第44話
「それもなぁ……玲佳怒ると怖いし……」
「子供っすか……」
俺と高井さんはそんな話しをしながら、浴槽の中に溶けるように沈んで行った。
*
「良かったですね、仲直り出来て!」
「そうね……良い思い出にもなったわ……」
私と玲佳さんは、お風呂に浸かりながら、先程の高井さんと玲佳さんの話しをしていた。 玲佳さんは心なしかなんだか嬉しそうだった。
「でも……そっか……ここに来たのも三年前か……」
「あぁ、そう言えば結局玲佳さんが言っていたテーマパークでの約束って何だったんですか?」
「あぁ……大した事無いわよ……ただ……」
「ただ?」
「………始めてキスした場所がそこでね……また来たら、今度はもっとロマンチックにしてやるって言われただけよ……」
玲佳さんは顔を赤く染めながら、そう言ってくる。
良いなぁ……私も次郎さんに……。
なんて事を考えながら、私は玲佳さんの話しを聞いていた。
「うふふ……なんかどうでもよくなっちゃって……」
「羨ましぃなぁ……次郎さん恥ずかしがってそう言うことしてくれないんですぅ……」
「岬君は恥ずかしがり屋だから、まだ時間が掛かるかもね……でも、大丈夫よ愛実ちゃん。心配しなくてもそのうち次郎君からしてくれるわよ……」
「そうでしょうか……今日も一応勝負下着なのに……」
「ふふ、頑張ってね……」
頑張ってと言われても……次郎さんのガードは堅いしなぁ……。
「はぁ……今日もどうせ一緒に寝るだけですよ……」
「うふふ……仕方ない、それならお姉さんが良いこと教えてあげる」
「え?」
*
風呂も入り、飯も食い終えた。
俺たちは高井さん達の部屋で話しをしながら、コンビニで買ってきたおやつを食べながら、バイトの話しや大学の話しをした。
「お、もうこんな時間か?」
「あぁ、そうね……そろそろ寝ないとね」
「そうですね」
時間が12時を回り、俺達はもう寝ることにした。
俺と愛実ちゃんの二人は揃って、隣の部屋に戻る。
「さて、疲れたしねるか……」
襖を開けた俺は、ぴったりとくっついた布団を見てがっくりと肩を落とした。
「はぁ……これは旅館側の気遣いなのか?」
「おぉ、良い感じにぴったりですね、でもまだまだですねこの旅館……」
「どこがだよ……」
「本当に気遣いが出来る旅館は、布団一つに枕二つで敷いてくれるはずです」
「そんな旅館ねぇよ」
俺はそんな事を言いながら、寝る準備を進める。
歯を磨き、水を飲み、スマホに充電ケーブルを挿して、布団の中に入った。
「さて……じゃあ電気消すぞー」
「あ、ちょっと待って下さい!」
「ん? 別に良いけど、まだ歯でも磨いてるのか?」
「ま、まぁそんな感じです!」
「ん?」
洗面所から愛実ちゃんがそんな事を言ってきたので、俺は電気を消すのをやめ、愛実ちゃんが来るまでスマホを弄っていた。
「すいません、遅くなりましたぁー」
「あぁ、別に良いよ。じゃあ電気消すよー」
「は~い」
そう言いながら、愛実ちゃんは俺の布団に入ってきた。
「コラ」
「あうっ……なんですか!」
「愛実ちゃんの布団は隣!」
「嫌です! 折角の旅行なんですし、良いじゃ無いですか!」
「はぁ……まぁ、何となくそんな予感はしてたよ……」
俺は仕方なく、愛実ちゃんと一緒に寝る事を承諾し、電気を消して寝始める。
「おやすみ……」
「はい……」
俺は愛実ちゃんに腕を掴まれながら、目を瞑って眠る。
少し経った頃だろうか、愛実ちゃんが急に布団から起き始めて何かし始めた。
「ん……何愛実ちゃん……トイレ?」
俺は少しうとうとし始めていたが、愛実ちゃんに尋ねた。
すると、急にお腹の辺りに重さを感じた。
俺は瞑っていた目を開けて、重さの正体を確認する。
「ん……何やってるの愛実ちゃん……下りて……」
「………」
重さの正体は愛実ちゃんだった。
愛実ちゃんは俺のお腹の上に乗って、俺を抱きしめていた。
俺はため息を吐きながら愛実ちゃんに下りるように言うが、愛実ちゃんは一向に下りようとしない。
「愛実ちゃん……頼むよ……この状態は寝苦しい……」
俺がそう言うと愛実ちゃんは、俺のお腹から下りて、再び布団の中に入り始めた。
これでようやく眠れる。
そう俺が思っていると、今度は布団の中かから愛実ちゃんが俺を抱きしめてきた。
まぁ、これは別にいつもの事だから問題ないのだが……この時俺はふと違和感を感じた。 なんだか……愛実ちゃんの服の感触が無いような……。
そんな事を俺が思っていると、今度は俺の耳元で愛実ちゃんが囁いてきた。
「次郎さん……大好きぃ……」
「それはどうも……」
「次郎さん……ぎゅーってして下さい」
「やだ」
「次郎さん……愛してます……」
「はいはい……」
おかしい。
いつもなら反論してくるはずなのだが、今日はただ俺に対しての愛を囁いてくるだけだ。 絶対に何かがおかしい。
俺はそう思って、布団から体を起こして、愛実ちゃんの方を見て尋ねる。
「何? 愛実ちゃんに構って……って! 愛実ちゃん何してるの!!」
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