第18話



 一人暮らしの朝は早い、洗濯に朝食作りなど、生活のすべてを一人ではしなくてはいけない。

 だから、俺は結構早起きだ。

 朝は結構強いし、慣れている。

 しかし……この状況に関しては慣れるどころか初体験だ。


「……はぁ……」


 俺の隣には昨日俺の家に泊まった愛実ちゃんが居た。

 それは別に許容範囲内なのだが、問題は彼女の寝相だ。

 寝相が悪すぎて、彼女の寝間着がはだけて色々なところが見えそうになっている。


「まったく……」


 俺は愛実ちゃんに布団を掛け、ロフトから下りていつものように朝食の準備を始める。

 なんであの子はあんなに無防備なのだろうか……。

 ため息を吐きながら、俺は卵を割ってボウルの中でかき混ぜ始める。

 すると、俺が料理をする音で目を覚ましたのか、愛実ちゃんがロフトからヒョコッと顔を出した。


「んー……次郎さんおはようござます……」


「はい、おはよう。ちゃんと服を着ような」


「はーい……ふあ~あ」


 まだ半分寝ぼけている愛実ちゃん。

 ロフトの階段に足を掛け、愛実ちゃんは下に下りようとする。

 大丈夫だろうか?

 俺は心配になり、様子を見に行く。

 すると……。


「きゃっ!!」


「あぶねっ!!」


 案の定、足を滑らせて階段から落ちそうになってしまった愛実ちゃん。

 俺はすかさず支えに入り、愛実ちゃんを助けた。


「大丈夫?」


「び、ビックリしました……」


「危ないから気を付けないと……ほら立てる?」


「はい……あ、やっぱり立てません」


「え?」


「そう言ったら、次郎さんずっと支えてくれるでしょ~」


「よし、元気そうだな」


「あわわ~!! きゅ、急に離さないで下さいよ!」


「目も冷めてようでよかった」


 俺は愛実ちゃんを置いてキッチンに戻る。

 卵を更に二つボールの中に投入し、再び混ぜ始める。


「あ、すいません。ごはんの準備させちゃって……」


「いいよ、いつもやってるし。早く顔洗ってきたら?」


「きゃっ! す、すっぴん見ました!?」


「昨日も見たし……」


「き、昨日はもう寝る前だったから暗かったじゃないですか! 今は朝です! 明るいんです!!」


 愛実ちゃんは俺からすっぴんを見られたくないらしく、必死に顔を隠していた。

 

「いや、別に……化粧しててもしてなくても可愛いんだから良いじゃん」


「え……ふぇえ!?」


「ん? どうかした?」


「い、いや……あ……あの……そ、そうですか?」


「ん? 何が?」


「い、いえ! な、なんでも……」


「はぁ……顔が良いって良いよね……寝起きでも可愛く見えるんだから……俺の寝起きの顔の方が見せられないよ……」


 俺はそう言いながら、熱したフライパンに卵を入れて行く。


「ん? どうしたの? 顔真っ赤にして……」


「うぅ……次郎さん!」


「え? 何?」


「次郎さんのそういうところですよ!!」


「は? なにが?」


「うぅ~……自覚も無いし……あぁもう! 大好きです次郎さん!」


「いきなりどうした……」


 愛実ちゃんは顔を真っ赤にしながら、俺にそう言ってきた。

 この子はたまに良く分からない。

 愛実ちゃんは真っ赤な顔のまま洗面所に向かっていった。

 俺は卵焼きを完成させて盛り付けをしていた。

 

「よし、これで良いな」


 朝食の準備を終え、俺はエプロンを外し椅子に座る。

 丁度愛実ちゃんも戻ってきたので、俺と愛実ちゃんは朝食を食べ始める。


「次郎さん」


「何?」


「昨日の話し覚えてます?」


「あぁ……なんかお試しで付き合うみたいな話し?」


「はい! 次郎さんOKですか!?」


「うーん……そんな気持ちで付き合ってもなぁ……」


 そんな事を言われても、簡単に「うん」とは簡単に言えない。

 確かに愛実ちゃんは可愛いし、スタイルも良い。

 そんな子にここまでお願いされているなんて、男としてはかなり嬉しい。

 しかし、後々の事を考えると、やはり簡単には了承出来ない。

 

「愛実ちゃん、やっぱりお試しなんて気持ちで君とは付き合えないよ」


「え! じゃあ本当に付き合ってくれるんですか!?」


「あーそう言う感じで捉えたかー。そうじゃなくて……あーなんて言ったら良いんだろ?」


 なんと言えば彼女に分かって貰えるのだろうか。


「次郎さん」


「何?」


「私の事嫌いですか?」


「いや……そんな事は……」


「じゃあ好きですか?」


「そ、それも……良く分からないっていうか……」


「じゃあどっちかっていうとどっちですか?」


「えぇっと……まぁ……好き……かな?」


「じゃあ良いじゃないですか! 付き合いましょう!」


「いや、だからそうじゃなくて……あぁ……あのさ、一応俺も俺なりに愛実ちゃんを大切には思ってる訳だよ……だから、そんな簡単に付き合うとか決められないんだよ」


「それは嬉しいですけど……」


「だから、少しまっててくれ、必ず答えは出すから」


「むー……そんな事言われたら……もう何も言えないじゃないですか……」


 ようやく分かってくれたようだ。


「はい、この話はもうお終い、早くご飯食べちゃおう」


「むー……仕方無いなぁ……」


 愛実ちゃんはそう言いながら、俺の作った朝食を食べていた。

 

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