第19話
*
12月と言うのは忙しい、クリスマスが終わったと思ったら、直ぐに年末だ。
「今年は実家に帰らないとなぁ……」
俺はそんな事を考えながら、バイト先の休憩室でお茶を飲んでいた。
愛実ちゃんが家に押しかけてきてから、既に3日が経過していた。
それ以降、愛実ちゃんはことあるごとに俺の家を訪ねてきた。
その代わりと言ってはなんだが、バイト先では必要以上に迫ってくるような事はなかった。
「はぁ……新幹線……まだ空きあるかな?」
「お疲れ様~、ってなんだ岬だけか」
「なんだとはなんすか、高井さんも休憩っすか?」
「あぁ、少し落ち着いてきたからな……それよりお前に聞きたい事があったんだが……」
「ん? なんすか?」
「おまえ……愛実ちゃんとなんかあった?」
「ぶっふぅぅぅぅぅ!!」
高井さんの言葉に、俺は思わずお茶を吹いてしまった。
「その反応……マジで何かあったんだな……」
「な、ななな何も無いっすよ! 何を言ってるんですか! 馬鹿じゃないんですか!」
「いや、馬鹿はお前だよ……わっかりやすいなぁ……」
高井さんにそう言われ、俺は思わず顔を赤くする。
なぜ高井さんがそんな事を聞くのだろうか?
まさか、愛実ちゃん?
「あ、あの……ちなみに誰から……」
「え? いや、ただの勘」
すげーな……この人の勘。
「なんすかそれ……はぁ……いや実は……」
俺は高井さんに何があったのかを話した。
誰かに相談出来たほうが、色々とアドバイスを貰えて良いかもしれない。
それに、高井さんは彼女が居る。
女性の扱いにも慣れているはずだ。
「そうか……愛実ちゃんが……」
「はい……ちょっと……困っていて……」
「まぁ、そうだろうな……そんな羨ましいアプローチされたら、童貞のお前は困るだろうなぁ……」
「それは心配してるんですか……それとも貶してるんですか……」
「まぁ、女子高生にそんな積極的なアプローチをされて困っているのも納得出来る。そんなお前に俺が言えるのは一つだけだ」
「それは一体!?」
「もう付きあっちまえ」
「話し聞いてました?」
だめだこの人、人の話聞いてない……。
「あの……話し聞いてました?」
「あぁ、聞いたぞ? 聞いた上で言ったんだ」
「いや、だから俺は、現時点では愛実ちゃんの事は好きでは無くてですね……」
「そんなん時間の問題だ、だからさっさと付き合え、以上」
「以上じゃねーよ、どういう意味だよ」
相談する相手を間違えたかもしれない……。 もっと女に慣れてる小山君とかに相談すれば良かった。
「じゃあ、逆に聞くけどよ、一緒に一日過ごして、ドキッとしたりした瞬間とか、一回も無かったの?」
「そ、それは……」
ドキッとなんて何回もしていた。
しかし、それは愛実ちゃんのアプローチが積極的過ぎるからだ。
「何も思ってない相手にドキッとなんてしねーんだよ。ドキッとするって事は、お前が少しは愛実ちゃんを意識してるってことなんだよ。いい加減認めろ」
「そ、そんな事を……言われても……」
「なんだ? 他に好きな奴でもいるのか?」
「い、居ませんけど……」
「なら良いじゃねーか……面倒くせーなぁー」
「適当だなぁ……」
「お前が堅すぎるんだよ、それだけ好意を持たれてるんなら、試しに付き合ってみれば良いんだ、以外と上手くいくかもしれないぞ」
「そういうもんですかねぇ……」
「まぁ、待ってくれてるんなら、ゆっくり考えてみろ、時間はまだあるんだろ?」
高井さんいそう言われ、休憩は終わった。
ゆっくり考えるか……そんな事を言われても……あの子は毎日アプローチしてくるしなぁ……。
*
冬休み、私達学生にとってはわくわくする長期のお休みだ。
私は学校の友人と会う約束があり、今は喫茶店に一人でいた。
「愛実、お待たせ」
「優香里遅いよぉ~」
やってきたのは同じクラスの安城優香里(あんじょうゆかり)。
今日は一緒に買いものに行く約束をしていたので、こうして待ち合わせをしていた。
「クリスマスも終わったね~、愛実は何してた?」
「え? あぁ……まぁ……バイトかな?」
私は目を反らしながら優香里にそう言う。
「へ~働き者だねぇ~、私は結局友達とカラオケ行って終わりだったしなぁ~」
「ごめんね、折角誘ってくれたのに」
「大丈夫だよ、それより今日は何を買うの?」
「えっと……下着かな?」
「下着? 珍しいね」
「ま、まぁね……」
次郎さんを落とすためには、もっと際どい下着が必要だろうし……これを機に色々買っておきたい。
「そう言えば、新しく始めたバイトはどう? もう結構経つでしょ?」
「随分慣れたし、楽しいよ」
むしろ今はバイトに行くのが楽しいくらいだし。
そう言えば……今日は次郎さん出勤だったなぁ……。
そんな事を考えながら、私と優香里は買いものに向かった。
年末と言うこともあり、セール品なんかも多く、高校生の私たちの財布にはありがたい。
「愛実……」
「ん? 何?」
「あんた……彼氏でも出来た?」
「え!? な、なんで?」
「いや……だってさっきから選んでる下着のデザインが……」
「な、なに?」
「際どい……」
優香里はそう言いながら、愛実の持っている下着を指さす。
「そ、そうかな?」
「スケスケじゃない……」
「そ、そうかしら?」
「お尻丸見えよ」
「うっ……いや……あの……なんと言うか……来年には高三だし……少し冒険してみようかと……」
「冒険どころか大冒険じゃないのよ! 何を探しにいくのよ! ボール!? 七つ集めると願いが叶うやつ?」
「そ、そんなんじゃ……」
「だってアンタ、下着とか誰かに見せる訳じゃ無いしって言ってた癖に!」
驚く優香里を他所に私は持っていた下着を棚に戻す。
「あーえっと……その……実は……好きな人が居まして……」
「嘘!! 恋愛なんて20代後半までどうでも良いって言ってた愛実が!? 相手は誰!!」
「えっと……バイト先の先輩で……大学生で……」
私は次郎さんの事を話し、クリスマスと次の日の出来事を話した。
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