第20話 昇格試験
謎の少女に逃げられた後、カケルは残されたアンデッド達と話し合った。そして話し合いの結果、いつもの様に彼らも魔物の村に来る事になった。
その際に組合の報告用として指定部位を一人一つずつ貰ったのだが、何しろ数が多い。カケルがいつも使っている麻袋が一杯になるほどだ。
その後も避難した村人に安全になった事を報告したりして、全て終わる頃には日が落ちかけている時間だった。村長は村を助けてくれた恩人を暗闇の中返す訳にはいかないと、カケルに「今日は泊まっていかないか?」と提案した。だがカケルはそれをやんわりと断り、すぐにアドルフォン王国に戻った。
カケルがアドルフォン王国に戻って来た時には既に日は落ちきっていた。
戻って来たカケルはそのままの足で組合に向かう。組合は基本的に24時間あいている。昼間より人はぐっと少なくなるが居ない訳ではない。
カケルは組合に入ると受付に向かい依頼の報告をしようとする。受付には二人の女性が立っており片方はいつもの彼女だ。カケルは迷わず彼女の方へ向かった。
「あら、お疲れ様です。緊急依頼だったそうですが大変でしたか?」
「ん?いや、そうでもないぞ」
「へぇ、そう。いつもよりは遅かったのでてっきり大変だったのかと」
「・・・まぁ数は多かったな」
受付嬢との他愛のない会話が終わり、カケルは麻袋ごと組合に提出する。
彼女はそれを受け取り「少しお待ちください」と一言いうと裏に言った。
「おお、カケル殿!無事で何よりだ!」
言われた通りに受付嬢の彼女を待っていると代わりに組合長のベトランが組合員専用の出入り口から出てきた。
また話があると言われカケルは再び別室に連れられた。部屋は同じ部屋だ。高級そうなソファがある。
「この度は依頼を受けて貰い、感謝している。お陰で多くの命が救われた。本当にありがとう」
「いえ・・・」
「そして報酬の件だが、今回は緊急の依頼だったんだ。討伐報酬に加えて特別報酬を出すつもりだ。これは君の仕事に対して当然の報酬だ。受け取ってくれるね?」
「ええ、もらえると言うのなら頂きます」
「よし。今回は少し金額が大きく、受付で受け渡しをすると他のハンター達に何か言われるかもしれんからな。ここに持って来させるようにしよう」
ベトランは一旦ソファから立ち上がり、外にいる
そして再び座ると今度は報酬の件とは別の話を始めた。
「実はこの機会にもう一つ君に話したい事があるんだ」
「はい」
「今回の事を含めて君の働きを見て、君の
「昇格ですか・・・」
「ああ、そうだ。こんなに早く昇格の話が出るのは
一日に複数の依頼を受けれるという事は移動速度はもちろん、魔物の討伐速度が速くなければいけない。それもほぼ苦戦することなくだ。
その時点でカケルの実力はAランクの魔物を瞬殺できるほどのものだと組合は判断していた。
「それに君の昇格を強く勧める者が2人いてな」
「2人?」
一人はカケルも心当たりがある。自分の実力をよく知っている男"テイテス"だ。ハンターになるための試験の時、軽くだが戦ったのでカケルの実力がだいたいどのくらいなのかがわかるだろう。思い返せば初めからAランクで始める事を提案したのもテイテスだった。
しかし後一人には心当たりがない。
「とにかく、それらの事を全て踏まえて君をSランクに昇格したいと考えている。既にこれは私1人の考えではなく、組合全体の考えだ」
これほど早くSランクに昇格する事は過去一度もない。過去、一番早くAランクからSランクに昇格した記録を持つハンターは現在Sランクでソロで活動してるハンター"ペェスタ・プラクター"である。
彼が出した1ヶ月という記録が今までの最速の記録だった。
「まだ急な話なので昇格試験の方も用意がまだだが、君にとって悪い話ではないはずだ」
別に昇格してSランクになった所でカケルにデメリットはない。受けれる依頼の範囲が増えるというメリットだけだ。それに受けれる依頼の範囲が増えるということは、より多くの魔物と出会う事が出来るということだ。そして依頼の難易度が上がるという事は当然報酬の額も上がる。
「その話、受けさせもらいます」
「そうか!ではこの事は私から組合全体に伝えておこう。昇格試験については、残念だが今はそれらしい依頼はなくてな。少し先になってしまうが許してくれ」
ハンターが昇格する時、試験を行う必要がある。
試験内容は現在のランクより1つ上のランク、すなわち昇格した際の難易度の依頼を1つ組合から指定される。その依頼を無事にこなせたのならその者は晴れて昇格できるというシステムだ。
もちろん同じ難易度の依頼の中でも、比較的難しい依頼や比較的簡単といった依頼はある。組合もそこは理解しており、いきなりそのランクの最高難易度の依頼を受けさせる。何て意地悪はしない。昇格試験の際はそのランクの中でも平均的なものから簡単なものを指定してくれるのだ。
―――コンコン、とドアがノックされる。
「失礼します。先ほど言われた件の物をお持ちしました」
どうやら先ほどベトランが頼んだカケルの報酬が到着したようだ。
「ああ、ご苦労」
ベトランは報酬の入った
持ってきてくれた組合員は渡した事を確認するとその場を後にする。
「これが今回の君の報酬だ。受け取ってくれ」
