第9話

「もう真っ暗だな……」


「そうですね……もう20時ですからね……」


「愛実ちゃん時間大丈夫? 家の人心配しない?」


「だ、大丈夫ですよ! それより早く行きましょう!!」


「あ、おい! 元気だなぁ……」


 俺にそう言うと、愛実ちゃんは早足でどんどん先に行ってしまった。

 バイト終わった後だってのに、どこにそんな元気があるんだか……。

 少しするとイルミネーションが見えてきた、四車線の道路の脇に飾り付けられてイルミネーションは凄く綺麗だった。

 歩道にはカップルも多く、皆手を繋いだり腕を組んだり……あぁ……羨ましい。


「うわー凄く綺麗ですね!」


「そうだね……」


「あれ? どうしたんですか? なんか元気無いような」


「いや……こう言う場所にクリスマスに来ると、恋人がいる奴らとの差を肌で感じてね」


 一応俺も女連れだが、これはあくまでバイト先の後輩だ。

 はぁ……こんなに落ち込むなら彼女の一人でも早く作れって話しだよなぁ……。

 

「もう、何を言ってるんですか! 可愛い可愛い女子高生が隣に居るのに」


「え? マジで? どこに? 俺にはそんなの見えない」


「次郎さん怒りますよー」


「いだだだ!! もう怒ってるじゃん!!」


 どうやら愛実ちゃんへの返答を間違えたらしい。

 愛実ちゃんの足が俺の足の上に乗っかり、グリグリと体重を掛けて来る。

 

「もう! そんなんだから次郎さんはモテないんです!」


「へいへい、別に良いよモテなくても」


「強がってるくせにぃ~」


「うっせぇ!」


 そんな話しをしながら、俺と愛実ちゃんはイルミネーションを見ながら歩いていた。


「綺麗だけど……だから何? ってかんじだな」


「そ、それは否定しませんけど……」


 確かにイルミネーションは綺麗だ。

 ぶっちゃけ最初の方は結構感動して写真も取った。

 しかし、その後はなんだ慣れてしまった。


「はぁ~あ、時間も良い感じだし……そろそろ帰ろうか」


「え!?」


「ん? どうかした?」


「あ……いや……その……何でもないです」


「ん? まぁ良いけど……夜も遅いし送っていくよ」


「はい……ありがとうございます」


 どうしたのだろうか?

 愛実ちゃんの元気が急に無くなってしまった。

 俺は何かまずい事を言っただろうか?

 いや、まずい事も何も……ただ帰ろうって言っただけだし……。

 あぁ……もしかしたら。

 俺はピンと来て愛実ちゃんに尋ねる。


「愛実ちゃん」


「はい?」


「もしかして……帰りたくない?」


「………はい」


 愛実ちゃんは俯いてそう答えた。

 俺の予想は正しかったようだ。

 きっと家で何かあったのだろう……このくらいの子は色々と悩みを抱えているのだろう。 俺もそうだった……。


「そっか……じゃあ少しゆっくり帰るか」


「え………は、はい!」


 俺がそう言うと愛実ちゃんが笑顔で俺に答えた。

 たまには良いだろう、それにしっかり送り届ければ大丈夫だ。

 俺は行きつけの喫茶店に向かった。

 あそこなら暖かい飲み物もあるし、愛実ちゃんの家に向かう通り道だ。


「仕方ないから奢るよ」


「え! でもさっきのご飯も次郎さんが……」


「クリスマスに女に金を出させる男なんて居ないよ、それに明日は給料日だ」


 俺はそう言って喫茶店の中に入っていった。 この喫茶店には良く来る。

 雰囲気が落ち着いていて良いし、隠れた名店なので客も常連客が多く空いている。


「いらっしゃいませ」


「俺はコーヒー、愛実ちゃんは?」


「じゃあ、カフェオレを……」


「かしこまりました」


 白髪のマスターはニコッと微笑むとカウンターの方に引っ込んでいった。

 ここのマスターとも結構長い付き合いだが、ちゃんと話しをしたことは無い。

 しかし、それが良い。

 客と一線を引き、マスターは客に落ち着いた空間を提供している。


「静かな喫茶店ですね」


「あぁ……考え事する時に良く来るんだよ」


「そうなんですか」


「……一体何があったの?」


「え……」


「いや……なんて言うか、帰りたくないって言うからさ……」


 悩みを聞くくらいなら俺にでも出来る。

 言って楽になる事もあるって言うしな……。

「まぁ……あれだ……俺でよければ相談に乗るけど?」


「……あ、あの……じゃ、じゃあ良いですか?」


「どうぞ」


「わ、私……実は……好きな人が居るんです」


「そうだったのか……」


 そうか、それで悩んでいたのか……。

 きっとクリスマスもその人を誘ったが断られたのだろう……可愛そうに。


「脈はありそうなの?」


「正直無いと思います」


「なんで分かるの?」


「私がその人の前で好きな人が居るって言っても、その人微動だにしないんですもん」


 あぁ……話しを聞く限りだと、その人は愛実ちゃんの事を恋愛対象として見ていないのだろう。

 まぁでも愛実ちゃん可愛いし、少し積極的になれば大丈夫なんじゃないか?


「そうなんだ……でも、愛実ちゃんなら大丈夫だよ、愛実ちゃん可愛いし」


「そうですか……じゃあどうすれば距離を縮められますか?」


「え? あぁ……そ、そうだなぁ……」


 そんな事を言われてもなぁ……愛実ちゃんみたいな可愛い子だったら、告白するだけど大抵の男は落ちる気がする……。


「自分の気持ちを素直に伝えてみたら? 愛実ちゃんならきっと大丈夫だよ」


「そうですか……じゃあ……頑張って見ます」


「うん、頑張って。ところで愛実ちゃんの好きな人ってどんな人なの?」


「年上の方です……次郎さんも知ってる人です」


「え? そうなの? ちなみに誰?」


 俺がそう尋ねると、マスターが俺と愛実ちゃんの飲み物を持ってきた。

 それと同時に、愛実ちゃんが俺の方を指さして口を開いた。


「………この人です」


「………ん?」


 俺は背後を振り向く、しかし俺の後ろには誰も居ない。

 一体何を言っているのだろうか?

 俺がそんな事を思っていると、飲み物を持ってきたマスターが俺の肩に手をおいて微笑んできた。

 マスター急にどうしたんだろう?


「えっと……ごめん、誰? 名前を言って貰わないとわからな……」


「岬次郎さんが……私は好きです……」


 そう愛実ちゃんが口にした瞬間、俺は言葉がでず、少しの間フリーズしてしまった。 

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