━☆ 》3話~杖を向けてランクアップ!

 どよ~んと濃い紫色の沼が目の前に広がっていた。


 私の毒の沼のイメージは、沸騰しているかの様にぷくぷくしている感じだったけどここは違う。

 あぁ、入るの嫌だな……。



 「やっぱり入らないとダメなんだよね?」


 『入らずとも縁にある五つ葉を根っこから抜けばいいですよ』



 なんですって! 端に生えているの?


 見れば、足元のすぐ傍にも五つの葉が生えている。これが多分そう。三つ葉のクローバーならぬ、五つ葉のクローバーだね。葉の模様もそんな感じ。


 私は手を伸ばし引っ張ってみる。スポッと五つ葉が抜けた。



 『やりましたね。ではそれを神官に渡してこの仕事は完了です!』


 「うん。よかった、縁にあって」



 結構簡単にちゃんと根っこから抜けた。毒の成分を吸い取っているせいなのか、根っこは毒々しい紫色。



 『すぐに持って行って渡した方がいいですよ。経験値表示はありませんが、仕事の良し悪しで経験値の量が決まりますから』


 「え? そうなの?」



 そういう事は先に言ってよね。

 私は走る事にした。まあ近くなのであまりかわらないけど。


 深緑の神殿に入り近くの神官に走り寄る。



 「あの依頼……じゃなかった受けた仕事の五つ葉です」


 「これはご苦労様」



 五つ葉を受け取ると、神官はどこからか出した10Gを渡してくれた。



 《プレイヤーレベルが2になりました》



 おぉ。もうレベルが上がったよ!



 『経験値を確認して見て下さいな』


 「ステータスオープン」



 言われた通り見てみると、経験値10でレベルは2になっていた。

 これで戦闘なしでも経験値が増え、レベルが上がるのが確認できた!


 さて次は、ランクアップスキルの検証にいきたいな。その前に……。



 「次のチュートリアルって何?」


 『次はですね。五つ葉を取って来て、神官に売るです』


 「え?!」


 いや、それさっき言ってくれれば、一緒に取って来たのに……。

 仕方がない、取りに行きますか。

 それが終わってから検証をしましょう。


 私はまた毒の沼に向かい、五つ葉を引っこ抜いた。



 「そう言えばこれって、何に使うの?」


 『五つ葉ですか? この根っこで毒消しが作られます。毒の沼でしか採取できないのでそれなりに貴重なんですよ』



 へぇ。そうなんだ。


 私は五つ葉を持ってまた神官の元へ向かった。



 「これの買取をお願いしたいのですが……」


 「これは五つ葉ですね。ありがとう。では5Gです。またお願いしますね」



 そう言って先ほどと同じ数なのに半分にしかならなかった……。なんで!?



 「ねえ、どうして値段がこんなに違うの?」


 『仕事とですか? 基本、仕事になるのはどうしても必要な時なので高めになっているんですよ。でもこういう採取ものは、劣化したりするので、保存が出来るようにならないと採取してすぐに渡すが基本ですね』


 「そういうもんなんだ……」



 言われてみればそうかもしれないけど、半分って。保存か……それが出来れば高い時に売れば儲かるかも。

 冒険者にならないんだから商人っていうのもありだよね。



 『では次は今もらった5Gを寄付してみましょう』


 「え! 寄付しちゃうの? それって何に役立つの?」


 『まあ役立つという観点から言うと、寄付した金額でいい仕事を回して貰えるって事でしょうか。基本的にサブも含めたジョブで仕事が紹介されますが、よい条件の物が表示されるようになるんです』


 「仕事をこなしたらいい条件が増えるんじゃないんだ」


 『はい。違いますね』



 寄付制? なんですね。稼いだお金をつぎ込めと……。

 これもチュートリアルならしないと進まないんだよね、きっと。


 仕方なく神官に話しかける。



 「あのこれ寄付したいんですけど……」


 「ありがとうございます! ステム様のご加護がありますように」



 5Gを渡すと神官はお祈りをしてくれました。



 『ではもう一度、神官から五つ葉の輸送という仕事を請け負って下さい。受け取った荷物を持って違う場所へ移動します』


 「移動?」


 『はい。この場所は北10という神殿で、南にある北9という神殿に届けるという仕事です』


 「わかったわ」



 私は神官に話しかけ仕事を請け負った。荷物は五つ葉30個。これを届けるだけらしい。



 『それには劣化しない魔法が掛けられているので、慌てなくてもいいですよ。では行きましょうか』



 私は頷いて、荷物を鞄にしまいシシリーについて行った。

 毒の沼とは反対の方向に進む。って、道がない。あっても獣道。草が踏み倒されている上を私は歩いて行った。


 カサカサ。

 暫く進むと左手から音がして、茂みからネズミが出て来た!



