後輩は積極的IF

Joker

バイト先の後輩

第1話

 大学一年の秋、俺は五月の下旬から始めたファーストフード店の厨房でハンバーガーを作っていた。

 

「はいかしこまりました! ご一緒にホットドリンクなどはいかがでしょうか?」


 俺はいつものようにバイトをこなしていた。

 フライヤーの油にも慣れてきたし、鉄板から跳ねる油なんて最早気にならない。

 俺、岬次郎(さき じろう)は今日もハンバーガーを作って、ポテトを油で揚げる。

 

「次郎君、そう言えば知ってる? 明日新しい子が面接に来るらしいよ」


「新しい子? バイトか?」


 話し掛けた来たのは小山大志(こやま たいし)。

 小山は俺と同い年で役者の卵をやっているイケメン青年だ。

 小山目的でこの店を訪れる女子高生も居るくらいの人気で、逆ナンなんかもたまにされている。

 クソ……イケメンとか死ねば良いのに……。


「今なんか失礼な事考えたでしょ?」


「別に、小山がイケメンだから死ねば良いと思っただけ」


「そこはごまかしてくれよ……ほら、早くポテト」


「へいへい」


 俺は今日も勤労に勤しむ。

 大学に入ってもうすぐ半年になる。

 彼女も居ないし、友人も多い方ではないが、サークル活動に一人暮らし、そしてアルバイトと結構忙しい毎日を送っている。

 まぁ、同年代の奴らはやれコンパだ合コンだと、毎週のように遊んでいるが……。

 俺はこれでいい!

 別に強がって無い!

 この日常が好きなんだ!


「はぁ……なんか空しい……」


 俺はそんな事を考えながら、アパートの自室に帰宅した。





「え? 新人教育? 俺がですか?」


 面接の日から数日、店長が俺にそう言ってきた。

 

「でも店長、俺よりベテランのパートのおばさんの方が……」


「いや、歳が近い人に教えて貰ったほうが良いかと思って、それに君は覚えるのも人一倍早いし、今じゃかなり仕事が出来るからね、それに時間帯が君と同じなんだよその子」


 そんな事を言われても、何かを人になんて教えた事なんて無いしな……。

 それに、店長だって俺と同じくらいの時間に上がるだろうが……まさか面倒くさいから俺に押しつけようとしてないか?


「店長……まさかと思いますが……面倒だからって俺に押しつけようとしてません?」


「な、何を言っているんだい!! 僕は君の優秀さを認めてだね……」


「じゃあ勘弁してください、俺には大学生活もあるので……」


「待って待って! これには深い理由があるんだ……」


「どんな理由ですか?」


「実は最近……彼女が……」


「じゃあ、お疲れ様でーす」


「待って! お願いだから待って! ただでさえ飲食店の店長なんて大変なのに、その上新人教育なんて、彼女に会えなくなっちゃうよぉ~」


「仕事でしょ? 俺は社会人じゃないんで……」


「お願いだよ! これを逃したら、彼女なんて……」


「じゃ、俺はこれで」


「頼むよぉ~! 時給二十円上げるから!!」


「必死過っすね……」


 結局俺は店長に負けてしまい、新人の教育係になってしまった。

 まぁ、時給が上がるし……良いか……。

 新人アルバイトの子は高校二年生らしい、面倒な子じゃないと良いが……。

 そんな事を考えているうちに、新人アルバイトがバイトに来る日がやってきた。


「今日か……そろそろ来る頃だな」


「あぁ、今日だっけ? 例の新人の女子高生が来るのって」


「あぁ……引き受けたのは良いけど……女子高生か……絶対に面倒くさいよな……」


「まぁ、一番難しい年頃だろうからなね、頑張ってね」


「小山君手伝ってくれよ、俺……苦手なんだよ……年下って」


「僕の時給は手伝ったところで変わらないからね、それに僕はもう上がりなんだ」


「薄情者……」


「なんとでも言ってくれ」


 そう言うと小山君は笑いながら厨房を後にして行った。

 参ったな……今からフロアのスタッフは俺とその女子高生だけ……厨房はベテランバイトの先輩が居るから良いけど、レジが混み始めたら大変だな。


「よ、岬! 聞いたぜ、女子高生の教育係だろ? 大変そうだな~」


「そういうなら変わってくださいよ高井さん」


 声を掛けたきたのは、高井謙太(たかい けんた)さん、現在大学三年生のベテランアルバイトだ。

 俺とは違う大学だが、一緒に飯を食べに行ったり、一緒にゲームをしたりと仲良くして貰っている。


「高井さん、今日は厨房一人で頼みます、俺は新人の教育で忙しいんで」


「えぇ~なんでだよぉ~、仕事が出来る男、岬次郎とはお前の事だろぉ~?」


「ウザいっす……」


 肩を組んで絡んでくる高井さんに俺は呆れた表情でそう言う。


「おい! 先輩に対してウザいってなんだ!!」


「ウザいものはウザいっす! こっちは色々と忙しいんすから!!」


「なんだとぉ!」


「なんっすか!!」


「あ、あの……」


「「なんだよ!!」」


 俺と高井先輩が言い争っていると、厨房の入り口から声が聞こえてきた。

 声のした方を見ると、学校の制服姿の女子高生が立っていた。


「きょ、今日からお世話になります……い、石川愛実(いしかわ まなみ)です!!」


 そう言って来たのは、栗色の髪にふわっとウェーブの掛かったショートボブの髪型の女の子だった。

 なんというか、今時の女子高生と言った感じで俺は初っぱなから苦手意識を抱く。

 容姿も整っていて、なんというか……かなりの美少女だった。

 こういう子に限って……やれセクハラだとか、やれパワハラだとか言ってきそうだな……。


「あぁ……えっと、僕が君の教育係になった岬次郎、とりあえずスタッフルームで着替えてきて貰えるかな? その後仕事の事を教えて行くから」


「わ、わかりました」


 彼女はそう言うとスタッフルームに歩いて行った。


「はぁ……」


「おい! メチャクチャ可愛い子だな!」


「先輩、彼女に怒られますよ」


 高井先輩には彼女がいる。

 しかもかなりの美人だ。

 あんな美人な彼女が居るのに、それでも可愛い子に目が行くのか……。


「はぁ……憂鬱だ」


「どうしてだ? あんな美少女だぞ!」


「だからですよ……ああ言うのは、何かあると直ぐに文句を言うんですよ」


「偏見が酷すぎるだろ……まぁ、頑張れよ」


「はぁ……」

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