第31話 転移者たち


 それは、最上さいじょう さとるがこの世界に来る少し前。

 その男は"クセルセス宗教国しゅうきょうこく"内に突如とつじょとして現れた。


「は?」


 思わず声を上げて唖然あぜんとする男は何もなかった所から突然発生した。にも、関わらず周りの人々はその男が現れたという異常には気づいていなかった。

 クセルセス宗教国の大通りで真っ昼間という人がもっとも多く出歩いている時間というのに、誰も見てはいなかった。いや、認識できていなかった。


「どこだ?ここ」


 男は辺りを見渡した。辺りには多くの人が行き来いききしている。

 周囲の人々の服装はどこか古めかしい物のようで、男が着ているような現代の洋服ではない。

 男が棒立ちしている大通りは石畳で整備されており、見た感じ建築物も石や木が主に使用されている。

 とても現代の日本とは思えない。


「何がどうなってんだ!」


 男は思わず叫んでしまう。大きな声を出した事により、今まで気付いていなかった周りの人々がふと、思い出したように男の方を見た。

 周りの人は珍しい物を見るように叫んだ男を見た。男は急に注目をあびびてしまい、周りに変な目で見られていた。


「ねぇ、あなた。もしかして元の世界、日本から来たの?」


 少し恥ずかしい思いをしながら注目をあびびていると、1人の少女が男に声を掛けた。

 服装こそ周りと同じだが、その少女は黒髪に黒い瞳であり顔立ちも東洋とうよう風だ。

 周りの人々は金髪やら赤髪やら、といったカラフルな髪型で顔立ちも西洋せいよう風な人ばかりだ。

 そんな中で男に声を掛けたこの少女はこの世界では、男と同じ異質いしつな人間と言えるだろう。


「元の世界・・・それに日本からって・・・まさか!!」


「やっぱりあなた、私と同じ異世界人いせかいじん・・・"女神様"の言う通りだったようね。ここでは目立つから私についてきなさい。落ち着いた場所で話してあげる」


「お、おい」


 少女はそう言って男の手をつかむと、そのまま引っ張って行きクセルセス宗教国のハンター組合に向かった。

 クセルセス宗教国のハンター組合もアドルフォン王国の組合とほとんど同じように作りになっている。少女に連れられた男は服装が珍しいからか、それとも他の理由があるからか、周りから少々異質な目で見られながらも組合内の1つのテーブル席に腰を下ろした。


「ここなら落ち着いて話せるわ」


 少女が先に席に座ると、男は対面するように座った。

 そして先ほどの話の続きを話始めた。


「あ、ああ。それで、さっきの話なんだけど」


「ええ、分かっているわ。念のための確認だけど、あなたの出身は日本であってる?」


「おうよ、バリバリの日本人だ」


「そう。なら話は早いわね。ここはいわゆる異世界と言うやつよ」


「い、異世界!?」


 異世界それはもとの世界ではファンタジーの中の設定でよくあるもので、男の世界では定番のジャンルの設定の事だった。


「ええ。あなたは日本、というか元の世界からこの世界に転移してきた。異世界転移ってやつよ」


「・・・まじ?」


「もちろん。周りを視て映画のセットだとでも思うの?」


 彼女はいたって真面目に話している。

 男は彼女の目を見るがうそをついていたり、からかっている目ではない。言っている通り、真剣だ。

 男はもう一度、周りを見渡す。


 周りには同じ形のテーブル席に座っている人や、立って話している人がいる。

 何やら受付のような所もあり、大変にぎやかな場所だ。

 それに皆、日本人のような顔立ちではなく。日本人からすると外国人っぽい顔立ちだ。それに先ほども見たが、カラフルな髪色。どこの国にこれほどカラフルな髪色した人が右往左往している所があるというのか。

