第20話
「そう言うことね……」
「は、はい……」
売り場を離れ、私は優香里と共にベンチに座って話しをしていた。
「でも……愛実がねぇ……」
「わ、私だって恋はします!」
「まぁ……そうだろうけど……で、その次郎って人はどんな人なの?」
「童貞」
「いや、そう言うことじゃなくて……」
「じゃあ、草食系」
「いや、だから雰囲気っていうか……どんなところが好きなの?」
「え? うーんとね……凄く優しいし……面倒見も良いし……それに……結構頼りになって……一緒にいて楽しいっていうか……」
私は照れながらも次郎さんの事を優香里に話す。
こうして話しをしていると、なんだか次郎さんに会いたくなってきてしまう。
「ふぅーん……相当惚れてるんだ」
「うん……大好き」
「完全に恋する乙女だ、この子」
「別に良いじゃ無い! 優香里だって好きな人いるくせに!」
「まぁ、そうだけど……愛実みたいに私はそんなに正直じゃないし……しかし、アンタ凄いわね、家に乗り込んだり、下着で迫ったり」
「だって、早く私のものにしたいもん」
誰かに取られてからでは遅い。
取られる前に私のものにしたい。
そう思うのは普通の事じゃないのかな?
「ものって……愛実、少しはその次郎さんの気持ちも考えてあげなよ」
「え? 考えてるよ」
「考えてない、そんなアプローチされても手を出さなかった人でしょ?」
「うん」
「慣れてないのよ、女の子からそう言うことをされるのに、だから戸惑ってるのよ」
「うーん……そうかな?」
「そうよ、良く言うでしょ? 押してダメなら引いてみろって、迫っていくだけじゃ男は落とせないわよ」
「いまだに彼氏のいない優香里ちゃんには言われたくないよ」
「な・ん・か・言った?」
「いてててて……ご、ごめんなひゃい……」
私の言葉に怒った優香里は、私の頬を引っ張って来る。
本当の事を言っただけなのに……。
「でも、愛実が年上好きだとは知らなかったわ」
「別にそう言う訳じゃないよ、好きになった人が年上だったってだけ」
「ふぅーん、これは冬休み明けの学校が大変ね……」
「え? なんで?」
「愛実はうちの学校のアイドルなんだから当たり前よ」
「え? いやいや、私がそんな訳無いじゃん」
「自覚無いの? 良く男子から告白されるでしょ?」
「それは……そうだけど……でも私以外にも可愛い子なんて……」
「それ、他の女子の前で言わない方が良いわよ? 皮肉に聞こえるから」
私がアイドル?
本当にそんな事、私自身思った事なんて無い。
私以外にも可愛い子がいると本気で思っているし、そんな柄でも無い。
クラスでもそんなに目立つ方じゃないし……。
「まぁ、でも愛実に好きな男がいるって知ったら、もう告白してくる馬鹿もいなくなるんじゃない?」
「そうだと良いんだけど……」
私は一応、モテる自覚はある。
良く男子生徒から手紙を貰ったり、告白されるけど、学園のアイドルなんて言われているなんてことは知らなかった。
告白をされても、いままで誰とも付き合った事は無い。
だって、いままで恋愛になんて一切興味が無かったからだ。
毎日が楽しければ、私はそれで十分だった。 でも、次郎さんと出会ってそれが変わった。
「ねぇ、写真とか無いの? 愛実を落とした大学生って気になるわ!」
「写真? 残念ながら無いの……私も欲しいんだけど」
「あ、そうなの? 残念、見てみたかったのに」
「多分、今だとバイト中だけど?」
「よし、見に行こう!」
「え?」
優香里の言葉に、私は思わず立ち上がる。
「ほ、本当に?」
「だって、どうせそろそろお昼だし? ついでにご飯食べちゃおうよ」
「ま、まぁ……確かにそうだけど……」
友達とバイト先に行くのは少し抵抗してしまう。
自分一人なら全然良いのだが、なんだか少し恥ずかしい。
「急がしそうだったらやめるって約束するなら良いよ」
「うん、オッケーオッケー、じゃあさっさと行こう!」
優香里はそう言って立ち上がり、私の手を引っ張って私のバイト先に向かって歩き出した。
*
「いらっしゃいませー」
長かったバイトも後、二時間ほどで終わる。 今日は早めに終わるし、帰ったら実家に帰る準備を進めるか……。
俺がそんな事を考えながら、ハンバーガーを作っていると、またしてもお客さんが店内に入ってきた。
「あ、いらっしゃいま……ってなんだ、愛実ちゃんか」
「なんだとはなんですか! 失礼ですね」
入ってきたのは、愛実ちゃんだった。
私服姿で、すこしお洒落をしている感じを見ると、どこかに行った帰りであることが分かる。
「あれ? 友達と一緒?」
「はい、今日は買い物に行ってきたので」
「へー、そうなんだ。初めまして」
「あ、はい。どうも初めまして」
愛実ちゃんの友達か……美少女は美少女を呼ぶなぁ……愛実ちゃんとはちがう路線でこの子も美少女だな。
ぱっと見はかなり遊んでそうな感じだけど……。
俺は愛実ちゃんの隣にいる、ポニーテールの活発そうな女の子を見てそう思う。
「で、何食べる?」
「私はハンバーガーのポテトMセットで」
「はいよ、君は?」
「あ、じゃあチーズバーガーのポテトMセットで飲み物をホットココアにして下さい」
「かしこまりました、じゃあ番号札を持って席でお待ちください。今日は平日だし、そこまで混んでないから」
「じゃあいつもの席に……」
愛実ちゃんはそう言うと、いつも来たときに座る、厨房の見える席に友達と座った。
良いよなぁ女子高生、家賃の心配とかしなくて良いんだろうし……。
俺はそんな事を考えながら、鉄板の上に冷凍のハンバーグを置き、ポテト油の中に投入する。
「ん? 注文入ったのか?」
「はい、ドリンクの方をお願いします」
「あいよ……って愛実ちゃんか」
「あぁ、なんでも友達と買い物した帰りらしくて」
バックヤードで倉庫整理をしていた高井さんが戻ってきた。
「ふぅーん……愛実ちゃんも可愛いけど、あの子もなかなかだな」
「ですよね、類は友を呼ぶって本当っすね」
俺はハンバーガーを作り終えると、トレイに乗せて愛実ちゃん達の元に持って行く。
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