第36話
「え……」
「……ほら、ドラマの続き見ろよ」
俺は愛実ちゃんの唇から自分の唇を離す。
「え、え!? い、今!! じ、次郎さん!!」
「もう……お前黙れ……」
俺は真っ赤になった自分の顔を隠しながら、愛実ちゃんに背を向ける。
「も、もう一回して下さい!! 不意打ちなんて卑怯です!!」
「う、うるせぇな! 黙って映画見てろよ!」
「嫌です!! もう一回してくれるまで離れません!!」
愛実ちゃんはそう言いながら、俺の背中に抱きついてきた。
もう最早何をしたいのか良く分からん。
「で、でも……次郎さん……私凄く……嬉しかったです……」
「……そうか」
「はい……また好きになっちゃいました……」
「……それはどうも……」
愛実ちゃんは俺にそう言いながら、俺の背中に張り付いて離れない。
よろこんでくれたのなら良かった。
俺はそんな事を思いながら、愛実ちゃんに背中を向けてスマホを弄る。
*
日も暮れきたので、俺はそろそろ愛実ちゃんに帰るように言った。
しかし、明日は日曜日。
しかも初デートをした日。
もちろん愛実ちゃんが帰るはずも無く……。
「今日は泊まって行きます!」
「帰れ……」
「えぇ~私にあんなことした癖にぃ~。もう責任取って抱いて下さい!」
「そんな事したら俺は捕まる」
あの後から愛実ちゃんはずっと俺の背中に抱きついてきて離れない。
よほど嬉しかったのか、愛実ちゃんがいつもより積極的な気がする。
「はぁ……どうせ言っても帰らないんだろ?」
「はい!」
「はぁ……じゃあ、飯食うか……」
「はい! 食べます!」
俺は愛実ちゃんと二人で晩飯を作り、一緒に食べた。
作っている最中も愛実ちゃんは俺にやたらくっついてきた。
そして、現在。
愛実ちゃんと俺は向かい合って対立していた。
「ダメだ」
「なんでですか!!」
一体何があったかと言うと、愛実ちゃんにお風呂に入ってこいと言ったら、俺と一緒に入りたいと言ってきたのだ。
そんな事出来る訳がない。
そんな事をしたら、俺は理性を保てなくなるし、その後何が起こるかは火を見るより明らかだ。
「はぁ……良いから先に入ってきなよ」
「一緒に入りましょうよ~、いろいろ洗って上げますから~」
「洗わんでいい!」
「えぇ~あ! ごめんなさい! 次郎さんは私の体を洗いたいんですよね?」
「なんでそうなる……」
「もう、次郎さんのエッチ!」
顔を赤く染めながら体をクネクネと動かして照れる愛実ちゃん。
そんな事実はもちろんない。
はぁ……こんな事になるならキスなんてしなきゃよかったな……。
「良いからさっさと入ってきなよ……」
「一緒じゃないと入りません!」
「はぁ……面倒だなぁ……」
「面倒なのはどっちですか! 良いから次郎さんは私に性欲をぶつけて私を傷物にしすれば良いんです!!」
「出来るか!」
「あうっ!」
俺は愛実ちゃんの頭にチョップを食らわせる。
なんとか風呂に入った俺は、愛実ちゃんがお風呂に入っている間に寝る準備を始めた。
ベッドに寝転がり、スマホでゲームをして愛実ちゃんが上がってくるのを待つ。
「次郎さ~ん」
「ん?」
ベッドでスマホを弄っていると、愛実ちゃんが風呂場から俺を呼んできた。
「すいません、下着を忘れちゃって……取って貰えますか?」
「出来るか!」
「なら、私は裸で出ていっちゃいますよ~」
「バスタオルを巻いて出て来れば良いだろう!」
「ぶ~、分かりましたよぉ~だ」
恐らく愛実ちゃんは何か悪いことでも考えていたのだろう。
愛実ちゃんはバスタオルを巻いて、部屋の中に入ってきた。
「えっと……下着下着はぁ~」
愛実ちゃんは俺が寝ている脇をわざと通って、自分の鞄の中から替えの下着を探す。
ってか、替えの下着がなんで有るんだよ!!
最初から泊まるつもりだったな!
なんてことを俺が思っていると、俺は背中に人の気配を感じた。
愛実ちゃんが視界に入らないように、わざと背中を向けていたのだが、逆を言えば愛実ちゃんが一体何をしているのかはわからない。
「次郎さん」
「なに? 早く着替えないと風邪引くよ」
「………私、今全裸です」
「服を着ろ」
「……次郎さんになら……見られても平気です……」
「良いから、服を着なさい」
「ぶー……なんでこっちを向かないんですか! 女子高生の全裸なんてなかなかお目にかかれませんよ!」
「普通は見ちゃいけないんだよ……頼むからこれ以上俺を困らせないでくれ……頼むから……」
「ぶー……分かりましたよ……その代わり寝るときは一緒ですからね!」
「はいはい」
愛実ちゃんはそう言うと、風呂場の方に戻っていった。
愛実ちゃんが本当に全裸だったのかどうかはわからないが、今俺は一つだけ自分に言いたい事がある。
静まれ……俺の息子よ!!
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