第44話

「それもなぁ……玲佳怒ると怖いし……」


「子供っすか……」


 俺と高井さんはそんな話しをしながら、浴槽の中に溶けるように沈んで行った。




「良かったですね、仲直り出来て!」


「そうね……良い思い出にもなったわ……」


 私と玲佳さんは、お風呂に浸かりながら、先程の高井さんと玲佳さんの話しをしていた。 玲佳さんは心なしかなんだか嬉しそうだった。


「でも……そっか……ここに来たのも三年前か……」


「あぁ、そう言えば結局玲佳さんが言っていたテーマパークでの約束って何だったんですか?」


「あぁ……大した事無いわよ……ただ……」


「ただ?」


「………始めてキスした場所がそこでね……また来たら、今度はもっとロマンチックにしてやるって言われただけよ……」


 玲佳さんは顔を赤く染めながら、そう言ってくる。

 良いなぁ……私も次郎さんに……。

 なんて事を考えながら、私は玲佳さんの話しを聞いていた。


「うふふ……なんかどうでもよくなっちゃって……」


「羨ましぃなぁ……次郎さん恥ずかしがってそう言うことしてくれないんですぅ……」


「岬君は恥ずかしがり屋だから、まだ時間が掛かるかもね……でも、大丈夫よ愛実ちゃん。心配しなくてもそのうち次郎君からしてくれるわよ……」


「そうでしょうか……今日も一応勝負下着なのに……」


「ふふ、頑張ってね……」


 頑張ってと言われても……次郎さんのガードは堅いしなぁ……。


「はぁ……今日もどうせ一緒に寝るだけですよ……」


「うふふ……仕方ない、それならお姉さんが良いこと教えてあげる」


「え?」





 風呂も入り、飯も食い終えた。

 俺たちは高井さん達の部屋で話しをしながら、コンビニで買ってきたおやつを食べながら、バイトの話しや大学の話しをした。


「お、もうこんな時間か?」


「あぁ、そうね……そろそろ寝ないとね」


「そうですね」


 時間が12時を回り、俺達はもう寝ることにした。

 俺と愛実ちゃんの二人は揃って、隣の部屋に戻る。


「さて、疲れたしねるか……」


 襖を開けた俺は、ぴったりとくっついた布団を見てがっくりと肩を落とした。


「はぁ……これは旅館側の気遣いなのか?」


「おぉ、良い感じにぴったりですね、でもまだまだですねこの旅館……」


「どこがだよ……」


「本当に気遣いが出来る旅館は、布団一つに枕二つで敷いてくれるはずです」


「そんな旅館ねぇよ」


 俺はそんな事を言いながら、寝る準備を進める。

 歯を磨き、水を飲み、スマホに充電ケーブルを挿して、布団の中に入った。


「さて……じゃあ電気消すぞー」


「あ、ちょっと待って下さい!」


「ん? 別に良いけど、まだ歯でも磨いてるのか?」


「ま、まぁそんな感じです!」


「ん?」


 洗面所から愛実ちゃんがそんな事を言ってきたので、俺は電気を消すのをやめ、愛実ちゃんが来るまでスマホを弄っていた。


「すいません、遅くなりましたぁー」


「あぁ、別に良いよ。じゃあ電気消すよー」


「は~い」


 そう言いながら、愛実ちゃんは俺の布団に入ってきた。


「コラ」


「あうっ……なんですか!」


「愛実ちゃんの布団は隣!」


「嫌です! 折角の旅行なんですし、良いじゃ無いですか!」


「はぁ……まぁ、何となくそんな予感はしてたよ……」


 俺は仕方なく、愛実ちゃんと一緒に寝る事を承諾し、電気を消して寝始める。


「おやすみ……」


「はい……」


 俺は愛実ちゃんに腕を掴まれながら、目を瞑って眠る。

 少し経った頃だろうか、愛実ちゃんが急に布団から起き始めて何かし始めた。


「ん……何愛実ちゃん……トイレ?」


 俺は少しうとうとし始めていたが、愛実ちゃんに尋ねた。

 すると、急にお腹の辺りに重さを感じた。

 俺は瞑っていた目を開けて、重さの正体を確認する。


「ん……何やってるの愛実ちゃん……下りて……」


「………」


 重さの正体は愛実ちゃんだった。

 愛実ちゃんは俺のお腹の上に乗って、俺を抱きしめていた。

 俺はため息を吐きながら愛実ちゃんに下りるように言うが、愛実ちゃんは一向に下りようとしない。

 

「愛実ちゃん……頼むよ……この状態は寝苦しい……」


 俺がそう言うと愛実ちゃんは、俺のお腹から下りて、再び布団の中に入り始めた。

 これでようやく眠れる。

 そう俺が思っていると、今度は布団の中かから愛実ちゃんが俺を抱きしめてきた。

 まぁ、これは別にいつもの事だから問題ないのだが……この時俺はふと違和感を感じた。 なんだか……愛実ちゃんの服の感触が無いような……。

 そんな事を俺が思っていると、今度は俺の耳元で愛実ちゃんが囁いてきた。


「次郎さん……大好きぃ……」


「それはどうも……」


「次郎さん……ぎゅーってして下さい」


「やだ」


「次郎さん……愛してます……」


「はいはい……」


 おかしい。

 いつもなら反論してくるはずなのだが、今日はただ俺に対しての愛を囁いてくるだけだ。 絶対に何かがおかしい。

 俺はそう思って、布団から体を起こして、愛実ちゃんの方を見て尋ねる。


「何? 愛実ちゃんに構って……って! 愛実ちゃん何してるの!!」

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