第26話 力を伝えるには
そのために俺を
そして見事、俺は
だが俺はこの流派を次に残そうとは思っていなかった。
教えるのが面倒だったり、と個人的な理由は色々ある。だけど1つ、大きな理由を上げるしたらそれは俺以外の人物がやると思っていたからだ。
俺は
だから俺以外の
しかしどういう理由か知らないが俺はこの世界に来てしまい、
あの
もしかしたら俺が去った後で新しく弟子を取っていたかもしれない。だが元々、高齢だった事を考えると例え新しく弟子を取ったとしても殺刀気真流の全てを伝えられているとは思えない。
もし俺が誰かに
世界は変わってしまったがこの世界でもし俺が
(だが本当に目の前の少女に教えていいものか・・・)
教えるのは、まぁいい。だが、実際に教えた後はどうなる?
今現在、この世界での力の使い方の大半は魔物を殺す事に使われているだろう。
この少女が力を付ければその分、魔物が殺されることになる。
(ダメだな、この少女に教えるのは。いや、人間に教えるのは止めておいた方がいいかもしれない。別に教えるのは人間じゃなくても、村のアンデット達でもいいんだ。いや、それがいいかもな。戦力増強にもなるし一石二鳥だ。そもそも既に
村に戻ったらやる事を頭のなかで整理すると、目の前の少女と目が合う。彼女は
「ダメだな」
しばらく考えていた俺が返事を返すと、俺の答えを待っていた少女は目に見えて
肩を落とし、少し涙目にもなってしまっている。
「そ、そうですか・・・」
落胆してる緑髪の少女に変わり、黒髪の少女が返事を繋げた。しかし緑髪の少女は納得いってないのか黒髪の少女の言葉に続けて口を開き、すこし震えた声で質問してきた。
「そ、その・・・どうして、ですか?」
どうして。それを言われると俺は返事に悩む。
理由は魔物を少しでも死なせない為に、
俺は上手い受け答えを考えるが、なかなか良いのが浮かばない。そこで俺は彼女の質問に質問で返す事にした。
「逆に聞くが、お前はどうして俺に剣術を教わりたいと思ったんだ?剣士のハンターなら他にいくらでもいるだろう」
「それは・・・」
今度は少女が言葉に詰まる。
どういった理由で俺の事を知ったのかは知らないが、剣術を教えるのは別に俺じゃなくてもいいだろう。
なぜ俺なんだ。まさか、彼女はあの力の事を知っているのか?いや、それは流石にないか。俺があの力を誰かに見せたのはまだ2回だけのハズだ。
「そ、それ、それは・・・っ!」
緑髪の少女が
黒髪の少女もそれをかなり心配そうに見守っている。そして彼女は言葉を
「ひ、ひひ、一目惚れしたからっ!・・・です・・・」
「・・・えぇぇぇ!?」
隣にいる黒髪の少女は、緑髪の少女がそこまで言うとは思ってなかったのか物凄く驚愕した表情だ。
そして、緑髪の少女の理由・・・
なるほど。俺に恋愛感情があるからか。それは
「なる、ほど・・・」
少女は先ほどの発言がよほど恥ずかしかったのか、顔をリンゴのように真っ赤にしている。黒髪の少女もなぜか顔が赤い。彼女達は混乱しているようで「どどどどどうしよう」「どどどどどうしましょう」と言った言葉を発し、慌てふためいている。
「ああ、あ、あ、ああ、あのっ!さ、さっきの言葉はなんというか・・・言葉のあや、というか、なんとか・・・その・・・」
緑髪の少女が慌てながらも何か言っているが、俺はその言葉を遮って1つ提案をする。
「1つ・・・
「はい!・・・え?、条件・・・ですか?」
「そうだ。その条件を守れば俺がお前に剣術を教えてやる」
「本当ですか!」
緑髪の少女は俺の話に飛ぶように食いついた。
「ああ、本当だ。そしてその条件は、魔物を殺さない事だ」
「「え?」」
俺の話を聞いていた2人の少女の声が重なった。
「俺が
俺の提案を聞いた2人の少女はお互いに顔見合せ、考えている
「答えは別に後でもいい、決まったら伝えに来い」
俺はそう言って席から立ち上がり、そのカフェを後にした。
そのテーブル席に残ったのは1つの空のカップとまだ半分ほど紅茶が残ったカップが2つ、そして悩む少女が2人だけだった。
(なぜ、あんな提案をしたのか・・・)
俺は大通りを歩きながら先ほどの自分について考える。俺のこの力は人間に伝えるべきではないと、一度結論が出たハズだ。
なのに、なぜあの提案を持ちかけたのか。なぜ条件を飲めば教えると言ってしまったのか。
(かなり複雑な感情だな。自分でも把握しきれない)
おそらく、あの少女が俺に教わりたい理由を言った時にこの複雑なものは生まれたのだろう。
(恋愛か・・・)
今、思えば俺が提案した条件は穴がある。俺が認めるまで、といったが認めてその条件から外れた後に少女が魔物を殺そうとすれば意味がないじゃないか。
(なにしてるんだ、俺は)
明らかに動揺している。そして原因となっている感情は言い表せないときた。
俺はしばらく悩みつつも普段より少し早歩きで宿屋に向かった。
その日。寝る時にはその複雑な考えはいつの間にか無くなっており、彼女にどう教えていくかのプランを考えていた。
そしてこの日を境に俺の頭の中の
「行ってしまいましたね・・・」
「・・・」
