第23話 二つのパーティー


 アドルフォン王国より南西にある村。

 その村の付近で魔物と戦っているハンターが居た。

 

「はぁぁぁ!!」


 鎧を着た少女が長剣で複数のゴブリンに切りかかる。

 少女の振った長剣はゴブリン達の胸元を切り裂いた。何体かはその攻撃で絶命ぜつめいするが、数体は攻撃が浅かったのか生き残った。


「グガッ!」


 まだ生きているゴブリンが仲間のかたきつため、少女の攻撃のすきに襲い掛かろうとするが―――


「《炎の稲妻/フレイム・ライトニング》!」


 ―――それはかなわなかった。


 突如として襲来しゅうらいした赤い稲妻は襲おうとしたゴブリンを貫通し、その後ろにいたゴブリンまでの命を焼き切った。

 突然、仲間が死んだ事に他のゴブリンは驚く。その隙を見逃さず、鎧いの少女は残りのゴブリンを切りつけた。


「グガ・・・」


 最後の一体が短い鳴き声を上げてゴブリン達は全滅した。

 鎧の少女は「ふぅ」と一息つくと長剣を鞘に納める。そして短剣を取り出し、倒したゴブリンの死体から組合に提出する用の一部を切り取っていく。そうしている間に少女の後方にいた魔法使いの少女が彼女に近づいた。


「今日は無傷で出来ましたね」


「うーん・・・まだまだだけどなぁ」


 鎧の少女はゴブリン達の一部を切り取りながら魔法使いの少女の質問に答えた。

 彼女達は"カエデ・スライフォール"と"エリカ・フルソード"。2人のコンビで"リリーハンガー"というチーム名で活動しているCランクハンターだ。



「こちらが報酬になります」


「はい。ありがとうございます」


 無事に依頼を終え、アドルフォン王国に戻ってきた"リリーハンガー"の2人は組合に依頼の完了報告をすると宿には戻らずに組合内に設置されているテーブルの1ヶ所に腰掛けた。


「どうしました?エリカ。あんまり浮かない顔をしてますが?」


「カエデはどう思うんだ?オレの事」


「エリカの事・・・ですか?」


「そうだよ。今回はたまたま無傷だったけど、いつもそうって訳じゃない。いつもオレがカエデの足を引っ張ってる。私のせいでもう2年もCランクのままだ」


「そ、そんな事は・・・」


 カエデは少し言葉を詰まらせる。カエデとエリカに実力差があるのは事実だ。しかしそれはエリカが悪い訳ではないし、もちろんカエデが悪い訳でもない。エリカは他のハンターと比べるとかなり頑張ってる方なのだ。だが、カエデの魔法の才能がエリカの努力を見劣みおとりさせる。


「正直に言ってくれていいぞ」


「足を引っ張るなんて・・・そんな事ありません!エリカは頑張ってます!」


 カエデはエリカの言うことを否定する。

 確かに実力差はあるが、足を引っ張ってるなんて事はけしてない。エリカが前衛に出てくれるからこそ後衛のカエデは安心して魔法を打ち込めるし、討ち漏らしてもカエデが必ず仕留めてくれると信じているからこそエリカは目の前の敵に集中できる。

 彼女達はしっかりお互いの事を信頼し合っており、だからこそ連携がとれているのだ。


「でも・・・」


 だが、エリカには自信がない。2年もの間、ハンターランクは変わらず"C"のままだ。

 カエデはこの2年間でいくつか新しい魔法を覚えた。それに対してエリカは、いまいち成長していない。身体能力や技術は2年前と比べると確かに上がっている。しかしがないのだ。魔法使いの様に新しい魔法を覚える訳ではないため目に見えての進歩しんぽが、成長が実感できないのだ。


「んーそうですね・・・」


 コンビでハンターをやっているのだから、1人の悩みはリリーハンガー2人の悩みだ。

 エリカの悩みを聞いてカエデは真剣に解決方法を考える。しばらく考えていると一つの妙案が思い浮かんだ。


「ではそこまで自信がないのでしたら、誰かに教わるというのはどうでしょう?」


「教わる?」


「はい。自分より強い人に教わり、そこでなにか技などを盗んだり出来ればエリカの自信になるのではないでしょうか?エリカは今まで独学どくがくで戦士をやって来ましたから、技術を得た感覚がないのではありませんか?戦士として成長を感じられないのは、そのせいかもしれません」


