第36話 命の賭け
リックが転移魔法を抜けて出てくると、そこはアドルフォン王国周辺にある森の中だった。
森の中と言っても浅い場所で、森からでるのには対した時間はかからない場所だ。
リックは辺りを見渡し、自分の場所とアドルフォン王国の場所を確認する。
「急ガナクテハ・・・!」
事態は
王国の出入口である門に着くと、門番による国の来訪者のチェックが行われている。
もちろん、王国に怪しい人物や怪しい道具などを持ち込ませないためのものだ。
だが、ここでリックに誤算が生まれた。
(コレハ・・・前ニコノ国ニ・・・キタ時ニハ・・・アンナニ・・・調ベラレ・・・ナカッタ)
リックより先に来ていた人間がこの国に入るためのチェックを並んでいる。
その列の先頭の人間が簡単なチェックを受けている。
そのチェックは身なりの確認やこの国に何しに来たのかなどの簡単な質問、大きい荷物があればそれがどういう物なのかの確認だ。
そこまで大事な確認作業ではなく、簡単でガハカバな確認方法だがそれがリックの誤算だった。
カケルと出会うよりも、だいぶ前に1度この国にリックは来たことがある。
リックはカケルが帰って来た時に度々、王国での話しは聞いていた。しかしこの事については聞いていなかった。
そのため国に入るための確認方法が当時から変わっているとは思わなかったのだ。
(クソ、アレダト・・・顔ヲ見ラレルカモ・・・シレナイ。ダガ、時間ガナイ・・・少々危険ダガ・・・ヤルシカナイ。モシ、アンデッドダト・・・バレタ時ハ・・・一カ八カココデ・・・ヤルシカナイ)
覚悟を決めてリックはその列に並んだ。
リックの前に並んでいるのは6名ほどだ。大きな馬車の荷台に目一杯荷物をのせている商人や、見るからに戦士の身なりをしている男。薬草の入ったカゴを背負った年寄りなど、様々な人がこの国に入ろうとしている。
列の先頭の人間の事を門番の男2人が荷物や持ち込まれる道具などを確認していく。
1人また1人と確認作業が終わり段々と列が短くなり、リックの順番が迫ってくる。
リックはもう一度、確認するようにフードを深く被り直して顔を見られないようにする。今のリックに出来るのはフードで顔を見られないようにし、この国に来た嘘の理由を考える事だけだ。
「次」
そしてついにリックの順番が回ってきた。
リックは少し緊張しながら一歩前にでる。
門番の2人の男はリックの身なりを見るといくつか質問をしてきた。
「この国に来た理由は?」
「カ、観光ツイデニ・・・知人ニ会イニ・・・来マシタ」
事前に翻訳魔法を自分にかけたので人間の言葉を理解でき、リックの言葉が人間に伝わる。
リックは並んでいる途中で何とか考えた色々な質問の答えを答えていく。
「どこから来た?」
「ココカラハ・・・遠イ所ニアル・・・
「なんて名前の村なんだ?」
「ム、村ノ名前ハ・・・マ・ジーン村デス・・・」
「マ・ジーン村?お前聞いたことあるか?」
「いや、そんな名前の村は聞いたこと事はねぇな。少なくともこの辺の村じゃない。
「そうなのか。ずいぶん遠くから来たんだな」
「ハ、ハイ」
「何か武器や道具は持ってるか?持っていたら細かい物でも報告してくれ」
「イエ・・・特ニ何モ」
「そうか・・・まぁ確かにその格好じゃ、持ってたとしても対した物は持ってないだろうな。よし、行っていいぞ」
「ハイ・・・」
質問は終わり、国に入ってもいい許可が降りた。リックは何とか国に入る事が出来たのだ。
自分の正体がバレずに入れればこちらのものだ。
目的はこの国にの中心。国の大きな街並みはそう簡単には変わらないため、以前この国に来た時の記憶が役に立つ。
リックは目的地に向かい歩き始める。
「待ちな!」
歩き始めた時に後ろから声が掛かった。
リックは思わずその足を止める。
チラリと後ろを見ると、声を掛けたのは先程の門番の人間だった。
「悪いなあんた、うっかり顔を確認するのを忘れちまってな」
「なに、顔さえ確認出来ればすぐに終わりだ。その位置からでいい。そのフードを取って顔を見せてくれ」
門番の2人は顔を見せろと言っている。
第三者がこの光景を見ていたら、門番が言っているその言葉を疑う事はしないだろう。
だが、リックは気づいた。
