第16話 二人の女性



「ギシャァァアァァ」


「お、おう、ありがとな」


「ギシャァァ!」



ビジュアルがきつめの昆虫こんちゅう系の魔物、名前はギリガル・ビートル。カメムシととカブトムシが合体したような魔物だ。彼を配下というか村のメンバーにして、代わりに頭の触覚しょっかくを一本貰ったカケルはアドルフォン王国に帰還した。


彼がハンター組合に着くと組合に居た他のハンター達がひそひそと話し始める。当初はいきなりAランクのハンターになった新人という事でうわさになっていた。だが、それも最初だけで今は別の事で騒がれている。

カケルは最初の仕事を受けてから1日に3つ以上の依頼を受けていた。本来のハンターが1日に1つが限度なのに対してカケルは最低でも3つの依頼をこなす。普通のハンターと比べると3倍の速度だ。その噂は広まり今では、瞬殺しゅんさつという異名いみょうまで付いてしまっていた。



「お願いします」


「はい。わかりました」



カケルは先ほどの依頼書とギリガル・ビートルの触覚を受付に提出する。対応してくれるのは例の受付嬢だ。最初の方は常に苦笑いをしていたがここ数日で苦笑いからため息に変化していた。



「はい。これで依頼完了です。こちらが今回の報酬になります。」


「ありがとうございます」


「まだ依頼を受けられますか?」


「あー、いえ、今日はもうやめときます」


「そうですか、わかりました」



いつも同じ受付嬢に対応してもらっているので彼女もカケルへの対応がわかってきている。

今日はカケルはやることがあるため依頼は受けない。といっても先ほどので4つ目なのだが。

カケルのやることというのは、買い出しだ。

初めてハンターになってから明日で1週間だ。

それまで宿を取りこの国で寝泊まりしていたが、彼には自宅がある。その自宅がある魔物の村に帰還するのだ。そのため、この1週間で貯めた金で当初の目的であった道具の調達を行う。


報酬を貰い、ハンター組合から出ていく。そして、最初にこの国に来たときに見つけた道具屋に向かった。



「ちょっと待ちな」



カケルが組合から出て少し歩くと声を掛けられた。カケルが声の声の方を向くと1人の男がいた。その男は鎧と剣のを装備しており、どうやらハンターのようだ。



「瞬殺だがなんだが知らねぇがあまり調子にのるんじゃねぇぞ」


「・・・」



男がカケルに対して文句を言うがカケルはすごくどーでも良さそうに無言で男を見ていた。

こういう輩と話すのは時間の無駄で面倒なだけだからだ。



「おい!聞いてんのか!!」



無言のカケルを不快に思った男は更に声を荒らげる。だがカケルはそんなことなど意に介さず。その男を完全に無視して目的の道具屋に向かって歩き始めた。



「おい!てめぇ!!!」



当然、男は怒りをあらわにするがカケル全て無視。特に待たずに道具屋に向かう。そんな事をされて男は当然、怒り不機嫌ふきげんになる。



「てめぇ、聞いていた以上に調子に乗ってるようだな!今回は忠告だけにしてやろうと思ったがそっちがそんな態度をとるならもう容赦しねぇ!!」



ついに怒りが有頂天うちょうてんになった男は声を荒らげ後ろからカケルの事を殴りかかった。



「ッッ!」



だが、そんな攻撃を受ける達人など存在しない。男の拳は空を切り、戸惑う男の首筋に細い長剣が突きつけられる。

カケルは男の後ろに回り込んでおり、後ろから剣を首筋に当てている。



「・・・」



カケルは黙って男を威圧いあつする。無言の圧力とでもいうのか、そのカケルの威圧は男を恐怖させた。そして恐怖に負けたのか男は静に手を頭の上に上げ「わ、悪かった。許してくれ」と声を震させながらもカケルに許しをうた。


相手の戦意が喪失した事を確認すると、カケルは刀を離し、鞘に戻す。そして男には特に何も言わずに道具屋にあるいていった。





「か、かっけぇ~~~!!」



もちろんここは路地裏ろじうらでもなければどこかの施設ではない。道のど真ん中だ。そんなところで喧嘩騒ぎなど起これば少なからずもそれを見ている人はいるだろう。

この全身鎧で固めた人物は先ほどの一部始終の目撃者だった。










「聞いてくれよ!すっげーカッコよかったんだから!」


「はいはい。わかりましたからまずは落ち着いてください」



ある宿屋の一室で2人の人物が話していた。

1人は全身鎧で固めたた人物。もう1人は赤い瞳が特徴的で黒髪の女性だ。その容姿はまさに大和撫子やまとなでしこというような美少女だ。

2人・・・いや、鎧で固めた人物の方が一方的に先ほどの出来事について話していた。



「そしたらな!その人、いつの間にかその男の後ろに回り込んでいたんだ!そして見たこともない細い長剣をその男の首もとに宛てると、何も言わずにその男を威圧したんだ!すっげークールだった!そしてその男は声を震わせ謝ったんだ!その後、その人は特に何も言わずに去っていったんだ!すっげーカッコいいだろ!!」


