第48話

「あらあら、良く来たわねぇ~」


「あ、どうもご無沙汰しています……」


 玄関に入ると、エプロン姿の愛実ちゃんのお母さんが玄関までやってきた。


「娘がいつもお世話になっています」


「あ、いえそんな……これ、良かったら皆さんで」


「まぁ、なんか気を遣わせたみたいで……ごめんなさいね」


「いえ、全然。それじゃあお邪魔します」


 俺はそう言って、家に上がった。

 リビングに通されると、俺はソファーに座らせられた。


「やぁ、久しぶりだね」


「あ、どうもお久しぶりです」


 ソファーでは、愛実ちゃんのお父さんが新聞を読みながらお茶を飲んでいた。


「愛実は君にわがままを言っていないかね?」


「はい、愛実さんは……えっと……」


 わがままは言うし、俺を馬鹿にするなぁ……。

 

「ははは、すまないねぇ。娘は気に入った相手には少し正直になりすぎるところがあるんだ」


「た、確かにそうかもしれませんねぇ……」


「あぁ、愛実は妻に似ていてね……私も昔は苦労をしたのさ……」


「そ、そうなんですか?」


「あぁ……手錠を取り出してきた時は私も苦笑いだったよ……」


「一体何が……」


 愛実ちゃんの両親の馴れ初めに違和感を感じながら、俺は愛実ちゃんのお父さんと話しをしていた。


「昔は愛実から『パパと結婚する~』なんて言われたが……こうして彼氏を連れてくると……なんだか寂しいねぇ」


「す、すいませんなんか……」


「いや、でも安心だよ。君のようなしっかりした子が相手で」


「いえ、自分はそんな……」


 お父さん相手に最初は身構えてしまったが、話してみるとそうでも無い。

 落ち着いていて、凄く良いお父さんだ。


「娘の口から君の名前を聞かない日は無いくらいだよ」


「そ、そうなんですか……なんだか照れますね……」


「あぁ、仕事場での働きぶりから、パソコンの中のエロサイトの趣味思考まで……」


「親子でどんな話しをしてるんですか!!」


「まぁ、確かに胸は母性の象徴だからね……好む気持ちはわかるよ」


「そんな穏やかな表情でそんな事を言わないで下さい!!」


 なんて事を話しているんだ!

 俺は恥ずかしさのあまり、顔を両手で隠す。 てか、愛実ちゃん、いつの間に俺のパソコンを……今度からパスワードを変えよう。


「お父さん、次郎君、そろそろご飯よ」


「あ、すみません、ありがとうございます」


 俺と愛実ちゃんのお父さんは、愛実ちゃんのお母さんに呼ばれ、ダイニングテーブルに移動する。

 テーブルの上には豪華な食事が並んでいた。 

「次郎さんはこっちです」


「あぁ、そうなの?」


 俺は愛実ちゃんの隣に座り、愛実ちゃんの両親とは向かい合う形になった。

 食事が始まり、俺は愛実ちゃんの両親から質問攻めにあっていた。


「この前の温泉はどうだったの?」


「露天風呂が最高でした、他にも色々入ったんですけど、やはり露天風呂が……」


「そうなの? 今度私たちも行ってみましょうか?」


「そうだな、今度の結婚記念日にでも行ってみるか」


「おすすめですよ」


「「それで、夜はどんな感じだった?」」


 なんでそんな事を聞くんだ……。

 てか、愛実ちゃんは一体両親にどこまで喋っているんだ。

 先程まで良い感じだったのに、今はなんだか公開処刑をされてる気分だ……。


「愛実ちゃん……君は両親とどんな話しをしているんだ……」


「ん~? 普通の話しですよ?」


「あっそ……」


 俺は愛実ちゃんの両親からの質問攻めに上手く答えながら、食事を進めていた。

 デザートのケーキも食べ終え、今は食後のお茶を飲んでいた。


「ん、もうこんな時間か……そろそろ帰らないと」


「あら、止まって行けば良いじゃない」


「え、しかし……」


「そうですよ! 私のベッドで寝れば!」


「で、でも……」


「大丈夫だよ、私と妻の部屋は一階だから、何をしても聞こえないよ」


「そう言う意味では無いですお父さん……」


 愛実ちゃん家族から強く言われ、俺は愛実ちゃんの家に一泊することになってしまった。 俺は食事を終え、愛実ちゃんと一緒に愛実ちゃんの部屋にいた。 


「こんな事なら着替えを持ってくるんだったなぁ……」


「大丈夫です! 私次郎さんのスウェット持ってます!!」


「おい……」


「あイテっ!! な、なんで叩くんですかぁ~」


「なんで俺のスウェットを持ってるんだ!」


「ち、違いますよ! べ、別に……次郎さんの匂いが染みついた物が欲しかったからとかじゃ無いんだからね!!」


「ツンデレで誤魔化すな!」


「いてっ! うぅ~ごめんなさい……」


 俺は愛実ちゃんから自分のスウェットを取り返し、上着を脱ぐ。


「はぁ……そんなストーカーみたいな事しなくても……」


「うぅ~だって……」


「だってじゃない、今度から持って行かないでくれよ」


「じゃあ、私の下着と交換で!!」


「アホか」


「あうっ! もう!! ポンポン頭を叩かないで下さい!!」


 愛実ちゃんは頬を膨らませながら、俺にそう言う。

 なんで俺はこの子と付き合ってるのだろうか……時々疑問に思う時がある……。

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