「おお。な、なるほど・・・」


 カエデの提案に一理あると思ったエリカだがよくよく考えてみると1つ難点があった。それは1人では出来ないとうい事。誰かに頼んで教わらなければならないのだ。それにその誰かに心当たりはなかった。


「教わるにも誰に教わればいいんだ?」


「それは・・・。私が提案しといてあれですが、知り合いにはいませんですし・・・」


「オレの知り合いにもいないな。いたらとっくに頼んでるかもしれないしな」


「そうですね・・・。あっ!引き受けてくれるかは分かりませんが、どうせならという事で良い候補こうほがいました!」


「ん?だれだ?」


「"ブラックボルト"さんですよ!ブラックボルトさん!」


「えぇぇぇぇぇ!!?」


「候補としては最有力ではないですか?エリカの想いを寄せている人でもありますし」


「べ、別に好きって訳じゃない!ちょっと憧れているだけだ!それにブラックボルトは最近Sランクに上がったって聞いたぞ!そんなすごい人がオレみたいな下っ端したっぱ戦士に時間を取ってくれる訳ないだろ!?」


「そうでしょうか?実際に頼んでみなければ分かりませんよ?」


「ムリムリムリムリ!」


「いいじゃないですか!ほら、さっそく受付に行って彼の事について聞きましょう!」


「ちょ、ちょっと、カエデ!」


 筋力で劣る魔法使いであるカエデに引きずられているという事はエリカは本気で拒絶している訳ではなかった。やはりどこか期待している。それに気が付いたカエデは意気揚々とエリカを受付まで連れていき、そこでブラックボルトについて聞いた。

 だが、今日は組合に顔を出していないという答えが返って来た。


「今日は来てないそうですね」


「なぁカエデ、やっぱり別の人にしないか?」


「いえ、ダメです。エリカの思い人で戦士という条件に当てはまるのは彼しかしいません!」


 フンスと鼻息を荒くして、本人を他所に何やら張り切っているカエデ。彼女は何処かこの状況を楽しんでいるようだ。

 親友の恋愛事情ともなれば自分にできる事をするのは当然である。エリカは人間関係では控えめな性格なのでカエデは自分が手助けしなくては、と8割ほどそんな事を思っている。もちろん、残りの2割は面白がっているのだが。


「今日は仕方ありませんね。宿に戻ってまた明日、聞いてみましょう!」


「なぁ、やっぱり・・・」


 エリカは最後までカエデに人選の変更を提案し続けていたが笑顔で却下され続けていた。



 そして次の日。


「お待たせ、カエデ」


 エリカの抵抗むなしく、次の日になってしまった。

 昨日の夜ずっと話し合ったが結局カエデのブラックボルトに教えて貰う案をあきらめさせる事ができなかった。


「いえ、大丈夫ですよ」


 今日は依頼を受けるために組合に行く訳ではない。その為エリカはいつもの全身鎧を着ていなかった。しかしいつも鎧を着ているせいか見た目を然程さほど気にしないエリカは服選びに時間が掛かってしまった。本人曰く憧れているだけだと言うが、そんな人物に会うかもしれないのに適当な服ではカエデが許さなかった。

 今朝におういうやり取りがあった為、カエデ先に宿屋の外でエリカを待っていたのだ。


「ん?どうかした?」


 エリカは待っていただけであるハズのカエデがいつもとは違う、すこし変わった雰囲気を出していたのを感じたので聞いてみる。


「いえ、大したことありません。ただちょっと気持ち悪い男にナンパされただけです」


「そ、そうか」


 カエデはその整った容姿の為モテる。その綺麗に手入れをされた―――この世界では珍しい―――黒髪とその黒髪に合う顔立ち、カエデはこの世界では珍しいタイプの美人であった。そのためよく男性から声を掛けられることがあるのだ。

 しかしカエデからしたらそれをかなり鬱陶うっとうしく思っているため、ナンパしてきた彼らは第一印象が底辺ていへんからスタートしているのに気がついていない。


 対してエリカは容姿が悪い訳ではないが―――いつも鎧を来ているという事もあり―――男性から声を掛けられる事は少ない。そのためカエデの鬱陶しく思う気持ちはいまいちわからないのだが、エリカ本人は今はモテなくても良いと思っている為あまり気にしていない。


