━☆ 》32話~あともうちょっとだったのに

 王都に戻って来た私は、仕事クエストを完了させ、そのまま続けて仕事を受ける事にした。今回受け取った報酬は5万G。

 レアのモノだと10万だけど、普通に手に入る物は数とか関係なく、その半分ぐらいみたいね。

 そう言えば私、討伐の仕事ってやった事なかったかも。

 よく見てみると、報酬はお金じゃなくてコアです! 私には必要ないものね。



 「次は、魔木マキの樹液にしましょう」


 「あ、うん。魔木の樹液をお願いします」


 「では、これに取って来てください。宜しく……」


 「予備にもう一つ頂けるかしら?」


 「わかりました。ではこれを」



 神官から小瓶を二つ渡されました。

 これに樹液を入れて持って帰ってくるのね!



 「では、宜しくお願いします」


 「はい」



 私は、ミチルの元へ戻った。



 「今度は何を受けたんだ?」


 「樹液集め」


 「また木なのかよ……」


 「あ、本当だ!」


 「で、俺の方は?」


 「まずは、街の外に出ましょうか」



 シシリーがそう言うので、北門から王都の外に出た。シシリーが、スッと進むので私達はついて行く。

 で、道端で突然止まった。



 「ここでいいかな」


 「何するんだよ。こんなところで」


 「準備よ! なつめ、魔白の枝を5本地面に置いて」



 必要個数は20個だったので、余った魔白の枝は持っていた。沢山余ったので、次に回すのかと思っていたけど、どうする気なんだろう?

 シシリーに言われた通り、地面に置いた。

 石が混ざった土の道。草すら生えていない。



 「では、燃やしちゃって! ファイヤーよ!」


 「え!? 燃やすの!?」


 「別にいいけどさ、説明すれよ」



 私がファイヤーするのに、ミチルがシシリーにそう言って説明を求めた。私も知りたい。



 「その枝を灰にするの。ビンを一個多く貰ったでしょう?」


 「え?! でもそれ、予備じゃ……」


 「返さなくていいものだから大丈夫よ」


 「………」


 「さすが、ずる賢いな! うんじゃ、まだ理由がわかんないけど、まずファイヤーしちゃえ!」


 「うん……」



 ミチルもそう言うので、私達は少し離れた。



 「ファイヤー」



 ぼふん。

 一応命中したと思うんだけど。

 近づいて見てみると、灰というより炭になっている。これでいいのかな?



 「まあ、OKね。ビンによろしく」



 私は頷いて、鞄から出したビンに、炭になった魔白の枝を入れた。今は、黒だけどね。



 「で? これからどうするんだ?」


 「樹液を集めに行くわよ」


 「俺のは?」


 「もう! 樹液も必要なの!」


 「なるほど。俺のクエストに必要な物をクエストに受けていたのか」


 「そうよ。一石二鳥でしょう? じゃ、行くわよ」


 「OK!」



 私が会話に口を挟む間もなく、話は終了し森へ向かう。

 あの木のおばけを倒しつつ、魔白の木より奥へと進む。

 今度は逆に、木は太くなったけどまばらになり、草の丈も膝より下程になった。

 って、一つだけ木全体が緑色の木がある!



 「あの緑の木が魔木よ」



 シシリーは、遠くに見える魔木を指差し言った。



 「わかりやすいな」


 「ちょんと傷つければ樹液が出て来るから」



 近づいた私達は、シシリーが言う方法で樹液を取る為、ミチルの剣の先でちょっと傷つける。

 そうすると、透明な樹液が出て来た。それをもらったビンに入れる。



 「枝が入っているのにも入れちゃって」


 「うん」



 混ぜてもいいんだ。

 シシリーに言われた通り、魔白の枝が入ったビンにも樹液を入れる。


 うん?

 キュッと蓋を閉めたんだけど、透明なビンだから中が見える。何故かぷくぷくとしている。まるで、沸騰しているかのよう。



 「これ、大丈夫なの?」


 「それでOKよ」


 「おもしろいな。それ」


 「そうだ。ミチルが使う事になるからあなたが持っているといいわ」



 シシリーがそう言うので、私はミチルにビンを手渡す。



 「何に使うんだこれ?」


 「それは、着いたら教えるわ。さらに奥に行きましょう」


 「OK。じゃ、行こうぜ」



 ミチルは、ビンを鞄にしまい、歩き始める。

 暫く進むと、ほとんど木がない場所に出た。



 「ここよ。穴を探して」


 「OK」


 「うん」



 シシリーに言われ私達は穴を探した。そして、ミチルが片足が入るぐらいの穴を見つけた。



 「さて、種明かしと言うか説明をしておくわね。本来なら街で情報収集をしてここを探し当てるのよ」


 「へえ。そうなんだ」


 「あ、やっぱり?」


 「じゃ、ミチル。先ほど渡した樹液をちょっとこの穴へ垂らして。攻撃を受けると思うけど、絶対に反撃してはダメよ。なつめは、物理防御の歌を歌っておいて」


 「うん」



 私は、物理防御の歌を歌った。

 ミチルが、ビンを鞄から取り出す。



 「うお! 緑色になってる!」


 「ちゃんと緑になっていたわね! じゃ、宜しく。なつめ、下がるわよ」


 「よし! 入れるぞ」



 ミチルは、ビンの蓋を開けると手を伸ばし、たらぁっと樹液を穴へ流し込む。そして、素早くそこから離れた。

 そのすぐ後に、にゅきっと緑の物が出て来た!

