━☆ 》26話~ランク戦6ごめんなさい。リタイアです

 もう!言い合いして気が合わないのかと思えば、変な所で意気投合するんだから!



 「さてと、そっちの奥……うん?」


 「どうした?」



 シシリーが更に奥を指さして言うと、何故か言葉を途中で切った。何かあったのかとミチルが聞く。



 「うーん。モンスターが走ってこっちに向かって来るわね」


 「はぁ? なんで!?」



 シシリーの言葉に、私達は身構える。

 ミチルは、剣を構えた。



 「って、プレイヤーじゃん!」



 がさごそと目の前に現れたのは、走って来た男性プレイヤー。



 「助けて~!」


 「って、モンスター連れて来たのかよ!」



 シシリーの言う通りモンスターが現れた! その数3体!

 逃げたプレイヤーを追いかけて、モンスターがついてきたみたい。



 「なつめ! 歌よ!」


 「きゃー!」


 「ちょ……お前何やってんだ!」



 私に指示を出しながらシシリーが寝袋に入いると同時に、逃げて来たプレイヤーが私に抱き着いた!

 飛び込む様に抱き着かれた私は、倒れ込んだ!



 「うわぁ……」



 私達に振り向いたミチルはモンスターの攻撃を受け、これまた地面に手をつく。



 「ぎゃー!」


 「きゃー!」



 私の目の前で、私に抱き着いたプレイヤーはとどめを刺され、きらきらと輝いて消え去った!!



 「この!」



 起き上がったミチルは、プレイヤーにとどめを刺したモンスターに斬りかかる!

 ザン!

 モンスターは、私からミチルにターゲットを移したみたい。



 「何やってるのよ! ガードチェンジ! それに回復の歌。防御……あ!」


 「優しい風、いたぁ!! きゃー! ミチル助けて!」



 シシリーに言われハッとして歌を歌い始めるも、一体はまだ私がターゲットみたいで攻撃された!

 ピリッとした痛みと衝撃。それに恐怖心!


 まだ倒れ込んでいた私は、這う様に逃げる。

 やっぱり私には、戦闘は無理よ!

 一撃で、残りHP1!

 小石に躓いて転んでも死にそうよ!



 「なつめ!!」


 「……!」



 ミチルの叫び声と一緒に、チリっと背中に痛みが走った!

 ふわっとした浮遊感があった後、周りが変わった気がしてギュッとつぶった目を開く。

 そこは、神殿の中だった……。



 「ご愁傷様。死んじゃったみたいね。全くあのプレイヤーめ! あ……」



 シシリーは、寝袋からちょこんと顔を出し語っていたけど、スッと引っ込めた。



 「ご、ごめんなさい。巻き込んじゃって……」



 さっき抱き着いたプレイヤーが近づいて来て言った。

 茶色い髪に緑の瞳。うん。普通に見たら変な色の組み合わせだわ。

 この人、剣士だった。まだコーデチェンジしていなくて普通の剣士の服装。



 「つい、抱き着いちゃって……」


 「抱き着いちゃってじゃねぇ!」



 ミチルも殺されたみたいで、抱き着いた剣士の後ろに立った。剣士は後ろを振り向く。



 「あ……ごめんなさい」


 「お前のせいで、全滅だ!」



 全滅っていうけど、二人しかいない。



 「まあまあ。こいつも謝ってるし」



 この剣士の仲間だと思うけど、違う剣士の人がそう言ってもう一人と近づいて来た。

 って、もう一人の人、神官だわ! 男の人だけど。

 ミチルもその人を見て、驚いた顔をしている。



 「おたく、剣士から神官にチェンジしたのか?」



 ミチルが神官に言った。

 目線は手に持っている剣。

 あ、さっき話していた課金ね。って、もうしている人いたの?

 あれ、でも……。



 「杖ないと魔法とかスキル使えなくない?」


 「だよな……。って、その格好で剣を振り回すのかよ」


 「あぁ、これ。まあ、剣なんだけどね。杖代わりにもなるんだ」


 「ふーん」



 説明を聞いて、ミチルは頷いているけど、私にはさっぱりわからない。



 「だからまあ、ヒールを覚えたんだけど、一人で二役だと上手くいかないわ。回復間に合わなくて……」


 「それでもあそこまで下りて来るとは、恐れ入ったわ」



 シシリーが、寝袋の中で呟いた。

 どうやらあそこまで来るのは大変みたいね。

 しかしこの人、器用よね。剣で攻撃しながら回復もしていたって事よね。

 うん? あれ? 私もしていた事になるのかな?