「はい」
カケルはベトランから手渡しで報酬の金銭が入った皮袋を受け取った。その皮袋はずっしりと重く、今回の件の報酬がかなりのものだと実感させる。
「今回は本当に助かった。改めて礼を言わせてもらう。昇格試験の事はまた追って話そう」
「・・・組合長。いい機会ですのでお話があります」
「ん?なんだね?」
「申し訳ないのですがこちらの
カケルは今のところ近場、それはこの世界のあいまいな距離で言うと馬で1日から3日掛かる程度の距離の事だ。
依頼は各地の様々な所からやってくる。依頼によっては片道だけで1週間掛かる所もある。もっともカケルが走ったら1週間も掛からず目的地に到着するが、村の事もあるのでカケルはなるべく遠出をしたくないのだ。
「ああ、その事か。その話なら受付穣の彼女から既に聞かされている。その件についてはもちろん
「なら問題ありません。これで失礼します」
最後に一言いってカケルは別室から出ていった。
1人残されたベトランは少し考えていた。それはカケルの移動手段についてだ。
短距離を望む理由、現地に向かう移動速度。何か関係があるとベトランは思うのだ。
だが、その話を直接カケルに聞くのは避けた。
あれほど優秀な人材にへそを曲げられてしまいハンターを辞めてしまってはおしいのだ。
カケルから話すのならともかく、こちらから過度な
「さて、私は私の仕事をしようか」
しばらくしてベトランは通常業務に戻っていった。
そこから5日後。Aランクのハンター2組とBランクのハンター1組が
依頼にはない魔物
「まさか"リビングデッド"が現れるとは・・・」
「これはSランクの中でも上位の案件ですね」
組合長のベトランと1人の事務員が話している。
重症を負った一人のハンターからなんとか聞いた話を元に乱入してきた魔物を調べていると一体だけ該当する魔物がいた。
今回、依頼に乱入する形で現れた魔物は恐らく"リビングデッド"と言われるアンデッドだ。
その魔物は最上位のアンデッドとして登録されている。Sランクのハンターでも楽には倒せないほどの魔物だ。
組合の記録を
それもそのはずリビングデッドは一定の
そもそもアンデッドという魔物が生まれるシステムは、人間が死亡しその死体が
それが
そしてそんなアンデッドの最高峰がリビングデッドと言うわけだ。今の所は
「どうしますか?組合長。今Sランクハンターの皆さんは全員別の依頼に出てしまっています。このままリビングデッドを
「ああ、分かってる。今、考えている」
ベトランは頭を抱えて悩んでいる。
出来ればリビングデッドの行方が分からなくなってしまう前に討伐したいところだ。だが、それを可能とするSランクハンター達はタイミング悪く全員、別の依頼を行っている最中だ。
(連絡魔法でSランクハンターを1組呼び戻すか?いや、だが彼らの受けてる任務もSランクのもの、先延ばしに出来る案件ではない。・・・そうだ!彼なら!)
「そのリビングデッドが出現した場所はどこだったか?」
「え、場所ですか?たしかヒエロ
「馬で3日か・・・なら引き受けてくれるかもしれないな」
「何か考えがあるんですか?」
「ああ。この依頼は今度Sランクに上がる予定のハンター・・・ブラックボルトに任せようと思う」
「それで、話とは?また緊急依頼ですか?」
組合に来ていたカケルはまたもや組合長に呼び出されまた別室で話していた。
「いや、正式には緊急依頼ではないのだが出来れば早めに対処したい内容のものだ」
「はぁ・・・」
「簡単に言うと、
「それで俺ですか?」
「そうだ。今回Sランクの昇格試験を控えてる君にこの依頼をお願いしたい。そしてこの依頼を達成してくれたら、その時はこの依頼をもってSランクのハンターと認定しようと思っている」
「なるほど。昇格試験も
「そうだ。もちろん
「・・・」
Sランクでも上位の難易度。しかも滅多に表れない魔物だそうだ。
カケルは個人的にはその魔物を見てみたいという気持ちが強い。もちろん昇格すれば今まで見たことのない魔物といくらでも出会えるだろう。だが今回、ベトランが言うにはその魔物は過去に4回しか現れた事がないという、かなりレアな魔物らしい。
もしかしたら今回を見逃せばもう二度と会う事は無いかもしれない。そう考えると断れなくなるのは日本人だからかもしれない。
「場所はどこら辺なのですか?」
「君ならそういうと思ったよ」
すでに場所の事を聞くと読まれていたらしく、ベトランは素早い手つきで地図を取り出した。
「場所はここ、ヒエロ高原という所で距離は馬で3日ほどだ」
「3日ですか」
3日というのは今の所カケルが受けたことのある依頼の中で一番長い距離だ。もっともカケルが走れば1日も掛からず到着できる距離だが。
「わかりました、この依頼受けます」
「そうか、良かった!依頼の手続きとかはこちらで全てやっておく!君はいつでも出発してくれ!」
「わかりました、ありがとうございます」
カケルは喜ぶベトランに一言だけ言い、組合から出ていった。
そしてこの後、カケルはこの世界でおもわぬ存在と出会う事になる。
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