第12話

「むー……次郎さんなんか冷たくなりました?」


「それは前からだろ」


「もう! 少しはこっちを向いて下さい!!」


「いでっ!!」


 愛実ちゃんは自分の方を向かせようと、俺の顔を持って俺の顔を力を込めて動かす。


「少しはこっちを見て下さいよぉ……」


「そんな寂しそうな目をしてないで……手を離して………イタい」


「あ、すいません」


 そう言うと愛実ちゃんは俺の顔から手を離した。

 俺は首をコキコキと左右に動かした後、愛実ちゃんの方を向いてため息を吐いた。


「あのさ……俺が言うのもなんだけど……その……そんな焦らないでくれ……時間ならまだいっぱいあるし……」


「そんな呑気に構えてたら次郎さんは落とせません!」


「そ、そうなんだ……俺もそれは知らなかったよ……」


 愛実ちゃんの勢いは凄かった。

 俺は思わず身を引いてしまった。

 相変わらず愛実ちゃんは俺から離れようとしない。

 普通の男なら、こんな美少女に抱きつかれたら嬉しいのだろうが、俺はどうにもそんな気分にはなれなかった。


「はぁ……デートの次は告白、その次は家に押しかけ……色々順序がメチャメチャじゃないか……」


「次郎さん、順序とか気にする人だったんですか?」


「まぁな……恋愛に関しては重要だと思ってるよ」


 最近の若い人たちは出来婚が多いと聞く。 そんなの俺は嫌だ。

 俺はちゃんと愛し合った末で結婚して、子供を作りたい。

 だからこそ、恋愛においては順序が大切だと思っている。


「順序……ですか。じゃあ今度は順番的に……キスですね!」


「は?」


「だって、デートして告白して、手を握ったら次はキスじゃないですか!」


「それは告白を相手がOKしてればの話しだ!」


 俺はどんどん近づいて来る愛実ちゃんから距離を置き始める。

 愛実ちゃんはジリジリと俺との距離を縮めていく。


「いや、でも次郎さん。女子高生と同意の上でキス出来るんですよ? 滅多に無いチャンスだと思いません?」


「思うけど、絶対にそんな上手い話しの裏には何か良くない事があると思う!」


「次郎さん……」


「や、やめろ! 来るな変態!!」


「あ、酷い。私傷つきました、チューして下さい」


「結局じゃねーかよ!!」


 俺は愛実ちゃんから離れベッドの上に避難する。

 この子と長い時間一緒に居るのは危険な気がする……。


「え、いきなりベッドなんて……私は良いですけど……」


「ホント何考えてるの……」


 俺は肩を落としため息を吐く。

 愛実ちゃんのこの変わりようは何なのだろうか……。

 



 

「次郎さん料理出来るんですね」


「出来ると思わなかった?」


「まぁ、男性の一人暮らしですから、毎日コンビニの弁当かと思ってました」


 お昼時、俺は愛実ちゃんの分もお昼ご飯を用意し、二人でお昼を食べていた。


「これを食べたら帰ってくれよ」


「えー、折角来たのにー」


「折角の冬休みだ、友達と遊びにでも行ってきたらいいだろ?」


「今は次郎さんと一緒に居たいんですもん!」


「俺と一緒でも楽しくないだろ?」


「凄く楽しいですよ!」


 なんで俺と一緒がそんなに楽しいんだか……。

 俺はそんな事を思いながら、昼食のパスタを口の中に入れる。


「次郎さんと居ると……安心出来るし……なんか幸せな気分になるって言うか……」


「いきなりなんだよ」


「えっと……多分……離れてる時に凄く寂しいって感じるから……一緒に居られる時は……出来るだけ一緒が良いって思っちゃうんです」


「きゅ、急に……なんだよ……」


「だって……好きなんですもん」


 上目遣いでそう行ってくる愛実ちゃん。

 簡単にそう言う仕草をしないで欲しい……ドキッとしてしまうだろ……。

 俺はそんな仕草の愛実ちゃんを可愛いと思いながら、その感情を忘れようとパスタを口の中にかき込む。


「もう、そんなに急いで食べたら詰まっちゃいますよ?」


「うっ!」


「ほら~、はいお水」


「ん! ………ぷは! はぁ……キツかった」


「急いで食べるからですよ~」


「は、腹減ってたんだよ……」


「うふふ~慌てなくてもいいのにぃ~」


 こうやって普通に接して見て俺は分かった。 この子は俺が思っている以上に可愛い子だ。 きっと同じ学校の男子からもモテるだろうし、それ以外の男性からもモテるだろう……。 俺はそんな……こんな可愛い子と付き合ったとして、釣り合うのだろうか……。


「うわっ! あーん、また負けたぁ~」


「愛実ちゃんゲームは苦手なんだね」


 お昼を食べ終わった後、俺は愛実ちゃんとゲームを始めた。

 結局愛実ちゃんが帰りそうに無かったので、二人でゲームをすることにした。

 プレイしているのは有名な横スクロールアクションゲームだ。

 最近新しいのが出て今はそれを二人で交互にプレイしている。


「次郎さんってゲーマーなんですか?」


「ん? まぁ、そこまでガチじゃないけど、好きだよ」


「へー、知らなかったです」


「まぁ、言ってないしな……愛実ちゃんは全然しないの?」


「スマホアプリならたまに遊びますよ、こう言う有名なやつも友達の家とかでなら」


「そっか、これ面白いだろ? 世界中の人が作ったコースを遊べて」


「はい、これコースも作れるんですよね?」


「あぁ、それが一番の売りだからね、やってみる?」


「はい!」


「じゃあ、俺は出来るまで漫画でも呼んでるから、出来たら遊ばせてよ」


「良いですね、じゃあこっち見ちゃダメですよ!」


「へいへい」


 俺は愛実ちゃんにそう言うと、読みかけの漫画を本棚から取り出し、愛実ちゃんに背を向けて漫画を読み始める。


「えっと……ここをこうして……」


 お、考えてるな……まぁ、このゲームはあんまりゲームやらない人も楽しめるからな……。

 それにしてもどんなコースをつくるんだか……。

 俺はそんな事を考えながら、愛実ちゃんのコースが出来るのを待った。

 そんな時、俺はあることを思った。

 あれ? なんか以外と……楽しい?

 彼女と一緒に過ごす時間って……こんなかんじなのか?

 

「次郎さん!」


「ん? どうした?」


「このブロックはどうやって出すんですか?」


「え、あぁこれはだな……」


 いや……気のせいだ。

 これはきっと、好きなゲームをやってるからだ。

 俺が愛実ちゃんを好きとか、そういうのじゃない。

 俺は自分にそう言い聞かせ、愛実ちゃんに操作を教える。

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