第27話 「十字路」、および、「丁(てい)字路」と「T(ティー)字路」

 とある方々のエッセイを拝見したことが切っ掛けになっています。また、『カタカナ語の使用について』の続きのようなものでもあります。


   ◇


 現実世界ではない別世界を舞台にした物語を語る際に、物語世界で使用されている文字のことまではあまり考えないようにしています。文字を書く場面であっても、「文字を書いた」ということだけを書き、「何の文字を書いたか」については敢えて明記しないようにしています。文字について考え始めると、言葉そのものについても考える必要があります。文字の種類(表意文字、表音文字)、文字そのものの形、綴り、文法、発音、などなど、いろいろと考える必要があり、下手をすると物語を作るまでに至らずに息切れしてしまうかもしれません。ただ、場面としては「何の文字を書いたか」を明記していない場合でも、その場面を書くには地の文が必要です。ここで、「地の文」は「日本語の文」です。そのため、「別世界の物語を、日本語を使用して語る」という現実に直面する場合があります。


 ふと、「語ろうとしている別世界に『十』という字形はあるのだろうか」と、疑問に思ってしまいました。物語世界に於いても数の概念は存在しているという(暗黙の)設定に基づいて、数としてのじゅうという概念も存在するだろうと仮定しています。そうしないと、いろいろと不都合なことが生じるからです。ただ、数としてのじゅうを表す字形については深く考えていないため、どのように表記するかについても考えていません。ですが、数としてのじゅうを表す字形は、漢字の「十」とは異なる、と考えてもよいでしょう。というよりも、そのように考えています。このような中途半端な状態に於いて、「十字路」という言葉を使用してもよいのだろうか、と疑問が生じました。


 回答を得るために国語辞典を開いてみました。『新明解三省堂国語辞典 第七版』によると、以下のように説明されています。

  十字路……

    (二本の道が直角に交差する意)「よつかど」の意の漢語的表現。

  よつかど……

    二本の道が直角に交わっている所。よつつじ。十字路。

  よつつじ……

    「よつかど」の古風な表現。

説明が循環してしまうのはしかたないところです。そもそも、『十字』はといいますと、

  十字……

    [一]十の字(の形)。

    [二]「十字架」の略。

のように説明されています。物語世界には「十」という字形が存在しない、という設定であれば、「十字路」という言葉を使用しないほうがよさそうです。どうしても使用したい場合は、「四つ角」、「四つ辻/四辻」などを使用したほうがよさそうです。


 同様に、「てい」あるいは「ティー」という字形はあるのだろうかとも思ってしまいました。表題に挙げた「てい字路」と「ティー字路」も、『新明解三省堂国語辞典 第七版』の説明では、その字形を使用しています。こちらについては、少々意味が離れてしまいますが、「さん」を使用したほうがよいかもしれません。


    ◇


 他にも同様な言葉はあるはずですが、あまり考えすぎると何もできなくなってしまうため、今のところはここで止めておきます。

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