。すると紫色の霧の様な物がそこから現れる。そこで俺の殺気を操る技術を少し見せる事にした。せっかく視認しにんできるようになった殺気なので

 手の平にあった霧は次第に集まって行き、形を形成する。そうして出来上がったのは球体。視認できるようになった殺気で作った球体が手の上で浮かぶ。それを見て周りが驚きの声を上げるが、俺もあることに驚いて声を上げそうになった。


 殺気で出来た球体を掴めたのだ。なんとなく、特に理由なんてなく球体にしたが、殺気が見えるようになったことで何を思ったのか俺は自分の殺気で出来た球体を掴もうとした。殺気が見えるようになってしまったから、もしかしたら触れるのではないかと考えたのだ。

 そして触れた。しっかりと握れた。その時に気が付いた。殺気はただ見えるようになった訳ではなく"具現化"するようになったのだと。

 思い返せば殺気を込めた剣で居合を放った時に斬撃が飛んで行ったので、ただ視認できるようになった訳ではないとは思っていたが・・・


「オオ!マサカ魔ノちからガ見エル程トハ・・・噂ハ本当ダッタ!ヤハリ貴方サマは魔人サマデゴザイマシタカ」


「お、おう」


 すぐ近くにいたトレントの言葉で現実に戻されるように集中が解かれた。


 トレントの言った言葉を聞くと、この殺気が具現化するような力は"邪気"というもので過去に一度現れた魔人もこの力を使っており、俺は通常の人間にはない魔の力というものがあるらしい。トレントの反応からすると魔の力の上位にあるのが邪気というものっぽいが、詳しい話はまた今後聞くことにしよう。とにかくこれらの事から俺は魔人というものであるらしい。


「なるほど、魔人の事はわかった。次は・・・確かに配下になりたいとか言ってたな。あれはどういう意味だ?」


「ソノママノ意味デス。私モアソコノ"トロル"ト"ゴブリン"達ト同ジヨウニ配下に加エテ頂ケレバト思った次第デス」


「うん?」


 配下について聞きたいことがあるが、まずは"トロル"と"ゴブリン"について確認していこう。


「えーとまず、トロルっていうのはあいつらの事か?」


 俺はオーク(仮)に指を指して聞いた。


「ハイ」


「じゃあ、ゴブリンはあいつらか?」


 次にゴブリン(仮)を指さす。


「ハイ」


 なるほどオーガではなくトロルだったか、案の定間違えていたようだ。ゴブリンの方は合っていたようだ。せっかく分かったんだ、今後呼ぶ時は間違えないようにしよう。

 名称の確認ができたところで、話を元に戻す。


「それで、あいつらが俺の配下だと?」


「ハイ、ソノヨウニ先程ノトロルカラ聞イテイマス」


 最初にトレントとトロルが話たときにそのトロルが伝えたのか。だがそれ以前に俺はあいつらを配下なんぞにした覚えがないのだが。やはり言葉がしっかり通じないのは色々と誤解を生んでしまうようだ。ここはそれぞれの誤解を解くために一度話し合う必要がある。

 トレントがいるので通訳をしてもらえればあいつらの言っている言葉が解かるので今がチャンスだ。


「トレント、お前はあいつらの言葉は分かるよな?一度話し合う必要があるみたいだからあいつらの言葉を通訳してくれないか?」


「通訳・・・デスカ?ワカリマシタ」


「よし、じゃあ全員集合だ」





 この後トレントに通訳をしてもらったおかげで彼らとも会話をする事ができ、誤解は解けた。何でも最初に合った時―――彼らがひざまづいた時―――に配下になった事になっていたそうだ。あれにそんな意味があったとは夢にも思わなかった。とりあえずは全員配下ではない事を伝え、ついでにトロルに名称の間違いを謝っておいた。


「デハ改メテ、ココニイル我々ヲ配下ニ加エテイタダケナイデショウカ?」


 そもそもこいつらは何故配下になりたがろうとしているんだ?俺が人間と戦争するとか思っているのか?前の魔人が勇者と戦ったからとは言っても俺にそんな気はない。


「何故、配下になりたいんだ?お前らの目的はなんなんだ?先に行っとくが俺は人間と戦争だとか、勇者と戦うとかはしないぞ?」


「ソレハ、我々ニハ生キル目的ガ欲シイノデス」


「生きる目的?」


「ハイ、遥カ昔から我々魔物ハ魔王ノタメニ勇者ヤ人間ト戦ッテイマシタ。デスガ、100年ホド前ニ魔王ハ勇者ニ殺サレルノデハナク封印サレテシマイ、今ハイマセン。デスノデ我々ハ新タナ命令ノナイママ漠然ト生キテ、人間ト戦ッテイマス。仕エタ者ノタメニ生キ、働キ、忠義ちゅうぎヲ尽ス。ソレガ全魔物ガ持ツ欲望。ソレガ我々ノ生キル意ナノデス!」


「・・・」


 なんともまぁ、おかしな生き物だ。誰かの為に働き、尽くし、生きるのが生きる目的か・・・

 人間ではとてもじゃないが真似できない思想だな。俺も彼らの気持ちは全くわからない。出来れば働きたくないと思う方だからな。だからこそ、俺は魔物という生き物達をこんなにもあわれに思うのだろう。そしてできる事なら彼らを変えてやりたいと思うのだ。

 それは自分勝手なわがまま。だがそれでも俺は、彼らを変えたいと強く思ってしまった。


「・・・さっきも言ったが争い等は基本的にはないぞ?俺はのんびり生きたいからな。それでもお前らが良いなら、配下になってもいいぞ?」


「オオ!アリガトウゴザイマス!」


「ヴォ!」


「グガッ!」


 ―――プルンッ!


 スライムさんを含めた魔物達が一斉に返事をする。

 喜んでくれている姿を見るのはこちらも嬉しい。まずは彼らと一緒に居るのがいいだろう。その為に配下になってもいいといったのだが、この世界で長く生きるためにも色々とやることがある。その為彼らにはしばらく手伝ってもらうことになるが、しばらくは仕方ない。


「デハ、早速デスガ何カゴ希望ガアレバ何ナリト命令シテクダサイ。」


「そうだな、まずは・・・」


 まずはとりあえずの寝床を作ろう、木はあるし木造のシンプルなものでいいだろう。次に当分の食料を確保かな。

 いや、もういっそのこと完全に元の世界諦めてここに永住する事にしてしまおう。

 実際あの世界に戻っても就活をする面白味のない日々だ。それよりもこの世界で、未知を体験しつつのんびり暮らしていった方が楽しいだろう。

 とすると、ここを拠点にして色々と設備を揃えたいな。こいつらの家や畑も作ろう。

 そういえば近くに川があるんだったな。魚はいるのだろうか?釣りをするのも楽しそうだな。やりたい事が山積みだ。こういうのは以来だからか、久しぶりにやる気が込み上げてきた。


「よし、やるぞお前ら!俺たちが暮らす村作る!」



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