━☆ 》34話~どっちが賊かわからない!?

 ひゅ~。

 そんな風が足元から吹き上げて来る。

 でも下を見てはいけない! というか、見たくない!


 「やべぇ。足が動かねぇ……。シシリー! これ無理だって!」


 「がんばれ~! 落ちて死んでも神殿に戻るだけよ」


 「そんなのわかってるって! わかってるけどさ! なつめ! お前も何か言え!」


 「……もう、無理! シシリーほかのにして!!」



 私達は、ぴたっと壁に張り付いていた。

 壁と言っても切り立った崖。足元は、足を乗せる程度の幅しかない。カニ歩きで移動中……。

 足元には、森が広がっている。……はず。


 シシリーの言う通り、落ちても本当に死ぬわけではなく神殿へ飛ばされるだけ。頭でわかっていても怖いんだって!

 足はガクガクで、手は汗でしっとり。

 風邪が吹いて、カーディガンがふわっと大きくなびく度に、浮き上がる感じがして恐怖心も上昇する。



 「後、10歩程行けば下に突き出た場所があるからそこに下りましょう」


 「ちょっと待て……それって飛び降りろって事か?」


 「ううん。もっと簡単。落ちればいいのよ」


 「お前な! それが嫌だと言っているんだけど!」


 「つべこべ言わないで歩く!」


 「うわぁ! やめろ! 落ちるって!」



 先に進めとシシリーは、なつめの頭を蹴っている。

 シシリーって、容赦ない!



 「くっそ!!」



 仕方なくミチルは、横にずれていく。

 私も蹴られるのは嫌なので、頑張って横にずれていく。……ずれているはず。



 「ミチル。もうそろそろいいわよ」


 「……いや、無理。って、やめろ!! うわぁ~!!」



 なんて恐ろしい光景が!

 シシリーがミチルの額を蹴って落とした!


 どさっ!



 「いって~!! シシリー覚えてろよ!」


 「自分がお金を稼ぎたいと言ったんでしょう?」


 「言ったけどさ!!」


 「楽して稼ごうなんて甘いのよ!」


 「………」



 どうしよう。あんなの見たから動けない。



 「ほら、なつめも頑張って!」


 「ううう。シシリー。戻ったらダメ?」


 「別にいいけど。ミチルは崖から落ちて死ぬしかないわね」


 「何!!」


 「だって、戻る方法がないでしょう?」


 「なつめ! ちゃんとここまでこい!」



 ミチルが下から叫ぶ。

 やっぱり落ちないとダメみたい!

 そろりそろりと壁を這う様にカニ歩き。



 「いた! え? きゃー!」



 突然シシリーに頭を押された。蹴られるよりましかもしれないけど、何も言わないでやるから心の準備が~!!

 どさっと地面に落ちた。

 って、思ったより痛くない?



 「取りあえず、どけて回復の歌を歌ってくれ」


 何かお尻の辺りが柔らかいと思ったらバッテンな感じでミチルの上に落ちていた!



 「きゃー!!」



 私は直ぐに、ミチルの上からどいた。



 「それワザと? それとも失敗?」


 「わざわざ聞くなよ! 受け止めるのに失敗したんだ!」



 あ、受け止めようとしてくれたのね……。

 それより歌ね。



 「優しい風よ。傷を癒せよ♪」



 私達は、HPが25%回復した。

 ミチルが受け止めてくれたけどHPは25減っていた。

 あと一回回復が必要ね。


 それにしてもここってどこに繋がっているんだろう?

 私達が落ちた場所の壁は洞窟になっていた。

 しかも所々に明かりが灯っていて、うっすらと明るい。



 「うんで? 俺達は何をするわけ? でさ、これって人工の洞窟?」



 ミチルが洞窟を指差してシシリーに聞いた。



 「洞窟自体は、自然のものよ。それを賊が利用しているの」


 「はぁ? 賊? もしかして、俺達賊退治するのか?」


 「退治っていうか、お宝ゲット!」


 「えぇ!! そんな事していいの?!」


 「いいの。いいの」


 「マジか……」



 もしかして、縄を買わされたのって、その賊を縛る為だったりして……。

 必要になるからって結構な量買ったんだよね。

 ミチルは、ぶうぶう言っていたけど。



 「仕方ない。行くか」


 「え!? 奪う気なの?」


 「奪えるんだろう? って、回収しないと縄を買った意味がない!!」



 まあ、確かにそうね。

 ここまで来たらもうそうするしかないもんね……。

 私達、思いっきりシシリーに嵌められたのね。


 洞窟の通路には、等間隔で壁にたいまつがあって明るかった。

 分かれ道はないみたい。



 「止まって。もう少し行ったら広い場所に出るわ。そこがアジト。で、二人しかいないからなつめが眠りの歌で眠らせて縄で縛る。そして、そこら辺の物で目隠してね」


 「ちょっと待てよ。それを二分でするのかよ!」


 「あ、人間には、10分ぐらい効くようになっているわ。でも攻撃したら目を覚ますのは一緒だから気を付けてね」


 「そうだな。間違って蹴らない様にしないとな!」



 ワザとらしく二人はうんうんと頷く。

 それって私に言っているのよね!