「実際に見てないので何とも言えませんが、確かにカッコ良さそうですね」


「だろ!だろ!」



この2人はハンターだ。赤い瞳の方の女性がカエデ・スライフォール。もう1人の全身鎧の方はエリカ・フルソード。

彼女達は女性2人組・・・・・のCランクハンターだ。



「それでどんな人でしたか?」


「だから!カッコいい人だった!!」


「いえ、そうではなくて。どんな容姿の人でしたか?という意味です」


「容姿ぃ~?そうだなー。確か、見たこともない細い長剣を持ってたぞ!」


「それは先ほども聞きましたが・・・」


「後はな~、う~ん。あ、そうだ。何も鎧や兜といった防具なんかはつけてなかった!簡単な服と細い長剣だけの装備だった!」


「防具は着けず、珍しい長剣の男性ですか・・・」


「あと、そういえばカエデと同じ黒髪だったぞ!ここらでは珍しいのに」


「ッ!黒髪・・・ですか」



黒髪という言葉に反応するカエデ。だが、それも一瞬だけで、すぐにそのエリカが言っている人物の事についての思考を行う。

そして先日ある噂を聞いた事を思い出す。



「もしかしたら噂の瞬殺かもしれませんね」


「瞬殺?ああ!あれか!新しくハンターになったのにAランクで、あり得ない速度で依頼をこなしていくって噂の!」


「はい。実際に見たことないのであくまで噂で聞いただけですが、確かその人物も黒髪で防具といった物を装備してないそうです」


「くぅーあれが瞬殺かぁぁ!」



エリカは絶えずに「カッコいい!」と連呼れんこしているが、カエデは何か思う所があるのか考え込む。しかし、エリカがアホ見たいに同じ事を繰り返すのを辞めたときにはカエデは特に考え込んでいる様子はなかった。



「それで、どうしました?エリカ、もしかしてその人に惚れでもしましたか?」


「は、はぁ!?そ、そんな事ねぇーし!!確かにカッコよかったけど!あの人ならって思うけど!オレはそんな簡単落ちる女じゃねぇ!!」


「ふふっ、はいはい」


「あーバカにしてんな!」



エリカは来ている全身鎧をガシャガシャ音を立てて猛抗議している。彼女は全身鎧を来ているが中身はれっきとした女性なのだ。きっとそういう話はデリケートな問題なのだろう。はたから見て明らかに惚れた様子でも、彼女にとってはまだわからないのだろう。何てたって彼女達はまだ十代後半なのだから。









所変わってそのころ道具屋では1人の女性が話題にしていた男が買い物をしていた。



「お前さんハンターなんだろ?何で鍬なんて買ってくんだ?」



道具屋の店主から声が掛かる。その疑問は当然だ。ハンターの人間が畑仕事で使う鍬を買っていく何て事ない。まさか戦闘で使う何てことはないだろう。



「あーいえ、これは自分の村で頼まれましてね。お使い見たいなものです」


「そうだったのか!買い物の邪魔して悪いな。よし、邪魔したお詫びだ特別に値引きしてやるよ!」



カケルの嘘に納得した店主は邪魔したお詫び値引きしてくれるとの事だ。これにはもちろんカケルもありがたく値引きして貰うことにした。



「ありがとうございます。ではこれらをお願いします」



買ったのは鍬を5本。斧を5本。それと大きい鍋を1つだ。本当はもっと本数が欲しいが1人で持つにはこれぐらいが限度だ。合計で銅貨48枚だったが、店主が値引いてくれたので最終金額は銅貨44枚になった。



「まいど!」



購入したものを背負える大きめな袋に入れていく。これは先日別の道具屋で購入したものだ。

この袋は縦に細長いので斧や鍬を入れらるのだ。カケルは購入した物を全て袋に入れると道具屋を後にした。


その後カケルはいつも使っている宿屋――ブリスロード停――に返ってきた。1週間だったがしばらくあってない者達に会うのが楽しみになっていた。持ち帰る物を一通り確認すると、明日に備えて早めに寝ることにした。



次の日カケルは多少の寝不足になっていた。

今日が楽しみ過ぎて寝付けなかった訳ではない。隣の部屋からガシャガシャと騒音が聞こえてきて睡眠を妨害されたのだ。カケルは次から角部屋かどべやのみを取ろうと心に誓うのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます