第17話 スライムクッキング



アドルフォン王国を出た俺は国から離れた位置でジャックの枝を使用した。



「オ呼ビデショウカ。魔人サマ」


「ああ、これからそっちに帰るから転移魔法を頼む」


「オオ!ワカリマシタ!」



話終わると小さいジャックが枯れていく。だが、その前に小さいジャックを地面から引っこ抜く。こうする事でこの枝は枯れる事を止め、普通の枝に戻っていく。これでこの枝を再利用さいりようが可能となるのだ。


いつものように転移魔法が現れる。

俺の居ない1週間という帰還で魔物の村が一体どのようになったのかを考えるとワクワクする。俺は子供の様に心を踊らせながら転移魔法に入っていった。





「オ帰リナサイマセ。魔人サマ」



俺は圧倒された。転移魔法を抜けると大勢の魔物が俺を迎えてくれた。

スライムやトレントの当初に出会った魔物から、俺が依頼で出会った面々まで。総勢そうぜい200体以上いる魔物が俺を出迎えてくれたのだ。


後で聞いたら今この村がにいる全ての魔物が出迎えてくれたそうだ。



「ああ、ただいま」



しっかりと返事を返す。喋れない魔物は一部奇声をあげているが今は何も言わないでやろう。


その後、魔物達は解散し村の各地かくちに散らばっていった。俺は村を見て回るのを後にしてまずは自宅へと戻った。



「わが家だ」



自宅へと返ってきた俺は木の床に倒れ込む。

木の臭いが肺一杯に広がる。しばらくそれを楽しんでいると頭に動くものを感じた。

自分の頭の方に目を向けて見ると、俺を誘惑してくる水のように透き通った青い色のボディがそこにはあった。



「スラさん」



体を起こし胡坐あぐらをかいた姿勢になる。

スライムさんを掬い上げ自分の足の上に乗せる。スライムさんは特に嫌がる様子はなく、俺にされるがままだ。気づけば俺はそんなスライムさんを小1時間程いじくりまわしていた。





1週間振りにスライムさんをいじり、心身共に癒された俺はこの村を見て回るため事した。1週間居なかったのでこの1週間で何が変わったのかをジャックに説明してもらいながら村を回った。



「コノ前イワレテイタ倉庫ト住居ハ完成シマシタ。新シク加ワッタ者達ノハマダデスガ、ゴブリン、スライム、トロル達ノ住居ハ全テ完成シテイマス。」


「そうか!なら新しく来た魔物達にも住居を作ってやってくれ。住居の仕様は本人達に確認して何か要望があればその通りに頼む」


「ワカリマシタ」


「そういや、新しく来た魔物達は何かやってるのか?」


「ハイ。アンデッド種トゴーレム種ハ疲労ヒロウガ存在シナイ為、運搬作業ヲ行ッテイマス。次ニビートル種デスガ、彼ラニハ果物等ノ植物ノ成長ヲウナガス作業ヲシテオリマス。」


「なるほど」



新しく来た魔物達もしっかりと彼らに合った作業を行っているらしい。素晴らしい事だ。魔物にも得意、不得意が存在するし、種族の特性を利用した方法を考え作業を任せている。

すでに俺があれこれ指示しなくても良くなってきているな。



「そうだ、あの国で鍬と斧を買ったんだ。後でゴーレムとアンデッドの魔物達に渡そうと思う。これでゴーレムとアンデッドの一部を畑の作業と木を切る作業の方へ回してくれ」


「ワカリマシタ」



疲労がないのなら疲れずに延々えんえんと作業できる。

もちろん延々と作業をやらす事はない。疲労がない種族でも休みを取らせる予定だ。

しかし、疲労する種族より疲労しない種族の方が効率が良いし、なにより単純たんじゅん作業に向いているだろう。


そして俺は前にその畑に植える物をジャックに見繕みつくろってもらっていたのを思い出した。



「そういや、ジャック。前言っていた畑に植える物って何かあったか?」


「ソレデシタラ、コチラヲ栽培スル予定デス」



ジャックが自身の枝の上から取り出したのはバカでかい種だった。

その大きさはハンドボール並で手の平から余裕でハミ出る程だ。

こんな大きな種は元の世界ではあり得ない。もしあったら世界一大きな種でニュースにでも取り上げられていただろう。



「これは何の種なんだ?」


「コレハ、ミートフラワー、トイウ植物ノ種デス」


「ミートフラワー?」


「ハイ。真ッ赤ナ大キイ花ガ咲キマスガ、ソレガシボミ実ニナルト動物ノ肉ノ様ニナル植物デス」


「まじか」



そいつは凄い。肉食の魔物が増えて来たら家畜かちくを育てる事を検討けんとうしていたが、もしこのミートフラワーの事が本当なら肉には困らない事になる。本当にそんなものがあってもいいのだろうか。いや、ここは異世界だ。何があってもおかしくないだろう。