(軽クダガ・・・腰ノ剣ヲ、イツデモ抜ケル・・・ヨウニシテイル。コレハ・・・バレテシマッタヨウダナ)
リックは知らないが、門番の彼らがした質問の答で門番達はリックが"怪しい者"だと気づいた。
まず、リックの答えは村の名前を聞かれたまでは良かった。
だが、次に遠くから来たのかという些細な質問に[はい]と答えた事。そして、武器や道具を持っているかどうかの質問で[何も持っていない]と答えた事だ。
これは魔物であるリックにはわからない事だった。
普通、他国や遠い場所から来る場合は
何故なら、この世界には魔物という狂暴で危険な存在が居るからだ。
もし魔物除けの道具やハンターを雇わずに来た者がいるとしたら、それは自分で戦う力を持っている者だ。
だから杖や剣や防具。ましてや道具こそ何も持たず、誰も連れずに来たリックを怪しんだ。
しかし彼らは少し怪しいと思っただけで、まさかそれがアンデッドだとは夢にも思うまい。
だが、怪しまれて顔を見せるように言われた時点でリックの作戦は変更せざるを得なかった。
(仕方ナイ・・・ヤルシカナイカ!)
リックは上に向かって手を向ける。
そして、魔法を放った。
「《範囲強化・爆発する炎弾/ワイドアップ・・・!エクスプロード・バレット》!!」
リック自身が独自に編み出した、魔法を強化する方法を使いつつ魔法を放つ。爆炎が閉じ込められている火の玉は通常より大きなサイズで上空に打ち上げられた。
そしてある程度の高度に達すると、大きな爆音を立てて爆発した。
「キサマ!何をしている!!」
門番の人間が叫ぶ。
だが、リックは無視。もう一度、魔法を放つ。
そして上空に放った魔法は先程と同じ爆音を立てる。もうすでに周りは人が集まってきて騒がしくなってきた。
「今すぐに、魔法を撃つのをやめろ!!」
だが、リックは再び無視。もう一度、魔法を放った。
「キサマァァァ!!」
門番の1人がこれ以上の行為は
しかしリックはその攻撃を難なく回避。
その後の門番の攻撃も回避しながら魔法を撃つ事を続けた。
「ア、アンデッド!?」
回避のした時に少々激しく動きすぎてしまったためか、いつの間にかフードが取れてしまったようだ。
しかしここまで来たら自身の正体がバレた所で関係ない。
門番は驚き、周りにいた人間はアンデッドだとわかるやいなや魔物が入ってきたとパニックになりその場から
「魔人サマ・・・伝ワッテクダサイ!」
そんな騒ぎをよそにリックは魔法を空に向かって撃ち続けた。これは魔人様へのメッセージだ。
魔人様はこの国のどこに居るかはわからない。
しかし、この大きな国を練り歩いて探すのは時間が掛かりすぎる。
だからこそ騒ぎを起こし、魔人様にこちらを発見してもらう策に出たのだ。
本来の作戦は国の中心部でこの国に全体に伝わるように、アンデッドが侵入した事とこの魔法の爆音で騒ぎを起こそうと思っていた。だが当初の作戦は失敗に終わった。
こうなっては門番を無視して、国の中心に行くのは悪手だ。門番は明らかに怪しい自分を探すだろう。ハンターを使って。
リックはアンデッド。魔物だ。ハンターに出会えば殺しに掛かってくるのは間違いない。
流石のリックも大勢のハンターを相手にするのは難しい。リックの作戦はハンターに討伐されるまでのタイムリミット付きなのだ。
だからこそハンターが既に自分の捜索を始めてから作戦を実行するよりもこの場で作戦を実行し、ハンターに伝わる前に騒ぎを大きくしようと考えての事だった。
この場でやるリスクは大きい。魔人様が反対側の門付近にいたら、この騒ぎは伝わらないかもしれないのだ。だが、時間が無さすぎる。リックは仕方なくこの場で作戦を実行したのだった。
恐らく、今にもこの騒ぎを聞き付けてハンターが集まってくる。
いまのリック使命は自分の命が尽きるまで、魔法を空に放ち、この緊急事態を魔人様に伝える。その事だけだ。
「これは、何の騒ぎだ?」
カケルは謎の爆音を聞きつけて、爆音が放たれている場所に駆けつけた。
そこには人だかりが出来ており人の壁で何が起きているのかは見えないし、わからない。
解ることは人だかりの中心から先程と同じように時折火の玉が上がり、大きな爆音を立てて爆発している事だけだ。
(今日は祭りでもあったか?)
