第22話



 年が明けてお正月。

 俺は実家から一人暮らしの自分のアパートに帰ってきた。


「ただいまぁー……って誰も居ないけど」


 アパートの電気を付けて、俺は部屋の中に入る。


「はぁ……つかれた……」


 実家では大学はどうだとか、向こうでのバイトはどうだとか色々と聞かれた。

 高校時代の友達とも遊べたし、なんだかんだ楽しかったが……。


「さて、飯を作るか……」


 俺はそんな事を考えながら、冷蔵庫の中を見る。

 何も無い……買い物にも言ってないし当たり前か……。


「買い物行くか……幸い雪も降ってないしな」


 俺は財布を持って再び外に出た。

 時刻はお昼をちょっと過ぎたくらい。

 スーパーは正月と言うこともあってか、少し混雑している。


「えっと……あとは卵を……」


 俺が卵を探しながらスーパーを歩いていると、急に肩をトントンと二回叩かれた。


「ん?」


「次郎さん! こんなところで何をしてるんですか?」


「げっ……愛実ちゃん」


「げってなんですか!! 失礼な!」


 そこに居たのは、大きな袋を持った愛実ちゃんだった。

 恐らく買い物に来たのだろう。


「実家から帰ってきたんですね!」


「あぁ、今日の二時間前くらいに帰ってきたばっかりだよ。愛実ちゃんは買い物?」


「はい、福袋を買いに友達と!」


「へ、へぇ……じゃあ早く友達のところに戻った方が良いんじゃ……」


 絶対に面倒な事になる。

 俺はそう思って、愛実ちゃんに友達の元に戻るように言う。

 しかし・・・・・・。


「あ、大丈夫です。さっき解散したので」


 なんでだよ!!

 思わず俺は心の中で叫んでしまった。

 と言うか、なんで解散するんだよ!

 一緒に帰れよ!

 そして女子高生らしく、お茶をしろ!!


「次郎さんはお買い物ですか?」


「え? あ、あぁ……晩飯をな……」


 やべー……今からなんか面倒臭いことになる予感がしてきた。


「晩ご飯ですか! じゃあ私が……」


「お断りします」


「つくって……って早いですよ!」


 言われる前に丁重にお断りした。

 この前家に呼んだ時はいろいろと面倒だったし、それにこの子は隙あらば俺に迫って来るし……。


「だって次郎さん疲れてるじゃないですか! 私が家事やって上げますよ!」


「いや、結構です」


「良いじゃないですか! 次郎さんは寝てるだけで良いですから!」


「いや、愛実ちゃんと二人きりの家ではあんまり寝たくない……」


「どう言う意味ですか!!」


 俺は愛実ちゃんと話しをしながら、カゴの中に食材を入れて行く。


「むー……最近会えなかったんだから良いじゃないですか」


「悪いけど、俺は帰ってきたばっかりで疲れてるんだ、今日は勘弁してくれ」


「だから、私が先輩のお世話をしてあげるんですよ! もちろん夜の方も……」


「はぁ……女の子がそんな事を言ってないで、正月くらい家族と過ごして……」


「あ、じゃあ私の家に来ます?」


「え?」





 現在の状況を説明しよう。


「ほら、次郎君。マグロも食べなさい」


「あ、すいません、ありがとうございます」


「お酒もあるわよ、良かったらどう?」


「い、いえ、自分はまだ未成年なので……」


 俺は買い物をしていて、愛実ちゃんに遭遇した。

 そして、なんやかんやと話しをしているうちに、愛実ちゃんの家で晩ご飯をご馳走に鳴っていた。

 何を言ってるのか分からないと思うが、俺も何が起きたのか分からない。


「愛実がいつもお世話になっているそうで、ありがとうございます」


「あ、いえそんな、お嬢さんは仕事の覚えも早いですし……」


「もう、次郎さんいつもはそんな事言わないくせにぃ~」


 愛実ちゃんはそう言いながら、俺の背中をバシバシ叩いてくる。

 なんなんだこの状況。

 俺の隣には愛実ちゃんが座り、その目の前に愛実ちゃんの両親がニコニコしながら座っていた。

 愛実ちゃんの両親は凄く良い人だった。

 突然の俺の来訪を心良く迎え、晩飯までご馳走でしてくれた。

 しかし、なんだろうか……このもう後には引けない感じは……。


「次郎君は大学はどこに通っているんだい?」


「あぁ、涼清大学の文学部に……」


「ほぉ、有名な大学じゃないか、優秀なんだね」


「いえいえ、そんな自分は優秀なんかじゃ……」


「就職はこっちでするのかい?」


「えっと、一応そのつもりです。実家にも電車を使えば直ぐに帰れますし……」


「そうか、そうか」


「じゃあ、愛実が他県に行くことはなさそうね」


「そうだな」


 ん? 

 なんで俺の就職の話しから、愛実ちゃんの話しになる?


「次郎君、今日からは私の事はお父さんで構わないよ」


「え?」


「もう、お父さんったらそれは早すぎますよ」


「あぁ、そうかそうか。つい先走ってしまった」


「あ、あはは……」


 待て、なんだこの変な状況は!

 お父さんって呼んで良いなんて、まるで娘の結婚相手に言うみたいな台詞……はっ!!

 俺はここでようやく気がついた、愛実ちゃんの作戦に……。


「次郎さん、ぶりも有りますよ?」


「ま、愛実ちゃん……」


「はい?」


 俺は愛実ちゃんに真相を確かめるべく、コソコソと尋ねる。


「もしかして、お父さん達に俺と愛実ちゃんの関係って……」


「………」


 俺がそう尋ねると愛実ちゃんは何も言わずに、口元をニヤリと歪めた。

 こいつ!

 俺は愛実ちゃんのこの表情を見て確信した、この子は俺を家に招き、両親に紹介し、告白を断りにくくしようとしているのだ。


「次郎君、君は休日は何をしているんだい?」


「次郎さんは、甘いものは好き? いただき物だけどデザートもあるのよ」


 楽しそうに愛実ちゃんの両親は俺にそう尋ねて来る。

 俺は苦笑いをしつつ、食事をしていた。


「愛実ちゃん、君は俺をなんて言って両親の紹介してるの?」


 食事を終え、愛実ちゃんの部屋で二人きりになった瞬間、俺はため息交じりに愛実ちゃんに尋ねた。


「え? 結婚したいくらい好きな人って言ってます」


「あぁ……そう言うこと……」


「次郎さん、卑怯なのくらい私分かってます……でも、そんな卑怯な手を使ってでも……私は次郎さんが良いんです」


 俺が肩を落としてため息を吐いていると、愛実ちゃんが真剣な表情で俺にそう言う。

 なんでこの子はこんなに俺が好きなんだ……もっと他に良い男は沢山居るだろうに……。 俺はそんな事を思いながら、愛実ちゃんに返答する。


「はぁ……まったく、君はとことん積極的だな……」


「うふふ、恋は盲目って言うじゃ無いですか!」


 そう言って笑う彼女を俺は憎らしいとは思わなかった。

 ただ、なんでこんな良い子を俺は好きではないのだろうかと、俺は自分でそう思っていた。

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