第21話
「はい、お待たせいたしました」
「あ、ありがとうございます」
「んじゃ、ごゆっくり~」
俺は愛実ちゃんにそう言うと、厨房の方に戻って行く。
「おい岬、お前そろそろ上がれよ」
「え? なんでですか?」
「暇すぎて店長が早めに上がれってよ」
「あ、そういうことっすか……なら上がらせてもらお」
まぁ、あと40分くらいで結局バイトは終わりだし。
今日は早く帰って、実家に帰る準備でもするか……。
俺がそう考えながら、バックヤードに下がろうとしていると、またしても高井さんが俺を呼び止める。
「おい、岬」
「今度はなんすか?」
「愛実ちゃんが呼んでるぞ」
「はい? なんで?」
「さぁな、もう上がりだって言ったら、着替えてからで良いから席に来て欲しいって言ってたぞ」
「えぇ……いやだなぁ……」
「おいおい、後輩の頼みは聞いてやれよ」
「だって、愛実ちゃんの友達も居るんですよ? なにこの人? とか思われたくないですもん……」
「まぁ、気持ちは分からんでも無いけどな。まぁ頑張れよ」
「楽しそうですね」
そう言う高井さんは口元をニヤつかせ、楽しそうにしていた。
この人は本当に……。
俺は着替えを済ませると、フロアの愛実ちゃんのところに向かった。
「あ、やっときましたね」
「何か用? 俺もう帰りたいんだけど」
愛実ちゃんは俺を見つけると、嬉しそうに笑顔を浮かべる。
一方、愛実ちゃんの友達は俺の方を真顔でジーッと見ていた。
なんだか緊張してしまうな……。
「次郎さん、年末年始は何をしてるんですか?」
「え? あぁ……実家に帰ろうかと思ってるけど……」
「えぇ!? な、なんでですか……」
「いや、夏休みも帰らなかったし、年末年始くらいはあっちに帰ろうかと……」
俺の話を聞いた愛実ちゃんは、寂しそうな表情で頬を膨らませながらそっぽを向く。
「……次郎さんは私が嫌いなんだ」
「なんでそうなる」
「だって……ふん!」
どうやら、年末年始も俺と一緒に居たかったらしい。
なんでこんな話しを友達の前でするんだろうか……しかもなんだこの状況……。
「はぁ……面倒くさい……」
「あぁ!! 今面倒くさいって言いました! すみませんね! 面倒な女で!」
「誰もそんな事言ってないだろ? はぁ……仕方ないだろ? お袋からも帰ってこいって言われてるし」
「ぶー……」
「膨れるなよ……じゃあ、俺は帰るから……」
そう言って俺が立ち去ろうとした瞬間、愛実ちゃんの友達が急に俺に話しかけてきた。
「あ、あのすみません!」
「ん? えっと……君は……」
「私は、愛実の友達で優香里って言います」
「あ、えっと……どうかした?」
「あの! どうやって愛実を落としたんですか!」
「は?」
「どうやって愛実をこんなにメロメロにしたんですか!」
「ちょ、ちょっとまって……えっと……知ってるの? 君はその……俺と愛実ちゃんの関係……」
「はい! そして、ここに来て更に疑問に思いました! なんで愛実が貴方みたいな冴えない大学生を好きになったのか!」
「うん、君失礼だね」
類は友を呼ぶとはよく言ったものだ……この子もこの子で面倒くさい。
「えっと……帰っても良い?」
「ダメですよ! そこに座ってください!」
「そうですよ!」
「……なぜ?」
俺は愛実ちゃんの隣に座らされ、俺は二人の女子高生から質問責めに合っていた。
「なんで愛実と付き合わないんですか?」
「えっと……だから、俺は……」
「そうですよ、早く私と付き合ってくださいよ」
「愛実ちゃんはちょっとお黙ろうか」
なんなんだ最近の女子高生は……メッチャ色々聞いてくるじゃん。
もう早く帰りたい。
「おにいさんは知らないかもしれませんけど、この愛実はうちの高校ではそりゃあ人気なんですよ!」
「そ、そうなんだ……」
「サッカー部のエースとか、バスケ部のエースとかが告白してくるんですよ!」
「そ、そうなんだ……」
エース多いな……。
「なのに! なんで貴方みたいな……」
「君、本当に失礼だね……」
「いや、すみません。でも……本当になんでなんだろう……」
「俺だって不思議だよ……」
「もう、優香里は黙っててよ! 今は私と次郎さんの今後の話しをしているんだから!」
「そんな話しをする気も無いんだけど……」
なんでも良いから、俺を早く家に帰らせてくれ。
俺はそんな事を思いながら、ジッと椅子に座っていた。
そして数十分後……。
「じゃあ、俺はそろそろ帰るから」
「あ、すみません引き留めちゃって」
「ごめんなさい、仕事終わりに」
「あぁ……まったくだよ……」
バイトよりもつかれてしまった。
ようやく帰れる、そう思いながら俺は店を後にして家に向かって歩き始める。
「う~……結構寒くなってきたな……」
「風邪引かないようにしないといけませんね」
「あぁ、そうだね……って、なんで愛実ちゃんがいるの!?」
「え? 優香里も居ますよ?」
「あ、どうも」
「あ、どうも……じゃないよ! なんで二人して付いてきてるの!」
「いやぁ~この後どうしようかって話しをしてたら、次郎さんの家が近かったなぁって……」
「だからって、俺の家に来ないでよ……」
「良いじゃ無いですか~、女子高生が二人も遊びに来るんですよぉ~、ちょっとしたご褒美じゃないですかぁ~」
「罰ゲームの間違いだろ……」
二人はそのまま俺の部屋まで付いてきた。
なんでこんなことになったのか、誰か教えて欲しい……。
「へぇ~男性の一人暮らしなのに……綺麗な部屋ですね」
「はぁ……なんでこんな事に……」
俺はため息を吐きながら、二人分のお茶を用意する。
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