この場に来たカケルは最初、この世界特有のお祭りか何かであの火の玉はこちらで言う花火のような
しかしお祭りと言うにはあまりにも雰囲気が
カケルは
何とか人混みを掻き分け、騒ぎの中心にたどり着く。
そこにはボロボロになったアンデッドと数名のハンターと思わしき人間が対峙していた。
「さっきから何なんだこのアンデッド」
「空に向けて魔法を撃ってるだけで、俺達に攻撃して来ねぇぞ?」
「まぁそれは後から考えましょう?いまはこのおかしなアンデッドを殺す事だけを考えましょう」
「そうだな」
「そうですね」
どうやら5人のハンターがアンデッドと戦っているようだ。
周りに集まった人たちは
国の中で平和に暮らしている人達に取って、ハンターの戦いというのは滅多に見られないものだ。野次馬はそれを一目見ようと集まってきたのだ。
「くらえっ!」
「グウゥゥゥ!!」
ハンターの1人がアンデッドに切りかかる。
アンデッドは避けようとするが、ダメージが蓄積しているからか足元はふらついている。結局、回避しきれずに攻撃があってしまう。
攻撃があたると周りは大きく盛り上がる。まるだ見せ物だ。
「ハアァァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
アンデッドはかなり
だが何の執念かは分からないが、骨だけの体で足を踏ん張りまた立ち上がる。素人目にも立ってるだけで精一杯なのが分かり、もうすぐ力尽きるのだと理解できる。
「《範囲・・・強化・・爆発する炎弾/ワイド・・・アップ・・・・・エクス・・・プロード・・・バレット・・・》」
だが、そのアンデッドは対峙しているハンターの事は一切攻撃せず、上空に骨だけの手を向けて魔法を放つ。その火の玉は上空で爆発し、爆音が辺りに響く。
あの爆音の犯人はこのアンデッドだったのだ。
「ハァ・・・ハァ・・ハァ・・・グゥゥ・・・ハァハァ・・・」
今にも倒れそうなアンデッドは何とか骨だけの足で耐える。アンデッドが身につけていたフードは燃えたのか、所々に焦げ後がついており、もう身につけるものとしては機能を失っている。そこから解るのはスケルトンタイプのアンデッドだと言うことだけ。
だがこの場にいる1人だけ、たった1人だけその姿を視てアンデッドや魔物や、スケルトンなど以外にもっと詳しい事が解る人物がいた。
「リック・・・ッッ!!!」
カケルは信じられないものを見た。途端に表情を大きく歪めた。
―――そのアンデッドとは知り合いだ。
―――そのアンデッドの名前は自分が付けた。
―――そのアンデッドにはとても助けられた。
―――そのアンデッドの事はよく知っている。
―――そのアンデッドはもう・・・家族・・・なんだ。
いくつもの疑問がある。だがそんな下らなく、どうでもよく、"わかりきっている"事を考えるよりも、今は―――
―――家族を失わないために行動する。
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