第5話
「いつから?」
「え? な、なんですか?」
「だから、いつから好きなの?」
「ち、違います!!」
まさかストレートに聞いてくるとは思わなかった。
私は顔が熱くなるのを感じつつ、高井さんの言葉を否定する。
「顔真っ赤にしながら言われてもなぁ~」
「う、うぅ……で、でも……まだ好きとかそう言うのじゃ……」
私は再び顔を隠しながら高井さんに言う。
しかし、高井さんは相変わらずニヤニヤしていた。
「まぁ、次郎に懐いてたしなぁ……自然な流れか」
「だ、だから! そ、その……好きとかでは……」
「いや、その反応は好きでしょ?」
他人に言われると時分で悩むよりも早く答えが出てしまう。
そうだ、私は高井さんの言うとおり岬さんが好きなのだろう。
でも、恥ずかしくて、そんな事誰にも言えなかった。 しかし、高井さんがグイグイ聞いてくれるおかげで、なんかこのまま色々相談出来そうな流れになりつつある。
「さ、最初は……その……いい人だなって思ってたんです……優しいし」
「ほうほう……それで?」
「で、でも……その……一番意識し始めたのは、私が絡まれたあの日で……」
「あぁーもしかして次郎とあいつらの事……見てた?」
「はい……」
あの日、自分の為にボロボロになった次郎さんを見て、私はあの人を意識するようになったのだろう。
もちろん、それだけが理由では無い。
もっと仲良くなりたくて、勇気を出して始めてメッセージを送ったあの日も、勉強しに来たなんて言いながら、私を心配して店に様子を見に来てくれたのが凄く嬉しかった。
「そ、それからですかね……意識し始めたのは……」
「なるほどなぁ~」
「も、もちろんそれだけじゃ無いですよ! そ、その……あの……次郎さんって……優しいし……一緒にいて楽しいし……」
「そうか、そうか、良し! さっさと告っちゃえ!」
「え!?」
高井さんの言葉に私は思わず声を上げる。
そんな事が出来れば私はとっくにやっている。
でも、告白してもし断られたらと考えたら、勇気が出ない。
「そ、そんなの無理ですよ!」
「そうか? 行けると思うが?」
「無理です! そ、それに……これは私の願望なんですけど……あの……じ、次郎さんに私を好きになって欲しいっていうか……」
自分の顔は今リンゴのように真っ赤なのだろうなと思いながら、私は高井さんに私の希望を話す。
「うーん……好きになって欲しいか……良し! 俺がさり気なく、次郎の石川ちゃんに対する気持ちを聞いてきてやるよ」
「い、良いですか!!」
「もちろん! じゃあ、今から厨房に行って聞いてみよう! 石川ちゃんはドアの影にでも隠れてて」
「は、はい!!」
妙なことになってしまったが、これはこれでチャンスだ。
次郎さんが今私の事をどう思っているのかを知ることが出来る。
厨房に向かった高井さんは、次郎さんのところに行き話し始めた。
私はドアの影に隠れて二人の会話を聞く。
「よう、岬! ちょっと聞きてーことあるんだけど……良いか?」
「はい? なんですか急に……」
「そんな怪しげな目で見るなよぉ~ただの質問だって!」
「本当ですか? 高井さんが笑顔の時は、何か俺にとって嫌な事がある前兆なんですけど……」
「どう言う意味だそれは!!」
いつも通りの二人の会話の流れだ。
高井さんお願いします、さり気なく次郎さんの気持ちを……。
「それで質問ってなんですか?」
「あぁ、ぶっちゃけ石川ちゃんの事……好きか?」
ドストレートに言っちゃったよあの人!!
これじゃあ絶対に怪しまれるじゃない!!
高井さんに頼んだのが間違いだった!
あの人がそんな器用な事出来るはずないもん!
「愛実ちゃん? まぁ……好きな部類の人間ですね……生意気だけど」
好きな部類って何!?
てか、私生意気だと思われてるの!!
「いや、そうじゃ無くてだな……そう! 恋愛対象としてだよ!」
そんな「あ、これだ!」みたいな感じにピンッと来たっぽく言ってるけど、それ更に怪しまれるから!! もうやめて!
何も聞かないで帰ってきて!!
じゃないとバレる……。
「恋愛対象として? あぁ……まず恋愛対象としては見てませんね、高校生ですし」
あぁ……恋愛対象にすらならないんだ……なんかかなりショック……。
私は思わず肩を落として、深いため息を吐く。
「なんでだよ! 女子高生だぞ! JKだぞ! 美少女だぞ!!」
「なんでそんな必死なんすか……いや、確かに可愛いとは思いますけど」
あ、でも可愛いって思ってるんだ……。
ヤバイ……結構嬉しい……顔ニヤける……。
必死で自分の表情を直そうとしていると、次郎さんは更にこう続けた。
「高校生だと、学校で恋をするんじゃないですか? 同じクラスの男子生徒とか……」
「ほう……それは体験からか?」
「いや、俺の体験は関係無いでしょ……普通に学校でモテるんじゃないかと思っただけですよ。それに、バイト先で恋愛なんてしようと思わないでしょ? 金の為にバイトしてるわけですし」
「その口ぶりだと、お前はバイト先に恋愛を持ち込むなと言いたいのか?」
「そうでは無いですけど……まぁでも、そう言う関係になる事例はあんまり無いんじゃないかと思って」
なんだか話しが横道にそれまくってる気がする。
結局のところ、次郎さんは私を何とも思ってないってことなのかなぁ……。
私が少しガッカリしていると、高井さんが更に次郎さんに尋ねる。
「じゃあ、結局お前は石川ちゃんの事はなんとも思ってないのか?」
「いや……まぁ……そうですね……妹みたいな感じには思ってますね」
「妹って……なんかハッキリしねーな……じゃあもうまどろっこしい事は抜きにして聞くぞ! あの子とやれたらするのか?」
「ぶっ!」
私は高井さんの質問に思わず吹いてしまった。
いや、この人は何を聞いてるのだろうか?
私が聞いているのを忘れてしまったのだろうか?
まぁ……でも……ちょっと気になるかも……。
「な、何を言ってるんですか!! アホですか!」
「正直に言えコラ! 俺は先輩だぞ!」
「こう言う時だけ年上っていうアドバンテージを使わないで下さい!」
「で! どうなんだ! 言うまでお前に仕事はさせん!」
「それよりも貴方が仕事をして下さいよ……はぁ……まぁ、そういう行為は……その……出来ますよ……俺も男だし……愛実ちゃん可愛いし……」
私は次郎さんのその言葉を聞いた瞬間、顔がどんどん熱くなるのを感じた。
顔だけじゃない、体中がなんだか沸騰したように熱い。
じ、次郎さん……わ、私と……したいんだ……。
「うわぁ……顔が良ければ誰でも良いのか……」
「アンタが聞いたんでしょうが!!」
私は顔を真っ赤にしながら次郎さんの顔を見る。
そして想像してしまう。
そう言う行為をあの人とする想像を……。
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