第47話
*
朝食を食べ終え、とうとう帰るだけになった俺たち。
荷物を持ってバス停に向かい、俺たちはバスを待っていた。
「愛実ちゃん……」
「はい?」
「なんか……いつも以上に近く無い?」
「そうですか?」
愛実ちゃんはいつも以上に俺との距離が近かった。
そんな愛実ちゃんを見て、玲佳さんはニコニコしながら愛実ちゃんに尋ねる。
「うまくいったのね」
「はい! 玲佳さんのおかげです!」
「うふふ、良かったわね。次郎君はやっちゃったわね」
「そんな嬉しそうに言わないで下さい……」
玲佳さんはベンチに座りながら、俺の方を見てニヤニヤしていた。
「どうだった? 愛実ちゃんの体は?」
「変な事を聞かないで下さいよ……」
「昨日、私達の部屋まで聞こえてきたわよ?」
「え!? マジっすか!!」
「嘘よ」
「……マジでやめて下さいよ……」
「うふふ、若いって良いわねぇ~」
「そんなに歳変わらないじゃないですか……」
玲佳さんの言葉を聞き、俺は心臓が止まる
かと思った。
本当にこう言う冗談はやめてほしい……。
「あんまり次郎をいじめるなよ玲佳」
「あら? 今日は随分優しいじゃない」
「まぁ……無理を言ってこの旅行に来て貰ったからな……」
「高井さんがそんな事を言うなんて……明日は雪ですかね?」
「次郎、それはどう言う意味だ……」
そんな話しをしているうちにバスがやってきた。
俺たちはバスに荷物を載せて、席に座った。 窓から温泉街を眺めながら、俺は隣の愛実ちゃんの方を見る。
「愛実ちゃん」
「はい?」
「今度は……二人で来ようか……」
「え……は、はい!!」
そう言うと愛実ちゃんは俺の手を強く握り、肩に頭をのせてきた。
楽しかったのか、それとも昨晩の影響なのか、愛実ちゃんはそのまま眠ってしまった。
「色々あったが……来て良かったな……」
俺はそんな事を思いながら、自宅へと帰って行った。
*
「次郎さん!」
「何?」
「父と母が今度の日曜日に、一緒に食事をしたいそうです」
「へ?」
温泉旅行から一週間が経ち、来週から新学期が始まるという今日。
遊びに来ていた愛実ちゃんが、俺の膝の上でそう言った。
「なんで?」
「いやぁ……母にこの前の旅行の話しをしたら、そろそろちゃんと紹介して欲しいと言われまして……」
「なるほど……ところで愛実ちゃん……」
「はい?」
「旅行の話しっていうのは……あくまで温泉の話しだよね?」
まさか自分の両親にあの夜の話しなんてしてないよな?
なんて事を思いながら、俺はゲームのコントローラーから手を離し、愛実ちゃんに尋ねる。
「はい、温泉が気持ちよくて、次郎さんと温泉の博物館に行ってきたって言いました」
「あぁ、そっか……それなら良いか……」
「はい! 流石に私だって両親にあの夜の話しはしませんよぉ~」
「だ、だよなぁ~」
「はい、初めて一緒にお風呂に入った事はいいましたけど」
「え?」
この子はなんでこんなに天然なのだろうかと、俺はこのとき思った。
しかし、ちゃんと挨拶はするべきだろう。
ご両親だって、娘が誰と付き合っているのか気になるだろうし……。
でも……会いたくねぇなぁ……。
絶対愛実ちゃんのせいで色々バレてるだろ……。
「はぁ……」
「どうしたんですか?」
「ん? 別に……愛実ちゃん可愛いなぁーって」
「えへへ~やめて下さいよぉ~、チューしちゃいますよ!」
「あぁ、それは良いから」
俺はそんな事を言いながら、愛実ちゃんを膝から下ろし、立ち上がる。
「さて、愛実ちゃんそろそろ帰らないとでしょ?」
「えぇ~もうですか……」
「そうだよ、送ってあげるから、ほら行くよ」
「ぶ~……はーい」
俺は愛実ちゃんを自宅まで送り届け、自分の家に戻り始めた。
「愛実ちゃんの両親と飯か……」
前に会った時の事を思い出すと、あまり緊張はしない。
いい人だったし、お父さんも怖そうな人では無かった。
「でもなぁ……」
それでもやっぱり、彼女の家で食事なんて考えると緊張してしまう。
「はぁ……どうしよう……」
何を着ていけば良いのだろうか?
手土産は何を持って行けば良いのだろうか?
考える事が多すぎる。
俺は愛実ちゃんの両親との食事の事を考えながら、部屋に帰った。
*
愛実ちゃんの家での食事の日が来てしまった。
時間は夕方6時から。
俺は手土産と、なるべくちゃんとした服装で、愛実ちゃんの家にやってきた。
「よし」
俺は覚悟を決めて、愛実ちゃんの家のインターホンを鳴らす。
「はーい」
愛実ちゃんの声がドアの向こうからしてきた。
案の定ドアの開けたのは、愛実ちゃんだった。
「次郎さん!!」
「うぉっ!! ビックリした……」
愛実ちゃんはドアを開けていきなり俺に抱きついてきた。
「待ってましたよ!」
「そ、そう……あのさ……ご両親も居る事だし……離れてくれない?」
「えぇ~、大丈夫ですよ! うちの両親はもう次郎さんを認めてますから!」
「そう言うことじゃ無いから……」
俺は愛実ちゃんにそんな話しをしながら、家の中に入って行った。
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