 「まあ、いいわ。もう抱き着くなよ!」



 そっち!? って、それ私がいう台詞でしょう。



 「抱き着いたのかよ、お前。……なんて、うらやましい」



 そう言って二人は、私をジッと見つめた。その目線の先は、胸や足!

 もう早く三日経ってよ! 絶対にコーデチェンジするんだからぁ!!

 スッとミチルが私の前に立って、三人を睨む。



 「あ、えっと。ごめんなぁ」



 三人は、名残惜しそうに去っていった。

 ミチルは、ため息をつきながら私に振り向く。



 「その格好も考えもんだな。まさか抱き着く奴がいるとは!」


 「ダメよ。どさくさにまぎれて、自分も抱きつこうなんて考えは」


 「す、するかよ」


 「どうだか」



 ひょこんと寝袋から顔だけだしたシシリーと、ミチルがまた言い合いを始めた。



 「大丈夫よ。そんな事したらこの杖で思いっきり叩くから!」


 「あらいいわね。リアルと違って折れないから思う存分叩けるわよ」


 「おいおい……。怖い事言うなよ。抱き着かねぇって」



 まあいいわ。抱き着いたら思いっきり急所を叩いてあげるわ!



 「ねえ、ところであの剣で戦っている神官だけど、杖が無いのに魔法使えてるの?」


 「そうみたいね」


 「あの剣、ユニークなんだろう?」


 「でしょうね。じゃないと、普通は杖と交換しているでしょう」


 「交換できるの?」


 「じゃないと何も装備できないでしょう?」



 私が驚いて聞くと、シシリーはさも当たり前でしょうと返して来た。

 って、装備出来ないんだ……。



 「でも、交換してくれるぐらいなら最初からその装備でよくない?」


 「ただじゃないわよ? 寄付しなくちゃいけないわ」


 「抜け目ないな。でも武器を交換しないって事は、あいつが言った様に魔法をあれで使えるって事だろう?」


 「そうね。ユニークに間違いないわよ。普通は、神官に剣は装備出来ないからね」


 「出来ないのか?」



 シシリーの言葉に、ミチルも驚いている。



 「じゃないと攻撃がガンガンできる神官の出来上がりでしょう? 神官は腕力が1しかないから重さが2の剣は装備出来ないのよ」


 「え? 重さ?」


 「あ、そう言えばそういう関係もあったか。この剣は重さ2。俺の腕力は4。だから俺には、杖を装備出来るって事だ」



 へえ。そうなんだ。

 見てみれば、私の腕力は1。杖も1。そういう関係があったのね!



 「じゃ、あの神官が持っていた剣は、重さが1以下って事?」


 「だろうな。羨ましいな。ユニークなら攻撃だって普通よりあるはずだ。ソロでもいけそうだな」


 「ソロは無理でしょう。まず攻撃を受けたらアウトよ。基本、神官には、攻撃のジョブがないんだから」


 「そっか。武器の攻撃力を頼る事になるのか。そりゃ無理だな。なつめみたいに逃げ回って攻撃ってわけにはいかないもんな」


 「逃げ回ってって……」


 「剣だと近づかないと攻撃できないでしょ? だから攻撃を受けずにっていうのは難しいって事よ」



 シシリーがわかりやすく教えてくれたけど、まだ根に持ってるのね。



 「うん、じゃ。HP回復よろしく」


 「あ、そっか」



 死んだからHPが半分。

 一旦0になったから半分まで回復しているともいえるけど。



 「優しい風よ。傷を癒せよ♪」



 私達は、光に包まれる。



 「じゃ、外へ行こうか」



 どうしよう。怖い。足が動かない……。



 「うん? どうした?」


 「……戦闘しないとダメだよね?」


 「ダメっていうか、経験値を稼ぐにはそれが一番手っ取り早いけど」


 「なんか、怖くて……」


 「そっか。わかった。経験値稼ぎは、ここじゃないところでやろう。それなら大丈夫か? 前に経験値上げしたところ」


 「いいの?」


 「いやいややるもんじゃないし。まあ、ポイントは稼げないけど仕方ないさ」


 「ありがとう」


 「あら、結構優しいところもあるのね」


 「俺的には、攻撃受けた時に痛いのを消して欲しいんだけどな!」


 「私も……」


 「皆が声を上げれば、改善させるんじゃない? ここから出るのなら神官に話せばいいわ」


 「OK。じゃ、行こう」


 「うん」



 わがまま言っちゃったけど、許してくれてよかった。このままいけばきっと、一位になれたかもしれないのに。

 私は、神官に話しかけこの世界から外に、元の世界に戻してもらった。

 着いたのは村の外。ゲートのすぐ横だった。

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