 そんな大きな対象を蹴らないって!!


 私達は、縄を手に持ち進むと、シシリーが言ったように大きな場所の前まで来た。

 様子を伺うと、話し声が聞こえる。

 ミチルを見ると頷く。歌えって事だよね。

 シシリーには、呟くだけでもいいと言われた。声に出せばいいみたい。

 私は、小声で眠りの歌を歌った。


 ちょっとした物音がした後、ぐが~っといびきが聞こえて来た!

 そっと覗くと、男が二人寝っ転がっている。



 「上手くいったみたいだな。よし!縛るぞ!」


 「うん……」



 ミチルは、男の側に行き屈む。



 「もしあれだったら何か頭にかぶせる袋とか探して」


 「え? あ、うん」



 ミチルがそう言うので、辺りを見渡す。

 ここには、いわゆる金銀財宝があるらしく、樽や木箱が壁側にいっぱいあった。

 そこに、何かを入れた袋もある。これが使えそう。

 それを手に取り、きゅっと縛ってあった紐をほどく。



 「え?」



 何が入っているのかと思ったらコアがいっぱい!!

 って、これ何もマークが無い!



 「何これ?」


 「それは、取得した装備品などを収納するコアよ」


 「へえ」


 「おい! 見つかったか?」


 「あ、うん!」



 ミチルが声を掛けて来たので、そう答えたけどこの中身どうしよう?



 「それ持って行っても大丈夫よ」



 シシリーがそう言うので、鞄の中にコアをひっくり返して入れた。

 二人いるから二袋必要ね。

 もう一つ手に取り、袋を開けて鞄にひっくり返す。

 って、これ石じゃない!

 まあいいや。後で捨てよう。


 「はい。これでいい?」


 「これでいいってお前……入るかよ!」


 「あ……」



 顔にかぶせるのには小さかった……。

 って、シシリー何も言わないだもん。いや自分で気づけよって事なんだろうけど。



 「別に目さえ隠せればいいんだから。かぶせたらずれないように縛れば?」


 「まあそれでもいいか」



 シシリーに言われミチルが男の頭にかぶせる。袋は鼻の所まで被さった。



 「何とかなるか。じゃ、これ縛っておいて。もう一人も縛るから」


 「う……うん」



 何か抵抗あるけど縛るしかないよね?

 こうして何とか10分以内に縛り終える事ができた。

 賊の二人は、手を後ろにして縛られている。頭には、鼻までの袋を被らされ足も縛られている。



 「よし! じゃ探すぞ!」


 「宝箱は開けて大丈夫よ」


 「OK!」



 嬉しそうにミチルは、宝箱を開けた。

 そこにはたくさんのさっきの袋が入っている。

 ミチルは、それを手に取り中身を覗く。



 「おぉ!! お金じゃん!」


 「変ね。随分あるわ」


 「何だよそれ。まあいいか。なつめも鞄に入れろ!」



 ミチルに渡され袋ごと鞄にしまう。

 なんだか、どっちが賊だかわからないわね……。



 「うぉ!! なんだこれ!」



 びっくりした!

 賊が目を覚ました様で、体をくねらせている!



 「起きちゃったよ」


 「し!」



 私が小声で言うと、ミチルが私の口を押えた。



 「誰だ! 今のは声の女か!?」



 きゃー! 女だってバレた! どうしよう……。



 「くそ! どうなってる!」



 もう一人も起きた!

 無言でミチルが宝箱の中の袋を手渡して来る。それを私は鞄に放り込む。

 あぁ、もう。このクエストは二度としたくないわ!!



 「うん? おい、足音が聞こえないか?」


 「変ね。イベントのランクが上がってる? 取りあえず戻るわよ」


 「戻るって! そっち行き止まりだろう!」



 そう言うもミチルは、シシリーを追いかける。私も慌ててついて行った。

 来た道を私達は走って戻る。

 そして、外が見えて来た。もちろん、森の頭上が見える。


 「で、どうすんだよ!」


 「ここから飛び降りるしかないわね」


 「はぁ? 死ねってか?」


 「む、無理よ!」



 神殿に戻るってわかっていても恐怖心があるもの!



 「捕まると手に入れた物は奪われるわよ。ここから逃げれば、神殿に戻るだけ。手に入れた物は手に入るわ」


 「っち。何だよそれ。話が違うだろう!」


 「それは悪かったわ! このままだと頭が出て来るわ! 今の二人では勝ち目ないから逃げるしかないわね」


 「そんな……」


 「あそこだ!」



 来た! どうしよう。

 もうなんでこうなるのよ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る