第22話
*
年が明けてお正月。
俺は実家から一人暮らしの自分のアパートに帰ってきた。
「ただいまぁー……って誰も居ないけど」
アパートの電気を付けて、俺は部屋の中に入る。
「はぁ……つかれた……」
実家では大学はどうだとか、向こうでのバイトはどうだとか色々と聞かれた。
高校時代の友達とも遊べたし、なんだかんだ楽しかったが……。
「さて、飯を作るか……」
俺はそんな事を考えながら、冷蔵庫の中を見る。
何も無い……買い物にも言ってないし当たり前か……。
「買い物行くか……幸い雪も降ってないしな」
俺は財布を持って再び外に出た。
時刻はお昼をちょっと過ぎたくらい。
スーパーは正月と言うこともあってか、少し混雑している。
「えっと……あとは卵を……」
俺が卵を探しながらスーパーを歩いていると、急に肩をトントンと二回叩かれた。
「ん?」
「次郎さん! こんなところで何をしてるんですか?」
「げっ……愛実ちゃん」
「げってなんですか!! 失礼な!」
そこに居たのは、大きな袋を持った愛実ちゃんだった。
恐らく買い物に来たのだろう。
「実家から帰ってきたんですね!」
「あぁ、今日の二時間前くらいに帰ってきたばっかりだよ。愛実ちゃんは買い物?」
「はい、福袋を買いに友達と!」
「へ、へぇ……じゃあ早く友達のところに戻った方が良いんじゃ……」
絶対に面倒な事になる。
俺はそう思って、愛実ちゃんに友達の元に戻るように言う。
しかし・・・・・・。
「あ、大丈夫です。さっき解散したので」
なんでだよ!!
思わず俺は心の中で叫んでしまった。
と言うか、なんで解散するんだよ!
一緒に帰れよ!
そして女子高生らしく、お茶をしろ!!
「次郎さんはお買い物ですか?」
「え? あ、あぁ……晩飯をな……」
やべー……今からなんか面倒臭いことになる予感がしてきた。
「晩ご飯ですか! じゃあ私が……」
「お断りします」
「つくって……って早いですよ!」
言われる前に丁重にお断りした。
この前家に呼んだ時はいろいろと面倒だったし、それにこの子は隙あらば俺に迫って来るし……。
「だって次郎さん疲れてるじゃないですか! 私が家事やって上げますよ!」
「いや、結構です」
「良いじゃないですか! 次郎さんは寝てるだけで良いですから!」
「いや、愛実ちゃんと二人きりの家ではあんまり寝たくない……」
「どう言う意味ですか!!」
俺は愛実ちゃんと話しをしながら、カゴの中に食材を入れて行く。
「むー……最近会えなかったんだから良いじゃないですか」
「悪いけど、俺は帰ってきたばっかりで疲れてるんだ、今日は勘弁してくれ」
「だから、私が先輩のお世話をしてあげるんですよ! もちろん夜の方も……」
「はぁ……女の子がそんな事を言ってないで、正月くらい家族と過ごして……」
「あ、じゃあ私の家に来ます?」
「え?」
*
現在の状況を説明しよう。
「ほら、次郎君。マグロも食べなさい」
「あ、すいません、ありがとうございます」
「お酒もあるわよ、良かったらどう?」
「い、いえ、自分はまだ未成年なので……」
俺は買い物をしていて、愛実ちゃんに遭遇した。
そして、なんやかんやと話しをしているうちに、愛実ちゃんの家で晩ご飯をご馳走に鳴っていた。
何を言ってるのか分からないと思うが、俺も何が起きたのか分からない。
「愛実がいつもお世話になっているそうで、ありがとうございます」
「あ、いえそんな、お嬢さんは仕事の覚えも早いですし……」
「もう、次郎さんいつもはそんな事言わないくせにぃ~」
愛実ちゃんはそう言いながら、俺の背中をバシバシ叩いてくる。
なんなんだこの状況。
俺の隣には愛実ちゃんが座り、その目の前に愛実ちゃんの両親がニコニコしながら座っていた。
愛実ちゃんの両親は凄く良い人だった。
突然の俺の来訪を心良く迎え、晩飯までご馳走でしてくれた。
しかし、なんだろうか……このもう後には引けない感じは……。
「次郎君は大学はどこに通っているんだい?」
「あぁ、涼清大学の文学部に……」
「ほぉ、有名な大学じゃないか、優秀なんだね」
「いえいえ、そんな自分は優秀なんかじゃ……」
「就職はこっちでするのかい?」
「えっと、一応そのつもりです。実家にも電車を使えば直ぐに帰れますし……」
「そうか、そうか」
「じゃあ、愛実が他県に行くことはなさそうね」
「そうだな」
ん?
なんで俺の就職の話しから、愛実ちゃんの話しになる?
「次郎君、今日からは私の事はお父さんで構わないよ」
「え?」
「もう、お父さんったらそれは早すぎますよ」
「あぁ、そうかそうか。つい先走ってしまった」
「あ、あはは……」
待て、なんだこの変な状況は!
お父さんって呼んで良いなんて、まるで娘の結婚相手に言うみたいな台詞……はっ!!
俺はここでようやく気がついた、愛実ちゃんの作戦に……。
「次郎さん、ぶりも有りますよ?」
「ま、愛実ちゃん……」
「はい?」
俺は愛実ちゃんに真相を確かめるべく、コソコソと尋ねる。
「もしかして、お父さん達に俺と愛実ちゃんの関係って……」
「………」
俺がそう尋ねると愛実ちゃんは何も言わずに、口元をニヤリと歪めた。
こいつ!
俺は愛実ちゃんのこの表情を見て確信した、この子は俺を家に招き、両親に紹介し、告白を断りにくくしようとしているのだ。
「次郎君、君は休日は何をしているんだい?」
「次郎さんは、甘いものは好き? いただき物だけどデザートもあるのよ」
楽しそうに愛実ちゃんの両親は俺にそう尋ねて来る。
俺は苦笑いをしつつ、食事をしていた。
「愛実ちゃん、君は俺をなんて言って両親の紹介してるの?」
食事を終え、愛実ちゃんの部屋で二人きりになった瞬間、俺はため息交じりに愛実ちゃんに尋ねた。
「え? 結婚したいくらい好きな人って言ってます」
「あぁ……そう言うこと……」
「次郎さん、卑怯なのくらい私分かってます……でも、そんな卑怯な手を使ってでも……私は次郎さんが良いんです」
俺が肩を落としてため息を吐いていると、愛実ちゃんが真剣な表情で俺にそう言う。
なんでこの子はこんなに俺が好きなんだ……もっと他に良い男は沢山居るだろうに……。 俺はそんな事を思いながら、愛実ちゃんに返答する。
「はぁ……まったく、君はとことん積極的だな……」
「うふふ、恋は盲目って言うじゃ無いですか!」
そう言って笑う彼女を俺は憎らしいとは思わなかった。
ただ、なんでこんな良い子を俺は好きではないのだろうかと、俺は自分でそう思っていた。
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