あの後、残されたカエデとエリカはしばらくカフェの席に残っていた。
「どう・・・しますか?その、先ほどの話」
「どうするもなにも、あんな条件・・・無理だ」
カケルが出した、
それはハンター稼業で生計を立てている彼女達からすれば難しい話だ。
ハンターは主に魔物を討伐する仕事。それを一時的とはいえ止めろと言われているのだ。もちろん二人ともある程度の貯金がある為しばらくは働かなくても大丈夫なのだが、その状態がいつまで掛かるかもわからない。
「私は、あの条件を飲んで剣術を教えてもらった方がいいと思います」
「え?」
悩んでいるエリカをしり目にカエデが自分の考えを口にした。
「ど、どうしてだ?しばらく、ハンターとして活動出来なくなるんだぞ?」
「それでも、です。ハンターとしてしばらく活動出来なくなったとしてもエリカは彼から学び、強くなってください」
「でも・・・っ!」
「ここで力を付けなければ、私たち"リリーハンガー"は先に進めません。エリカもそう思ったのではないですか?」
「それは・・・そうだけど」
「私なら大丈夫です。エリカが強くなるまで待ってますから。この2年間でお金の方も
エリカは
彼がダメだったら他の人に頼もうと思っていた。元々はダメもとでカケルに剣術を教えてほしいと頼んだのだ。
しかしパートナーであるカエデが自分の事を想ってここまで言ってくれている。
エリカは人生で一番、悩んだ。
自分の
そして決めた。
「・・・わかった。オレ決めた!彼に教わってくる!」
「エリカ・・・!」
「カエデには待たせちゃうけど・・・」
「私なら、しばらく大丈夫ですから!・・・でもなるべく早くお願いしますね♪」
「ああ!わかってる!できるだけ早く、強くなって帰ってくる!」
「その時は、彼とどこまで言ったか聞かせてくださいね?」
「ん?どこまで・・・?」
エリカはカエデの言葉を理解するのに時間が掛かる。そして、カエデの言葉の意味を理解すると、エリカの顔は赤く染まっていった。
「これは・・・あまり期待しない方がいいかしら?」
「えっ!?」
その後も恋愛関係の事でカエデがエリカをからかい、エリカが顔を真っ赤にして言い争っている状況が続いた。
しばらくすると2人とも落ち着いたのか静かに顔を見合せ、笑った。
「では、返事を言いに行きましょうか」
「おう!」
そう言って2人はカップに残っていたものを同時に飲み干した。
「すっかり冷めてしまってますね」
「そうだな」
2人は仲良さそうに笑いあっていた。
カフェを後にした2人はカケルに返事をしようと思い歩いていた。
そこで2人はあることに気づいた。
それは待ち合わせの場所や時間などを指定されてなかったのだ。どこでどうやって会えば良いのかわからない。2人は考えた結果、とりあえずハンター組合に向かう事にした。
しかし、組合のどこにも彼の姿は見えなかった。
組合内でカエデが
その後、組合を出た2人は大通りに出てカケルを探し回った。
道中、待ち合わせの指定などをしなかったカケルに対して「以外と抜けてる所もあるんですね」と2人が少しバカにしたように話していた。
「今日は一旦、宿屋に戻りましょうか。また明日、探しましょう」
「そうだな」
結局カケルは見つからず。2人はいつもの宿屋、"ブリスロード亭"に戻って来た。
「えっ!?」
彼女達が受付に行くと受付に1人の男が立っていた。それは彼女達がさんざん探し回っていた人物。カケルだった。
偶然にもカケルもこの宿屋を利用していたのだ。
このブリスロード亭は安い事を売りにしているごく普通の宿屋だ。もちろん安いため
だからSランクハンターであるカケルがこの宿屋を利用している事に、2人は驚いた。
自分らと同じ格安の宿屋を使っているとは思わなかったのだ。
カケルとしては寝床の品質などはどうでもいいに等しいため、ただ単に安いから利用しているだけだったりする。
「あ、あの!」
エリカがカケルに話掛ける。カケルは声に気がつくと2人の方に向く。カケルは特に表情を変えずに返事を返した
「ん?・・・お前らか。返事は決まったのか?」
「はい!」
エリカ決意した表情で、カケルに自分達の答えを言った。
「オレはあなたに認められるまで魔物を攻撃しないし、殺しません。だからオレに剣術を・・・いや!オレを強くしてください!」
エリカの答えを聞いたカケルは特に驚きもせずに、表情も一切変えなかった。だが―――
「わかった。明日から始める。今日は休んでおけ」
そう言ったカケルの言葉は何処か嬉しそうだった。
その後それぞれが明日に
翌日、エリカはいつもより早く目が覚めた。
今日から始まる特訓の事を楽しみにしており、そのため目が覚めてしまったのだ。
エリカがふと、ベットを見ると隣でカエデが寝ている。
しばらくその整った容姿を眺めていると、カエデも目を覚ました。
お互いに「おはよう」と挨拶をする。
その後カケルとの特訓が始まるまで色々と雑談という名のカエデによるエリカいじりが繰り広げられるのだが、実はエリカ本人はこのやり取りを気に入っていたりする。
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