「さて、エリカ。行きますよ!」


「おお、おお、おおお、おう!」


 カエデはガチガチに緊張しているエリカの手を引いて、2人は組合に向かった。

 しかし組合に足を踏み入れた2人は異様な雰囲気を感じ取った。


「なんだこれ?」


「なにか、あったのでしょうか?」


 いつも騒がしい組合が異様に静かだ。

 異様な雰囲気につい辺りを見渡す2人。


「あ、あれ!」


 エリカがなにか見つけたらしく、その方向を指差した。

 そこには自分達が会いに来た人物。ブラックボルトの異名いみょうを持つ彼と、その彼と対面している様に立っているこの国で最も有名なハンター。"ペェスタ・プラクター"がいた。





 時は少し遡り、エリカ達が組合に来る少し前。

 ハンター組合のテーブル席。その1ヶ所に3名のハンターが座っていた。そこに座っているハンターはパーティーを組んでで活動しているハンターで彼らは3名の内2名が女性で1人が男性というチーム構成こうせいだ。


「なぁ聞いたか?」


「何をだ?」


 男の質問に片方の女性が返す。男は鎧を着込んだりはしてないが軽防具は整えてあり、杖ではなく剣を腰にぶら下げている。一目ところ彼は戦士系だと思える格好だ。

 そして返事をした背の高い女性は男とは違い青っぽい色の鎧を着込んでおり、そばには大剣が立て掛けてある。彼女はその見た目どおり戦士だ。


「あれじゃない?Sランクがもう1人増えたーって噂になってるはなしー」


「そう!その事だよ!」


 もう1人の小柄な女性が話に入ってくる。

 彼女は動きやすそうなラフな服と三角型の帽子を、被っている。彼女の近くには彼女の身長と同じくらいの長さがある杖が立て掛けられている。彼女は魔法使い。このチームは戦士2名、魔法使い1名というバランスが取れたチーム構成になっている。


「ああ、そのことか。それならアタシも耳にしてるよ」


「確かパーティーじゃなくで単独ソロでSランクなんでしょー?まるでー、どこかの誰かがもう1人増えたみたいだよねー」


「おい、やめろ"デイジー"!あの野郎の話をすんじゃねぇ。ただでさえ、いけ好かないあの野郎がもう1人増えたなんてたまったもんじゃない」


「"ライト"はペェスタのこと嫌いすぎー」


 デイジーと呼ばれた女性は男"ライト"をバカにしたように「あははー」と笑った。

 

