第18話
*
一人暮らしの朝は早い、洗濯に朝食作りなど、生活のすべてを一人ではしなくてはいけない。
だから、俺は結構早起きだ。
朝は結構強いし、慣れている。
しかし……この状況に関しては慣れるどころか初体験だ。
「……はぁ……」
俺の隣には昨日俺の家に泊まった愛実ちゃんが居た。
それは別に許容範囲内なのだが、問題は彼女の寝相だ。
寝相が悪すぎて、彼女の寝間着がはだけて色々なところが見えそうになっている。
「まったく……」
俺は愛実ちゃんに布団を掛け、ロフトから下りていつものように朝食の準備を始める。
なんであの子はあんなに無防備なのだろうか……。
ため息を吐きながら、俺は卵を割ってボウルの中でかき混ぜ始める。
すると、俺が料理をする音で目を覚ましたのか、愛実ちゃんがロフトからヒョコッと顔を出した。
「んー……次郎さんおはようござます……」
「はい、おはよう。ちゃんと服を着ような」
「はーい……ふあ~あ」
まだ半分寝ぼけている愛実ちゃん。
ロフトの階段に足を掛け、愛実ちゃんは下に下りようとする。
大丈夫だろうか?
俺は心配になり、様子を見に行く。
すると……。
「きゃっ!!」
「あぶねっ!!」
案の定、足を滑らせて階段から落ちそうになってしまった愛実ちゃん。
俺はすかさず支えに入り、愛実ちゃんを助けた。
「大丈夫?」
「び、ビックリしました……」
「危ないから気を付けないと……ほら立てる?」
「はい……あ、やっぱり立てません」
「え?」
「そう言ったら、次郎さんずっと支えてくれるでしょ~」
「よし、元気そうだな」
「あわわ~!! きゅ、急に離さないで下さいよ!」
「目も冷めてようでよかった」
俺は愛実ちゃんを置いてキッチンに戻る。
卵を更に二つボールの中に投入し、再び混ぜ始める。
「あ、すいません。ごはんの準備させちゃって……」
「いいよ、いつもやってるし。早く顔洗ってきたら?」
「きゃっ! す、すっぴん見ました!?」
「昨日も見たし……」
「き、昨日はもう寝る前だったから暗かったじゃないですか! 今は朝です! 明るいんです!!」
愛実ちゃんは俺からすっぴんを見られたくないらしく、必死に顔を隠していた。
「いや、別に……化粧しててもしてなくても可愛いんだから良いじゃん」
「え……ふぇえ!?」
「ん? どうかした?」
「い、いや……あ……あの……そ、そうですか?」
「ん? 何が?」
「い、いえ! な、なんでも……」
「はぁ……顔が良いって良いよね……寝起きでも可愛く見えるんだから……俺の寝起きの顔の方が見せられないよ……」
俺はそう言いながら、熱したフライパンに卵を入れて行く。
「ん? どうしたの? 顔真っ赤にして……」
「うぅ……次郎さん!」
「え? 何?」
「次郎さんのそういうところですよ!!」
「は? なにが?」
「うぅ~……自覚も無いし……あぁもう! 大好きです次郎さん!」
「いきなりどうした……」
愛実ちゃんは顔を真っ赤にしながら、俺にそう言ってきた。
この子はたまに良く分からない。
愛実ちゃんは真っ赤な顔のまま洗面所に向かっていった。
俺は卵焼きを完成させて盛り付けをしていた。
「よし、これで良いな」
朝食の準備を終え、俺はエプロンを外し椅子に座る。
丁度愛実ちゃんも戻ってきたので、俺と愛実ちゃんは朝食を食べ始める。
「次郎さん」
「何?」
「昨日の話し覚えてます?」
「あぁ……なんかお試しで付き合うみたいな話し?」
「はい! 次郎さんOKですか!?」
「うーん……そんな気持ちで付き合ってもなぁ……」
そんな事を言われても、簡単に「うん」とは簡単に言えない。
確かに愛実ちゃんは可愛いし、スタイルも良い。
そんな子にここまでお願いされているなんて、男としてはかなり嬉しい。
しかし、後々の事を考えると、やはり簡単には了承出来ない。
「愛実ちゃん、やっぱりお試しなんて気持ちで君とは付き合えないよ」
「え! じゃあ本当に付き合ってくれるんですか!?」
「あーそう言う感じで捉えたかー。そうじゃなくて……あーなんて言ったら良いんだろ?」
なんと言えば彼女に分かって貰えるのだろうか。
「次郎さん」
「何?」
「私の事嫌いですか?」
「いや……そんな事は……」
「じゃあ好きですか?」
「そ、それも……良く分からないっていうか……」
「じゃあどっちかっていうとどっちですか?」
「えぇっと……まぁ……好き……かな?」
「じゃあ良いじゃないですか! 付き合いましょう!」
「いや、だからそうじゃなくて……あぁ……あのさ、一応俺も俺なりに愛実ちゃんを大切には思ってる訳だよ……だから、そんな簡単に付き合うとか決められないんだよ」
「それは嬉しいですけど……」
「だから、少しまっててくれ、必ず答えは出すから」
「むー……そんな事言われたら……もう何も言えないじゃないですか……」
ようやく分かってくれたようだ。
「はい、この話はもうお終い、早くご飯食べちゃおう」
「むー……仕方無いなぁ……」
愛実ちゃんはそう言いながら、俺の作った朝食を食べていた。
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