第38話 「なんちゃって文語文」を作るには

 作中において、文語文(伝承、言い伝え、あるいは、古文書、等々として)を使用したいということはそれなりにあると思います。現在はどうなのかわかりませんが、学生の頃に「文語文の作成」という授業を受けたことがありません。専ら、解読・解釈のみでした。今となっては、古語の語彙はほとんど頭から抜けています。文字面を追うことはできるものの、解読・解釈も怪しい状態です。ましてや、書くほうとなると全くといってよいほど自信がありません。そのような状況で、何となくそれらしい文語文を書こうとしたときに実行したことの幾つかになります。



【準備するもの】


(1)元になる文章


文語文として書きたい文章を用意します。案や構想だけでもかまいません。口語文でも可です。何かしら、原型になるものを考えておきます。



(2)類語辞典(古語⇔現代語)


口語から文語に翻訳する辞典はありませんので(少し調べた限りでは見つけられませんでした)、古語と現代語とにまたがった類語辞典を用意します。以下を入手しました。


『現代語古語類語辞典』/編:芹生公男/三省堂

『現代語から古語を引く辞典』/序:金田一春彦、編:芹生公男/三省堂


これらの辞典によって、口語から文語への翻訳のように使うことができます。時代ごとにどのような言葉が使用されていたかを確認することができます。



(3)古語辞典


類語辞典で調べた語が本当に正しいのかを再確認するために使用します。学習者向けのものと一般向けのもの(?)とで複数冊あると比較が可能です。辞典によって解釈が異なる場合は、そのうちいずれかを採用することになります。



(4)国語辞典


現代語の意味を調べるときに使用しますが、歴史的仮名遣いを確認するのにも使うこともできます。見出し語のすぐ下あたりに歴史的仮名遣いが併記されているので意外と重宝します。



(5)文法書


文語文の活用形や用法などを確認するために使用します。特に、助動詞の使い分けを確認するために使用します。助動詞に関しては、過去、過去伝聞、完了、等々あたりは鬼門かと思います(「過去のある時点に誰かに選ばれて、その状態が現在も続いている」のであれば、「選ばれし者」よりは「選ばれたる者」)。何度調べても使い分けに自信がありません。


文法書としては以下を入手しました。


『古文の読解』『古文研究法』『国文法ちかみち』

小西甚一 著/ちくま学芸文庫


『古文読解のための文法』

佐伯梅友 著/ちくま学芸文庫


『改訂増補 古文解釈のための国文法入門』

松尾聰 著/ちくま学芸文庫


これらの他、学生時代の古文の参考書も参照しました。今になって読み返してみると意外と役に立つと感じました。当時は無味乾燥でつまらないものだと思っていたのですが。



(6)各参考文献


文語文の雰囲気を掴むためのものです。主に平安時代の古典作品を読みました。これは楽しみのためでもあります。専門的すぎると(本文よりも注釈のほうが多い、現代語訳がない、等々)読んでいるうちに飽きてしまいます。初学者向けだと(部分部分を抜き出したもので全文が含まれていない、等々)物足りなくなります。原文が全て掲載されており、対応する現代語訳も掲載されているものを選びました。その際、現代語訳がこなれているかには目をつぶりました。


講談社学術文庫、角川ソフィア文庫(『ビギナーズ・クラシックス』ではないほう)、等々、探せばいろいろと見つけられます。



【文語文を書く】


何となく「書けそう」と思うまでになったら書いてみます。その後は……、試行錯誤の連続です。取り敢えず書く、辞典で調べる、書き直す、文法書で調べる、書き直す、辞典で調べる、書き直す、……。書いては調べる、の繰り返しです。しかも正解がわかりません。どこまで書き直せばよいのかもわかりません。その時点で書き直せなくなるまで書き直しておいて、時間をおいて見直したほうがよさそうです。身近に古文に詳しいひとが居るのであれば、そのひとに訊くのもありかと思います。