 「きゃー!」


 『大丈夫ですよ! 弱いモンスターですから』


 「これモンスターなの!?」



 子猫ほどもあるネズミはジッとこっちを向いている。


 ど、どうしよう……。



 『なつめは、攻撃魔法がないのでその杖で叩いて下さい。ファイト!』


 「やっぱり叩くの……」



 ひ~~。

 私は、目を瞑ってぶんぶんと振り下ろす!



 『ちゃんと狙って下さいよ。一回しか当たってないですよ』


 「いや~。こないで!」



 そう言われてネズミを見ると、何故か近づて来た!

 私は無我夢中で杖を振り回した!



 『もうちょっと右!』



 当たった感触。



 『もっと前に出て! あと一回当てれば倒れますから』



 シシリーにそう言われ、頑張って前に出て振り下ろす!



 『倒れましたよ! お疲れ様!』



 私はゼイゼイと四つん這いになっていた。



 「モ、モンスターは出てこないんじゃなかったの?」


 『いや、ここ森の中だし。それにこれ、チュートリアルですよ』


 「え! 聞いてないよ!」


 『あ、教えた方がよかったですか? しかし戦闘は思ったより……。サブは杖もありますし、魔法使い系がいいかもですね。冒険者にならなくても戦闘はあると思うので』


 「そうします……」



 いやもう、これ無理。相手が弱くたってネズミとか勘弁してほしい。



 『さあ、進みましょう』


 「もうモンスター出てこないよね?」


 『チュートリアルでは、目的地までは出て来ませんよ』



 私は安堵して歩きだした。


 ガサガサ。

 え? ガサガサ?



 「キャー」


 『落ち着て! モンスターじゃないから。人ですよ』



 見ればぐったりと横になっている。


 もしかしてチュートリアル?



 『この人は毒に侵されているみたい。この人を助けてあげましょう。魔法のクリーンアップを使います。杖を持ってそれを相手に向けてクリーンアップと唱えましょう』



 やっぱりチュートリアルだった。

 言われた通り杖を向けて唱える。



 「クリーンアップ!」



 倒れた人の顔色がスーッと良くなった。



 「神官さん、ありがとうございます」



 男の人は立ち上がり礼を言い、そして5Gをお礼として置いて行き去って行った。



 『クリーンアップは、ランクが上がるほど治す事が出来るモノが増えていきます。ランク1は、今使った通り毒です。魔法とスキルは、使用する事によってランクが上がって行きます。ですので頻度が多いモノ程、ランクが上がりやすいです。後神官は、外で今の様な行為をすると、経験値を得ます』


 「へぇ。人助けで経験値が増えるんだ」


 『そうですね。さあもう少しですよ』


 私は頷きまた歩き出した。ほどなくして深緑の神殿にたどり着く。荷物を渡し報酬の50Gを手に入れた。



 《プレイヤーレベルが3になりました》



 あ、レベルが上がった!



 『おめでとう。レベル3になりましたね。では寝袋を使って寝てみましょう! 一分程で全回復するはずです』



 それもチュートリアルにあるんだ。


 私は寝袋を腰から外した。

 驚く事にそれは大きくなり、私が入るほどの大きさになった。


 びっくり。これ現実にあったら便利ね。


 邪魔にならないように壁際で寝袋に入り横になった。



 『一分後に起しますから。寝てもいいですよ』



 本当に寝る事が出来るらしい。でも一分では寝付けません……。


 そして一分後、寝袋から出て腰に寝袋を下げると小さくなっていった。



 『ステータスを見て下さい』


 「ステータスオープン」



 【HP:12/12 | MP:10/10 | SP:10/10】



 最大HPが12て事は、1ずつしか増えてないって事? 改めて見ると増え方少ないわね。MPとSPは変わっていないし。この二つはジョブで増えるのかな?



 『後はレベル5まで上げてジョブをランクアップさせると、私の仕事は終わりです』


 「え? それっていなくなるって事?」


 『はい。私が教えるのは後は、メインジョブのランクアップだけです。それまでは暖かく見守っていますね』


 「ねえ、延長できないの?」


 『そういう仕様はないですね。それにチュートリアルの事しか教える事が出来ないので居ても役に立ちませんよ。サポーターがほしいのならそういうイベントで手に入れられます。私よりランクが高いですから私より物知りですよ』



 サポートなしなんて無理! 特にモンスターに遭遇した時は!

 ってランク? 妖精にもランクなんてあるの?



 「ねえ、あなたもランクアップするの?」


 『たぶんやろうと思えば出来るとは思いますが、私はお試しランクですのでランクが上がってもレアじゃな……』



 私はガシッとシシリーを掴んで杖を向けて叫んでいた! ――ランクアップと!

 それは自分でも驚く行為だった!

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