第13話

「出来ました!」


 胸を張ってそう言う愛実ちゃん。

 どうやらコースが出来たらしいが、さてさてどんなコースを作ったのだろうか?


「言っておくけど、クリア出来るやつで頼むよ」


「大丈夫です! ちゃんとクリア出来るかは試したので」


「そう? なら良いけど」


 俺は愛実ちゃんからゲームを受け取り、愛実ちゃんの作ったコースを遊び始める。


「ん? いきなりドア?」


「まぁ、入って見て下さい」


 ステージが始まって直ぐにドアがあった。

 俺はそのドアに入り、次のステージに行く。 

「ん? またドア? 今度は二つか」


「はい! さぁ選んで下さい!」


「はいはい」


 うーむ、こう言うステージか……ドアの先に大量の敵が居たりってパターンもあるだろうし……こう言うステージって運が重要になってくるような……。

 俺は考えた末に右側のドアに入った。


「ん? またドア? 今度は四つ……」


「さぁ! どんどん行きましょう!!」


「全然敵が出て来ないな」


 普通のステージなら、もっと敵やギミックなんかが仕込まれているものだが、今のところ愛実ちゃんのステージにそう言ったものは見受けられない。

 俺は再びドアを選び中に入る。

 するとまたしてもドアがあった、今度はまたしても三つだ。


「随分変わったステージを作ったな……」


「普通のステージじゃつまらないじゃ無いですか」


「まぁ、そうだが……敵とか出てくるのかと思ったんだが……」


 そう言いながら、俺はステージを進めて行く。

 しかし、いつまで経ってもゴールにたどり付かない。

 ドアをくぐってもくぐっても、同じような景色の同じような盤面にたどりつく。

 おかしい。

 そう思い始めた俺は、少し集中して攻略を始めた。


「……そうか、同じところをループしてるのか……じゃあここをこうして……」


 俺は少し集中してコースを攻略し始める。

 このコースは決められたドアだけをくぐってしかゴールにはたどり着けないしようのようだ。

 随分頭を使うコースを作ったものだ……。

 集中してコースを攻略していた俺だったが、ふと隣から人の気配を感じる。

 気になって脇目で隣を見てみると……。


「隙あり!」


「え?」


 愛実ちゃんがゲームに集中していた俺の隙を突いて、俺の頬にキスをしてきた。

 俺は何が起きたのか理解するの数秒かかり、理解した瞬間、慌てて愛実ちゃんから離れた。

「な、ななな! 何してるんだよ!!」


「えへへ~どうですか? 私の作ったコースは?」


「ま、まさか……俺をゲームに集中させる為にこんなコースを……」


「さぁ~どうでしょうね~、私はあまりゲームをやらないので、簡単に難易度の高いステージなんて作れないので~」


 愛実ちゃんがなんでこんなステージを作ったのか、俺はようやく分かった。

 あまりゲームをやらない愛実ちゃんが、誰でも集中してしまうコースを作るには、頭を使うコースを作るのが簡単だ。

 正解のドアだけをくぐらせてゴールを目指させるこのコースは、ドアの数を増やすだけで難易度を上げられるし、どのドアに入ったかやどのドアがどこに繋がっているかなどを考えさせられるので自然とコースに集中してしまう。


「うふふ~ゲームに集中する次郎さんの横顔……子供みたいで可愛かったです」


「と、年上をからかうな」


「私にキスされて嬉しいくせにぃ~」


「嬉しくない!!」


「えー、女の子からのキスですよ~、そこは飛び跳ねて喜ぶところじゃないですかぁー


「嬉しくても飛び跳ねるまでは行かないだろ……」


 俺はため息を吐きながらゲームを置く。


「愛実ちゃんが居たら、おちおちゲームも出来ないよ」


「えー、ちゃんとゴールして下さいよぉ~」


「じゃあ、俺の半径50センチ圏内に入らないで」


「えー! そんなの絶対嫌ですよ!」


「愛実ちゃんは距離が近すぎるんだよ……はぁ……」


 その後、俺は結局愛実ちゃんの作ったコースをクリアした。

 入るドアさえ分かればクリアは簡単だ。

 二人でゲームをしていたこともあって、もうあっという間に夕方だ。


「ん、そろそろ晩飯の準備をしないとな」


「あ、じゃあ晩ご飯は私が作りますよ!」


「……いや、そろそろ帰ってよ」


「えーもう少し良いじゃ無いですかー」


「はぁ……あんまり夜遅いと親御さんも心配するだろ?」


「あ、大丈夫です。今日親には泊まってくるって言ってあるので」


「あぁ、そうかなら………ちょっと待て、今なんて言った?」


 俺は愛実ちゃんに聞き返した。

 いや、そんなはずは無い。

 というか、そんなことあってたまるか。

 

「だから、今日は親に泊まってくると……」


「そうか、じゃあその泊めてもらう人の家に早く行きな、きっと待ってるよ」


「いや、もう来てるので問題ありません」


「あぁ、そっかそっか、アハハハ」


「アハハハ」


「帰れ!!」


「嫌です」


 俺は玄関の方を指差し愛実ちゃんにそう言う。

 愛実ちゃんと一晩一緒なんて、何をされるか分かった物じゃない。

 

「愛実ちゃん、そんなの世間的に色々とダメなのは君だって良く分かってるだろ? あんまり俺を困らせないでくれ」


「でも私、家の鍵持ってきてませんし、今夜は家に誰にも居ません」


「は?」


「なので、私は家には帰れません」


「ま、マジか……」


「家に入れない女の子を次郎さんは家から追い出すんですか?」


「うっ……」


「あーあ、今夜は寒いだろうなぁー」


「狙いやがったな……」


「うふふ~、次郎さん、女の子は恋をすると凄いんですよ~」


 何が凄いんだよ……。

 そう俺は思いながら、仕方なく愛実ちゃんを家に泊めることにした。

 荷物が異様に大きかった理由はそう言うことか……。


「はぁ……」


「次郎さん次郎さん!」


「何?」


「次郎さんの家って、来客用の布団とかあるんですか?」


「あぁ、あるよ」


「っち……」


「なんで舌打ちしたの?」


「布団が無かったら、一緒にベッドで眠れたのに……」


「無かったとしても、一緒には絶対に寝ない」


「えー、今夜はきっと寒いですよ? 暖かい湯たんぽ代わりにどうですか?」


「ストーブに電気毛布もあるから、要らない。なんなら本物の湯たんぽもあるし」


「ぶー、一緒に寝ましょうよ~」


「い・や・だ」


 俺は愛実ちゃんにそう言いながら、冷蔵庫を開けて中の食材を確認する。

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