よし、そうと決まれば早速そのミートフラワーを畑で育てよう。



「その調子で他にも食料になりそうな植物があったら畑で栽培してくれ」


「ワカリマシタ」



どんどん村が発展していく事が大変喜ばしい。

だが、それは俺の力ではない。彼ら魔物達がやった事だ。俺はやることを指示しただけだ。

それ以外は全て彼らの力だ。

彼らは俺の為に働ける事がなにより幸せだ、なんて言うがそれでは俺の気が収まらない。


だからここは俺も彼らの為にできる事をしよう。



「今日は俺が旨いものでも作ってやるか」





俺は早速準備に取りかかった。俺が選抜したスライム数名と、昨日道具屋で購入した大きな鍋を用意する。


まずスライム3名に水を汲みに行ってもらう。その間に俺は倉庫に向かう。この倉庫は俺がハンターになる少し前に制作をお願いしたもので、ここにはスライム達が取ってきた魚やトレントが育てる果物。今後取れるようになる野菜等の食料を保管する場所だ。


俺はその一角にある蓋のついた木の箱をあける。



―――プルプルッ


「おう。お勤めご苦労様だ」



そこにはスライム達が取ってきた魚と1名のアイススライムが入っている。これはなにかというと、冷蔵庫だ。

アイススライムの特性を生かした簡易的な冷蔵庫になっているのだ。アイススライムの影響えいきょうで入っている魚はカチカチにこおっている。俺はそこから魚を何匹か取り出し、鍋の所に戻った。



「よし、これをよろしく頼む」



今度は取ってきた凍っている魚をファイアスライムの中に入れていく。何をしてもらうかと言うと、解凍かいとうだ。ファイアスライムはその名の通り熱を出せるスライムだ。その特性で魚の解凍をしてもらう。ファイアスライムの中に魚を入れ終わると、ファイアスライムから解凍された魚が吐き出される。


そこにちょうど水を汲みに行っていたスライムが返ってきた。解凍が完了したファイアスライムに更なる仕事をお願いする。ファイアスライム上に鍋を乗せて鍋を加熱かねつしてもらうのだ。

そしてその鍋に先ほどスライムが汲んできた水を入れてもらった。


鍋の水が沸騰ふっとうするのを待っている間に俺は魚をさばいていく。

そして鍋が沸騰するとその、さばいた魚入れる。だが、それは一瞬だ。魚の表面が白くなったら鍋から引き上げ、もう1人の水を汲んできてタプタプになっているスライムの中に入れる。これはしもふりという処理だ。


霜ふりとは、魚を熱湯に一瞬着けて表面が白くなったら冷水に落とし、表面のヌメリを流水りゅうすいで流しながら落とす処理の事だ。

この処理を行う事で魚の生臭なまぐささをかなりおさえる事が出来る。

今回はボウルやもう一つ鍋がないのでスライムの体の中で後半の処理を行ってもらう。



「もう一度頼む」



そしてその処理が終わると鍋に入ったお湯は一度廃棄はいきする。そこにもう1人のスライムが水を入れて、またファイアスライムに鍋を加熱してもらう。

沸騰すると先ほど霜ふりを行った魚をを入れていく。


今回は魚を使った鍋だ。調味料ちょうみりょうなどはないため味付けは味の濃い果物を使う。異世界の食べ物だからか、元の世界の果物と性質が違うのだ。

完成した魚鍋は塩味が効いたものに仕上がった。



「よし、出来た」





その後、薄暗くなってきた頃に村の全員を呼び、晩飯を振る舞った。もっとも肉食なのは今のところゴブリンと、トロルそして俺だけで、他のスライム、トレント、アンデッド、ゴーレム、ビートルは食えないそうだ。


アンデッドとゴーレムは魔の力を原動力げんどうりょくとしているとの事だったので、この世界に来て具現化ぐげんかするようになった俺の殺気を食わせてあげた。


スライムとビートルは液体しか食べられないので鍋の残り汁を美味しく頂いていた。


トレントは日光が食事なので今回は何も与えられなかった。トレントについては今後別の方法を考えようと思う。



食事を終えた俺は自宅へと戻った。

明日にはあの国に戻る予定だ。ここに布団などは無いため俺はスライムさんを抱き締め目をつぶった。



こんなににぎやかで楽しい食事は初めてだった。

今後、俺が返ってきた際は必ず今日と同じように賑やかな食事を行おう。

そしてそんな日々が長く続くことを俺は願う。



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