第28話
*
「はぁ……」
私が次郎さんと話しをしなくなって、六日が経った。
私は何をしていても集中出来ず、最近はミスばかりしていた。
「なんか愛実やつれてない?」
「そう?」
優香里にそう言われ、私は自分の顔をスマホのカメラアプリで確認する。
「次郎さんともう六日も話してないから……この前間違って電話しちゃったけど……」
「そうなの? そこで何か話したの?」
「直ぐに切ったわよ……その後の次郎さんのメッセージも無視してるし」
「アンタって、やるときは徹底的にやるのね……」
「まぁね……」
私はそんな話しをしながら、スマホに保存してあるバイトの予定を確認する。
こんな時に限って、バイトのシフトは次郎さんとだだ被り……。
私……このままだと死ぬかも……。
「はぁ……ねぇ、本当にこれで上手くいくの?」
「大丈夫よ、あっちもソロソロだと思うし……」
「本当?」
そんな話しを優香里としていると、廊下から優美が急いでやってきた。
「愛実! やったわ! ……ってどうしたの? 体調悪い?」
「んー……ちょっとね……」
私とは違い、優美は対照的に元気そうだった。
一体何だろう?
なんでそんなに急いで私のところに来たのだろうか?
「先輩が私を助けてくれたの!」
「そうなの? 良かったわね」
目をキラキラさせながらそう言ってくる優美。
まぁ、好きな人から助けて貰ったら嬉しいのは分かるけど、いちいち報告することかしら?
「でね、その時先輩なんて言ったと思う?」
「なんて言ったの?」
「この子、自分の彼女なので……って! 嘘でも彼女って言われて、凄く嬉しかったわ!
」
「なるほどね……それで優美の方はどうなの? アプローチをやめて何か変わった?」
「………」
「あ……そう……私も……」
優美は私の質問に目をそらした。
どうやら優美も上手くいっていないよう。 まぁ、そうよね……何もしないのに、上手くなんて行くはずないわよね……。
「はぁ……もう夜道を襲うしか……」
「発想がもう犯罪者じゃない……大丈夫よ二人とも、そろそろだから」
「「本当?」」
「本当よ……多分」
「あ! 今多分って言った!! 優香里を信じたのに!!」
本当にこんな事で上手くいくのかな?
私は少し心配になりながら、次の授業の準備を始める。
*
俺は大学の帰り道、またしても安岡と喫茶店に来ていた。
「最近、片桐って子は何もしてこないのか?
」
「あぁ、おかげでここ最近は何も無いんだけど……」
「けど?」
「いや……なんか不自然というか……ここまで何も無いなんて……逆に怖いというか……」
「なんだよそれ。お前はあの子の事なんとも思ってないんだろ?」
「まぁ……そうなんだけど……」
なんだか、安岡の様子がおかしい。
急に何もしなくなって来て、少し寂しいのか?
「なんだよ、寂しいのか?」
「うーん……まぁ、正直ね………徐々になら分かるけど、急にだとね……」
「なんだ、随分ハッキリ言うのな」
「まぁ、さっさと飽きられるのも寂しいよね」
聞いているこっちとして、お前が振ったんだろと言いたくなる台詞だが、今なら俺もその気持ちが分かるので、なんとも言えない。
「なんだよ、それじゃあ付き合えば良かっただろ?」
「うーん……そうなのかな?」
俺は安岡と彼女の関係がどれくらい深いのかわからないが、結構仲が良いのだろうか?
「なぁ、安岡ってその子と結構仲良かったのか?」
「まぁね……一緒に映画とか行ってたし、買い物に付き合ったこともあったね」
「それ付き合ってるのと変わらなくね?」
「そうかな? 普通だと思うけど……ただバイト先の友達と遊びに行くみたいな……」
「あっちはそう思ってないだろ?」
「まぁ、今思えばね……なんか急にそういうのが無くなるって思うと……寂しいっていうか……」
「それはお前の身勝手だろ……」
「そうだよね」
なんだか安岡にそう行っているのに、自分に言い聞かせている気分だった。
安岡と俺は極めて似ている。
状況も、気持ちも……。
安岡に聞いているはずなのに、自分自身に尋ねているようで、なんだか不思議な気分だ。
「その子……可愛いんだろ?」
「あぁ、可愛いよ」
「じゃあ付き合っちまえばいいだろ?」
「……分からないんだ……彼女を好きなのかどうか……一緒に居れば楽しいし、可愛いとも思うけど……この気持ちが好きって感情なのか……全然分からないんだ……」
「なるほどな……」
良くわかるなぁ……。
俺もそんな感じだ、好きでも無いのに付き合うのもなんか違う気がするし……。
「毎日みたいに来てた電話も……無くなると結構寂しいんだよね……」
「分かる! だよな!」
「え? なんで?」
しまった……つい、状況が似過ぎて少し興奮してしまった。
俺は愛実ちゃんとの話しを安岡にはしていない。
説明とか色々面倒だと思ったからだ。
この際、全部話して二人で色々話しをしてみるのもありだろうか?
そうすれば、こんなに悩む必要も無いし……。
「いや……実は……」
*
私は片桐優美(かたぎり ゆみ)。
このカラオケ店「大きな声」で働く高校二年の女子高生だ。
ここのバイトを始めてもう一年、月日が経つのは早い。
最初は分からなかった仕事も今では簡単にこなせる。
「いらっしゃいませー」
私は自分の容姿が他の人よりも良いことに気がついている。
学校では良く告白されるし、お客さんにナンパされることも度々ある。
そんなのが中学の頃からあるから、誰から何を言われてもあまりときめかない。
『綺麗だね』
『可愛いね』
そんな言葉は星の数ほど言われてきた。
何も感じないし、何も思わない。
そんな時だった、ここの先輩バイトの安岡さんに出会ったのは……。
あの人は私に丁寧に仕事を教えてくれた。
いつも冷静で落ち着いていて、凄く大人な人だと思っていた。
でも、安岡さんは一度も私に可愛いとか綺麗と言った言葉を掛けてはくれなかった。
だからだろうか?
私があの人に興味を持ったのは……。
「はぁ……辛いわ……」
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