「ったりめぇだろ。あんな野郎にいいとこなんてねぇよ」


 ライトと呼ばれた男はそっぽを向いて、返事を返した。ライトは目に見えて機嫌が悪くなったが、これがいつもの事だと知っている彼女達は気にも止めなかった。


「まぁそれはさておき、実際にソロでSランクになるのは凄いことだぞ。今までの単独でSランクなのはペェスタだけだったんだからな」


「ねー!普通に考えれば凄いよね!わたし達1人じゃSランクの任務にいったってすぐにやられちゃうよー」


「・・・まぁ実際に腕が良いのは確かだ。それは認めてやろう」


「それで、その新しいSランクの人がどうかしたのー?」


「ん?お前らの聞いた話はそれだけなのか?」


「アタシは単独のSランクが1人増えたって事しか聞いてないぞ」


「わたしもー」


「そうか、なら俺が手に入れた。その新しいSランクの人物の情報を話してやる」


 ライトは少し自慢気な顔をし、「ふっふっふっ」と笑っている。ライトは先程話した新しいSランクのハンターの事について色々調べていたのだ。


「そいつは何と、Aランクから僅か数週間でSランクになったらしい」


「ええええええー!?」


「それは本当か?」


「ああ、最初はその辺のハンターに聞いたんだが受付嬢ちゃんにも話を聞いて確認したぜ」


 ライトは現在受付に立っている1人の受付嬢を指差して言った。どうやら彼女がライト一押しの受付嬢のようだ。


「凄いなそれは、アタシ達では2年かかったはずの事を一週間でか・・・」


「昔は大変だったよねー。"ジラ"はすぐにケガだらけになって・・・わたしの魔法で回復してもすぐにケガだらけになって帰ってくるの繰り返しだったなー」


「そっ、その話はもういいだろ。今はその新しいSランクについて話そうじゃないか」


 ジラと呼ばれた女性は話を過去の自分から新しいSランクの人物についてに露骨ろこつに逸らした。

 デイジーは「あー話をそらしたー」と文句を言ってるがライトも今はジラをいじるのではなく、新しいSランクのハンターについて話を続けた。


「それに、だ。そいつは依頼をこなすスピードが尋常じゃないらしく、1日に3つの依頼をこなしているらしい」


「いやいやいや」


「それは噂で聞いた事があるな」


 そしてライトは先程の受付嬢をもう一度指差し、彼女に確認を取ったと言った。


「というか、お前はあの受付嬢と話す話題が欲しかっただけだろ」


「そのとおりだ、よくわかったな」


「あほのライトはおいといてー、その人ちょー凄いじゃん!もう凄いどころじゃないよー!」


「確かに。それが事実ならもはやバケモノだな」


「ああ、俺も初めて聞いた時は信じていなかった。だが、あの受付嬢ちゃんが本当だって言ったんだ。事実に決まっている」


「私達もー頑張らないとねー?」


 こうしてただのパーティーとして気楽に話しているが、彼らは現在このアドルフォン王国に存在する僅か4組のSランクハンターの一つ。""というチームでSランクの中では一番連携が上手い言われているパーティーだ。


「ああ、そうだな。こんな所で暇してる場合じゃないな」


 ジラがそう言うとライトをにらむ。それにつられてデイジーも睨むほどではないが、ジトっとした視線をライトに向けた。

 2人のチームメイトの視線を受けたライトは体をビクッと跳ねさせると2人から目を逸らした。


「いやーそれについては謝ってるだろ?俺が全面的に悪かったって。それに新しくSランクになったブラックボルトの奴が依頼をいくつも受けてるって、さっき言ったろ?俺らの依頼がないのはきっとそいつのせいなんだ。そう考えるとやっぱ俺はなんも悪くないな!前言撤回ぜんげんてっかい!」


「いや、お前が通りすがりの黒髪女性を必死に口説いていたから組合に来るのが遅れたんだろ?普通に気持ち悪かったぞ。つまりお前のせいだ。謝るより新しく依頼がないか確認してこい。お前のせいで今暇してるんだからな」


「いやー懐かしくもある綺麗きれいな黒髪につられたと思ったら赤いひとみの可愛い子だったのよ。それで運命的な何かがビビっと来たからさぁ・・・つい。いやー運命だと思ったんだけどなぁ違ったかぁ。あと、今普通に気持ち悪かったって言ったよね?どこら辺が?」


「いいから確認してこい!新しく依頼があるかもしれないだろ!」


「へいへい、わかりやしたよ。受付嬢ちゃんに確認してきますよーだ」


 ジラに怒鳴られ、ふて腐れながらも渋々ライトは立ち上がった。

 だがライトはすぐに受付の所に行くのではなく、2、3回辺りを見回すと少し真剣な顔をして二人の方を見た。


「なぁ・・・なんか、やけに静かじゃないか?」


「・・・確かに、いつもは常に騒がしいぐらいなのだが」


「んー、なんか嵐のまえーって感じー」


 組合にはいつも数多くのハンターが集まり、話したりしているのでそれ相応そうおうに騒がしい場所だ。

 だが今はほとんど話し声が聞こえない。別に話してない訳ではないのだが、そのほとんどが小声での会話になっている。いつもは回りの事を気にせず大小さまざまなボリュームで話をしているハンター達だがそんな面影も今は見当たらない。全員が全員、聞き耳を立てている感じだ。

 それに雰囲気、というか空気もどこか悪く感じた。


「何がどうなってんだ?」


 異常な雰囲気に3人は辺りを見渡した。

 すると、デイジーが見つけたのか小声で「あれ見てー」と指を指した。

 2人はデイジーに言われた方向を見てみる。

 するとそこには2人の男が対面していた。


「あいつは!」


 それを見てライトが小声で驚く。その片方はライトが毛嫌いしている男だったからだ。

 "ペェスタ・プラクター"。ライトはその男が嫌いだからよく知っている。自分と同じ金色の髪に、白銀の鎧。そして白銀の魔剣。あれはどこからどう見てもペェスタ・プラクター本人だった。


 それに対して片方の男をライトは全く知らなかった。鎧も防具も何もつけていない。とてもハンターとは思えない身なりだが、腰につけている刀がハンターだという可能性を完全には否定しない。

 だがつい先ほど気のある受付嬢と話していたことをライトは思い出す。新しくSランクハンターになったブラックボルトは驚くべき軽装で武器は細い剣一つ。それに異名の元になった、珍しい黒髪。

 ペェスタと対面している男はまさにその通りの男だった。

 

 (つまり、あれが噂のブラックボルトかっ!?)


 そしてそんなSランクでもソロ活動をしている2名の男が立ったまま対面している。

 一体何があったかは解らないがその周りにただよう空気は、まるで起爆きばくしかけの爆弾ばくだんのような一触即発いっしょくそくはつの空気だった。

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