【「なんちゃって文語文」の例】


[一]全てカタカナ


シヅカナルネブリニシヅミタルモリノメザムルトキモリソノミヲユリツツハヒアリキミドリニオホハレタルオホノナヰノゴトクユリウゴキオダヤカナルミヅヲタタフルカハソノミナモヲナミダテアヲキソラシロキイカヅチノヤイバヲチニムカヒハナタンヒトケモノビトモリノタミカグロキモリニムシバマレカハノオモテニタダヨヒアルイハイカヅチノヱジキトナランイノチノトモシビオホカタハキエウセハテハイキトシイケルモノチノオモテヨリヌグヒサラレンタダソラカケルモノタチノオンココロオンワザニスガルノミツバサモテソラカケルモノタチモリヲシヅメヒトケモノビトモリノタミカテテクワヘテスベテチヲハフモノタチヲスクヒタマヘスクヒタマヘ



[二]ひらがなとカタカナ


しづかなるねぶりにしづみたるもりのめざむるときもりそのみをゆりつつはひありきみどりにおほはれたるおほのなゐのごとくゆりうごきおだやかなるみづをたたふるかはそのみなもをなみだてあをきそらしろきいかづちのやいばをちにむかひはなたんヒトケモノビトもりのたみかぐろきもりにむしばまれかはのおもてにただよひあるいはいかづちのゑじきとならんいのちのともしびおほかたはきえうせはてはいきとしいけるものちのおもてよりぬぐひさられんただそらかけるものたちのおんこころおんわざにすがるのみつばさもてそらかけるものたちもりをしづめヒトケモノビトもりのたみかててくわへてすべてちをはふものたちをすくひたまへすくひたまへ



[三]ひらがなとカタカナと漢字


しづかなるねぶりにしづみたるもり目醒めざむるときもりそのりつつありみどりおほはれたる大野おほの地震なゐのごとくうごおだやかなるみづたたふるかはその水面みなもなみあをそらしろいかづちやいばむかはなたんヒトケモノビトもりたみぐろもりむしばまれかはおもてただよあるいいかづち餌食ゑじきとならんいのちともしび大方おほかたてはきとしけるもの大地おもてよりぬぐられんただそらけるものたちのおんこころおんわざすがるのみつばさそらけるものたちもりしづめヒトケモノビトもりたみててくわへてすべものたちをすくたますくたま



[四]ひらがなとカタカナと漢字、句読点あり


しづかなるねぶりにしづみたるもり目醒めざむるとき、もり、そのりつつありき、みどりおほはれたる大野おほの地震なゐのごとくうごき、おだやかなるみづたたふるかは、その水面みなもなみて、あをそらしろいかづちやいばむかはなたん。ヒト、ケモノビト、もりたみ、かぐろもりむしばまれ、かはおもてただよひ、あるいは、いかづち餌食ゑじきとならん。いのちともしび大方おほかたせ、ては、きとしけるもの、大地おもてよりぬぐられん。ただそらけるものたちのおんこころおんわざすがるのみ。つばさそらけるものたち、もりしづめ、ヒト、ケモノビト、もりたみててくわへて、すべものたちをすくたまへ。すくたまへ。



[五]ひらがなとカタカナと漢字、句読点と改行あり


しづかなるねぶりにしづみたるもり目醒めざむるとき、もり、そのりつつありき、みどりおほはれたる大野おほの地震なゐのごとくうごき、おだやかなるみづたたふるかは、その水面みなもなみて、あをそらしろいかづちやいばむかはなたん。


ヒト、ケモノビト、もりたみ、かぐろもりむしばまれ、かはおもてただよひ、あるいは、いかづち餌食ゑじきとならん。いのちともしび大方おほかたせ、ては、きとしけるもの、大地おもてよりぬぐられん。ただそらけるものたちのおんこころおんわざすがるのみ。


つばさそらけるものたち、もりしづめ、ヒト、ケモノビト、もりたみててくわへて、すべものたちをすくたまへ。すくたまへ。

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