第31話

 そんなことがあり、またして愛実ちゃんを泊めることになってしまった。

 彼女の両親から信頼されるているのは嬉しいが……本当にそれで良いのか?


「はぁ……仕方ないか……」


「はい! さぁ! 一緒にイチャイチャしましょう!」


「嫌です」


「なんでですか!」


 そうは言ったものの、愛実ちゃんは勝手に俺の側に寄ってくる。

 

「次郎さん! これ見て下さい!!」


「ん?」


 そう言って愛実ちゃんが見せて来たのは、近くに新しくオープンしたパンケーキ屋だった。

 メニューの一覧も載っており、どれも美味しそうだった。


「美味しそうじゃないですか?」


「そうだな、甘そうだな」


「今度一緒に行きましょうよ!」


「そうだな、今度の休みな」


 愛実ちゃんにそんな事を言いながら、俺はゲームを続ける。

 愛実ちゃんは俺の隣でスマホを弄り、俺の体に寄りかかっている。

 

「ん、愛実ちゃんお風呂入ってきなよ」


「いえ、次郎さんからで良いですよ」


「いや、入ってきなよ。俺はそのうちに布団敷いておくから」


「いやいや、次郎さんから」


 なんだろうか?

 なんでここまで風呂の順番を俺に譲るのだろうか?

 怪しい……。


「なんでそんなに俺から風呂に入れたがるんだ?」


「え!? あ、いや……そ……その……次郎さん私のお風呂……覗くじゃないですか……」


「覗かねーよ!!」


「なんで覗かないんですか!!」


「逆ギレ!?」


 結局風呂は俺から入ることになってしまった。

 まさか愛実ちゃんが後から入ってくるのだろうか?

 なんて事を俺は考えていたのだが、予想に反して愛実ちゃんは来なかった。

 いや、別にそういうのを期待していた訳ではない、断じてそうではない!

 俺は風呂から上がって着替えをし、部屋に戻ったる。


「はぁ……はぁ……次郎さんの匂いぃ~」


「………」


「クンクン……はぁ~……次郎さん……」


「……変態がいる」


 部屋に戻ると愛実ちゃんが俺の着替えを手に取り、自分の顔に押しつけて匂いを嗅いでいた。

 先に風呂に入らせたのはこういうことか………。


「おい」


「へ? じ、次郎さん!? は、早く無いですか!?」


「何やってるんだ」


「い、いや……あの……」


 愛実ちゃんは顔を赤くしながら、俺の着替えを後ろに隠す。

 マジでこの子は一体何をやってるんだ……。

「とりあえず、それ返してくれる?」


「嫌です」


「なんでだよ!!」


「良いじゃ無いですか、減るもんじゃ無いんですし!! 私のパンツ貸しますから!」


「いるか!!」


 俺は愛実ちゃんから自分着替えを奪い取り、洗濯機に放り込んだ。


「むー……それを抱いて今日寝ようと思ったのにぃ……」


「何をしようとしてるんだか……」


「だって! どうせ一緒に寝てくれないじゃないですか……」


「はぁ……そんな事誰も言ってないだろ?」


「え?」


「……寝るか? 一緒に……」


 俺がそう言うと、少しの沈黙の後、愛実ちゃんは興奮した様子で俺に尋ねた。


「え、え? い、良いんですか?」


「あぁ……愛実ちゃんが良いならだけど……」


「も、もちろんです! わ、私お風呂入ってきます!!」


 愛実ちゃんはそう言って、着替えを持ってお風呂に入りに行った。

 俺は愛実ちゃんが戻ってくる前に、ベッドの上を片付け、ゲームをしながら愛実ちゃんが戻ってくるのを待った。


「はぁ……なんであんなこと言ったんだろ……」


 本当は一緒に寝る気なんてなかった。

 なのになんで俺は一緒に寝ようなんて言ったのだろうか……。

 まぁ、ただ一緒に寝るだけだし良いか。

 俺がそんな事を考えていると、愛実ちゃんが戻ってきた。


「お待たせしました……」


「ん、風呂の温度は丁度良か……おい!」


「はい?」


「なんでバスタタオル一枚なんだよ! ちゃんと服を着てこい!!」


「次郎さんが言ったんじゃないですか……一緒に寝ようって……」


「そう言う意味じゃねーの!! 良いから服を着てこい!!」


 俺はバスタオル一枚で出てきた愛実ちゃんにそう言い、愛実ちゃんを部屋から追い出した。

 まったく何を考えているんだか……まだキスもしていないと言うのに……。

 少しして愛実ちゃんは服を着て戻ってきた。

「むー……そう言う意味じゃないんですか……」


「あのなぁ……俺はただ一緒に寝ようって言っただけだろ?」


「大人の寝るって意味かと思いました」


「はぁ……愛実ちゃんの脳内はどんだけピンク色なんだよ……」


 俺はそう言いながら、ゲームを終了し寝る準備に入った。

 電気を消し、ベッドの上のライトを付けて愛実ちゃんをベッドに呼ぶ。


「ほら、狭いけどそれでも良いなら」


「はい! 全然良いですよぉ~お邪魔しま~す」


 愛実ちゃんは俺のベッドにもぞもぞと入ってきた。


「えへへ……って、次郎さんなんで背中を向けるんですか!!」


「なんか向き合って寝るのは危険な気がした」


「なんでですか!! こっち向いて下さいよぉ~」


 愛実ちゃんはそう言いながら、俺の背中をポカポカと叩いてくる。

 俺は仕方なく、愛実ちゃんの方に向き直る。 うわ……メッチャ近いな……。

 身近すぎて忘れていたが、やっぱり愛実ちゃんは可愛い。

 そんな可愛い女の子が俺の彼女で一緒に寝ていると考えると、なんだか不思議な感覚だ。 もしかしたらこれは夢では無いのだろうか?


「えへへ……次郎さ~ん」


「あ、あんまり近づくな……」


 愛実ちゃんが近づくと、愛実ちゃんの胸が当たってしまう。

 それは非常にまずい。

 しかし、愛実ちゃんはさらに俺に近づき、とうとう俺の体にしがみついてきた。

 俺の背中には壁があるため、これ以上逃げられない。


「次郎さん……」


「な、何?」


「……ありがとうございます」


「え? 急にどうした?」


「私みたいな……わがままで生意気なのを……彼女にしてくれて……私とっても嬉しいです……」


「………」


 そう言う愛実ちゃんの言葉は、なんだか凄く安心しているようだった。

 なんでこんな俺と付き合えて嬉しいのか、俺には理解出来なかった。

 でも……俺の事をここまで好きでいてくれるのは嬉しかった。

 

「お礼を言うのはこっちだよ……好きで居てくれて……ありがとう」


「……今日の次郎さんはなんだか素直ですねぇ~」


「そうかもな……」


 そんな事を話しているうちに、俺たちは眠りの中に落ちて行った。

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