第3話
*
慣れないことはするものでは無いな……。
俺はそんな事を考えながら、一人暮らしの自分の部屋で傷の手当をしていた。
あの後、高井先輩と飯に行き、先輩の家でゲームをして帰ってきたのだが、風呂に入った時に体のあちこちが痛くてしかたなかった。
打撲に擦り傷……はぁ……俺はなんであんな面倒事に首を突っ込んでしまったのだろうか……。
「イテテ……」
こんな時に可愛い彼女でも居てくれれば、その子に傷の手当をして貰えるのに……。
そんな事を妄想しながら、俺は一人で薬を塗り絆創膏を貼る、空しい……。
「はぁ……彼女欲しい……」
俺ももう大学生、いい加減彼女が欲しい……周りの友人にも彼女持ちは多いし、取り残された感じがする。
「はぁ……どっかに良い出会いでも無いかなぁ~」
俺はそんな事を一人で呟きながら、部屋の中で一人傷の手当てをする。
やっぱり空しい……。
*
「次郎、その傷どうしたんだ?」
「ん? あぁ……ちょっとな」
次の日、俺は大学の抗議に出ていた。
友人に絆創膏や包帯まみれの姿を見られ、朝からこの質問ばかりだ。
言えるわけないよなぁ……バイト先の女の子助けようとして返り討ちにあったなんて……。
「ちょっとって感じの傷じゃないぞ? 大丈夫か?」
「あぁ、まぁ大丈夫だろ」
俺は友人に適当にそんな事を言い、講義を聞いていた。
大学の講義は自由だ、基本的に何をやっていても怒られない。
しかし、授業を聞いていないと分からないことも多いので、俺は結構真面目に講義を聴いている。
「ん? 誰だ……」
講義の途中、誰からがメッセージが送られてきた。
一体誰だろうか?
俺はスマホを開いてメッセージを確認する。
「え? 石川さん?」
メッセージの相手は石川さんだった。
一体何の用事だろうと思いながら、俺はメッセージを確認する。
【突然連絡してごめんなさい! あの……今日はシフトに入らないんですか?】
俺はメッセージを見て不思議に思った。
そんな事は店のシフト表を見れば分かることだが……。
俺は今日は休みを貰っていた。
そう言えば石川さんは基本的に俺が居る時しかバイトに入ってなかったからな……不安なのか?
俺はそんな事を考えながら、石川さんにメッセージを返す。
【今日は休みだよ、石川さんはシフトなの?】
これでよし……なんて思っていると直ぐに返信が返ってきた。
返信早いな……なんて事を思いながら、俺はメッセージを確認する。
【はい……まだ、岬さんが居ないと不安で……】
まぁそうだろうな……俺も始めてバイトしたときは、指導してくれた人が居ない日は結構不安だったし……。 でも、石川さんは結構皆と仲良くやってるし、俺がいなくても大丈夫だと思うが……。
【大丈夫だよ、俺なんか居なくても石川さんなら上手くやれるから】
今日は高井さんもシフトに入ってるし大丈夫だろ……。
俺はメッセージを送信し終えると、講義を再び聞き始めた。
不安なのは分かるが、わざわざ連絡して来なくても言い気がする……なんて俺は思いながらも、内心では結構心配していたりする。
もし、昨日見たいな奴らが来たらあの子は大丈夫だろうか?
