第2章  Monster situation

第25話 キッカケ

 

 それは、俺が受付で報酬ほうしゅうをもらった後だった。


「君が今、うわさになっているブラックボルトだろ?」


 今日は依頼が少ないとの事だったので一件だけ受けた。そしていつも通り依頼を終わらせ報酬を受け取り、泊まっている宿屋やどやに帰ろうとした時にある男に話しかけられた。


 この男は初めてのこの国に来た時にいきなり攻撃こうげきしてきた奴だ。

 この世界で自分の言葉が人には通じないと知る切っ掛けの男だ。今はリックの魔法で言葉が解るが、あのときは何を言っているかわからなかった。

 そういえばすっかり忘れていたが意識を飛ばした後、完全に放置ほうちしてしまった。組合にいるという事はどうやらこの男はハンターだったようだ。


 男は初めて会った時と同じく、大層たいそうな鎧と剣を装備している。

 今思えばあの時この男は依頼を受けてる途中だったのかもしれない。これから依頼の現場に行く途中に俺達に出会ったのかも知れないな。

 まぁ今はそんな事を考えてる場合ではない。

 この状況はまずい。こいつは俺が魔物と一緒に居た所を見ている。その件で話しかけてきたのだとすると。かなり面倒な事になる。


「なにか用か?」


「いや、用って程でもないんだが・・・新しくSランクになった人物がいると聞いてね。少し挨拶をしたかったのさ」


 それだけか?もしかしてこいつはあの時の事を覚えてないのか?

 いや単にあのときの人物が俺だとは思ってないだけかもしれない。だがどっちにしろ好都合だ。

 あの時の事がバレてはないのなら、ここはさっさと話を切り上げよう。何かの切っ掛けで思い出してしまうかもしれないからな。


「なら挨拶はできたな」


 俺はそう言ってその男のとなりを通り過ぎようとした。


「まぁ待ってくれないか?」


「・・・なんだ?」


「君の顔を見たら・・・少し聞きたい事が増えてね」


 バレたか?いや、まだわからない。だがの状況は想定しておくか。


「君・・・前にどこかで私と会った事はないかい?」


 ・・・まだバレてはなさそうだな。恐らくあの時と今では服装が違うのと言葉が通じてることで、同一人物だとは確信できてないのだろう。ならここはシラを切らされてもらう。


「いや、ないな。お前とは初対面しょたいめんだ」


「そうか・・・私の勘違いだったようだ」


「・・・もういいか?」


「まぁ待ってくれ、同じハンターとして聞きたい事がもう1つあるんだ」


 最悪にはならなかった事に安堵したのも束の間。話は終わらなかった。

 こいつ、まだなにかあるのか。さっさと切り上げたいが、変にこいつに目を付けられると後々あとあとなにかが原因げんいんでバレるかもしれない。ここは合わせよう。


「なんだ?急いでいるんだ早くしてくれると助かるんだが」


「時間を取らせてしまって悪いね。聞きたい事というのは、ハンターになった理由だ。君は何故ハンターになったんだい?」


「ハンターになった理由?」


「そうだ。例えば私なら、この世界の魔物を全て殺して魔物をほろぼすという目標があってハンターになったんだ」


「なに・・・」


 この男の目標は全ての魔物殺し、魔物をほろぼす事だと?

 この男は魔物に相当なうらみでもあるのか・・・はたまた、なにか別の思惑おもわくがあるのか。

 まぁどこの誰がどんな目標、目的を持っていてもそれはそいつらの自由だ。知らなければ俺にはなんも関係ない事だ。

 だがこいつは知らないだろうが俺の仲間を、村の家族を殺したいと思っていて俺はそれを知ってしまった。今後、おそらくこいつは敵対てきたいすることになるかもしれない。


「おいおい、そんなに警戒しないでくれ。ただちょっと個人的に知りたいだけだ。他意たいはないさ」


 俺は先ほどのこいつの発言を聞いて、無意識に殺気を漏らしてしまっていたみたいだ。

 さいわい、こいつには警戒しただけと思われたようだ。俺は苛立ちを押えて、こいつの質問に答えた。


「俺がハンターになった理由は・・・家族の為だ」


「家族か・・・なるほど。わかった、ありがとう。これ以上は聞かないよ、時間を取らせて悪かったね」


 俺の答えに満足したのか、その男はそれ以上話しかけては来なかった。俺はハンター組合を出ていき、宿屋に向かった。



 魔物か。思えば俺が配下・・・というか村に誘っている魔物以外は今もどこかで誰か知らないハンターに殺されているのだろう。今まで気にしないようにしていたが、さっきの男のせいでまた考えてしまっている。

 この世界に、数多くいる魔物を全てをあの村に誘う事は出来ない。この世界に魔物は全部で何体いるのか見当もつかない。そう思うと、俺と出会った彼らは運が良いといえるのだろうか。