 あれは! 神殿の中央にあるねじれた幹では!!

 幹は、上に伸びながら蔦みたいのを振り回す!



 「うわぁ!」



 叫び声を上げながらミチルが吹き飛ばされた!

 しかも、HPが半分を切っている!?

 ミチルで半分なら私だと即死かも!



 「優しい風よ。傷を癒せよ♪」


 「サンキュ。って、これいつまで続くんだよ!」


 「伸びきるまで? 頑張って逃げてね。最後に神秘の花を手に入れて帰ればいいから」


 「だから、それって時間にしてど……うわぁ!」



 走り回って逃げていたミチルは、また吹き飛ばされた! そして、消滅した!?

 何故か私は動かずにいるのに、攻撃を受けないんだけど?



 「ねえ、なんで私は襲われないの?」


 「あれは攻撃をしてるんじゃなくて、成長する過程であぁなっているだけなの。ミチルが掛けた樹液は、成長を促進するアイテムになっているのよ。で、あれが当たらない場所まで離れているからね」


 「そっか……」


 『ごめん。殺された。どうする?』



 ミチルから連絡が来た。でも、どうすると言われてもなぁ……。ミチルが一人でこっちにこれないだろうし、私も一人で戻れない!?



 「ねえ、シシリー! 私、これからどうなるの?」


 「とりあえず、花をゲットしてから死にましょうか」


 「え~!? やっぱりそれしか方法ないの?」


 「ないわね……。ミチルが死ぬのは予定外だわ」


 「ミチルへ――後でそっちに行きます。……どうぞ」


 『了解。ご臨終を待ってるわ』



 ミチルの方も私が死ぬしかない事は、わかっているみたいね。こうして五分以上私は立って成り行きを見ていた。

 幹は、ねじれながら伸びていく。そして、どんどん太くなっていく。

 不思議な事に振り回していた蔦が、地面の中に消えて行った。

 そして、幹の根元に花のつぼみが……。



 「治まったようね。さあ、あれを持って帰るわよ」


 「うん」



 私は、恐る恐る幹に近づき、両手を広げた程の大きさの白いつぼみを手に入れた。それを鞄にしまう。



 「あぁ。やだなぁ」


 「ミチルには、素早さが必要ね。その装備を手に入れたからこの仕事は受けてもらいましょう」


 「うん」



 はぁ……。ため息をしつつ、私は駆けだした。

 もしかしたら逃げられるんじゃないかと思って!



 「なつめ!」



 あの木のおばけが現れたから、シシリーに呼び止められたけど走って逃げた!

 そうしたら思いっきり転んだ!

 足に枝を絡められた!



 「きゃー! こないで! あ、そうだ! カードチェンジ!」


 「落ち着いて! 眠りの歌よ!」


 「そっか!」



 私は、眠りの歌を歌った!

 相手が寝ている間に、私は走って逃げる。

 出て来るモンスターが、これだけなら逃げきれる!!

 私は、木のおばけのモンスターが出る度、ガードチェンジと眠りの歌を歌った。



 「なつめ!」



 って、また転んだ!

 モンスターもいないのに、慌てて走って転んだみたい。



 「何やってるの! ガードチェンジよ!」


 「え!?」



 上半身を起こした時、後ろから攻撃を受けた!



 「いた!」



 振り返ると、あの石の亀です!!

 これってレアって言っていなかったっけ? こんなに出会うもん? いや、二回目だけどさ!



 「だから、ガード……」


 「あ……」



 死なずにすんだのに、私はマヌケにも死んでしまった!

 目の前の風景が、神殿に変わった……。



 「お帰り。遅かったな」


 「………」


 「どうした?」


 「もう……。どうして、同じ失敗をしちゃうのかしらね……」


 「うううう……」


 「何だ? 何かあったのか?」


 「あの亀を蹴ったのよ!」


 「はぁ? って、そこまで降りてきていたのかよ! すげーな」


 「でしょう? なのに、もう」


 「さすが、天然! 美味しい死に方を!」


 「もう! 二人共いじわる~!」



 あぁ、もう、悔しい!



 「取って来たつぼみあげないから!」


 「つぼみ?」


 「あ、それがないと、仕事は完了にならないわね。お疲れ様」


 「ちょっと待て! 悪かった! よく頑張った!」


 「ふん!」


 「えっと。ありがとうございます! お蔭で助かりました。もう天然って言わないから!」



 ミチルが必死になって、私を褒めたり謝ったりしている。もう許してあげようかな?



 「仕方ないわね。はい」


 「ありがとう! じゃ、完了してくる!」



 つぼみを受け取ると、ミチルは神官の元へ走って行った。



 「なつめ。あなたも完了させないと」


 「そうだった!」



 私も神官の元へと走った。

 こうして、二人共無事、仕事を完了させたのだった。

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