第37話 されどキーボード

 PCで原稿を作成する際の文字入力機器としては、キーボードを使用しています。文字データを速く正確に大量に入力するにはキーボード以外の選択肢はないかもしれません(個人的には)。品質を気にしなければPCの添付品のものでも十分なのですが、気にしてしまうと気になってしかたがないというものでもあります。PCの添付品のキーボードは大抵は日本語配列です。昔々 LaTeX の原稿を入力していたときに右手の小指の腱鞘炎を患ったこともあり、それ以来、自宅で使用するキーボードについては英語配列のものに変更しました。変更直後は記号類の配置に戸惑いましたが、すぐに英語配列のほうが合理的だと気づきました。それ以来、英語配列のキーボードを使用しています。


 原稿を作成する際のキーボードとして主に REALFORCE R2 (英語配列)を使用しています。仕様としては、フルキーボード/英語配列/変荷重、などとなっています。本体カラーがアイボリーであることもあり、飾りも何もない外見はいかにも「事務機器」然としています。キーが光ることもありません。これはこれで実用上全く問題ありません。問題ないのですが、少し気分を変えようと思い立ち、カラーキートップ(ブルー)を購入しました。現在、各種の特殊キー(Ctrl キー、Shift キー、Enter キー、などなど)をブルーのキートップに付け替えて使用しています。特殊キーは元々グレーになっているのですが、そのグレーのキーがブルーのキーになっただけで、ずいぶんと雰囲気が変わりました。キーを押した感じが変わるわけでもなく、原稿の作成がはかどるわけでもなく、よい文章を書けるようになるわけでもないのですが、何となく気分が明るくなったような気がします(仕事用にも同じ機種のキーボードを使用しています。こちらは各種の特殊キーをグリーンのカラーキートップに付け替えています)。


 REALFORCE と並行して時折 HHKB (英語配列)も使用しています。旧モデルと新モデル(2019年12月発売の、有線接続のみのモデル)を使用していますが、見た目に関しては両者はほとんど変わりません。ただ、新モデルで新設された LED ランプが Caps Lock したときに点灯するので重宝しています(旧モデルには LED ランプはありませんでした)。Ctrl キーと Esc キーの配置が独特であることから、それぞれブルーグレーとグリーン(REALFORCE のものとは異なる)の純正カラーキートップに付け替えています。カラーキートップに付け替えてからは、キーボードの上で指が迷うことが少なくなりました。HHKB のキーの構造そのものは REALFORCE と同じ静電容量無接点方式であるのですが、キータッチはずいぶん異なります。どちらがよいかと問われれば、どちらもよいとしか言いようがありません。


 文字を入力する際に道具の存在を意識したくないという点で使いやすいのは REALFORCE のほうです。標準的な配列なので使い方を練習する必要もありません。各種特殊キーの配置もほとんど覚えているので、キーを見ずとも入力できます。右 Ctrl キーが右 Shift キーの下に配置されているので、Ctrl + S や Ctrl + Z などは両手を―― Ctrl + S の指遣いは 右手の小指 + 左手の薬指で、Ctrl + Z は 右手の小指 + 左手の小指で――使用することができます。Home キーや End キーも独立しているので、行頭や行末に移動するにも指一本でできます。


 道具としての存在を意識させられるのは HHKB のほうです。その配列は独特で、初めて使ったときは面食らいました。基本的には英数文字キーが主体です。Ctrl キーはありますがその場所は A キーの隣であり、右 Ctrl キーはありません。ESC キーが 1 キーの左隣にあり、Del キー(DIP スイッチにて Backspace キーに変更可能)は Enter キーのすぐ上にあります。この「Enter キーのすぐ上」というのは REALFORCE では \ キー(バックスラッシュキー:画面上は「円マーク」として表示されることが多い)の位置に相当します。HHKB の \ キーはどこにあるかというと、REALFORCE の Backspace キーに相当する位置の左半分の部分にあります。右半分には ` キー(バッククオートキー)があります。F1 ~ F12 キーもカーソルキーもないので Fn キーとの組み合わせで実現します。Home キーや End キーも Fn キーとの組み合わせで実現します。Fn キーとの組み合わせで実現する機能についてはキーの側面に印字されているので、それを見ながら操作すれば何とかなります。ですが、使い始めの頃、作業の効率は REALFORCE に比べて非常に悪くなりました。使い慣れるまで半年くらいかかった気がします。


 HHKB も或る程度使えるようになると、不思議なもので、「ここがこうであれば、もう少し使いやすくなるのだけどなあ」という思いも出てきます。私の場合は、「左右の隅に Ctrl キーを追加されればいいなあ」ということでした。Ctrl キーは A キーの隣にあったほうがよい、という設計思想はわからなくもないのですが、右 Ctrl キーがないことにより左手の小指の負担が増します。テキストの編集などの際には Ctrl + Z をけっこう使うのですが、これを片手で(左手で)操作するのは今でも苦手に感じています(左手の小指で Ctrl キーを押しながら左手の薬指で Z キーを押す、という操作になります)。右 Ctrl キーがあれば前述のとおり両手で操作できます。個人的にどうにも我慢できないのが、この「Ctrl キーは A キーの隣」なのです。HHKB の英語配列では左右の隅にキーを配置する場所が残されているので、左右の Ctrl キーが追加されれば REALFORCE からの乗り換えも可能だと思うのですが、叶わぬ望みで終わりそうです。


※新モデル HHKB の上位機種では、専用のソフトウェアを使用してキー配置を自由に変更することが可能です。変更した設定もキーボード本体に保存されるため、どのマシンに接続しても同じ配列を使用できます。ですが、物理的なキーの数を増やすことはできません。物理的なキー配置に関する要望を満たすことはできないのです。


※ゲーム用キーボードの中には左右の Ctrl キーがある小型キーボードもあります。フルキーボードから切り出したかのような配列は魅力的にみえるのですが、これらの多くがメカニカル式であることが購入を躊躇わせる要因になっています。少し調べたところ、メカニカル式のキーボードではチャタリングの発生頻度が高めだということです(「チャタリング」とは「一回のキー入力が複数回の入力に誤認識される現象」です)。テキストを編集する際に発生するチャタリングは、致命的とまでは言えないまでも、煩わしいものであるとは想像に難くありません(Enter キーでチャタリングが発生した場合は致命的かもしれません)。

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