第39話
*
「……と言うわけだ」
「なるほど……そういうわけですか……」
俺は先日あった高井さんと玲佳さんの一件をファミレスで愛実ちゃんに話していた。
「私は全然大丈夫です! むしろ行きたいです!」
「なら良かった、じゃあ今度の土曜日に……」
俺は愛実ちゃんに旅行の日時を伝えた。
愛実ちゃんは嬉しそうに俺との初旅行を楽しみにしている様子だった。
そして……旅行当日がやってきた。
待ち合わせは駅前だった。
俺は待ち合わせの時間よりも少し早く到着し、高井さん達を待っていた。
「少し早く来すぎたか……」
俺はスマホで時間を確認しながら、そんな事を考えていると愛実ちゃんが小走りでやってきた。
「次郎さん!」
「おはよう愛実ちゃん」
「おはようございます! 私昨日は楽しみで眠れませんでした!」
「そっか、後は高井さん達だけか……」
そんな事を話していると、高井さん達はすぐにやってきた。
高井さんと玲佳さんは一緒にやってきたのだが、どうやらまだ喧嘩中のようだった。
二人はお互いに距離を置き、こちらに向かって歩いてきた。
「お、お早うございます、高井さん……玲佳さん……」
「おう、次郎」
「おはよう次郎君、あらその子が?」
玲佳さんはそう言いながら、愛実ちゃんを見る。
愛実ちゃん慌てて玲佳さんに挨拶をする。
「あ、初めまして! 石川愛実です」
「初めまして、次郎君もやるわねぇ~、こんな可愛い子捕まえるなんてぇ~」
「いや……捕まったのは俺っす」
愛実ちゃんと玲佳さんは楽しそうに話し始めた。
玲佳さんは愛実ちゃんに色々と質問をし、愛実ちゃんはそれに答えていた。
仲良くなれそうで良かった。
俺がそんな事を思っていると、高井さんが俺に近づいてきて耳打ちをする。
「次郎、サンキューな」
「今回だけっすよ……てか、まだ喧嘩してるんすか?」
「ま、まぁな……」
「そうですか……でも、折角の旅行ですし……なんとかして下さいよ……」
「じゃあお前も強力してくれよ! あいつこの前のファミレスからずっと怒ってるんだよ……」
「はぁ……それで良く俺たちが旅行に来るの納得してくれましたね」
「あぁ、アンタと二人よりましって言われた……」
「悲しいですね……」
俺たちがそんな話しをしていると、玲佳さんが俺たちを呼ぶ。
「何やってるの電車来ちゃうわよ!」
「あ、はい! ほら、高井さん行きますよ!」
「お、おう」
俺たちは電車に乗って、目的地まで向かう。 四人掛けのボックス席に、俺と愛実ちゃん、そしてその向かいに高井さんと玲佳さんが座った。
「次郎さん、はいあーん」
「お、おい……恥ずかしいんだけど……」
「えぇ~良いじゃ無いですかぁ~」
「いや……流石に恥ずかしいから……」
「む~……始めての旅行なのに……」
愛実ちゃんは高井さん達の目の前でも平常運転な愛実ちゃんに対して、目の前の高井さんと玲佳さんは逆に冷め切っていた。
「はぁ……」
「………」
高井さんはずっと外を眺めており、玲佳さんは静かに読書をしていた。
いつもなら仲良く話しをしているのだが………。
「次郎さん……」
「何?」
「あのお二人……付き合ってるんですよね?」
「まぁな……」
「じゃあなんですか? このお葬式に行くみたいな空気は……」
「ちょっとな……色々揉めたらしくてな……」
俺は愛実ちゃんにこっそり何があったのかを教えた。
「なるほど……それでなんで……一緒に旅行に来てるんですか?」
「高井さんは仲直りしたいらしいんだけど……珍しく玲佳さんが怒ってるみたいでさ……」
「そうなんですか……」
「ま、そういうわけだから、高井さんに少し協力してやってくれ」
「わかりました! 任せて下さい!!」
愛実ちゃんはそう言うと、玲佳さんに話し掛け始めた。
「玲佳さん! これ食べます?」
「え? あ、ありがとう」
「何読んでるんですか?」
「あぁ、これはね……」
流石愛実ちゃん、誰とでもすぐに打ち解けられるんだな……。
俺はそんな事を思いながら、玲佳さん聞こえないように高井さんに話す。
「高井さん、俺と愛実ちゃんでサポートしますから、さっさと仲直りして下さい!」
「わ、わかった……だ、だが……」
「だが?」
「………玲佳……怖いんだよなぁ……」
「そんな事言ってる場合か!!」
この人……本当に大丈夫か?
俺はそんな事を考えながら、目的地に着くのを待った。
*
電車に揺られる事約40分、駅からバスに乗って約20分、計一時間ほどで旅館に到着した。 温泉街にある旅館で、休日ということもあって多くの人で賑わっていた。
「なかなか良い旅館ね」
「そうですね!」
愛実ちゃんと玲佳さんは旅館を見て興奮している様子だった。
フロントで受付をし、俺たちは部屋に案内された。
「こちらとこちらの二部屋になります、晩ご飯は19時から、お布団は21時に敷かせていただきます。こちらはお部屋の鍵になりますので……」
「あ、はい。ありがとうございます」
「それではごゆっくり」
そう言って仲居さんは去って行った。
「さて、じゃあとりあえず荷物を置いて着替えロビーに集合ですかね?」
「お、おう……そうだな……」
「じゃあ、また後で……愛実ちゃん行こう」
「はい!」
俺は愛実ちゃんと共に部屋の中に入っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます