━☆ 》11話~チーム『ミチル』

 私は毒の沼に歌いながら向かっていた――。



 「優しい風よ。傷を癒せよ♪」



 まるで口ずさむ様に足取りも軽い。



 「優しい風よ。傷を癒せよ♪」



 体が光に包まれた。


 歌は一分以内に同じ歌を歌っても発動しないらしい。MPもSPも消費しないので、練習の為に歌っていた。



 「優しい風よ。傷を癒せよ♪」



 うん。覚えた。

 そうだSPの方も覚えよう。暇だし。


 毒の沼に到着し、沼を背にする。



 「ステータスオープン」



 SPの歌はまだ覚えていないので見ながら歌う事にした。



 「研ぎ澄まされた技を使う者の癒しの時間。みなぎる力の源よ。蘇れ♪ 優しい風よ。傷を癒せよ♪」



 私の体は二度光に包まれた。


 おぉ続けて歌ってもちゃんとカウントしてくれている!

 いや本当に詩人をサブにしてよかったぁ。



 「ねえ、なつめ。この髪を掴んでもいい?」



 私の左肩に座るシシリーが突然そう言ってきた。

 落ちそうとか? 飛べるのに?



 「別にいいけどなんで?」


 「隠れる為よ」



 あぁ。そういう事。


 シシリーは、髪を前にして隠れた。



 「でもそれ、一部分だけだし、歩いたら揺れて見えちゃうと思うけど……」


 「やっぱり、そう? 咄嗟だと見つかっちゃうと思うのよね……。村に行くんだよね? もう一層の事オープンにしちゃう?」


 「え? 変に思われない? シシリーが見つかった時、結構注目されたんだけど……」


 「私達が騒いだからね。私はどっちでも構わないわよ」



 そう言えば、シシリーって私以外の人でも触れらるのかな?



 「ねえ、シシリーって他の人に見えるだけじゃなくて、触れるの?」


 「えぇ、そうね」



 頷いで答えた。



 「と、いう事は誘拐される可能性もあるんだ!」


 「まあ、なくもないけど。私を連れ去っても意味ないけどね」



 そうかもしれなけど、珍しいのだからありえるよね? 私は連れ去ろうとは思わないけど、手に入れる方法を知りたくなるわ!

 そう考えると、シシリーが見えると厄介よね……。

 なんかいい方法ないかな?

 そうだ服にポケットとかないのかな?


 私は神官の服を触って確かめるもポケットはなかった。

 うん? あった! ポケットの代わりになるもの!



 「ねえ、シシリー。これに潜れる?」



 指差したのは、腰にぶら下がっている寝袋。

 もうほとんど使う事もないだろうから、シシリー用にしても問題ないよね?



 「どれどれ……」



 シシリーは、足から寝袋に入って行く。



 「これいいわ~」


 「よし! 解決!」



 問題は、歩いたら揺れるから酔わないかだけど、妖精だから大丈夫だよね?



 『ミチルだけど、もう少しで着くから、毒の沼の前に集合な!』


 「ミチルへ――はーい! ……どうぞ」



 勘があたったわ! 待ち合わせにちょうどいいもんね。



 「お待たせ!」



 ほどなくしてミチルは現れた。



 「いえ。わざわざ来てくれてありがとう」


 「あ、でさ、悪いんだけどもう一回だけお願いしていい?」



 そう言って出して来たのは、巾着袋。ミチルは、五つ葉の採取を要求してきた!



 「え? 終わりって言ったよね?」


 「あ、いや。これ俺の。お金も払うからさ。宜しく頼むよ。はい、100G」



 抜かりないわね、この人……。


 ニッコリしてミチルは立っている。

 仕方なく、100Gと巾着袋を受け取り、毒の沼に入る。


 100個入れ終わると、ミチルに渡した。



 「サンキュ。いやぁ、助かった。これでランク上げられる!」


 「そ、それはよかったわね」



 まあ、いいか。ついでだしね。



 「うんじゃ、チーム組もうぜ」



 ミチルは手を出して来た。今回は、手のひらを下にしている。握手ではなさそう。



 「えっと……」


 「あ、そっか。この上に手を重ねて」



 え……。気合い入れるあれみたいですね。エイエイオーって……。

 そっと、手を重ねる。



 《チーム『ミチル』に入りますか?》



 「はい……」



 《チーム『ミチル』に入りました》



 何と言うかこのゲーム、アクション? が恥かしいのですが……。


 ふとミチルを見ると体の前に青い半透明のバーが表示されている。



 「うん? バー?」


 「あ、これか? チーム組むと仲間のHPが%でバーに表示されるようになるんだ。じゃ行こうぜ」


 「うん」



 なるほど。HPが確認出来るんだ。自分には表示されてないけど、ミチルからは見えているんだよね? なんか不思議。


 ミチルは東に向かって進んで行く。森の中に入って暫くすると、小道が現れた。



 「え? 道?」



 「この道は、村に直通なんだ。普通は10、9、8って深緑の神殿を巡って1まで行くんだけど、ショートカット出来る。あ、1が村な。後、敵がかなり強いから」


 「えっと。なんで10と1が近いの?」


 「あぁ。10の南に9で次の8が西に7が北西にあって、10を中心に他の神殿がある感じ? で、神殿の影響で強いモンスターが寄りつかないんだけど、弱いのは影響ないらしくて。だから普通は順番に回って1の北の村に行くんだ」


 「うーん? じゃ1と10の間は他の神殿より離れているって事?


 「そういう事。少しの間だけ、強い敵が出るんだ。ほぼ毎回エンカウントする。だから普通は、知っていればここは通らない」


 「へぇ」


 って事は、ミチルって強いんだ。というか、10の神殿に来る用事って五つ葉の採取しかないけど……。



 「10ってほとんど人いないよね」



 「まあ、10に行くぐらいなら遺跡行った方が時間的に短縮になるからな。ここを通らないなら行かないだろうな……。何せ自分じゃ五つ葉採取できないしな」


 「確かに。ねえ、普通に村に行こうと思ったらどれくらいかかるの?」


 「3時間ぐらいかな?」


 「なるほど……」



 往復したら6時間か。確かにロスになりそう。遺跡がどれくらいでいけるか知らないけど。



 「もうそろそろ、オオカミの草原だから気を付けて」



 20分程歩いた頃、ミチルはそう言った。

 オオカミが出るのかな?



 「なつめが攻撃受けたら、一発で死亡だから」


 「はい……」



 だよね。よく考えれば私、防御もないしHPも22しかないし。大丈夫かな……。たぶん覚えたファイヤーなんて役に立たないんだろうなぁ……。


 ガサガサ。



 「これ持てって! 攻撃力UP!」



 左側から音が聞こえたかと思うと、五つ葉が入った巾着袋を私に投げて寄こし、たぶん剣士だからスキルだと思うけど発動し剣が一瞬輝いた!

 次の瞬間! オオカミがミチルに襲い掛かった! 振り上げていた剣をミチルはオオカミに振り下ろす!


 ザッ!

 大きく切り付けるも血は出ない。そして、キラキラと輝きながら消滅した――。


 ネズミと対戦した時は、目を瞑っていたからわからなかったけど、いなくなっていたのは消滅していたからだったのね!


 オオカミは後二体いた。



 「待て!」


 「きゃー!」



 一体がミチルをすり抜け私の方に向かってきた!

 私はギュッと目を瞑るも、ザッと言う音がして目を開けると、目の前のオオカミがキラキラと消滅するところだった!


 ミチルが切り付け倒したみたい。

 私はホッと安堵する。



 「っち」



 ミチルがオオカミに背中を攻撃されて舌打ちをした。私に向かったオオカミを倒す為に、もう一体のオオカミに背を向けていたから。

 ミチルのHPは少し減った。多分、10分の1ぐらい。


 HPいくらあるんだろう、この人……。


 ザッ!

 最後のオオカミを斬り付け消滅させた。



 「よし! この草原を走り抜けるぞ!」



 私達は、道なりに走った。10分程走ってミチルは止まった。



 「袋持っててくれてサンキュな」



 手を出して来たので、私は巾着袋を渡した。


 そう言えば、チームを組んでいるから歌を歌ったらミチルのHPって回復するのかな?

 ふとそう思い試してみたくなった。



 「優しい風よ。傷を癒せよ♪」


 「うん? なんだ?」



 ミチルと私の体を光が包む。



 「歌だよ。HP回復の歌」


 「歌? へえ……ランク3のサブは、歌のスキルを持ったのを選んだわけか」



 しまった! 自分からバラしちゃった!

 ミチルはジッと私を探るように鋭い視線を送ってきた――!

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