 そんな事を考えながら宿屋に向かって歩いていると―――


「あ、あの!すみません。少しいいでしょうか?」


 ふと後ろから声が掛かる。それは男の低い声ではなく女性らしい高い声だ。


「なんだ?」


 振り向くと、そこには2人の女性がいた。

 片方はこの辺では珍しい黒髪でひとみが赤い少女だ。もう一人は緑色の髪でショートヘアーの少女だ。2人ともこの世界らしい服装を着ており、ハンターには見えない。

 俺はすぐに記憶を辿り、2人を探すが俺の記憶ではこの2人に見覚えはない。初対面だ。そんな俺に一体なんの用だというのか。


「今日はあなたにお願いがあって来ました。少しお話したいのですが、お時間を頂いてもよろしいですか?」


「先に要件を言ってくれないか?」


「え、えーっと・・・それは・・・」


 なにやら戸惑とまどっている少女2人は「ほ、ほら、言ってください」とか、「心の準備がぁぁ・・・」といった言葉をコソコソと言っている。

 これはここでは言いづらい話なのかもしれない。正直、こいつらの話を聞いてやる必要はない。だが今日は依頼を1つしか受けてないため、かなり時間がある。ハッキリ言うと・・・まぁ暇だ。この後は宿屋に一度戻ってまた道具屋などを見に行こうとでも思っていた所なのだ。しかし今から夜まで街をぶらついてるだけでは飽きる。ならここは彼女達の話を聞くのもいいかもしれないな。


「はぁ、わかった。何処か落ち着いた場所で話そう」


「え、あっはい!」


 普通にどんな内容の話なのか気になるしな。


「でしたら、"カフェ"なんてどうでしょうか?」


「カフェ?」


「はい、座って話せますしどうでしょうか?」


 カフェだと?この世界にもあるのか?

 いや、元の世界のものと同じものではないかもしれない。たまたま名前が同じだけの可能性もある。

 そういえばそもそも俺はカフェにいった事がないな。だからか?少し気になる。


「わかった。案内してくれ」


「はい!付いてきてください!」


 俺は黒髪の少女に案内されて、この世界のカフェに向かった。

 数分歩くと変わった店が見えてくる。


「ここです」


 いや、カフェじゃん。

 ついツッコミたくなるほどにカフェだった。

 そのカフェは店内席は存在せず、屋外席しかないカフェだった。注文するカウンターが外に出ており、そこでメニューを選び注文できるようだ。

 大通りから少し外れた所にあるこのカフェは中々良い雰囲気だ。

 少し変わっているが、基本的には元の世界のものと同じものらしい。

 俺達3人はテーブル席の1つに座った


「なにか、頼んできますよ?お金は私が出しますので、気にしないでください」


 黒髪の少女がなにかおごってくれるそうだ。

 だが俺はここには初めて来たのだ。そのためこの店のメニューなんてものは知らない。

 個人的にはじっくりとメニューを確認したいが、俺はこの世界の文字がわからない。仕方ないがここは適当に選んでもらおう。


「何でも良い。適当に選んでくれ」


「わかりました」


 黒髪の少女が注文しに行くと、残された俺と緑髪の少女の間になかなか気まずい雰囲気が漂う。

 まぁそういう雰囲気になるのも仕方ないなと思っていると三つのカップを乗せたトレイを持った黒髪の少女が戻ってきた。カップの中身は薄い赤色の暖かい飲み物だ。元の世界の紅茶こうちゃに良くにている。

 恐る恐る一口だけ飲んでみると、本当に紅茶の味がした。

 ・・・マジで紅茶かよ。


「それで、なんの用なんだ?」


 いや、そもそも紅茶は外国の飲み物だ。それに茶葉にお湯を注いで抽出する方法なら昔からあっても不思議じゃない。なら外国の中世っぽい文化のここで紅茶があってもおかしくはない・・・のか?

 頭の中が紅茶でいっぱいになりつつあるが、改めて先ほどの話の事を聞く。


「ほ、ほら。エリカ。貴女から言ってください」


「う、うぅぅぁ」


 こいつら、どれだけ言いづらい事を話そうとしてるんだ?

 紅茶を飲みながら中々話し出さない少女を待っていると、いつの間にかカップから紅茶がなくなりそうだった。あまりにも話し出さないので「おかわりもらえる?」と聞こうとしたと時、緑髪の少女がついに口を開いた。


「オ、オレに・・・剣術を教えて下さい!」


 エリカと呼ばれた少女が、やっと口にした内容は思っていたより大した内容ではなかった。

 なぜ、こんな程度の事を言いづらそうにしていたのか。それぐらいの話なら立ち話でも良くないか?など色々考えた。

 だが、剣術を教えてほしい。と言われた時に真っ先に頭の中に浮かんだのは―――


  ―――師匠じじいの事だった。

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