第25話
*
「次郎さん!」
「うぉっ! 急にどうしたの? ビックリしたなぁ……」
土曜日のバイト中、俺は急に愛実ちゃんに声を掛けられた。
急に大声を出すから、俺はビックリして思わず手に持っていた食器を落としそうになってしまった。
「相談があります! 今日バイト終わったらお話いいですか?」
「え? まぁ……良いけど?」
相談?
一体何の相談だろうか?
俺はそんな事を考えながら、仕事に戻った。 そして、バイト終わり。
俺は愛実ちゃんに連れられて、いつものファミレスに来ていた。
「で、相談って何?」
「優美の事です」
「あぁ、確か安岡に惚れてる女の子だっけ? あの子がどうかしたの?」
「……なんとか……その安岡さんとくっつけられませんか?」
「え? いや……それは……」
そんなの無理に決まってる。
あいつは、根気よく断り続けると俺に話していたし、本当にあの子に興味が無いのは目に見えて明らかだった。
「多分、無理だよ……それに、これは当人同士の問題だよ?」
「そうですけど……でも……」
「……何かあったの?」
俺は必死になって話す愛実ちゃんに尋ねてみた。
ただ端に可愛そうだからと言うだけで、愛実ちゃんはここまで必死にならない。
恐らく何かあったのだろうと思い、俺は愛実ちゃんにそう尋ねる。
「……別に……ただ応援したいだけです……」
「……応援?」
「だって……あんな辛そうなあの子を見てたら……」
なるほど……恐らく自分に似た境遇の子を見て、その片桐と言う子の気持ちに同調してしまったのだろう。
しかも、その子の恋が実らず、辛い顔をしていたとなれば、放ってはおけないだろう……。
「愛実ちゃん……さっきも言ったけど、これは当人同士の問題だ、君や俺が何か口を挟む問題じゃない」
「でも……優美はあんなに頑張って……」
「頑張っても叶わない恋だってあるんだよ………」
「……なんですか、その言い方」
少し不機嫌そうになる愛実ちゃん。
しかし、ここはちゃんと言わなければいけないと俺はそう思った。
「愛実ちゃん、努力しても叶わないことって言うのは、この世の中には沢山ある。安岡が片桐さんを拒み続ける限り、残念だけど片桐さんの恋は叶わない」
「じゃあ……放っておけって言うんですか……」
「そうだ……誰かが二人の事に口を挟んで、その二人が付き合ったとしても、その二人は長く続かないと思うよ」
「……なんでそんな冷たい事を言うんですか!」
愛実ちゃんは感情的になり、俺に声を上げる。
こんな愛実ちゃんを見たのは初めてで、俺は少し驚いた。
しかし、この子が言っていることは、ただのこの子のわがままだ。
「じゃあ、安岡に片桐さんと仕方なく付き合ったもらうのかい? そんなのは恋じゃないよ」
「でも! このままじゃ……優美が……」
「可愛そうに思う気持ちは分かるよ……でも……あいつは片桐さんを恋愛対象として見れないって……そう言ってるんだ……無理にくっつける訳にもいかない」
「……そうですか……まるで次郎さんみたいですね!」
言われた瞬間、俺はどきっとしてしまった。 まさにその通りだ。
しかし、俺と安岡で決定的に違うのは、答えが決定しているかしていないかだ。
「どうせ……次郎さんも……私の事なんて……どうでも良いと……」
「待ってくれ、それとこれとは話しが……」
「違うんですか!? いつまでも告白の返事は無いし……どうせ……次郎さんも私なんてどうでも良いと思ってるんですよね……」
「なんでそうなるんだ……俺はちゃんと……」
「ちゃんとなんですか? 私の気持ちにも気づかなかったくせに!!」
「そ、それは……」
「私がどんな気持ちで毎日を過ごしてるか知ってるんですか? 今日振られるか、明日振られるか……毎日不安なんですよ!!」
愛実ちゃんは涙を浮かべながら、俺にそう言った。
知らなかった。
愛実ちゃんはいつも笑顔で、悩みなんて無さそうで……でも、それは俺の思い込みだったらしい。
「愛実ちゃん、落ち着いてくれ……俺は……」
「次郎さんに恋する女の子の気持ちが分かるんですか!? 思っても思っても報われない……そんな悲しい日々でも好きな人の前では笑顔で居たくて、無理に笑って! でも……思いは届かない……そんな気持ちが貴方に分かるんですか!!」
何も言えなかった。
きっとこれは、愛実ちゃんと片桐さん二人の共通の話しなのだろう。
無理をして笑っている……。
不安だったのだろう、愛実ちゃんは俺にいつ振られるか怖かったのだろう……でも、俺の前では不安な表情を見せまいと、いつも笑顔で居た。
分かるわけが無い……。
そんな事実にも、俺は今言われなければ気がつけなかったのだから……。
「もう……良いです……それなら次郎さんのお望み通り……諦めます……今までありがとうございました!」
愛実ちゃんはそう言って、ファミレスを後にしていった。
残された俺は、先程まで愛実ちゃんが座っていた席をただぼーっと眺めていた。
「………」
振る前に振られてしまった。
まぁ、俺が告白したわけでは無いのだが……。
俺はぼーっと何が起きたかをかんがえながら、ただ席に座っていた。
周りのお客さん全員から視線を向けられていることにも気がつかずに……。
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