 そして、極め付けは周りの人の武装。

 この建物の中にいる人は中世でよくある鎧や剣を持った人ばかりだ。

 元の世界をしっている者としては、武装や建物を見て文明レベルの差が一目で解ってしまう。

 そしてそれらが、男の目の前に座っている彼女が言っている事の信憑性に繋がる。


「な、なんか理由でもあるのか?」


「え?理由?」


「ああ。俺が異世界転移した理由だ。俺は別によくある異世界転生ものよろしく事故って死んだりしてねぇし、そもそも主人公の柄じゃねぇと思うんだが」


「あなた、ここにくる瞬間なにしてたの?」


「ん?えーっとたしか、友人に映画に誘われたから家を出ようとして、玄関を開けて出た、次の瞬間にはあそこにいたんだ」


 そのとき男はドアを開けて自分の家から一歩出た瞬間、景色が一変したのだ。

 男の目線だと自分が瞬間移動したようにも見えただろう。


「そう。私と同じね」


「同じ?お前も映画を見に行く予定だったのか?」


「そっちじゃないわよ!」


「じゃあお前はこっちにきた時はどんな感じだったんだ?」


「ほとんどおなじよ。買い物に出掛けようと家から出た時、この世界に来ていたわ」


「・・・そうか」


 少女は家から出ていく理由は違えど、男と同じように自分の家から出た瞬間こちらに来ていた。

 家から出たという共通点しかないし、あまりにも唐突な出来事なため、情報もすくない。


「で、なんで自分が異世界転移したのか?という質問だったわね」


「あ、ああ、そうそう。なんか理由とか原因があったりするのか?」


「・・・正直言うとわからないわ」


 男は既にどこか受け入れていた。この世界の事を。

 だが、気になったのだ。なぜ自分がこの世界に来たのか。

 それは男がなにか"特別"な存在に憧れていたからかもしれない。


「ま、そうだよな。神様が間違えて殺したわけでもなさそうだしな」


「でも・・・」


 少女は一旦、言葉を区切る。そして彼女は自分の自身のある考えを口した。


「この世界にこうして来たっていう時点で私達はんだと、私はそう思っているわ」


 自分達は選ばれた。確かにそうだ。

 元の世界にいた億を超える人間の中からこうして異世界に来たのは自分たちだけだろう。もしかしたら、他にもいるかもしれないが、そう多くはないだろう。

 だから自分達は選ばれた。自分達は特別なんだ。


「・・・そう、だ。そうだな!正直な話、元の世界に戻ろうとかはあまり思わねぇ。まだこの世界の事は全くなんにもしらねぇが。俺は俺達は何億という人間の中から選ばれた少数。そんな選ばれた者だけがこれるこの世界が元の世界よりつまらねぇ事はねぇはずだ!!」


 男は少女と少し話ただけで燃えていた。

 この未知の世界で楽しむ自分の姿を想像しながら。彼は心のどこかで望んでいた"主人公"を描きながら。

 "特別"を信じ、"唯一"に燃えていた。





 それから異世界に来た男、林原はやしばら 一輝いつきは、異世界に転移してきて早々に出会った少女、高橋たかはし めぐみに様々な事を教えて貰った。


 まず最初におこなったのはハンター組合でハンターに登録することだった。

 恵は一輝よりも前にこの世界に来ており、既にハンターとして登録している。

 一輝は恵からハンターについて話を聞き「異世界によくあるやつだな!」とかなり興味を持った。その後ハンターになるためのハンター試験の事を聞かされた。

 一輝は試験内容を聞くと「俺じゃ無理だ」とすぐにやる気を無くしたが、恵の話によるとどうやらこの世界に転移してきたら特典とくてんのような力がそなわっているそうだ。


 「それもよくある設定だな」と言いつつも、その特典とやらを全く実感できてない一輝は半ば無理矢理に恵に試験を受けさせられた。

 試験内容はアドルフォン王国のものと同じで、試験官しけんかん模擬戦もぎせんをするというもの。

 一輝は何の対策も無しに試験を受けさせられた事について文句を言っていたが、いざ試験が始まり、順番が回ってきてしまった事で腹をくくった。


 一輝としては他の試験者が魔法やら剣やらで戦っていたのを見て、自分もやってみたいと思って見ていた。だが、自分の番が近づくにつれ不安になっていく。

 この世界は魔法があるらしいが自分には使えるような気配はない。そもそも魔法を使った事がない一輝にとっては、使えたとしてもどう使えばいいのかわからない。

 一輝は自分の番が回ってくる直前に模擬戦の観客席のような所から見守っている恵を涙目で見つめていたが、ニッコリと笑顔が返ってきただけだった。


 そして、ついに始まった試験開始の合図。

 一輝は覚悟を決めて、試験官と対峙たいじした。



 その結果は見事合格。

 一輝は自分でも驚くほど、異常なまでの身体能力を発揮はっきして試験官を倒したのだ。

 一輝は自分の身体能力の向上の事に驚き、大変喜んだ。

 「これが特典か!」といいながら本来の自分、元の世界にいた自分では出来ない動きで体を無邪気むじゃきに動かした。

 まるで誰かに後押しされているような、自分の貧相ひんそうな筋肉からは到底できないような動きや力がある。


 一輝は特典のおかげで見事、ハンターになった。

 登録の際、名前はこの世界に合わせて"イツキ・ハヤシバラ"にした。

 恵も同じように"メグミ・タカハシ"で登録していたらしい。

 そしてこの転移者2名はこの日からパーティーを組み。

 わずか数日でハンターランクのトップである、Sランクのハンターになったのであった。

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