いや、高井さんが居るし……大丈夫か……。
「大丈夫……だよな?」
誰かの指導なんてしたことがなかった俺は、始めて指導した石川さんの事が心配だった。
まぁ、大丈夫だろう……なんて思っても、なんだか色々心配になってしまう。
「……帰り、寄ってみるか……」
俺はそんな事を考えながら、講義のノートを取っていた。
そして大学が終わり夕方、時刻は18時を回っていた。 俺は大学帰りに、真っ直ぐバイト先に向かった。
今日は従業員としてでは無く、客としてやってきたのだが、なんだか新鮮な気分だ。
「いらっしゃいま……あ、岬さん!」
「よっ、上手くやれてる?」
「は、はい! あの……その傷は?」
「あぁ……何でも無いよ、転んだだけ」
レジには石川さんが居た。
いつもの笑顔でしっかりと働いていた。
改めて思うが、やっぱりこの子は凄く可愛い。
普通にしててもなんと言うのだろうか、オーラのような物が出ている気がする。
「おぉ、次郎。お前今日休みだろ? 何しにきた?」
俺の声を聞いてか、厨房の方から高井さんが顔を出してきた。
「勉強ですよ、12月にはテストもありますし」
「ふぅ~ん、本当かぁ~?」
「なんすか……その顔は」
高井さんはニヤニヤしながら俺の顔を見てそう言う。 まぁ、昨日あんなところを見られてしまってはそういう誤解を受けても仕方ないだろうが……。
「はぁ……じゃあ石川さん、注文しても良い?」
「はい、何になさいますか?」
笑顔で俺に接客してくる石川さん。
こりゃあ、ナンパもしたくなる訳だ。
俺は昨日の男達の気分が少し分かった気がした。
こんなに良い子なのだ、店でくらいは俺が守ってやれればな……。
なんて、アホな事を考えながら俺は注文する。
*
冬になった。
早いもので、石川さんが来てもう二ヶ月以上が経とうとしている。
時間の流れは速いものだ……石川さんが入って、もう二ヶ月……。
愛想も良くて、仕事も出来る。
そんな彼女を店の皆は優秀だと口を揃えて言っていた。
俺もそう思っていた……そう……少し前までは……。
「岬さん! 岬さん!」
「ん? 何?」
「もぉ~冷た~い! 折角こんなに可愛い女子高生とバイト中なんですよ! もっと喜んで下さいよ!!」
「あぁ……全然嬉しくないから、喜べない」
「ひっどぉーい!! むー!!」
「石川さん……足を踏むな」
現在の俺と石川さんはこんな感じだ。
最初こそ、俺に敬語を使い、愛想の良かった彼女だが、今は完全に俺を舐めきっている。
「はぁ……なんでこうなったんだ……」
俺はため息を吐きながら、そんな事を呟く。
最初は可愛くて性格も良く、良い子だと思っていたのだが……蓋を開けたらこれだ。
段々と俺の事を小馬鹿にするようになり、今じゃ完全に俺で遊んでいる。
「あ、岬さん、今日上がり一緒ですよね?」
「ん? そうだね」
「じゃあご飯行きましょ! ファミレス!」
「なんでだよ、普通に家に帰りなさい」
「そんなお父さんみたいな事言わないで下さいよぉ~」
「じゃあ年上目線で言う、帰れ」
「やーだ!」
「ムカつく……」
はぁ……あの可愛い石川さんはどこに行ってしまったんだろう?
俺はそんな事を考えながら、サラダのストックを作る。
「岬さん彼女居ないんだから、バイト先で私と話すのが楽しいくせにぃ~」
そんな訳は無い。
「まぁ、岬さんじゃ彼女なんて出来ないですよねぇ~、良いお友達で終わりそう~」
「うるせぇよ、まったく……そう言う石川さんもクリスマスはシフトに入ってたくせに……」
「私はモテますもん! それに私はお金が欲しいからクリスマスもバイトするんですぅ~」
「あっそ……」
はぁ……本当になんでこうなってしまったんだろう。 今では石川さんと話すのが面倒臭い。
「岬さん」
「ん? 何?」
「やっぱり呼びづらいですね……」
「は? 何が?」
「今度から次郎さんって呼んで良いです?」
「あぁ、そう言うこと? まぁ良いけど……」
「やった! じゃあ私の事はプリティー愛実ちゃんと……」
「あぁ、了解。愛実さん」
「プリティーがない!」
「アホか……」
俺は頭を抱えながら自称プリティー愛実ちゃんを見る。
はぁ……女子高生って怖い。
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